英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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やらない善よりやる偽善。
名言ですが、私は少し違うと思っています。
だってやらない善って、助けられるのに助けないんですから、余裕で悪ですよね。逆に善人じゃないと自覚しながらも自分のリソースを削って善を成す事は、偽善ではなく紛れもなく善であると私は思います。
なんの打算も無く他人のために自分を犠牲にできる人間は善人ではなくただの壊れてる人です。かわいそうなので助けてあげてください。

魔法なんて邪道だろ、武器で戦え武器で……と、対魔力魔法を発現するヴェルフ。短文詠唱で戦う魔法戦士は杖じゃなくて武器を使うから許されてるあたり、鍛冶師らしさがカンストしてる。



中層危機一髪

 

「……まずは、状況を整理しましょう」

 

 現在地、"推定"15階層。

 

 リリの持つ魔槍の結界は、受け止める防御ではなく、受け流す防御。前者が選ばれなかった理由は単純明快。強固な結界を構築するには多くの魔力が必要で、Lv1のリリには負担が大きかったから。

 受け流す結界において重視されるのは、割れずに術者を守ること。負荷は受け止めるのではなく分散させ、散らし切れなかった残りを結界の強度で受ける。

 ヘルハウンドからの一斉掃射を、結界は見事に防ぎ切った。結界は割れなかった。しかし、結界の発生源は、魔槍。支えるのは、リリの膂力。3人は吹き飛ばされた。それも最悪なことに、下の階層に繋がる縦穴へと。

 

 そして、さらに問題が2つ。

 

 1つは、現在地が分からないこと。

 今いる場所が点や矢印で表示されて、十字キーを押せば上のマップを見られるのはゲームだけ。穴に落ちた3人は、現在地を見失っていた。なんなら本当に15階層かも不明。落下した時間や階層の特徴なら推測したにすぎない。

 

 もう1つは、ベルの魔力量。

 ごくごく当たり前の話として、ベルの魔力は有限だ。道中では節約していたとはいえ群れと交戦した。それに加え、回復魔法。過負荷による肉体内部の損傷に加えて、階層2つ分を落ちたダメージを3人分。さらにここからの道中。精霊と世界樹の加護をもってしても、ベルの魔力に底が見え始めていた。

 

「上層への帰還が絶望的であるのは間違いありません。ですが、リリたちにはもう1つ、18階層に避難する方法があります」

 

 詰みが脳裏に過ぎっていた2人に青天の霹靂。18階層はモンスターが産まれない安全階層(セーフティポイント)、さらに縦穴を落ちれば登るより断然早くたどり着ける。現在地すら把握できていない現状で上に登る階段を地道に探すよりは遥かに効率的。

 

「……階層主は、どうする?」

 

「2週間前にロキ・ファミリアが遠征しています」

 

 通常のモンスターとは次元が異なる存在、迷宮の孤王(モンスターレックス)。17階層には、迷宮攻略における最難関とされる、階層主がいる。しかし、不幸中の幸い。階層主(ゴライアス)は18階層に入る直前に陣取るので、通るなら確実に討伐している。リポップ時間は約2週間。今ならまだギリギリで間に合う。

 

「正気か、お前……?」

 

 一連の提案に対してヴェルフがそうこぼしたのは、作戦の妥当性を疑ったからではない。むしろ、この状況下で大胆かつ的確な判断を下す少女への、畏怖と賞賛であった。

 

「……あくまで選択肢の1つです。上の階層を目指して歩き回っていれば、他のパーティと出くわすかもしれませんから」

 

「進もう」

 

 ベルは即答した。

 

 上級冒険者の領域である中層は上層と比べ同業者の数が激減する。さらにダンジョンが円錐形をしていることで、中層は上層と比べ格段に広い。つまりは運任せ。それに比べ、下に行く縦穴は結構ある。同じ運の勝負なら確率の高い方を取るのが当たり前だ。

 

「1つ言っておく……焦るな」

 

 モンスターの群れを押し付けられた時と同じ意図の言葉。状況が普通ではないなら、自分達くらいは普通でなければならない。孤立無援かつ薄闇が満ちる迷宮の中層で、ギリギリの綱渡り。気が触れそうになるこの状況で、本当に気が触れてパニックになったら、その時が最期だ。

 

 しかし、当分その心配はいらなさそうだった。

 

「リリスケ、この臭いはどうにかならんのか?」

 

「我慢してください……お言葉ですが、リリの方がこの悪臭に悩まされています。ちなみに、試しに臭いを直接嗅いだナァーザ様はひっくり返り、床をごろごろと物凄い勢いでのたうち回りました」

 

 リリが持っているのは強臭袋(モルブル)という、名前の通りの激臭を放つ道具(アイテム)。これが効いている限りモンスターは近付いてこないし、焦るとか怖いとかそういうネガティブな感情は全て臭いに変換される。リリはそっと変身魔法を解除した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

「臭い袋が、なくなりました……」

 

 現在地は16階層。今にも震え出しそうなリリの声色と共に、生命線がその効力を失う。

 それと同時に感じた強烈な殺気による圧力は、リリとヴェルフの許容できる程度を超過していた。自分の鼓動がやけに大きく聞こえ、まるで全身を揺らすような感覚を2人は覚えた。嫌な汗を、動悸を、戦慄を喚起させている存在を、視線の先に感じる。体を(さいな)む程の強烈な気配を発する怪物が、闇の奥から近付いてきている。

 

「ふざけろ……っ!」

 

 これほどの理不尽には今の今まで出会ったことがない。ヴェルフはそう断言できる。断頭台が自ら歩み寄ってくる。ヴェルフの本能が最大級の警鐘を鳴らす。

 

 そしてそれは、現れた。牛の頭に人の体、2メートルを越える巨躯、両手に大石斧を携えた猛牛のモンスター。その名を、ミノタウロス。

 

「ヴォオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 背に装備していた大刀の柄を手が白くなるほど握り締め、睨みつけるようにして備えていたヴェルフの戦意は、その咆哮ひとつで消し飛ばされた。強烈な咆哮(ハウル)による強制停止(リストレイト)。 生物の心と体を恐怖で縛り付ける、凄まじい威嚇。

 

 間髪入れず。膨大な筋肉を膨張させ、地面を蹴り砕き、大石斧を振り上げるミノタウロス。死を覚悟したヴェルフの視界で、ミノタウロスの顔が跳ね上がる。

 

 そこには漆黒のナイフが突き刺さっていた。同時に隣から飛び出していたベルがミノタウロスの胴体に着地し、ナイフを掴んで──爆発。ナイフ越しに炎雷を送り込んで内側からミノタウロスの頭を破裂させ、ナイフを回収。

 

「死なないことだけ考えろ!」

 

 目の前で展開された一切の抵抗を許さぬ速攻。飛ぶ怒号と共にリリとヴェルフは再起し武器を構えた。

 2人の元に向かってくる一体のミノタウロス。ふとベルを見るとそちらには3倍いた。2人でやるしかない。

 

「ヴェルフ様! 爆剣!」

 

「お、おう!」

 

 走るミノタウロスの迫力に呑まれていたヴェルフにリリが指示を飛ばし、短剣を渡して前に出た。そして、ミノタウロスの攻撃を魔槍の結界で受ける。

 

「ンヴゥオオオオオッ!」

 

「くっ……!」

 

 ノックバック。ヘルハウンドには縦穴に叩き落とされたが、Lv3でも屠り得るミノタウロスの攻撃は吹き飛ばされることで勢いを殺して耐え切った。

 

「今です!」

 

「おおッ!」

 

 得物を振り切って無防備なミノタウロスの胴体に、ヴェルフはリリに渡された短剣を投擲した。それは見事にミノタウロスの胴体に突き刺さり、爆発。体勢を崩した。

 

 これは魔道具とも呼べぬ魔道具。込められた魔力を増幅するだけのそれは、意図的に魔力を暴発させることで、少ない魔力で高い火力を出す外法の魔道具(武器)

 当然ながら使い捨てで、ヴェルフは良い顔をしなかったが、こんな状況でそんなん言ってられない。ヴェルフはあの時の自分が折れたことに感謝した。

 

「いきますッ!!」

 

「オッラァ!!」

 

 膝をついたミノタウロスに2人がかりでの連続攻撃。武器のおかげで攻撃力だけなら十分な2人は、見事にミノタウロスを撃破した。

 

「また来るぞ!」

 

 そこに声をかけるベル。既に3体のミノタウロスを処理し終わっていた。今度も通されるのは一体だけ。他の全てをベルが引き受ける。

 そうしてヒヤッとする事が何度かありつつも、何度か同じような手順でミノタウロスを処理し、移動を続けた。そして遂に。

 

「縦穴を見つけた! 行くぞ!」

 

 この短時間の戦闘で既に肩で息をしている2人には信じられなかった。ベルは息を切らしていなかった。それどころか魔石がひとつも転がっていない。本来ならLv2成り立てには格上のミノタウロスを相手に、しかも極限状態での連戦で、全て急所を破壊していた。

 ミノタウロスの強化種を、Lv1で単独撃破。申し訳ないが、ベルを妬んだ冒険者がインチキルーキーなんて呼んでいることに納得させられた。

 

 2人はベルに続いて急いで縦穴に飛び込む。空気を切り裂く音と共に、衝撃は……来ない。リリには。ヴェルフは自分の足で衝撃を引き受けた。

 

「ふざけろ……!」

 

「うるせぇ走れ!」

 

 現実問題、リリのスキルは重力を消すわけではないので、着地の衝撃は所持重量の分だけ増える。受け止めないと危ない。

 

 そして、ベルには2人が思うほど余裕はなかった。慣れているだけで、疲れるものは疲れるのだ。特に魔力の運用については、いくら回復しようが使えば使っただけ疲れる。残量を精神(マインド)なんて言うのは伊達ではない。この馬鹿みたいな苦行から早く解放しろと、魂が叫びを上げている。

 

「なんか静かですね……」

 

「おい待てその言い方はやめろ」

 

「なんでだ……?」

 

 発言にフラグを感じたベルが待ったをかけるが、実際17階層は静かだった。気配はある。だが、現れない。モンスターは身を潜めていた。

 3人の背筋がサーっと冷たくなった。悪寒と共に走る。まるで巨大な怪物のために用意されたような通路を、ひたすらに。そして、たどり着いた。

 

 広大な、大広間。奥までおよそ200メートル、高さ20メートル。そして、左の壁面だけ何者かに磨き抜かれたのかと目を疑うほど、その表面は凹凸(おうとつ)ひとつない。それは、嘆きの大壁。たった一体、特定のモンスターしか産まない、階層主の巨大壁。

 

 そこに階層主はいなかった。安堵と共に、今ならまだ間に合うと、走り出す。そんな3人を嘲笑うかのように──バキリと、音が、鳴った。

 

 雷のように走る、巨大な亀裂。大広間を震わせる、嘆きの叫喚。どんどんと大きく深くなる亀裂、鳴動する階層全域。巨大な破砕音が、爆発する。そして、ズンッ!と。巨大な怪物が大地に降り立つ、一際大きな着地音。立ち込める土煙の中からそれは現れた。体格は人のそれだが、灰褐色で、なにより大きすぎる。手のひらが人間1人分という、規格外のサイズ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

 3人は叫んでいた。しかし、咆哮がそれを打ち消した。一歩踏み出すだけで地震を起こす巨大な力が追走してくるのを背後に感じる。そして無慈悲にも、巨人の拳が地を削りながら到来した。

 

 ベルは反転して防御姿勢をとった。

 

 衝撃波を発生させて2人を18階層の入口に吹き飛ばし、自分はゴライアスの攻撃で同じ場所に叩き込まれる。

 とてつもない衝撃が、体の前方を殴りつけ、そのまま背中まで突き抜ける。弾き飛ばされていると気付くまでに、一瞬の遅れがあった。上下左右の感覚を失いながら乱回転し、宙を舞う。18階層の入口の穴には入れた。しかし、衝撃は残っている。

 

「づっ、ぐっ、がっ?!」

 

 ダストシュートのような形状の洞窟内で、壁面をピンボールのように跳ね回る。何度か視界が回転し、やがて……ずしゃあっと勢い良く地面を滑る。

 

「ベル様!?」

 

「大丈夫か! ベル!?」

 

 もう返事どころか目を開ける力もなかった。体で感じるのは、柔らかい草の感触と、暖かい陽光。かろうじて口を開き、親指を立てた拳を突き上げ、ベルは言った。

 

「……セーフ」

 





原作では7メートルとか言われてたゴライアスくんですが、アニメを見るとどう考えてもその倍以上あるのでそっちに合わせます。デカさは強さ! 難易度ルナティックや!

今回のフレイヤのスタンスは『私のベルがそんなんで死ぬわけないが? なんならゴライアスぶちのめすが?』です。
(と言いつつリューさんに救援を頼む)

なんだろう、無茶振りするのやめてもらっていいですか?
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