英雄になれない元勇者 作:ダンまち=スキー
様々な種族で溢れかえる大通りを隙間を縫うように歩き、いかにもな雰囲気の細い道を抜け、目的地にたどり着く。人気のない路地裏にひっそりと佇むのは、廃墟寸前の教会だ。
俺は扉のない玄関をくぐり、唯一無事な小部屋の中へ。そこから地下へと伸びる階段を下りる。そこまで深さのない階段を降りきり、小窓から光の射すドアを開け放つ。
「帰ったぞー」
「おかえりベルくぅぅぅん!!」
やたら生活感の溢れる、人が住むには十分な広さのある地下室に足を踏み入れると、まだ装備を付けている俺に向かって小さな影が突撃してきた。
「危ないぞヘスティア」
「やぁやぁお帰り! そんなことより、今日は早かったね!」
金属製の胸当てに全力疾走でぶつかれば相当な痛みを伴うハズだが、毎度のように俺が上手く避けるせいで、彼女からすれば『そんなこと』らしい。今度は受け止めてやろうか!
「いやあ、ちょっと死にかけて。途中で切り上げたので5000ヴァリスしか稼げんかった」
「おいおい、大丈夫かい?! キミに死なれたらボクはかなりショックだよ!!」
妹で通用しそうな美少女ロリ巨乳が、その小さな両手でペタペタと忙しなく俺の体に触れる。顔が発熱しているのを感じ、その自覚が更なる熱を呼ぶ。このままでは精神衛生上よろしくないので、取り敢えず両手で肩を掴んで距離を取らせた。
「1人残して路頭に迷わせるようなことはしない」
「言ったなぁ? なら大船に乗ったつもりでいるから、覚悟しておいてくれよ? ……いや、冒険者歴2週間にして半日足らずで日に5000ヴァリス稼げるなら、本当に大船に乗った気分だけどね。ボクの成果が霞んでしまうよ」
彼女が見せてきたのはジャガ丸くんの山。ジャガ丸くんはあれだ、コロッケ。ガ〇ガリくんがやらかした時のように殺人的な味もたまにあるそれは、オラリオ中の人々に愛されている。
テーブルに広げられたのはプレーン……つまりただのコロッケだけらしい。ほっとした、切実に。
「というか、まだバイトしてんの? 俺は日に1万くらい稼いでるんだから、生活するには困らないだろ」
「備えあれば憂いなしさ! それに、ボクは屋台の看板娘だからね。今回のこれだって売上に貢献したご褒美として貰ってきたんだ。ベルくん……今夜は君を寝かさないぜ!」
「……流石はヘスティア、見てるだけで幸せになれるよ」
「そ、そうかい?! 嬉しいことを言ってくれるじゃないか!」
明るく元気なヘスティアはまるで太陽のようだ。本人には言わないが、見た目が幼女なので健気な感じがするのも一因かもしれない。
未だにバイトをしているのは、ちやほやしてくれる眷属が少ないから……というより、俺しかいないからかもしれない。まあ、メンバー1人のファミリアなんて入る恩恵が無いし、仕方ないのかもしれないが。
「いやぁ、それにしても……マスコットキャラとして道行く人はみんな可愛いがってくれるけど、ボクのファミリアに加わりたいという子は相も変わらず皆無だよ。まったく、ボクが無名だからって、みんな現金だよねぇ」
「受けられる恩恵がどの神でも同じとはいえ、ウチはそれ以外に何も与えられないからなぁ。装備も、技術も、何もかも」
「う"っ"、それを言われると痛いなぁ。まぁ、ボクはもう少しキミと2人きりがいいんだけど……」
なんだか小声で呟いているが、バイトしてるのも一因なのでは? と思う。
それはともかく、恩恵はとても強力だ。ただ与えられるだけで、なんの努力もしていない素人でも、ゴブリン程度の下級モンスターなら簡単に倒せるようになる。その代わりとして主神を養うギブアンドテイクが眷属と主神との関係なのだ。
神は下界では力を行使できない。そのためあくまで促進剤としての域を出ないのである。だが、だからといってバイトをするのは絶対におかしいと思う。
「ごめんよぅ、へっぽこな神と契約させちゃって……」
「いや、仕方ない。発足2週間なんてこんなもんだろ」
とは言うものの、スタートで遅れたのはやはり辛い。ヘスティアは、最近まで友人ならぬ
しかし働こうとする気の全くない生活態度が友神の逆鱗に触れ、この廃教会を最後の情けとして与えられ叩き出されたそうな。
俺は頭垂れて落ち込んでいるヘスティアをすかさずフォローする。
「いわば我々は発展途上……最初のうちは苦しいかもしれないが、ここを乗り切れば楽しい生活が待ってる! 余裕が出来れば加入者もあらわれるハズ! だから大丈夫だ!!」
「ベルくん、君ってやつは……!」
実はこれ、パーティやらソロやらの話をしていた時のエイナさんが言っていたことほぼそのままだ。心が痛い。だが、ヘスティアが笑っていないよりはずっといい。
「ふふっ、キミみたいな子に出会えてボクは幸せだよ! それじゃあ、ステイタスを更新しようか!」
「
返事をしながら素早くアーマーとインナーを脱ぎ、背中をヘスティアに向ける。
「はいはい、寝た寝た」
「なぁ……これって必要なのか?」
ベッドの上でうつ伏せになる中学2年生の少年と、腰の上に座る合法ロリ巨乳。なんかこう、よろしくないよね。
「必要さ! 少なくとも、ボクにはね! ……ところで、死にかけたって言ってたけど、何があったんだい?」
「ああ、それは──」
話していると、チャリっという金属の音がした。針を取り出した音だ。ヘスティアは指に針を刺し、血を1滴、俺の背中に垂らす。すると、比喩抜きで波紋が広がり、光の文字が浮き出る。
「まさか、そのヴァレン某に惚れちゃったのかい?」
「
「ははっ! そりゃそうだね!」
顔が可愛いってだけで惚れたと言うのは早計だ。それは理性的な思考に基づくものではなく、ただの性欲である。
「それにしても、キリがいいから5階層って……いくら外で鍛えていたから強いとはいえ、キミはまだLv.1なんだぜ? 気を付けてくれよ?」
「油断するつもりは毛頭ない、今回はミノタウロスのせいだ。いや、ロキ・ファミリアのせいか?」
「そうに違いないやい!」
出るわ出るわ罵倒の数々。ウチの神様は、どうやらロキとアイズ・ヴァレンシュタインが嫌いらしい。やたらと機嫌が悪い。
「はい、終わり! そんな女のことなんて忘れて、すぐ近くに転がっている出会いってやつを探してみなよ!」
「いやぁ、連日のように街中で話題になってるからなぁ。流石に記憶から消すのは無理」
俺が服を着ている最中、ヘスティアは紙に更新したステイタスを書き写していた。背中のステイタスは
| ベル・クラネル Lv.1 |
|---|
| 《基本アビリティ》 筋力:F326 耐久:G297 器用:E453 敏捷:F381 魔力:E438 |
| 《発展アビリティ》 ー |
| 《魔法》 【ファイアボルト】 ・速攻魔法 ・炎雷属性 |
| 《スキル》 【 ・呪詛無効 ・精霊の寵愛 ・世界樹の恩寵 ・業値を参照する能力補正 【 ・逆境時、全能力に補正 ・格上との戦闘時、全能力に補正 ・補正量は相手の強さに比例 ・条件達成時、 ・条件達成時、 |
アルファベットは評価段階で、I〜 Sまで100毎に10段階で区切られている。S999が上限値だ。まあ、値が大きくなる程に伸びは悪くなるので、そこまでたどり着く人はほぼいないと言われているが。
例えば、俺はステイタスに見合わない敵を技術で無理やりに倒しているので『器用』が最も高く、便利な魔法に頼りすぎているので次点で『魔力』が高い。それでもマトモに戦えるだけの速度は求められるので次に『敏捷』が高く、さらに下には最低限は必要な『筋力』がある。逆に、アビリティが格上の敵に攻撃を受けるのは危険なので、『耐久』が最も低い。
防具の修理もタダじゃないので、俺はわざと生身の急所でない部分に攻撃を受けて『耐久』を上げている。そのせいで『器用』がさらに伸びている節もある。
本来、魔法に頼りすぎるのはよろしくない。魔法には
そして、これらを見て思う。
「……また勇者か」
「効果も強力そうだし、格好いいじゃないか!」
文字通り死ぬほどピンチになったので生えたスキルだろう。しかし納得のいかない俺は食い入るようにステイタスの用紙を見つめる。すると、ヘスティアがベッドに座る俺の肩に顔を乗せてきた。近い、近い、近い。
俺はヘスティアの視線をひしひしと感じつつ、明日のダンジョン攻略に思いを馳せた。
ファイアボルトは本物と異なり真紅の雷に。
原作はゼウスとヘスティアで雷1炎1だったが、
こっちではそれに勇者を加えて雷2炎1なので。
魔法の習得はベル(元勇者)にとって予想外。
とはいえ前世では術式や魔法陣を構築して魔力制御しての完全マニュアル操作で使ってたので、半自動で発動するファイアボルトは重宝してる。