英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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最近エルフをたらし込んでいると噂のベルくんですが、勇者やってた頃はモテるなんてこと無かったです。弱かった時は関係が深まる前にみんな死んで、強くなってからは強すぎて一緒に戦える相手がいない=常に戦い続けてたベルくんと関係を深められる相手がいない+同じ人間というカテゴリとして見て貰えなかったので。



勇者ピクミンは悪人に強い

 

「クソがっ!」

 

 リヴィラの街にある酒場で、冒険者の男が手に持つジョッキをテーブルに叩き付けていた。

 

「荒れてんなぁモルド」

 

「うるせぇ! あのガキッ、どんな手品使ってここまで来やがった……調子乗りやがって!」

 

 モルドと呼ばれたその男は、豊饒の女主人でベルたちに絡み、リューに触れようとして一蹴された冒険者だった。

 

「テメェらも他人事じゃねぇぞ! 生意気な新人(ルーキー)が、ランクアップしてからすぐ18階層まで来やがったんだ! 俺らはいい笑い者だろうなぁ!」

 

 その言葉に、嫉妬かよとモルドを笑っていた冒険者たちは静まり返る。彼らには、自分たちが上級冒険者であるという自負が確かにあった。

 モルドの私怨もあるだろう。しかし、何年も前からここにいる自分たちが停滞していると少なからず思われてしまうだろうことも、また事実だった。

 

「でもよモルド。あのガキ、ロキ・ファミリアと一緒にいたぜ?」

 

「あいつ1人をおびき出しさえすりゃあ……」

 

 仲間が懸念を口にしても、モルドは企みを止めようとはしなかった。それは、酒場の冒険者たちも同じ。機会さえあれば得物を抜き放つ剣呑さがそこにはあった。

 ベルは、目立ち過ぎたのだ。ランクアップも、中層中間域である18階層への進出も、何もかもが間を置かず早すぎた。彼らの反感を買ってしまうほどに。

 

「おー、分かりやすいくらい盛り上がってるなぁ」

 

「……何の用ですかね、神の旦那」

 

 冒険者たちの視線を浴びながら酒場へと訪れたのは、神ヘルメス。

 

「おっと、オレのことは気にしないでその物騒な話を続けてくれ。止める気なんてないさ」

 

「はっ?」

 

 冒険者の1人に酒場の入口を塞がれても飄々(ひょうひょう)とした態度を崩すことなくそう言い放つヘルメスに、話を聞かれた以上は逃がしておけないと意志を共有していた冒険者たちが呆けた声を出した。

 

「オレはキミ達みたいな無法者、大好きだぜ? 優等生ばかりじゃつまらない。なんだったら今後の予定を教えてあげようか?」

 

「……信用していいんですかい?」

 

 本来なら、ベルと行動を共にしていたこの神を信じることなど出来ない。しかし、ベルを孤立させて襲撃するという悪巧みを娯楽としてしか捉えていないその邪悪な笑みを見せられては、話は別だった。

 

「オレは間違っても協力できないが……そうだな、お守りだったら貸してあげてもいい」

 

「これは……」

 

万能者(ペルセウス)が使った魔道具さ。効果のほどは保証しよう」

 

 ヘルメスが渡したのは、兜型の魔道具。オラリオにその名を轟かせる稀代の魔道具製作者(アイテムメイカー)の作品、魔法やスキルと並ぶ力を与えるという神秘のアイテム。

 

「ただし、条件がある……オレを楽しませてくれる、面白い見世物(ショー)にしてくれ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

「マジかよ……」

 

 先に地上へと向かったロキ・ファミリアを見送り、テントに戻ってきたベル。しかしそこにヘスティアの姿はなく、代わりにあったのは1枚の紙だった。

 

『女神は預かった。無事に返して欲しければ、1人で中央樹の真東、一本水晶まで来い──リトル・ルーキー』

 

 読み終えた瞬間、ベルは紙を握り潰しながら走り出した。モンスターは無視して森を一直線に走り抜ける。迷うことは無い。方向さえあっていれば、木々の隙間から空に伸びる巨大な水晶が見えるからだ。

 

「来たぞ! モルド!」

 

 草木が生えておらず広場のようになっているそこを囲んでいた冒険者たちが声をあげると、ベルにとって見覚えのある男が歩み出てくる。

 

「お前、酒場の……」

 

「よぉ、リトル・ルーキー。覚えてくれてて嬉しいぜ」

 

 モルドの目的は、一騎打ち。決闘だった。

 

「単純な話だろう? 勝てば負け犬に好きな命令を下せる……身ぐるみ剥いで金にしてやるよ!」

 

「そうか、うちの主神は返して貰う」

 

 敗者は勝者に全てを奪われる。古来より行われてきた、単純で横暴な決闘のルール。しかし、やりたい放題のモルドに対し、ベルは周りを囲んでいる冒険者たちが疑問を抱くほど平静だった。

 

「勝てたらな……ただ、勘違いするんじゃねぇぞクソガキ。これはテメェを嬲り殺しにするショーだ!!」

 

 振り下ろされた大剣が土煙を巻き上げ、モルドの姿を隠す。それが晴れた時、ベルの頬が殴られた。しかし、視界には誰もいない。これこそがヘルメスから受け取った漆黒の兜(ハデス・ヘッド)、装備者を透明にする魔道具の効果だ。体力や精神(マインド)を消費せず、かつ燃料切れを気にせずベルと戦えるくらいには効果時間も長い。

 

「なっ?! どうなってやがる!!」

 

 モルドが驚くのも無理はない。ベルがダメージを受けたように見えなかったからだ。間違いなく当たったし、アビリティは自分の方が高いのに、ビンタでもされた程度の揺らぎ。

 

「俺には悪い奴に強くなるスキルがある」

 

『業値を参照する能力変動』

 

 正確にはスキルの効果の1つ。簡単に言えば、相手が悪い人間であればあるほど自分の能力が上がり、逆に良い人間であれば下がる。

 拉致監禁暴行傷害etc(エトセトラ)。それを悪いと思うこともなく、さらに広場を囲う20人ほどの共犯者たち。四方八方から飛ばされる野次と罵倒、悪辣な笑みを含む視線、愉悦に染まった哄笑。生々しく黒い激情の渦によって、ベルが最も使いたくなかったスキルが、今世においては最高の出力で起動していた。

 

 それから、これを想定しろと言うのは酷な話だろうが、ベルに魔法を使った隠密は通用しない。当然それは魔力で動く魔道具でも同じ。

 魔力は見えないし聞こえないし触れないし匂いも味もない。だから感知や制御は物凄く難しい。だが、ベルにとっては違う。ベル以外にとっては透明人間のような存在でも、魔力が無いのが当たり前の世界で生きたベルからすれば、その透明人間は温泉に入っているようなもの。

 透明人間が温泉に入ると、その場所はお湯も湯気も押しのけられている空白地帯になる。一目瞭然、むしろ目立つくらいだ。だから、魔力で透明になっても意味は無い。むしろより鮮明に場所が分かるので逆効果だ。せめて魔道具ではなく自分の魔法だったなら、ベル以上の精度で魔力を制御できていれば不意打ちが成立しただろう。なお2撃目以降は感知されるものとする。

 

「お前にその魔道具を渡したのは誰だ? 話せば痛み無く終わらせてやる……周りの連中もな」

 

 命ではなく、決闘を、痛み無く終わらせてやる。そういう意味だったのだが、同じレベルの相手を一蹴する強者から向けられた絶対零度の視線が、冒険者たちを勘違いさせた。

 

「クソがあッ!!」

 

 いたぶってやろうと殴る蹴るで応戦していたモルドが、抜剣した。装備している防具や武器まで透明化しているのを見て、ベルは流石だなと思った。逆に言えば、それだけだった。

 

「うおらぁあああああっ!!」

 

 振り下ろされた大剣を、ベルは半身になって避けた。体の前面から数センチ先を流れる剣戟を無感動に見送り、地面に突き刺さったのを確認して上から踏む。そして、横合いから刀身を蹴飛ばした。

 

「なんっ?!」

 

 甲高い音と共に鉄塊は折られた。蹴り飛ばされてすっ飛んでいく大剣の刀身は、透明化が解除されてハッキリと見える。そして、動揺した隙を付いて兜が回収されたことで、決闘の勝者の姿もまた周りの冒険者たちには見えていた。

 

「クソガキがぁ……っ!」

 

 血走った瞳で息を切らしながらほぼ柄だけとなった大剣を身構えるモルドに対し、ベルは未だ無手。構えすらせず。それが、モルドの怒りを増幅させた。

 

「やーーめーーろーーー!!」

 

 声の先には、ヘスティア。なおも争いを続けようとする2人にやめるよう声を張り上げていた。側にはリリもいる。安堵からベルの表情が柔らかくなった。魔力感知を広げて視れば、タケミカヅチ・ファミリアの3人とリューもいて、何人かの取り巻きが無力化されていた。戦力差は歴然だが、そんな理屈で止まるならそもそもこんなことはしていないだろう。

 

「神の指図なんかに構う必要はねぇ!! 」

 

「──止めるんだ」

 

 掛け声と共に戦闘に入ろうとしていた冒険者たちは、続くヘスティアの一声によって停止させられた。ベルでさえ冷や汗を流すその存在感。自分のためではなく、争い傷付け合う子供たちを止めるために、超越存在(デウスデア)としての一端が解放された。

 

「剣を引きなさい」

 

 ベルが見たことのない顔、聞いた事のない声で、それは諭すように告げられた。冒険者たちは後退りして、1人また1人と背を向けて逃走する。しばらくして、森には静けさだけが残った。

 

「ヘスティア、無事か?」

 

「襲われたのは君だろう?! 全く君ってやつは!!」

 

 プリプリ怒るヘスティアによって場が時を取り戻す。先程の光景が幻だったかのような姿の彼女に、皆が戸惑いを覚えていた。

 

「命くんたちも、覆面くんも、助けてくれてありがとう」

 

「いえ、自分たちは大丈夫です」

 

「ふ、覆面……」

 

 神らしく振舞おうとするいつものヘスティアに、皆で笑みを交わし合い、肩の力を抜く。しかし、これでめでたしめでたしと言いかけた、まさにその時。世界が揺れた。

 

「これは……嫌な揺れだ」

 

 リューがそう口にすると同時に、異常事態(イレギュラー)はその姿を表した。

 

「おい……なんだ、あれ」

 

 不意の暗転によって、本来なら階層全体を照らす天井の水晶を見たことで、それは発見された。中で巨大なナニカが(うごめ)いていた。そして、バキリと。冒険者が聞き慣れた音が鳴る。

 

「ありえません、ここは安全階層(セーフティポイント)ですよ?!」

 

「おいおい……まさか、バレた?」

 

 ダンジョンは憎んでいる。こんな地下(ところ)に閉じ込めている神々を。四方八方から聞こえるモンスターの遠吠え、崩落して塞がれた階層の出入り口。逃がすつもりはないという意思表示。

 そして、水晶は突き破られた。産まれ落ちたのは、17階層という定められた領域を飛び越えたゴライアス、の特殊個体。全身を黒に染めた神抹殺仕様の階層主が、真下にあった巨大樹を踏み潰して君臨した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 太陽の役割を果たしていた天井の水晶は粉砕され、18階層は昼間のような明るさから一転、月夜のような薄暗さに包まれた。それを成した黒いゴライアスは、潰れた巨大樹が飛び降りる。

 それを最も近い場所で目撃したのは、ヘスティアから逃げ出したモルド一派だった。他パーティが階層主を倒した後に17階層を通過している彼らに戦うという選択肢はない。黒き巨人に鮮血の色をした瞳で照準され、声を上げて逃げ惑う。

 

「早く助けないと死人が出る」

 

「待ちなさい。本当に彼らを助けに行くつもりですか? このパーティで?」

 

 飛び出そうとしたベルの手を掴んだリューの、至極真っ当な問い。

 黒いゴライアスは知能が低いらしく、手当たり次第に近くにいる獲物を狙っているようだった。つまり、ベルたちが襲われているわけではない。それどころか、ベルたちを襲っていた相手が襲われている。

 そして、パーティの戦力不足。最低でもLv4以上の階層主と相対(あいたい)するには、あまりにも貧弱な面子(メンツ)

 

 つまりは、命を賭けてまで助ける価値が彼らにあるのかという話だ。

 

 だが、ベルは助けたかった。

 

 人はみな弱く愚かで、彼らは無法者だ。そこは一見すると闇に包まれているのかもしれない。でも、だからこそ。

 汚泥の中から美しい蓮の花が咲き誇るように。その醜さを理解し、寄り添い、闇の中から光を見出したいと……ベルは思っていた。

 

「助けよう」

 

「貴方はリーダー失格だ」

 

 間髪入れず答えたベルに、リューは目を細めた。非難の言葉に割とダメージを受けたベルだが、彼女はすぐに笑った。

 

「だが、間違ってはいない」

 

 マントを(ひるがえ)していち早く飛び出したリューを見送り、ベルは振り返る。リリ、ヴェルフ、命、桜花、千草。そして、ヘスティア。この決断に異を唱えることなく頷いてくれる誇らしい仲間達。

 

「みんな、ありがとう──行くぞ!」

 

 向かうのは悲鳴と爆音が響き渡る階層中央。黒き巨人が(たけ)り雄叫びを上げる戦場へと、七つの影が駆け抜ける。

 

 





『業値を参照する能力変動』は色んな計算が入ります。
例えそれまでが悪人でも、今は自らの行いを後悔し、善人であろうと努力している相手に対しては、マイナス補正が入ります。逆にそれまでが善人でも、今悪事を働いている相手に対してはプラス補正。
これは情状酌量の余地も加味されます。
例えばリアルタイムで悪事を働いている悪人でも、親に虐待されて育ち善人になる余地がなかった場合とかは、プラス補正だけど効果量は落ちます。善人が人質を取られてるとか脅迫されてるとかでやむを得ず悪事を働いている場合も同様。
これが起動しているということは、人間を相手しているということなので、ベルくんの機嫌が悪くなります。

今回の業値ブースト込みベルくんは結構な強さしてるので、バレてたらアスフィの護衛も虚しくヘルメスは死んでましたね。言い訳の仕方をミスると送還を通り越して滅ぼされる模様。

疾風「迷いなく助けることを選ぶとは……ふっ、流石はベルですね(後方理解者面)」
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