英雄になれない元勇者 作:ダンまち=スキー
メスガキが人気で笑っちゃうんすよね
「……ベル様は本当に駆け出しの冒険者なのですか?」
「一応そうだけど、信じられなければギルドで調べてもいいぞ」
「いえ、疑っているわけではありませんが……」
現在2人がいるのは11階層。周囲に転がっているのはシルバーバックの群れ。Lv1がソロで戦える相手ではないが、ベルはそれを一蹴。漆黒のナイフから伸びた炎雷の刃が首を次々と斬り飛ばして今に至る。傷口は焼かれているので血が吹き出ない親切設計だ。
「アビリティは足りてるからなぁ」
「……だとしても、普通ダンジョンは3人以上のパーティで潜るものですよ?」
11,12階層の推奨アビリティはLv1のB~Sで、ベルは最も低い耐久ですらBランクだ。そこにスキルもあるのだから、適正と言えるだろう。ソロなのを除けば。
しかし、リリが真に問題としていることは、冒険者になって本当に約1ヶ月なのかということだ。ランクアップの最速記録が1年なのだから、ベルと同じアビリティに到達するまでには最低でも一年はかかる筈。常識的に考えておかしい。
「まぁ、ベル様のお強さは、武器によるところもあるのでしょうが……」
「そうだな。そこら辺の武器なら俺の魔力に耐え切れずポキポキ折れるし」
それはLv1の駆け出しが起こしていい現象ではないと思いつつ、フードと前髪に隠れた瞳が企図と色を孕み、漆黒のナイフを直視する。鞘に刻まれたヘファイストス・ファミリアの刻印を見て、リリの目が爛々と輝いた。
一方、ベルのダンジョン攻略はリリの手によって大きく変わっていた。サポーターの存在は、劇的だった。
バックパックを持っていないのでシームレスに戦闘に入れる。大きなバックパックがあるから戦利品をより多く持って歩けるし、より長くダンジョンに潜れる。魔石の回収も2人いるので倍速、どころかリリの方が上手いのでロスタイムも少ない。モンスターの死骸を1ヶ所にまとめてくれるので足場に困ることもない。周囲に細心の注意を払い、間違ってもモンスターとの鉢合わせは起こらせない。
戦闘においてはベルの独壇場だが、それ以外の全てにおいてその立場が逆転する。リリの技術は洗練されていて、ダンジョン攻略にとても役立つものだ。ベルはそう伝えたのだが。
「リリはこれくらいしか取り柄がありませんから、モンスターを倒せるベル様の方がずーっとすごいですよ」
「そう自分を卑下するなよ」
「いえ……サポーターなんて聞こえはいいですが、蓋を開けてみればただの荷物持ちです。命を賭してモンスターと戦っている冒険者様からすれば、リリ達は安全な場所に逃げ込む臆病者で、何もしていないクセに甘い蜜を吸おうとする寄生虫なんです」
ダンジョンに潜る時点で危険に晒されているのにそう言いのけるのは、リリが冒険者"様"とやらにずっとそう言われてきたからなのだろう。
「ベル様がお優しいことは会ったばかりのリリにも分かっています。けれど、ケジメはつけなくてはいけません。もしリリが生意気なサポーターだと風評が流れてしまったら、ベル様以外の冒険者様から相手にされなくなってしまいます」
自分の凄さを認めようとしないリリ。しかし2人が契約を結んでから数日、換金額は平均して50000ヴァリスを超えている。Lv1の5人組パーティが1日かけて稼げるのが25000ヴァリスなので、倍以上にもなる。
サポーター万歳! サポーター万歳! お前もサポーター万歳と叫びなさい!
リリには20000ヴァリス、つまり稼ぎの40%を渡していた。約束の30%より多いが、期待以上の成果だったのでチップを渡したのだ。変なの、と言われたのでオラリオにはチップの文化がないのかもしれない。しかし、最近は常識がないだの人が良すぎるだのと小言が増えてきたので、仲良くなれてきているのかも。
◇
「ベル様っ、いけません!」
11階層で戦い続ける中。リリの悲鳴のような警告も虚しく、ベルはシルバーバックの剛腕を受け地面に叩き付けられる。"必要なこと"だったとはいえ、久し振りの被弾。体の奥まで響くような衝撃がベルを襲う。
地面にめり込むベルに対し、シルバーバックは指を絡めた両手を振り上げる。鉄槌、あれをくらえばタダではすまないだろう。最低でも致命傷だ。ベルはそれを、敢えて受け入れる。
「ダメーっ!!」
リリの叫び声と共に飛んできた炎の塊が、それより早くシルバーバックに着弾した。
「ファイアボルト」
「ギャアアアアアア!?」
不意の攻撃によって怯んだところを炎雷が貫く。全身を焼かれたシルバーバックはそのまま絶命した。
「ベル様っ! 無事ですか!?」
「……ありがとう、リリ。魔剣まで使って助けてくれて。嬉しいよ」
「べ、別にベル様を助けようとしたわけじゃないんですからねっ! ベル様がいなくなったらリリの収入が減るから仕方なくこうしたまでです! か、勘違いしないでくださいね!」
ツンデレのテンプレートみたいなリリの発言に、ベルは苦笑した。
しかし、助けに入るだろうとは思っていたが、まさか魔剣まで使ってくれるとは思っていなかった。この世界の魔剣は前世のものと違い何回か使うと壊れるクセに、とんでもなく高いのだ。まぁ最悪の場合には寿命とか理性とかを吸われるタイプの魔剣もある前世とどちらが良いのかは諸説あるが。
そうして自分で自分の発言に困惑するリリと魔石の回収をしている時、それは現れた。今回の目標だ。
「──オオオオオオオオオッッ!!」
「うそ……」
その咆哮に、リリの顔が恐怖に染まる。現れたのはインファント・ドラゴン。11,12階層に現れる
翼はなく、四足歩行で首が長い。その姿から小龍と称されるが、大きさは4メートルはある。紛れもない竜種だ。
咆哮と共に繰り出される長い尻尾の横薙ぎを回避して反撃を繰り出す。漆黒のナイフから伸びた炎雷の刃が竜の鱗を切り裂いた。
(勝てる!)
でも、そうじゃない。これは証明するための戦いだ。
牙の隙間から火の粉を覗かせる小竜。ブレス……竜種の必殺技に、ベルに真っ向から対峙する。
「『邪悪なる竜は失墜し、世界は今
竜殺しを成し遂げた黄昏の剣に由来する詠唱によって、ベルは竜種への攻撃力を高めるバフを展開した。唄い終わると同時、大上段に掲げられた漆黒のナイフから莫大な炎が立ち昇り、バチバチと帯電しながら今か今かと射出の時を待つ。
「ベル様っ、逃げて!」
「嫌だね! ──バルムンクッ!!」
「ガァアアアアアアアッッ!!!」
衝突、爆発──閃光。
インファント・ドラゴンとベルの間で、炎と炎が炸裂した。痛み分け、ではない。精霊に愛されたベルは魔力に由来するあらゆる攻撃に耐性を持つ。半分は自分の魔力なのも相まって、ダメージは少ない。回復魔法で一瞬にして治癒し、敵に向かおうとして。
「リリ、後ろ!」
「えっ……?」
あの時、初めてベルとリリが会った場所にいた、冒険者。男はリリに向かって、剣を振り上げていた。怒り狂ったインファント・ドラゴンは2発目のブレスをチャージしている。リリは死を覚悟した。
しかし、この最期が自分のやってきたことに対する報いなら。数多の冒険者達や、何よりあの少年を騙した罰だというのなら。……そう考えると、リリは気が楽になった。すんなりと受け入れられた。むしろ然るべきだと。
しかし、そうはならなかった。
冒険者の男が突如として地面に倒れる。
「ぐぁあああああ!!?」
その手のひらには漆黒のナイフが突き刺さっており、男は地面に縫い付けられて痛みに悶えていた。リリは安堵と、それに少し遅れて激しい恐怖を感じる。ナイフがここにあるのなら。さっきブレスを相殺したベルは──
「いやぁあああああああ!!」
──ナイフを投擲した姿勢のまま、無防備に炎の波に呑まれた。
これは、リリを認めさせるための戦いだ。
ソーマ・ファミリアの構成員で驚異となるのは何人かのLv2。しかし彼らは冒険者というよりファミリアの経営者で、戦士ではない。つまり、インファント・ドラゴンを討伐することで、彼らからリリを絶対に守れると証明する手筈だったのだ。
そうでなければブレスを真っ向から相殺するなんて無駄なことはしない。ちなみにブレスに呑まれたのは普通にミスである。しかし、強さを見せて安心させるという点で言えば、これはこの上ないだろう。
リリの視界で、突如としてインファント・ドラゴンの頭が跳ね上がる。同時、自分の隣に着弾する影。
「悪いなリリ、油断してた」
「テメェ俺になん」
右拳一閃。インファント・ドラゴンを蹴って加速しリリの元までたどり着いたベルは、冒険者の男からナイフを回収した後、顎を叩いて脳を揺らし、意識を喪失させた。
「リリ、アイツの魔石っていくらになると思う?」
「……へ?」
困惑するリリを置いて、ベルは飛び出した。
ベルも腹の内ではリリのことを馬鹿にしているに違いない。ただのサポーターだと
(冒険者なんて……冒険者なんて……ッ!)
世界はリリにちっとも優しくなかった。
リリはソーマ・ファミリアの構成員の夫婦から産まれた子供だった。つまり生を授かったその時点で、ソーマ・ファミリアの末端に加わることを義務付けられた。
そこからは地獄の日々だ。
今は亡き両親も、ファミリアの仲間も、皆等しく酒の魔力に取り憑かれ、冒険者の才能がないリリから搾取した。
冒険者パーティのサポーターを務める度、彼らは口々に言った。
魔石をくすねたな、金をちょろまかしたな。これは罰だ、お前には分け前をくれてやらない。身に覚えがなく誤解ですと必死に取りすがっても意味はない。言いがかりだからだ。
モンスターに殺されかけても見向きもしない。負傷しても治療してくれないどころか、荷物を無くしたらタダじゃおかないと蹴りが飛んでくる。
(リリは冒険者が嫌いです……ええ、大っ嫌いです!)
リリは一度、逃げ出したことがある。ファミリアの構成員という肩書きを捨て、一般人になりすましてなんとか仕事にありついた。しかし、ようやく平穏を手にしたのも束の間、そのささやかな幸せは冒険者に壊された。どこから聞きつけたのか、ソーマ・ファミリアの冒険者達が押しかけ、金を奪っていったのだ。ついでとばかりにリリの居場所も徹底的に打ち壊して。
それまで優しかった花屋の老夫婦はすぐにリリを追い出した。汚物でも見るかのような彼らの目を、リリは今でも覚えている。
結局、リリはソーマ・ファミリアのサポーターとして生きていくしかなかった。でなければ、また周囲に迷惑と被害が及ぶ。例え仲間からは搾取され、他の冒険者からタダ働きを強制されたとしても。
そう、冒険者なんてみんな同じだ。自分より弱いリリに酷いことをする。あの少年だってきっと、きっと……あの優しい少年だって、いつか手の平を返すに決まっている。そうに違いない。裏切られる前に裏切って何が悪いというのか。
自分を孫のように可愛がってくれた老夫婦の最後の目を思い出す。そうだ、どうせ捨てられる。見捨てられる。そう、リリは思っていた。
(でも……でも、ベル様なら)
ここ数日、リリはしっかり分前を貰えた。相場より高いのに、色も付けてもらった。毎日のように仕事振りを褒めてくれた。 冒険者に襲われた自分を助けるためにインファント・ドラゴンのブレスを受けて、全身から煙を上げながらリリの心配をしてくれた。最後のはドン引きだった。
茫然自失、立ち尽くすリリの視界でインファント・ドラゴンが灰になる。戦いを終えたベルが近付いてくる。
「リリ。ソーマ・ファミリアのことを調査する過程で、お前のことも調べさせて貰った」
「なっ……?!」
瞬間、リリの思考を冒険者の男に殺されかけた時以上の恐怖が染める。
(ベル様に捨てられたら、私は、もう……っ!)
大して広まってはいないが、冒険者の間でリリのことは噂になっていた。手癖の悪いパルゥムに金品を掠め取られると。しかし、被害にあった冒険者は軒並み盗難とか恫喝とか、後暗いことをやらかしてるチンピラばかり。リリは意図してそういう相手を狙ったのだろう。
ベルからすれば、自分のことを棚に上げて被害者面するな、という話だ。
「リリ、俺はお前を咎めるつもりはない」
「……へ?」
「ただし! 悪いことして稼いだ金であることに代わりは無い。だから自分で使うんじゃなくて、孤児院に全額寄付しろ。それでチャラだ」
ベルはシルの
「あぁ、あと、花屋の老夫婦にはしっかり補填をしておいた。リリの事情も説明した。彼らはあの時のことを後悔していて、お前に謝りたいと言っていたから、今度連れて行くと勝手に約束した。異論は認めない」
資金源は孤児院の子供たちに自分をパパと呼ばせたシルだ。
「いえ、その、なん……はぁ?!」
ベルにまくし立てられた情報量の暴力に、リリは混乱しているようだった。顔を上げたり俯いたり、口を開いたり閉じたり。ややあって、ベルの方から口を開いた。
「リリ、ヘスティア・ファミリアに入らないか?」
リリは飛び跳ねるほど嬉しかった。でも、脳裏によぎる今までの自分。サポーターを虐げる輩を狙い撃ちにしたとはいえ、やっていたのは復讐と窃盗。言い逃れの余地がない悪人だ。
「……ダメですよ、ベル様。私は汚れていますから」
「全く、俺に気を使うんじゃない。なぁリリ、ひとりぼっちは寂しいだろ?」
「……っ?!」
リリは驚いた。図星だったからだ。
サポーター。いなくなっても痛くも痒くもないただの荷物持ち。役立たず。1人では何も出来ないリリの天職。まさに、リリそのものだ。愚図な自分。リリは、リリのことがいちばん嫌いだった。
リリは誰かに呼ばれたかった。
リリは誰かに頼られたかった。
利用されるのではなく、必要とされたかった。
弱い自分が嫌いだった。他人の手で人生を左右される自分のことが大嫌いだった。リリは、リリではない誰かになりたかった。発現した魔法も、その想いが形になったのだろう。
誰からも必要とされていないことには慣れていた。
ひとりでいることには慣れていた。
慣れてはいたが、寂しさが消えることはなかったのだ。誰も頼れず、誰からも頼られなかったことが、寂しかった。ベルが鋭いわけではない。むしろ単純な話で、だからこそ気付けた。
(そうですか、リリは……)
「リリ、俺にはお前が必要だ」
誰かと一緒に居たかったのだ。
ようやく認めることのできた胸の内に、リリは自嘲した。今の今まで凍えていた胸が痛いくらいに締め付けられ、熱くなる。
「どうしてですか?」
気付けば、勝手に口が動いていた。
「なんでリリを助けたんですか? どうしてベル様はリリを見捨てようとしないんですか?! 私は最後にあなたも騙そうとしたんですよ!?」
目の前の冒険者が次に言う言葉に何を期待しているのか、リリ自身わからなかった。ただ、心臓が馬鹿みたいに動悸を抱えている。
その剣幕に気圧されつつ、ベルはまるで反射的な行動のようにその言葉を口にした。
「えっと、困ってたから?」
──かぁっ、と。全身が熱で燃え立った。
体がグツグツと煮えたぎり、不満が爆発する。
「ばかぁっ! ベル様のばかぁっ!! そんなこと言って、ベル様は困っている人がいたら誰でも助けるんですか!? 信じられません! 最っ低です! このすけこまし! 女ったらし! スケベ! クソボケぇぇぇ!!」
そんなことを言える立場ではないのに、目の前の少年に不満をぶつけていく。不満、なにが不満なのだ。助けられておいて、何が不満だというのか。この胸の高鳴りは、一体全体、彼の言葉に何を求めていたのか。
もう、わけがわからない。
ベルは非難の嵐を引きつった顔で受け止めていたが、やがてリリが息も絶え絶えになると優しく微笑み、リリの頭に手を添える。
「じゃあ、リリだからだよ」
「……ふえっ?」
栗色の瞳が、一杯に見開かれた。
ベルは度々聞かれるこの質問に真摯に答えるべく、考えた。最初の理由は変身魔法だ。しかし、その魔法を形作るに至ったリリの生い立ち、境遇を知って、そんなもの関係なく助けようと思った。つまりは、リリだから助けようと、助けたいと思ったのだ。
それを聞いて、リリの涙腺が崩壊する。
我慢することもできず、リリは声を出して泣き始めた。
「お、女の敵ぃぃぃ……うええええぇぇぇっ……!」
「まだ言うか……」
リリはベルの腹に飛び込んだ。背後に回した手で思い切りかき抱く。頭の後ろと背中に置かれた暖かい手の平が、何度もリリをしゃくりあげさせた。
「ごめっ、ごめんっ……ごめん、なさいっ……!」
「……あぁ」
モンスターの死骸が散乱する殺風景なダンジョンの一角で、いつまでも泣き声は響き続けた。その間、小さな少女を抱き締める白い髪の少年は、ずっと顔を綻ばせ続けていた。
次話でリリの引き抜きですかね。
リリが信用できるってどうやって証明すればいいのかなぁ……根拠ないけど大丈夫言うてもヘスティアは納得しないだろうし、神に嘘は通じないしなぁ……せや! 敢えて死にかけて助けて貰ったろ!
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このイカレ野郎、元勇者らしいっすよ?
バルムンクの詠唱すこすこのすこ。だから借りますね…
ベルくんがやったのは呪術廻戦の縛りモドキです。
普通なら全ての攻撃にかかるバフを竜種のみ絞ることで効果を向上させました。ファイアボルトがあれだけの火力を出せたのは、気配を感じた時点からの事前チャージ+絞り特効バフ+スキルによるバフのおかげ。
ちなみに原作ベルくんはLv2なりたての状態で、英雄願望のちょいチャージでインファント・ドラゴンをワンパンしてます。えっ強……
2回目のブレスを無防備に受けた時ですが、実はこんがり焼かれて五感が喪失するくらいのダメージを受けてましたが、回復魔法ガン回しで耐えながら魔力感知で動いてました。