英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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ベルが前世で使っていたのは聖剣(ロングソード)ですが、別にロングソードが得意な訳ではありません。

勇者になる前の彼は、北海道観光で行った忍者村で射的をやると初見で手裏剣も弓も的のド真ん中に当てるタイプの天才だったので、どの武器でも使えます。

女神は適当に勇者を選んだわけではないのです。
まあ状況がヤバすぎてとてもじゃないけど適当に選ぶなんてなかったとも言える。

文字通り女神に選ばれたわけですね。
その結果どうなったのかはお察しですが()


怪物祭(モンスターフィリア)

 

「ベルくん!」

 

「ヘスティア!?」

 

 その声に振り向くと、そこにはここ数日所在の不明だったヘスティアがいた。彼女は何度も名前を呼びながら、人混みをかきわけて駆け寄ってくる。

 

「会いたかったぜベルくん! いやー、会おうと思ったら本当に会えるなんて、やっぱりボク達はただならぬ絆で結ばれているんじゃないかな!」

 

「いや、俺も会いたかったけど……なんでそんなハイテンションなんだ?」

 

「へへっ、それはね……いや、こんなところで取り出す訳にもいかないか……ヨシ! じゃあデートしようか!」

 

「えぇ……」

 

 背中の荷物をゴソゴソとまさぐる手を止めて、ヘスティアはベルの手を絡め取り、雑踏の中に引きずり込んだ。

 

「ちょっと待った。実はおつかいを頼まれてて、人を探してるんだ」

 

「じゃあデートしながら人探しをしよう! 楽しみながら仕事もこなせて一石二鳥だね!」

 

「えぇ……」

 

 さっそくクレープを注文しているヘスティアを見て、ベルは考えるのをやめた。クレープはお互いあーんしながら食べた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 上機嫌なヘスティアを伴い出店を見て回っていたベルの耳に突如として入る悲鳴と破壊音。

 

 ベルはその方向に視線を向け──巨大なゴリラが目の前の小さな少女に向かって腕を──跳んだ──振り下ろそうとしているのを確認した。

 

 思考は介さず、反射的に地面を蹴っていた。

 

 ファイアボルトを足元で炸裂させ、ステータスに見合わない超速度を得ることで、少女を無傷で回収する。

 

「シル! 大丈夫か!」

 

「私は大丈夫ですけど、モンスターが来てます!」

 

 改めて下手人を見ると、それはシルバーバックであった。銀の毛を持つ巨大なゴリラで、上層の最深部に出現するモンスター。そしてなぜかシルを一点狙い。

 

 しかし、ベルにはその理由が分かった。

 

「お前っ、死人が出たら許さんからな!」

 

「あら……てへっ♪」

 

「ふざけろ!」

 

 シルバーバックは魅了されていた。その力の源はシル。彼女はベルの腕の中で驚いた表情を見せるが、すぐに笑って誤魔化した。

 

 着いてくると分かったなら無理に人が多い場所で戦う必要もない。シルをお姫様抱っこしたままその場を離れようとして──

 

「ベルくん! 今度埋め合わせだからね!」

 

「……了解! シル、しっかり捕まってろ!」

 

「はーい♪」

 

「全く困ったお姫様だな!」

 

 ──ヘスティアが背負っていた武器(ナイフ)をベルに投擲。シルを片腕に座らせる形に変更し、空いた片手でキャッチ。シルはベルに体を擦り付け、ヘスティアはキレた。

 

 しばらく移動し、たどり着いたのはダイダロス通り。

 度重なる区画整理で複雑怪奇な迷路と化した、オラリオに存在するもう1つのダンジョン。

 その空き地に着地し、シルを背にしてベルはシルバーバックと対峙した。

 

 実のところ、シルバーバックはベルにとって大した脅威ではない。

 

 確かに冒険者になって1ヶ月の素人では手も足も出ない相手だが、生憎(あいにく)ベルは普通の冒険者ではない。しかも今はヘスティアに渡された漆黒のナイフがある。

 全身を黒に染め上げた反りのない直刀。ミスリルで構成されたそのナイフは、手の中で刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)を輝かせていた。

 

「ガァアアアアアッ!!!」

 

「うるッせぇえええええ!!!」

 

 ──斬断

 

 ナイフから伸びた炎雷の刃がシルバーバックを半分に分ける。

 

 前世では聖剣(ロングソード)を振るっていたベルが、ヘスティアに欲しい武器を聞かれてナイフと答えた理由。

 ダンジョンという閉所で用いるため小型にして、リーチは魔法で補う8割。費用の節約1割。前世を思い出したくない1割。

 

「ベルさ……痛いっ!」

 

「2度目は無いからなコラッ! あとこれお前の財布! 俺は戻って他のモンスターを対処してくる!」

 

 一瞬の戦いを見守っていた人々の歓声は無視して、ニッコニコで駆け寄ってくるシルにデコピンをかます。魅了の力があるなら大丈夫だろとシルを置いて、大歓声に祝福されながら、ベルは跳んだ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 石畳を押しのけて地中から出現した、蛇のような巨大なモンスター。民衆の悲鳴と共に現れたそれを見て、ロキ・ファミリアの3人──エルフの魔法使いであるレフィーヤと、アマゾネスの双子ティオネとティオナは顔色を変えた。

 

「あいつ、ヤバい!」

 

「行くわよ! レフィーヤは詠唱!」

 

 叫ぶと同時に走り出す。

 

 鞭のようにしなる黄緑色の体当たりを避け、死角から叩き込まれるLv5の打撃。

 

「っ?!」

 

「かったぁー!?」

 

 素手とはいえ並みのモンスターならば軽く粉砕する第一級冒険者の打撃が阻まれる。凄まじい硬度と滑らかな体皮は僅かに陥没したのみで、逆にティオナ達がダメージを受けた。

 

「打撃じゃ(らち)が明かない!」

 

「武器用意しておけばよかったー!?」

 

 今は祭りの最中、武器は携帯していない。有効打はLv3でありながらLv5を超える威力を持つレフィーヤの魔法のみ。今も前線で攻撃を避け続けている姉妹から時間を受け取り、レフィーヤは詠唱を始める。

 

「『解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)(なんじ)、弓の名手なり』」

 

 威力より速度に重きを置いた短文詠唱。姉妹への攻撃にかかりきりの相手に対してならば余裕を持って狙い撃てると、レフィーヤは思っていた。

 しかしその予想に反して、魔力の高まりに反応したのか、それまで無関心だったモンスターがレフィーヤに振り向く。その直後、衝撃が腹部を貫いた。

 

「……ぁ」

 

 地面から伸びる黄緑の触手が、防具も付けていない無防備な腹部に叩き込まれていた。体内からぐしゃっと嫌な音が鳴り響き、口から血を吐き出す。

 

「「レフィーヤ?!」」

 

 反動で宙に浮いた体が背中から地面に倒れ込む。

 姉妹の叫喚(きょうかん)が聞こえるが、魔法使いの華奢(きゃしゃ)な体は致命傷に等しいダメージを受けており、立ち上がることすらできない。

 

「オオオオオオオオッ!!!」

 

 轟く咆哮と共に触手の先端が何枚もの花弁となって開き、毒々しく染まった極彩色が現れる。その中央には牙の並んだ巨大な口。生々しい口の奥には陽光を反射させて輝く魔石の光が見えた。

 大量の触手で姉妹を足止めしながら、花のモンスターが倒れ込むレフィーヤに襲いかかる。

 

 嫌だ、とレフィーヤは思った。

 

 太陽を(さえぎ)る長大な体躯が、立ち上がろうと試みては失敗する自身の体を覆い尽くす。牙の隙間から涎のような粘液をボタボタと垂らしながら少女に迫るモンスターを見て、逃げ遅れていた民衆が青ざめた。

 

 嫌だ、嫌だ、レフィーヤは再度思った。

 

 いくら動けと念じても震えしか返さない全身に鞭を打つ。しかし時は無情だった。醜い大口が迫ってくる。レフィーヤか、民衆か、或いは両方が、『あぁ』と嘆いた。

 

 嫌だ、嫌だ、もう嫌だ。

 

 食人花を映す瞼を閉じ──

 

「……へ?」

 

 ──次に開けた時、視界には空と白い少年が映っていた。

 

「ちょ、は、離してくださ……ごほっ!」

 

「バカタレ! 大人しくしてろ!」

 

「ばっ、ばかとはなんですか!……アレ?」

 

 気位が高く他者との接触に忌避感を覚えるエルフ。レフィーヤは寛容な方だが、それでもお姫様抱っこには抵抗があった。文句を言おうとしたが、それよりも。腹部に受けた致命傷に近いダメージが治癒していることにレフィーヤは疑問を覚えた。

 

 その正体は、ベルの回復魔法。精霊と世界樹による祝福、自分より圧倒的に格上の食人花と対峙したことによるスキルの補正が相まって、レフィーヤの肉体は一瞬で治癒された。

 

「詠唱、早く! 炎はやめろよ!」

 

「なっ……くっ!『ウィーシュの名のもとに願う』『森の先人よ、誇り高き同胞よ、我が声に応じ草原へと来たれ』」

 

 言いたいことを飲み込み、レフィーヤは詠唱を始める。

 

 一方ベルは何を言うまでもなくアマゾネスの姉妹と連携し、お姫様抱っこから背負う形に姿勢を変えてレフィーヤを守る。しかし、背中で感じる魔力の不安定さに冷や汗をかいた。この魔力を暴発されると即死するからだ。

 

 平行詠唱は一般的に、火薬の詰まった樽を担いで火の海を渡るような難物と言われる。つまり、落ち着いた精神状態は必須。下のベルが自動で回避しているとはいえ、レフィーヤにとって食人花はつい先程ぶっ叩かれて致命傷を負わされた相手だ。

 

「お前どこのファミリアだ! ビビっとんちゃうぞ!」

 

「…………っ!!」

 

 だからベルは煽った。怒りの割合を増やして恐怖を相殺するために。レフィーヤは詠唱中で言い返せない。だが、そのエセ関西弁が自らの主神を想起させ、心に火がついた。

 

(私はレフィーヤ・ウィリディス! ウィーシュの森のエルフ! 神ロキと(ちぎ)りを交わした、このオラリオで最も強く誇り高い、偉大な眷属(ファミリア)の一員!)

 

 レフィーヤは、吠えた。

 

「『繋ぐ絆、楽宴(らくえん)(ちぎ)り、円環を(まわ)し舞い踊れ』『至れ、妖精の輪』『どうか、力を貸し与えて欲しい──エルフリング』!」

 

 発動したのは、レフィーヤの2つ名である千の妖精(サウザンド・エルフ)の由来となった魔法。その効果は、本来なら1人3つしか使えない魔法を、エルフのものに限りなんでも使えるという前代未聞の召喚魔法(サモン・バースト)

 

「なにあれ?!」

 

「無詠唱の魔法……?」

 

 高まる魔力を感知した食人花がベルを集中的に狙う。

 しかし、相手は詠唱のいらない速攻魔法によって縦横無尽に動き、空中機動すらこなすベル。スキルによって向上した能力と、Lv5の前衛2人によって、余裕を持って背中のエルフを守れていた。

 

「『終末の前触れよ、白き雪よ、黄昏を前に渦を巻け』『閉ざされる光、凍てつく大地』」

 

 周囲の視線が驚愕の混じったものへと変わる。

 レフィーヤが召喚したのは、エルフの女王、リヴェリア・リヨス・アールヴの攻撃魔法。極寒の吹雪を呼び起こし全てを凍てつかせる無慈悲な冷気。

 

「『吹雪け、三度(みたび)の厳冬──我が名はアールヴ』!」

 

 拡大する魔法円(マジックサークル)

 レフィーヤは、その魔法を紡いだ。

 

「『ウィン•フィンブルベトル』!!」

 

 大気をも凍てつかせる冷気の波が、モンスターに直撃する。体皮が、花弁が、断末魔の絶叫までもが凍結されていき、やがて余すことなく(しも)と氷に覆われた食人花が動きを停止する。蒼穹(そうきゅう)に舞う氷の結晶が、陽光を反射してきらめいた。

 

「ナイス2人とも!」

 

「手を焼かせてくれたわね糞花っ!」

 

 出来上がった巨大な氷像にアマゾネスの姉妹が近付き、そして淀みなく、申し合わせたように同じ動きをなぞる。一糸乱れぬ回し蹴りが炸裂し、食人花の全身は文字通り粉砕された。

 

「……もう立てるか?」

 

「……はい。言いたいことは色々あったんですけど……今回は、ありがとうございました」

 

「民を守るのは冒険者の務めだし、後衛を守るのは前衛の務めだ。気にしないでくれ」

 

 触られたこと、煽られたこと、助けられたこと……本当に色々あってとても複雑な表情で頭を下げるレフィーヤに、ベルはそう返した。

 

 本日2度目の賞賛の嵐、そしてアマゾネス姉妹からの感謝を受けながら、ベルは内心で疑念を抱いていた。

 

(あの食人花は、魅了されていなかった)

 

 つまりあの迷惑などこぞの女神は関係なく、人々を傷付けるのだけが目的でモンスターを地上に送り込んだことになる。そもそもあんな凶暴なのをどうやって地上まで持ってこれたのか疑問だ。

 

(考えても仕方ないか)

 

 ベルは自分に推理や捜査ができないことを自覚していたし、そういうのは専門家に任せればいいと今までの経験で学んでいた。

 

 そしてそれよりも気にすべきは、プンスカ怒りながら大股でこちらに歩いてくる我らが主神のことだった。

 




ベート「フッ、吠えたじゃねぇか……」

後輩の頑張りにご満悦のツンデレ狼人



今回最高にいい空気吸ってた某フレ○ヤ様の採点。

自分以外の女とイチャイチャデート → -100点
女の気配がする武器を持ってる → -100点
自作自演だとバレても助けてくれた → +1万点
お姫様抱っことお姫様呼び → +1万点
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