英雄になれない元勇者 作:ダンまち=スキー
ベルくんはフィルヴィスとすれ違っても特に何も反応しません。この世界にも魔族っているんだな、差別とかされてないみたいで良かったーと思うだけです。
それは、いきなりだった。
「ぐぬあぁっ!?」
「……はぁっ?!」
とても聞き覚えのある、けれど
「あ、あんな巨大なモンスターがいるなんて聞いてないぞ?!」
「あっははははは! 死ぬかと思ったー!」
17階層と18階層を繋ぐ洞窟の前にいたのは、ベルの主神であるヘスティアと、何人かの同行者だった。四つん這いで息を切らしているヘスティアはゴライアスから逃げ出してきたのだろうと、ベルは共感を覚えた。その
「──ベル君!!」
「おうふ」
先程までの疲れきった姿はなんだったのか、目が会った瞬間にヘスティアはベルの腹に頭から飛び込んだ。
「神がダンジョンに入ったら駄目だろ? 俺にはおっかないハーフエルフのアドバイザーが付いてるんだ」
「そんなことはどうだっていいんだ! 本当に、本当に、良かったぁ……」
「よくはないが……いや、まぁいいか」
ベルの体中をペタペタと触り、ひと通り確認して満足したのか、ぎゅっと抱きしめるヘスティア。幼い子供のように体を震わせ、胸に押し付けられて見えない顔からぐすりと音を鳴らしている己の主神を見たベルは、追求をやめてその小さな背中にそっと手を回した。聞くのは、野暮だった。
「いい加減にしてください、ヘスティア様」
「あっ、こらっ、感動の再会に水を差すんじゃない!」
ややあって、周囲から生暖かい視線を向けられていた2人は、リリに引き離された。バタバタと手足を暴れさせながら幼女にドナドナされていく幼女を見ていると、同行者の中にこれまた意外な人物を発見する。
「リューさん。うちの主神を守ってくれて、ありがとうございました」
「いえ、私は個人的な用事のついでに
その視線の先には、男神。先程から座りっぱなしだった彼は、土を払って立ち上がり2人の元に向かってきた。
「君がベルくんだね? オレの名はヘルメス、どうかお見知り置きを」
「……なるほど。救援どうもありがとう」
ベルは視線を落とし、差し出された手を見て、納得したように頷いてから感謝と共に手を握った。
「なぁに、感謝ならオレを護衛してくれた彼らに言ってくれ」
「おい、ベル」
「早まるなよ」
ヘルメスの視線をたどった先には、武具の雰囲気が統一された3人の冒険者がいた。ヴェルフが剣呑な雰囲気になるのも無理はない。彼らは、13階層でベルたち3人にモンスターの群れを押し付けたからだ。
ベルたちが貸し与えられたテントの中に、リュー及び神ヘルメスとその眷属はいない。いるのは、ヘスティアとその
「申し訳ありませんでした!!」
「……いくら謝られても、簡単には許せません。リリ達は死にかけたのですから」
「まあ、確かにそう割り切れるものじゃないな」
手のひらと
「あの、本当に……ごめん、なさい……」
「お怒りはごもっともです、いくらでも糾弾してください」
唐突な土下座に置いていかれた少女、千草も遅れて頭を下げた。土下座は解きつつも正座のままでいる命は、煮るなり焼くなり好きにしてくれと言わんばかりの態度。命に関してはワンチャン腹切りそうだなとベルが思うくらいの気迫があった。
「あれは俺が出した指示だ。そして俺は、今でもあの指示が間違っていたとは思っていない」
「それをよく俺らの前で口にできたな、大男」
そんな仲間の姿を見かね、ファミリアの団長である桜花が前に出て言った。当然ヴェルフはキレて、一触即発の空気が流れる。
「下がれ、ヴェルフ」
「でもよベルっ!」
「いいから、下がれ」
しかし、ベルは有無を言わせずそれを手で制した。そして、前に出て桜花と対峙する。
「その判断に、本当に後悔はないか?」
「あぁ、ない」
「そうか……」
ベルが目を伏せた次の瞬間、桜花が崩れ落ちた。
「ぐっ……うぐぅあ……っ!」
「仲間を守る為のやむを得ない判断だったとか、仲間への非難を自分が引き受けようとか、団長としての信念だとか、そういうのは理解できる。だが、違うだろう」
激痛に
その場にいた誰も、ベルの攻撃を知覚できなかった。同じLv2であり、幼い頃から武神に武術を叩き込まれていた桜花と命ですら、桜花が崩れ落ちてから何をされたのか気付いた。身体能力で勝る相手に正面から不意打ちを成立させる程の圧倒的な技量、起こりを読ませないという対人戦の基礎が極まった打撃が、桜花の腹筋を貫いていた。
「まず、謝るか否かの基準はお前じゃない。悪いことをして誰かに迷惑をかけたら、自分がどう思ってようが謝るんだ」
声色に怒りは見えない。発言は、恨みつらみでなく、冷静かつド正論な説教そのもの。割って入るか一瞬悩んだヘスティアは、ひとまず見守ることにした。
「今回の件、普通の零細ファミリアだったら余裕で壊滅だ。だが、もしそうなっていたとしても、お前らは何の罪にも問われない。なぜかって? 被害を訴える奴は全員あの世行き、死人に口無しだからだ」
「それは……っ!?」
口は挟ませず、ベルは続ける。
「それと、危機感の欠如。理解していないようだが、ギルドにこの件が発覚したらお前らは終わりだ。仲間を本当に守りたいのなら、プライドなんて捨てて媚びへつらうくらいしろ。そして、俺が何より気に食わないのは……お前が、自分の仲間を傷付けて、あまつさえその事に気付いていない事だ」
「なに……?」
この時だけは、皆がベルから確かな怒りを感じ取れた。
「そこにいる
「いいえ、ベル殿! それは違います! 私など──」
「一旦黙れ、誰がなんと言おうとお前は美しい」
「──へっ?!」
自虐に走ろうとしたことを察してベルは命を素早く制した。
「桜花、お前にもう一度だけ聞く……自分の判断に、本当に後悔はないか?」
「……いいや、撤回させてくれ。俺のひとりよがりだった。本当に、すまなかった」
発言を噛み締めるように顔を伏せ、フラつきながらも立ち上がって桜花は頭を下げた。
「そうか……それは良かった。俺の仲間も本気で怒ってるわけじゃない、理解は示してる。ほら、この顔を見てみろ……ん?」
ベルは仲間たちの表情が思っていたものと違い困惑した。ヘスティアとリリは何が言いたげな顔でベルをじーっと見つめているし、ヴェルフはやれやれと呆れ顔。ベルは自分が何か間違えたのかと不安になった。
「すまない、やはり殴るのはやり過ぎだったか?」
「ベルお前……いや、何も言うまい……」
「いいえベル様。結果的に殺人未遂で済んだとはいえ、彼らが行ったのは実質的な殺人です。罰が軽すぎるくらいですよ」
「そ、そうか? まあ、自分が同じ立場だった時の事とかも考えてだな……むっ? 」
納得しかねるという立場を一貫させるリリの説得を試みるベルだが、ふと桜花たちの方を見て命が顔を伏せていることに気付いた。
「命……命? 大丈夫か? 顔が赤いぞ」
「べ、ベル殿!?」
「罪の意識を感じているなら、もう気にしなくていい。それとも、ヘスティアの護衛で無理をしたのか? ……おい、逃げるな」
「は、はわわ……」
命は急に美しいなんて言われて思わず赤くなった顔を、咄嗟にベルから逸らした。しかし、顎を掴まれて強制的に視線を合わされ、さらに顔を覗き込まれる。思わず変な声が出た。
「リリ、悪いが苦情は後で受け付ける。今はひとまず命を休ませてやりたい」
「ベル様、やはり私は徹底的に責任を追求すべきだと思います」
「この流れで?! ヘスティア、言ってやってくれ!」
「ベルくん、君が悪いよ」
「み、味方がいねぇ……」
いい笑顔でよりトゲトゲしい敵意を放つ2人。混沌としてきた状況にベルが困り果てていると──
「やぁ、帰ったよ。ロキ・ファミリアとは話を付けてきた」
ロキ・ファミリアの首脳陣に滞在の許可を取りに行ったヘルメスと眷属のアスフィが戻ってきた。
「それでヘスティア、これはどういう状況かな? 」
「んー、ベルくんがなんもかんも悪い」
「異議あり!」
「ベル様に異議の申し立ては認められていません!」
「つまり、ファミリア内の修羅場を除いて問題は解決したってことだ。いやー、良かった良かった!」
明るく締めるヘルメスだが、実際その場にはもう剣呑な空気も不穏な雲行きもなかった。
「それじゃあ今後のことだけど、帰還は2日後の予定だ。その日はロキ・ファミリアが帰るから、ゴライアスは彼らが倒してくれる」
回避できるのなら危険な橋をわざわざ渡る必要などないと冷静に告げるアスフィに、もっともだと皆が頷いた。
「1日は暇があるから、明日は観光でもしようじゃないか! 知っているかいキミ達、この階層には街があるんだぜ?」
特に他にできることもないので、ヘルメスの提案はすんなり受け入れられる。帰還までの完璧な
ベルくんは桜花の判断に理解を示すし許しもしますが、それはそれとして怒ります。
俺が死にかけたことはいい、仲間は大切にしろボケ!
↑
いいわけないだろ
冒険者なんてのは、何となく気に食わないなんて理由で街中で剣を抜くような野蛮人の集まりなので、命は相対的にめちゃくちゃ優しいです。
そんな命は気付いたらデレさせてました。
ち、違う! この手が悪いんだ! 勝手に動くんじゃない!
あと高潔な魂を見ると普通に(魂が)美しいと言ってしまうベルくんが悪い! 顔が良すぎるベルくんが悪い!
それはそれとして、命をデレさせてるダンまち二次創作を見た事ない気がするんですが、気のせいですかね?