英雄になれない元勇者 作:ダンまち=スキー
彼は友人に言われた通り、生き方を変えられません。
なんだかんだ言っても内心では、世界を救済する為にいざとなれば自らを使い潰す事を覚悟完了してます。
原作主人公と同じ容姿で同じ魔法が使えるのはその無意識の決意の表れ。
「……それで、頼みって?」
ヘスティアの前で仁王立ちしている女性はヘファイストス。火の神であり、
そんな彼女が
「ベル君に武器を作って欲しいんだ!!」
極東に伝わる最上級の礼、土下座。床に頭がつくほどの深さでそれを行い、ヘスティアは言った。
◇
丸一日。
ヘスティアが頭を下げ続けている時間である。
武器を作って欲しいという
ヘファイストス・ファミリアに所属する鍛冶師の武具は、同業者たちの間でも最高品質であると誉れ高い。必然その値段もそれ相応に高く、とてもじゃないが零細ファミリアに払えるような金額ではない。
ファミリアの構成員たちが血と汗を流して生み出した武具を、お友達価格で譲るなどという軽い扱いはできない。
しかしながら。ヘスティアは決して折れず、逆にヘファイストスは折れた。一日中あんな姿勢で付きまとわれては仕事に身が入らない。
「はぁ……ヘスティア、教えてちょうだい。どうしてあなたがそうまでするのか」
「あの子の、力になりたいんだ! あの子は才能がある! 目標もある! 高く険しい道のりをもう既に走り出してる! 危険な道だ! 」
姿勢を変えず、吐き出すようにヘスティアは言った。
「だから欲しい! あの子を手助けしてやれる力が! あの子の道を切り開ける武器が!」
視線は床に縫い付けたまま、ヘスティアは続けた。
神を動かすに足る想いか、証明するために。
「ボクはあの子に助けられてばかりだ! ていうか養ってもらってるだけだ! ボクはあの子の主神なのに、神らしいことは何一つだってしてやれてない!」
それは、絞り出された言葉だった。
「何もしてやれないのは、嫌なんだよ……」
消え入りそうな弱々しいその言葉は、
「……わかったわ。作ったげる、あんたの子にね」
──ヘファイストスを動かすに足るものだった。
「……うんっ! ありがとう、ヘファイストス!」
長時間の土下座によって四つん這いの姿勢から戻れなくなり、しかしその顔に眩しい笑顔を浮かべている友の姿を見て。
甘やかしすぎだとは自覚しつつも、しかし今の健気で
「言っておくけど、ちゃんと代価は払うのよ。何十年、何百年かかろうが、このツケは絶対に返済しなさい」
それはそれとして、ケジメはつけさせる。
どれだけ綺麗に取り繕っても、あくまでこれはヘスティアの他力本願。しっかり痛みを伴ってもらわなければならない。
「わかってるさ! ベル君への愛が本物だって、この身をもって証明してみせるよ! ……って、もしかしてキミが武器を打つのかい?!」
槌を取って棚から希少な金属を物色するヘファイストスに、ヘスティアは驚愕と共に問うた。
「当たり前でしょう? これはプライベートなんだから、うちの団員を巻き込むわけにはいかないわ。言っておくけど、ここは天界じゃない。私は一切の力を使えないんだからね」
「構うもんか! ボクはキミに武器を打って貰うのがいちばん嬉しいんだから!」
悔しいことに、悪い気はしなかった。
「……あんたも手伝いなさい。今からしっかり働いてもらうから」
「ああ、任せてくれよ!」
照れ隠しじみた指示をぶっきらぼうに伝え工房へと向かうヘファイストスの後を、ヘスティアは機嫌良さそうにぴょんぴょん跳ねながら追って行った。
◇
「おーい! 待つニャそこの白髪頭ぁ!」
神友と会ってくると言い残しヘスティアがいなくなってから数日、今日も今日とてダンジョンに出発したベルは、呼び止められて足を止める。
失礼な声のした方を向くと、そこには豊饒の女主人で働く獣人の1人、キャットピープルの少女がぶんぶんと大きく手を振っていた。
「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて悪かったニャ」
「……おはようございます。それで、ご要件は?」
なんだかよく躾けられたような対応。店の主人がめっちゃ強かったので、実際そうなのかもしれない。なにせあのアイズ・ヴァレンシュタインより強い。
オラリオの冒険者はステータスに刻まれた魔法しか使えない仕様上か、魔力制御を
そんなことを考えていると、目の前に財布が差し出される。
「白髪頭はシルのマブダチだからニャ。あのおっちょこちょいに渡して欲しいニャ」
「あー、
年に一度だけ開かれる、ガネーシャ・ファミリア主催のドデカイ祭り。街にある闘技場でダンジョンから引っ張ってきたモンスターを
ちなみに、一般的な
「申し訳ありません、クラネルさん。これからダンジョンに向かう貴方には悪いとは思うのですが、他のスタッフ達も店の準備で手が離せないのです。どうか、頼まれて頂けないでしょうか……?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」
失礼な態度の
今日の予定を変更して、ベルは街に向かった。
◇
いつもは冒険者たちがダンジョンに潜るせいで閑散としているこの時間。しかし今日に限っては異なり、通りはリボンや花で装飾され、屋台が立ち並び、大勢の人々で
そんな大通りに面する喫茶店の2階、祭り一色の様相を見下ろせる窓際の席で、2柱の神が対面していた。
「この後はアイズたんとラブラブデートの予定やからな。手早く済ませようや、フレイヤ」
「あら、呼び出しておいてつれないわね」
「率直に言う、何やらかす気や」
「ふふ……」
「男か」
「……」
返答は、
「はぁ……つまり、どこぞのファミリアの子供を気に入ったっちゅうわけか。ったく、この色ボケが。誰だろうがお構いなしか」
「あら、心外ね。分別くらいあるわ?」
フレイヤの手癖の悪さは、神々の間では周知の事実だった。気に入った相手を見つければ、すぐさまアプローチを行い、その類い稀なる美をもって自分のモノとする。その
「で、どんなヤツや」
「そうね……」
大通りを行く人々を眼下に置き、あたかも過ぎ去ったいつかの光景を思い出すかのように、遠い目をしながらフレイヤは語り出した。
「……強くは、ないわ。貴方や私のファミリアの子と比べても、今はまだとても頼りない。……でも、綺麗だった。輝いていた。あの子は私が今まで見たことのない色をしていたわ」
前世で勇者をしていた頃、ベルは世界中のほぼ全ての人々に認知されていた。女神に遣わされ、四捨五入したら人類滅亡と言っても過言では無い詰みの盤面を覆した、偉大なる勇者。顔を見たことがある人も多かったし、各地に銅像が建てられてもいた。
つまり、信仰されていたのだ。
ベルの魂は変質している。勇者というカタチに。
だからベルは愛されている。
世界に、精霊に──そして、神に。
だからフレイヤは、一目見て見惚れてしまった。
声が熱を帯び、当時の情景に想いを巡らせる。
「見つけたのは本当に偶然。たまたま視界に入っただけ。あの時も、こんな風に……」
日の光が霞む早朝。メインストリートの向こうから、あの少年はこちらへとやって来た。
そう、たった今、視界を走り抜けて行ったように。
──フレイヤの動きが止まる。
その視線が、白い髪の少年に釘付けになる。
「ごめんなさい、急用ができたわ」
「はぁ?」
「また今度会いましょう」
ぽかんとするロキを置いて、フレイヤは足早に店を出た。
勇者のスキルが生えたのは彼のアイデンティティが勇者であることだからです。人生の中で最も他人の役に立てたのは勇者してた頃だったので。
後は魂のカタチにも由来してます。
なのでステータスを失っても精霊の寵愛も世界樹の恩寵も据え置きです。