英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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バベルとエイナとピョンキチと

 

「じゅうにかいそぉ〜?!」

 

「……はい」

 

 ベルは悲鳴をあげそうになった。目の前のエイナから恐ろしいほどの怒気を感じたからだ。

 

 いつものように探索を終え、戦利品を換金し終えた後。シルバーバックに余裕を持って対処できたのだから、上層の最深部である12階層でも問題ないだろうと彼女に話した瞬間、火山は噴火した。

 

「キミはまだ冒険者になって1ヶ月も経ってないんだよ! しかもソロ! 危機感が足りない! 絶対に足りない!」

 

「異議あり! でも実際12階層でも問題なく戦えました!」

 

「それは……」

 

 普通の場合、冒険者になって1ヶ月未満かつソロでの攻略は5階層ですら危険極まりなく、7階層にいたっては自殺と同義といっても過言では無いほどの難易度だ。

 

 しかし先日の怪物祭り(モンスターフィリア)の際、ベルがシルバーバックを倒すどころか、Lv5の打撃でビクともしない強大なモンスター相手に大立ち回りしていたとエイナは聞いている。目撃者も多数いて、嘘だとも思っていない。

 

 ──しかしそうなると、また別の懸念が残る。

 

「ベル君。明日、空いてるよね?」

 

「いや……はい」

 

 有無を言わさぬ問いかけだった。

 

 未だに貧相な防具を通り越してほぼ私服の状態でダンジョンに潜っている担当冒険者を見て、エイナは半分キレていた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 2人が向かうのはダンジョンの上にある白亜の巨塔、摩天楼(バベル)。そこには食堂や治療施設などの公共施設から、色々なファミリアのテナントまで、色々なものがある。

 

 今日訪れるのはヘファイストス・ファミリアのテナントだ。といっても普通に買い物したら余裕で破産するので、末端の鍛冶師が作った武具のコーナーに向かう。

 なお、途中でバイトしていたヘスティアは見なかったことにするし、そういえばこのナイフの金額を聞いていなかったこともまだ気付いていないことにする。

 

「コホン、ところでベル君」

 

「はい?」

 

「私の私服姿を見て、何か言うことはないのかな?」

 

 エイナの服装は、普段のピシッと決められたスーツではない。レースをあしらった白のブラウスに、丈の短いスカート……紛うことなきお洒落な私服であった。とても眩しい。

 

 だが、からかってやる気を隠そうともしない問いに、素直に答えるのは(しゃく)だった。

 

「可愛いよ、エイナ。俺とのデートのために着飾ってくれてありがとう。……愛してる」

 

「……っ?!」

 

 おあつらえ向きに接近してくれたので、指先で頬を優しくなぞりながらブラウンの髪をエルフ特有の長い耳にかけ、最後の『愛してる』は晒された耳元に(ささや)いた。

 

 自分で自分の行動に鳥肌を立たせながら仕掛けただけあってそのイタズラは効果抜群で、エイナの顔が耳の先端まで真っ赤に染まる。

 

「お、お姉さんをからかうんじゃありません!」

 

「はっはっはっ」

 

 ベルに色仕掛けは効かない。なぜなら人類最高戦力である自分が落ちたら世界滅亡という状況で数多の懐柔策を退けてきたからだ。

 

(あ、危ねぇ……眼鏡がなかったから耐えられたけど、普段通り眼鏡をかけてたら即死だった……)

 

 効いてた。

 

 しばらくエイナにポコポコと背中を叩かれながら歩き、男冒険者たちの嫉妬だけで人を殺せそうな視線を浴びながら、ベルは目的地に到着する。

 

「ここにあるのは原石の鍛冶師の作品、末端とはいえ中には掘り出し物もあったりするんだよ! さっ、行こう!」

 

 なぜか自分より張り切っているエイナの姿に苦笑いしつつ、ベルは防具を探し始めた。

 

 しばらくして、ふと視線が吸い寄せられる場所を見つける。他の防具が人の体を模した人形に着せて展示されている中、店の片隅にガラクタの山のように積まれる防具の各パーツは、一際(ひときわ)異彩を放っていた。

 

 その中の、赤く縁取られた純白のライトアーマーを、ベルは手に取った。胸、腰、肘、膝、最低限の部位だけ保護し機動力を削がない設計仕様。ガラクタのように扱われていた割にかなり品質も良さげだ。

 

 防具の名は兎鎧(ピョンキチ)……兎鎧(ピョンキチ)?!

 

(お、おもろすぎる……頭ん中ハッピーセットかよ……)

 

 そのキラキラネームもビックリのネーミングセンスによって購入は決定された。製作者の名はヴェルフ・クロッゾ、今度会ってみようとベルは強く思った。

 

 思い出し笑いしないようになんとか支払いを──今持ってるこれピョンキチって名前なんだよな、これからよろしくなピョンキチ──済ませられなくて店員に怪訝な目で見られつつ、辺りを見てもエイナが見当たらない。

 

「ベル君、はいこれ」

 

「どうも……?」

 

 ひょこっと出てきたエイナに渡されたのはプロテクターだった。手首から肘くらいまでの長さで、篭手に取り付ける防具。そして色は、翠玉(エメラルド)……エイナの瞳と同じ色である。

 

「私からのプレゼント。ちゃんと使ってあげてね?」

 

「こ、これ……いや、いいのか……?」

 

「なぁに? 私からのプレゼントは受け取れないっていうの?」

 

「そういうわけじゃないんですけども……」

 

 思わぬカウンターパンチに、ベルは内心でバチクソ動揺していた。

 

「本当にさ、冒険者はいつ死んじゃうか分からないんだ。どんなに強いと思ってた人も、神の気まぐれみたいに簡単に亡くなっちゃう。私は、戻って来なかった冒険者を沢山見てきた」

 

「それは……」

 

 動揺が一瞬にして静まる。ベルにも覚えがあったからだ。どれだけ強くとも、死ぬ時は呆気なく死ぬ。戦場に出てそれを学ぶのにベルは1年もかからなかった。

 

「……いなくならないで欲しいなぁ、ベル君には。あはは、これじゃあやっぱり私のためかな? 」

 

 笑っておどけてみせるエイナは、ベルのことをずっと見つめていた。プレゼントした防具と同じ色の瞳で、ずっと。

 

「……だめ?」

 

 ベルは、天を仰いで両手で顔を覆った。今はちょっと、エイナを見れなかった。文句を言う気力すらなかった。

 しかし、スゥーッと長く息を吸ったまま何も言わないベルを見かねて、エイナが口を開く。

 

「……ベル君、私のこと愛してるって言ったよね? それも、2回も」

 

「ぶはっ!……それは、そのぉ……」

 

 吐き出された空気が両手に当たる。このままだと無限にターンを継続してくると判断し、観念したベルはエイナと視線を交わす。その場には、真っ赤に実った新鮮なトマトが2つ。

 

「……分かった、引き分けってことにしないか?」

 

「……私もさ、嬉しかったんだよ? ベル君に愛してるって言ってもらえて」

 

「へあっ?!」

 

 ウルト○マンみたいな声が出た。

 

「わ、我々は今、お互いにダメージを受けている。この戦いは不毛だ。今は勇気を持って戦略的撤退を選ぶ時だ」

 

「私はね、ベル君。キミの力になってあげたいなって思ったんだよ? 頑張っているキミを見て、つい渡したくなっちゃった。ね、受け取って?」

 

「……はい」

 

 ちょん、と鼻をつつかれたことに抗議もできず。触れられた鼻筋を撫でながら、ベルは赤い顔のまま素直に(うなづ)いた。

 

「ありがとう、ございます……」

 

「ど、どういたしまして……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 2人は手を繋いで帰った。

 

 後日、エイナは同僚に死ぬほどからかわれた。





あ、あれ? なんでエイナさんがメインヒロインみたいな顔してるんだ? こんなのボクのデータにないぞ!?

原作通りベルくんをトマト野郎にしました。
対戦ありがとうございました。

ちなみに、別にベルは眼鏡派なわけではないです。
エイナの場合は眼鏡をかけている方が好きなだけです。
それより自分の瞳と同じ色の防具を渡すって、ちょっとエイナさんベルくんのこと好きすぎじゃないですか…?

某女神Fさんの女神ポイント-1000点により、次店に行った時ぎゅーっと音がするくらいハグされて胸元に頭をグリグリされます。
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