英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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前話でベルくんがリューさんを守ると言いましたが、皆さんは本当にそんなことができるのか疑っていることでしょう。しかし、できます。ガチのマジで手段を選ばず勝つ為に何でもやれば、ベルくんは単独でオラリオを滅ぼせます。ちなみに使う魔法は死霊術で、最初にやるのは人の心を捨てる事です。

暗黒期ifの要望を結構頂きましたが、書くならゼノス編が終わってからですかね。私の書きたいところがそこにあるのと、本編で暗黒期の話が本格的に出るのはその後なのでタイミングもいい感じ。(そこまで行けるかは不明)
取り敢えず、自分がもっと頑張っていれば君の妹を救えていたかもしれないと思い悩む元勇者を、普段とは打って変わって慈愛に満ちた表情で抱き締めるアルフィアは見えました。



デジャブ、感じるんでしたよね?

 

「「あ」」

 

 声が被る。リューに置き去りにされ、ヘルメスを起こし、テントに戻っていたベルと……レフィーヤだ。

 

「ユルセナイ、ユルサナイ、ユルサレナイ」

 

 暗黒の瘴気でも吹き出しそうな雰囲気の彼女を見て、ベルは既に逃走に入っていた。しかし、前回とは異なり振り切れない。リューに投げられたダメージを自然回復させていたベルが、それを治す分の時間だけ初手で遅れたからだ。

 

 そうしてデッドヒートはしばらく続き……

 

「あー……迷ったな」

 

「わ、私のせいだって言うんですか?!」

 

「落ち着け。一旦、声のボリュームを落とせ」

 

 2人は遭難していた。最悪なことに時間は夜、周囲の景色は暗い森。この時間の街から遠い森の中は、何人もの上級冒険者を行方不明にした夜目の効くモンスター達が徘徊している危険地帯である。

 

「……元はと言えば、あなたが逃げ出したのが悪いんですからね」

 

「そうしなかったらワンチャン殺されてたんじゃないかと俺は思うわけなんだが」

 

「私をなんだと思ってるんですかっ、ちょっと酷いことをするつもりだっただけです」

 

「その『ちょっと酷いこと』とやらに受けたら蒸発する火力の追尾魔法を連射されることが入っていない時点で逃げ一択だろ」

 

 ひとしきり言い合った後、2人は取り敢えず大木を背にして並んで座った。

 

「念のため言っておくが、助けはすぐに呼べるぞ」

 

「それは……その……」

 

 魔法をぼかーんと花火のように打ち上げれば、ロキ・ファミリアの頼もしい冒険者たちがすぐに駆け付けて来るだろう。だがしかし、勝手に迷子になって仲間を召喚するなんて……流石にそれは、体裁が悪すぎる。あまりにも恥ずかしい。

 

「俺もいないことはバレてるだろうし、そうなるとお前は夜中に男と2人きりで抜け出した事になる。あんまり悠長してると根も葉もない噂が広まったりするぞ」

 

「誰が卑猥な里出身のエッチルフですか!!」

 

「言ってねぇよ?!」

 

 黙ってちっぽけなプライドを捨てろと言うのを我慢したベルは、それとなく救援を呼ぶように誘導しようとしたが、残念。ダメだこのエルフ、早く何とかしないと……

 

「とりあえず、木に登って上から辺りを見渡してきます」

 

「了解」

 

 階層の中央にある巨大樹さえ見つけてしまえば帰還は容易だ。周りを木に囲まれていては見えずとも、登ってしまえば辺り一帯を見渡せる。ということで木に登り、無事にお目当ての巨大樹を確認。現在地も階層の東端に近い場所だと分かった。

 

「帰る方向がわかりま……っ?!」

 

 木から降りた瞬間、レフィーヤはベルに押し倒された。抗議しようにも口は塞がれている。即ち、詠唱もできない。

 

(こ、この兎! とんだ狼でしたね!)

 

 顔を真っ赤にしながら至近距離にあるその顔に杖を叩き付けてやろうとしたレフィーヤだが、ベルの片手が人差し指を立てて唇に当てられていたのを見て、抵抗をやめる。そして、それを確認したベルが指さした方向を見ると、そこには闇に溶け込むような暗色のローブを着た怪しい2人組がいた。

 ベルは全く知らないが、レフィーヤは記憶に新しかった。怪物祭から続く一連の事件に関係している闇派閥(イヴィルス)の残党だ。

 

「追うか?」

 

「いえ……」

 

 本音を言えば尾行したかった。この大森林で相手を発見できたのは奇跡だ。千載一遇のチャンス、行方を見失ってしまえばもう次はない。しかしその場合、もし戦いになってしまったら……自分が盾にするのは、年下で、レベルも低い、目の前の少年だ。

 

「迷うってことは、どっちの選択肢にも利点と欠点があるって事だ。なら、追うぞ」

 

「……でも、安全を取るなら団長に報告すべきです」

 

「俺に気を使わなくていい。これで夜遊びしてたと思われなくて済むし、それに……俺たちは、冒険者だろ」

 

 それを聞いて、レフィーヤは追跡を決めた。あくまで偵察だけでいい。目論見を暴くことまでせずとも、目的地を知れるだけで勝利だ。決して難しい任務ではない筈。

 

「……すみません、付いてきてください」

 

「任せろ」

 

 前衛にベルを引き連れ、レフィーヤはすぐさま移動を開始した。(はや)る鼓動と呼吸を自制しながら、足音をなるべく消してローブの2人を追う。ベルの隠形が見事すぎて、視界から外すと近くにいるのに見失いそうになりつつ、慣れない尾行を続ける。

 

──がぱっ、と。

 

 何の前触れもなく、足元の地面が割れた。

 

「なっ?!」

 

「クソッ!」

 

 落とし穴。食人花の魔力に反応する性質で補足されないよう、魔力感知を閉じていたのが仇となった。

 

「チッ!」

 

 下を見ると、紫色の液体。ベルは咄嗟にレフィーヤを抱き寄せた。落下する最中、落とし穴の口が閉じたのを確認して舌打ちをする。そして、着水。瞬間、ベルの足に熱した油にでも突っ込んだような激痛が走る。

 

「足元に酸!」

 

「は、はい!」

 

 お姫様抱っこから即座におんぶへと移行。普段ならブチ切れる接触具合だが、じゅうっと音と煙を立てて足が溶かされているのを見せられては、流石にそんなことは言えなかった。

 

 周りは薄紅色の肉壁。その生物的な外見から、足元の酸が溶解液で、ここが胃袋の中であると気付いたレフィーヤが青ざめる。しかも中々に広い。深さ10メートル、直径7メートル程の(いびつ)な円柱形。つまり、それだけ大きいモンスターだ。

 

「大歓迎だなオイ!」

 

「言ってる場合ですか?!」

 

 生暖かい熱気と異臭。そして捕食された冒険者たちの残骸が、大量の骸骨と武具が、2人を迎えていた。そして、上には人型の上半身を(かたど)る極彩色のモンスターが、上から吊り下がった態勢で(うごめ)いていた。頭部は巨大な単眼と花弁、両腕は長い触腕。食人花と同じ系譜のモンスターであると確信させる外見だった。

 ここにいる目的は明快で、さらに進んだ先にある何らかの重大な秘密を守るためだろう。情報の漏洩を防ぎ、いかなる目撃者も葬る地中の門番(トラップ・モンスター)

 

 ぎょろぎょろと蠢く巨大な単眼が2人を捉え、次の瞬間には長い触腕を振り下ろした。それは避けられたが、溶解液が飛び散り、レフィーヤは咄嗟に腕で目を庇う。しかし、覚悟していた痛みは来なかった。半透明の壁が、結界が、溶解液を受け止めていたからだ。

 

「お前は俺が絶対に守る」

 

「──っ?! もっと言い方があるでしょうが!」

 

「これ以上ねぇよ!」

 

 その率直すぎる物言いに、レフィーヤは頬を染める。照れさせられたのが(しゃく)だったので、思わず頭をぺしっと叩いて文句を言ってしまったが、その後すぐに詠唱を始めた。

 触腕による攻撃は、深層域の大型級クラス。被弾はもっての外で、防御しても全身が粉々になるであろう凄まじい威力。それが狭い空間で真上から攻撃してくるので対処しにくいことこの上ない。1人では間違いなく負けていたとレフィーヤは冷や汗をかいた。

 

「デジャブを感じるなぁ……まさか、またお前を背負って触手のバケモンの攻撃を避けることになるなんて」

 

「黙って集中してください!」

 

「問題ない、コイツ知能はお粗末だ。必ず視線の先に攻撃が来る。だから安心して唄え」

 

 しかし、そんな相手を前にしても、レフィーヤの詠唱は揺らがない。それどころか、軽口を叩き合う余裕すらあった。訓練の成果、怪物祭での成功体験……そして、ベルに対する信頼。淀みない詠唱によって、散々ベルを追い回した魔法が完成する。

 

 ──その、直前。頭上の花弁が青く輝いた。

 

 攻撃の予兆だとレフィーヤが察した時には既に遅かった。それは音速で飛来する攻撃だったからだ。現代においては、人体への深刻なダメージと倫理的な問題から、運用の可否を巡って議論が巻き起こる程の兵器。それよりも、さらに殺人的な高周波。

 

 しかし、レフィーヤは無事。

 

 ベルは魔力感知によって攻撃の準備段階、魔力の高まりを感じ取っていた。しかし2人分の防御は不可能だと判断し、咄嗟に自分は捨てた。自己犠牲などではなく、レフィーヤが魔法の完成直前にこれを受けて暴発すれば、2人とも爆死してしまうので、やむを得なかった。合理的な判断だ。

 

「──っ!?」

 

 なんで、と。レフィーヤは叫びたかった。しかし、耳から血を流し、口から血を吐いて、溶解液の中で膝をついているベルの手が、待ったを示す形で彼女に向けられていた。詠唱を、中断するなと。

 崩された必勝の陣形、照準される触腕。魔力に反応するモンスターの狙いは、必然レフィーヤ。しかし、そこには前衛がいる。ベルは溶解液の底から名も知らぬ冒険者の遺品、盾を拾って槍のように飛来する触腕に飛び込んだ。

 

 瞬間、爆薬に火でも付けたような轟音を発し、ベルの体は弾丸のように吹き飛んだ。そのまま肉壁に激突し、ばしゃっと音を立てて溶解液に全身が沈む。

 

 しかし、時間は稼いだ。

 

「『穿て、必中の矢──アルクス・レイ』!!」

 

 完成した詠唱。水面の下で広がった魔法円から、山吹色の輝きが立ち上る。そして、レフィーヤが杖を頭上に突き出すと同時、放たれた光の砲撃が直上へと爆進した。

 モンスターは咄嗟に触腕で防御するが、一瞬で蒸発させられ本体に直撃する。装填された多大な精神(マインド)、第一級冒険者をも凌ぐ莫大な魔力によって後押しされた光柱は、しかし蓋を開くには至らない。

 

「受け止められた?!」

 

 それは、体内を破られない為の仕様。特化された魔法耐性。光の暴威をその身で留めるモンスターは、光の飛沫を散らしながら皮膚を焼かれつつ、絶叫を上げながらも拮抗を維持していた。

 レフィーヤ更なる精神(マインド)を注ぎ込んで押し切ろうとする最中、肉壁が隆起した。死を悟ったモンスターは、肉体の崩壊と引き換えに2人を押し潰さんと動き出す。全身の力を集めても、それでも競り勝てない。レフィーヤの顔が罅割(ひびわ)れるように歪んだ。

 

 ──その時、それは来た。

 

「『穿て、必中の矢』」

 

 モンスターの絶叫にかき消されながらも、詠唱は完成していた。

 

「ベル?!」

 

「悪い、遅れた──『アルクス・レイ』」

 

 握られた漆黒のナイフ、直上に向けられた切っ先。放たれしは光の砲撃、もう1つのアルクス・レイ。合流した光柱はその直径を一回り増し、モンスターの上半身を閉じられた蓋ごと粉砕した。

 怪物の断末魔と、それすら凌駕する砲撃の雄叫び。天井まで届く光の奔流が、18階層にいる全ての者達を震撼させる。

 

「……大丈夫か?」

 

「バカ! 本当にバカ!腕が変な方向に曲がってる分際でなに他人を心配しちゃってるんですか!?」

 

「わかった、わかったって、今治してるから落ち着け」

 

 触腕による攻撃を受け、音響攻撃を受け、溶解液にドボンしたベルは、最低限の回復だけして魔法による攻撃を優先した。そのため、全身がボロボロである。レフィーヤはすぐに回復魔法の詠唱を始めた。

 

巨靫蔓(ヴェネンテス)を倒したというのか……」

 

食人花(ヴィオラス)を出すぞ!」

 

 そんな2人の元に、尾行していた闇派閥の残党が現れた。状況の悪さに汗を流すレフィーヤだが、ベルが唐突に叫ぶ。

 

「打撃に耐性、斬撃には弱い、魔力に過剰反応する! あとこれパス!」

 

「ありがとうございます」

 

 一陣の風が凄まじい勢いで戦場に介入し、ベルが空間袋から取り出した直剣(ロングソード)を受け取った。そして、凄まじい勢いで食人花を狩り尽くす。それは疾風の2つ名に相応しい戦いぶりであった。

 

「連中は逃げました、あっちです」

 

「……クラネルさん。いえ、問答は後です。先に治療を」

 

 パッと見で重症だと分かる状態なのに敵を追わんと立ち上がるベルを見て、リューは呆れながら肩を押して座らせる。中層に来てから連日ボロボロになっていると苦言を呈されつつ、エルフ2人の回復魔法を受けたベルは完治した。

 

「クラネルさん、迷子になるのはこれで2回目です。ましてや夜、この時間の森が危険なことは承知している筈です」

 

「ま、待ってください!」

 

 ベルに避難の目を向けていたリューを見て、レフィーヤは前に乗り出した。

 

「巻き込んだのは私で、ボロボロになったのも私のせいなんです! それなのにベルは命懸けで私を助けてくれました! だから……誤解しないでください、同胞の人」

 

 闇派閥とのいざこざは、本来なら彼には全く関係のないことであると。それでも自分を助けてくれたのだと、目の前の圧倒的に格上な冒険者に訴える。それを見て、リューは覆面の奥で優しく微笑んだ。

 

「貴方のような同胞に会えて、私は嬉しい」

 

 下らない風習、ちっぽけな矜恃……それらに逆らって自らの非を認められる、およそエルフらしくないエルフの姿に、リューは喜びを滲ませていた。それを見て、ちょうど過去の話を聞いていたベルはとても嬉しく思い……思わず口を開いた。開いてしまった。

 

「今のリューさんの笑顔、すごく素敵です」

 

「──っ?!」

 

 それを聞いて、ベルの心の底から嬉しそうな笑顔を見て……そしたらもう、リューはダメだった。バッ!と音がするような勢いで振り返り、顔に集まる熱を隠すかのように口元を手で覆う。自分が覆面をしていることは忘れているらしい。

 

「リューさん……?」

 

「す、すぐに冒険者が集まってくるでしょうから、私は失礼します」

 

 みっともないほど声を上擦らせて走り去る同胞を、後ろからでも分かるくらい耳を先端まで真っ赤にさせている同胞を見て、レフィーヤは思わずベルの(すね)を蹴った。

 

「痛ぇ! 命の恩人になにすんだコラ!」

 

「このクソボケが、少し黙ってて貰えますか?」

 

「なんでそんな怖い感じなの……?」

 

 ベルは負けた。

 





誰しも無意識に魔力感知をしてるので、魔力制御が上手すぎるベルくんは1人だけステルス機能でも搭載してんのかってくらい気配を消し切ります。近くにいれば呼吸や動作音、匂いがあるのでなんとか見失わずに済みますが、その気になればそれらも消せるので、暗殺者ベルくんは鬼のように凶悪な性能してます。

誰かれ構わずお前を守るなどと甘い言葉をかけるのはやめなさい。クラネルさん、貴方の悪い癖だ(半ギレ)。

ベルくんと顔を合わせられなかったリューさんですが、ベルくんがベルくんしすぎてたので呆れて普通にコミュニケーション取れるようになりました。なお追撃を受けて撃沈した模様。
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