英雄になれない元勇者 作:ダンまち=スキー
フレイヤ様の無茶振り通りベルくんがゴライアスと戦った場合ですが、残念ながら普通に負けます。
自分の意思ってものがほぼ無い、言われた通りの役割をまっとうするだけのモンスターは、悪という判定になりません。さらに、タイマンになるので誰かを助ける戦いにもなりません。そして、ゴライアスはゴリゴリの物理アタッカーです。ミノタウロスと違って大きすぎるので技量でどうこうもなりません。
よって、普通にアビリティ差で負けます。
「もう、動けそう?」
「ああ、ありがとう」
目の前で小首を傾げているのはアイズ・ヴァレンシュタインその人だった。というのも、ゴライアスに殴り飛ばされながら18階層にボッシュートされた後、ベルは遠征帰りのロキ・ファミリアに回収されて治療を
一体どこをどう見たらセーフなのかと言いたくなるような重症。リリはバチクソにキレた。
「フィンに……私たちの団長に、連れて来るよう言われてるから、付いてきて?」
「了解、リリとヴェルフは?」
「うーん……?」
「ベル様がファミリアの代表ですから! どうぞリリ達のことは気にせず連れて行かれてください!」
「リリスケに同じ。お偉いさんに会うのは苦手だ」
判断に迷うアイズに遠慮する2人。リリもヴェルフも色々あって冒険者アレルギーなので、冒険者の代表的な存在とはあまり顔を合わせたくないらしい。ベルは治療の礼を伝えなければならないので仕方なくテントの外に出る。
そこに広がっていたのは、大規模な野営風景。開けた森の一角で、いくつもテントが設営されていた。団員たちはヘスティア・ファミリアなんかとは比べ物にならない程に多く、そして向けられる視線には敵意が混じっている。アイズの隣にいる男、針のむしろになるのは当然の成り行きだった。
しかしながら、階層の天井にある巨大な水晶から発せられた木漏れ日のような暖かい光、耳をすませば聞こえてくる小川のせせらぎ、辺り一帯を覆う森の香りが、ベルの心を癒していた。ここ18階層には、まさに大自然といった光景が広がっている。中心には巨大樹と、それが生えている大きな島があり、それらは湖に囲まれていた。
野営地の奥にある、エンブレム入りの旗が横に立てられた、周りのものより一回り大きなテントの中。そこでベルは有名人たちと面会を行っていた。
「よもや君が、僕達のキャンプに担ぎ込まれるとはね」
「ほお、この者が例の冒険者か」
「ああ、彼がベル・クラネルだ」
言った順に、
である。
「この度は治療をして頂きありがとうございました」
「そう
ベルは一瞬なんのことか分からなかったが、すぐに壁上での訓練を思い出した。レフィーヤが膝枕を羨ましがらないレベルでこちらを積極的に気絶させようとボコボコにしてくる
「ところで、もし良かったら教えて欲しいのだけど……残光は、誰から教わったのかな?」
「……残光?」
何を言われているのか全く分からないベルは、取り敢えず人差し指を立てて先端を光らせてみる。ついでにチカチカ点滅させる。苦笑したフィンが知らないなら構わないと言うので、ベルはそれをすぐに止めた。
「斬撃を飛ばす技のことなんだけど……どうやって習得したのかな?」
「待て、まずなぜ指が唐突に光り出した」
「どうやってと言われても……魔法を使う時と同じように魔力を放出しているだけなので、習得もクソもないと言いますか……あっ、指が光ってるのは簡単な魔法です」
「「……なるほど」」
フィンとリヴェリアはそう言いつつ、全く納得できていなかった。ゼウスとヘラとの関係を疑った問いが、さらなる疑問を呼んでしまった。
魔法は体内の魔力によって構築され体外に放出されるので、言っていることもその感覚も2人には分かる。しかしそれは、ステータスに刻まれた魔法とその詠唱ありきの話だ。魔力を放出するだけという前世の冒険者なら大体できる簡単な技も、神の恩恵によって手っ取り早く強くなれるオラリオでは高難度の技術となっていた。
「中層に進出したその日にここまで来る事といい、この若造は面白い!」
「それはどうも」
2人が頭を悩ませている一方で、ガレスとは一瞬で意気投合。酒好きのガレスから宴会芸を
「ともかく、僕等はしばらくここに滞在する予定だ。厄介な毒をもらって、足の速いベートが地上に解毒剤を取りに行っていてね」
「なるほど」
ベルなら治せるが、あいにく今は魔力がすっからかん。宴会芸くらいしかできない。残念ながらべートに急いでもらうしか無かった。
「短い間だけど、君達を客人としてもてなそう。あのテントは好きに使って貰って構わない」
「何から何まで、ありがとうございます」
頭を下げて、ベルはテントから退出した。
フィン達との面会を終えテントを後にしたベルは、話があるとアイズに連行されていた。恐らく早く強くなることについて聞きたいのだろう。相変わらず野営地の面々から敵意を向けられながら歩いていると、前から見覚えのある知り合いが2人。
「わぁー! アルゴノゥト君だー!」
「ああ、気にしないでちょうだい。このちゃらんぽらんが勝手に言ってるだけだから」
怪物祭の時に共闘したアマゾネスの姉妹、ティオナとティオネ。ベルはティオナに童話と重ねてアルゴノゥトと言われているわけだが、確かにと納得していた。炎と雷と精霊の力でミノタウロスと戦うシチュエーションはまさにである。
「話、色々聞かせなさい。一宿一飯の恩よ、構わないでしょ?」
「うん、聞きたい聞きたーい!」
アマゾネスらしくめちゃくちゃな薄着の2人に物理的にも絡まれたことで向けられる敵意が増えたことを感じつつ、ベルは肯定を返す。
「じゃあさ、なんでLv1でミノタウロスに勝てたの?」
「要因は色々あると思うが……アビリティがカンストしてて、格上に対して強くなるスキルがあって、精霊の力があって、武器もLv1にしては強くて、身体能力で大きく劣るのを技量でカバーしたから……かな」
真っ当な分析だった。しかし、ツッコミどころが満載だった。まず前提として、ステータスの開示はタブーだ。聞くのもアウト。そして、アビリティは普通カンストしない。才能ある冒険者でも自分の最も高いステータスがSに届かないことが当たり前なのに、全てカンストなんて異常が過ぎる。さらに精霊の力を使えることのカミングアウト。自動的にレアスキル2つの所持を開示したようなもので、広まれば奪い合いが始まることは間違いない。
「どうやったらアビリティ999まで上げられるの?」
「ひたすら使い込む。例えば耐久ならボコられ続けるとか。俺はそこのアイズに何回も何回も気絶させられて耐久を伸ばしたし」
ティオネはタブーにズカズカと踏み込む姉妹と目を逸らしたアイズを見てため息をついた。しかしベルの耐久に関しては納得した。Lv1があの剣姫に何度も気絶するほどボコられたらそら耐久は伸びる。もっとも、そこまでして耐久を伸ばそうとする冒険者はいないだろうが。
「ちょっとこっちに来なさない。あぁ、アイズはそこで反省してて」
「えっ」
これ以上2人を放っておくと根掘り葉掘り聞き出してファミリア間の大問題になりそうだったし、聞きたいこともあったので、ティオネはベルを連れ出した。
「おっ、レフィーヤ。おひさ」
「……ベル? なんでここに?」
「旧交を温めるのは後にして、精霊の力を持つあなた聞きたいことがあるの」
ベルが案内されたテントの中には、レフィーヤがいた。奇しくも怪物祭で共闘した4人が揃ったが、ティオネは交流する間もなく矢継ぎ早に質問をする。
「アイズとアリアについて、なにか分かる?」
「アリア……精霊?」
「そうそう! アイズについてみんな教えてくれないんだよ!」
風の精霊の力を持つアイズ・ヴァレンシュタインの、謎に包まれた出生。まさに家族のように仲の良いファミリアとはいえ、パーソナルな情報を話していいものかベルは迷った。
だが、話すことにした。なぜならベルも流石に見ただけで分かることは少ないし、話せるのはあくまで前世を基準とした個人的な所感でしかない。それに、隠されたら探りたくなるのは人の
「結論から言うと、よく分からない。精霊の血を引いているのは間違いないが、にしては弱すぎる」
「弱すぎる? そんな馬鹿な……」
確かに冒険者としては強い。しかし精霊の力に由来する魔法は、しばらく動けなくなる反動を受けてなお、同レベルの魔導師の魔砲くらいの出力でしかない。普通なら超短文詠唱の付与魔法でそれだけ出来るのは破格だが、そこは精霊の力。単純な比較はできないが、クロッゾの魔剣はLv1が作っても第一級冒険者の魔導師の魔砲くらいは出力がある。
「大精霊の直系なら、奇跡と言えるほどの力を使える筈だ。無詠唱で広範囲に全癒魔法とか、オラリオを嵐の結界で包むとか」
「そもそも精霊って子供を作れないんじゃないの?」
「工夫すれば作れなくはない」
本来なら自分の力を分割するだけの分け身に別の誰かの力を混ぜるとか、この世界の大精霊が前世と同じ霊体なら受肉するとか。しかし、どちらだとしてもアイズは弱すぎる。隠されるに足る特殊で闇の深い出生なのか何なのか……結論としては、やはりよく分からない。
「参考にはなったけど、核心に迫れるものではないわね……」
「やっぱり知ってる人に聞くしかないのかなぁ」
「結局のところ、どこの誰からどれだけ情報を集めようと、考察の域を出ない。それに、いくら
釈然としていなかったアマゾネス姉妹は、ベルにそう言われて目を逸らした。
「……私達は、信用されていないんでしょうか」
「バカタレ、そんなわけあるか」
「バッ?! ……いえ、すみません」
罵倒と、ついでにチョップも貰ったレフィーヤだが、反論はせず己の失言を認めた。彼女らの間には、言葉にはせずとも
「そのくらいは俺にも分かる。だからお前らがアイズにすべきは、話す勇気が出せるまで時間をやる事と、それを話された時にこれまで通り側にいてやる事だ」
僅かな静寂の後、そんなの当たり前だと張り合う少女たちを見て、ベルは満足そうにテントを出た。
ベルくん:こういうのでいいんだよ、こういうので
残光なんてカッコイイ名前を付けちゃうから難しい技みたいに見えるだけで、ステータスに関係なく自力で魔法を使える人もいるにはいるらしいから、威力はともかく使うだけなら出来る人は割といそう。
前世で使われていた、仲間に状況を知らせるために打ち上げる信号弾の魔法の応用が、ゲーミング指先です。状況に応じて色を変えて使われていたので、こういう愉快な使い方ができます。
頭のてっぺんから水を出したのは、普通に水を出す魔法です。ベルくんは基本的に身体のどこからでも魔法を発動できるので、今回は頭頂部から発動しました。
ベルくんがペラペラと自分のステータスについて喋ったのは、彼女らが悪用しないことを確信しているのと、バレて対策を取られるようなステータスをしてないからです。
ベルくんは前世で精霊のハーフと会ったことが何度があります。能力は主にエルフの上位互換で、出力を落とした代わり自由度が増した精霊といった感じ。精霊の気質を受け継いで気まぐれな自由人なので、意思のある災害が服を着て歩いていると思えば大体おっけーです。