仮面ライダーティア 作:トリプル・ルージュ
魔王は、突然俺達の街に降ってきた。
その日も俺は学校に行く途中で、その時付き合ってた人と一緒に他愛もない話をしながら信号を待っていた。周りがうるさくて良く聞こえないけど何となく相手の言っている事が分かって、何となく相槌を返す様な、そんな当たり前の日の一つのはずだった。
そのはずだったのに。
「あれ何?」
誰かが指差す方を見ると赤黒い雲が空で渦巻いていた。稲光がちらつくそれが段々と開いて、穴から人の形をした何かが降りてきた。ざわつく人々が呆然と見る中、黒い翼を広げたそれは手をかざした。その手から黒い稲妻が走って、近くにあったビルを焼き切った。少し遅れて爆発して、瓦礫や人が俺達に降ってきた。
一瞬で街は地獄に変わった。
逃げ惑う人々に押されながら、はぐれないように彼女の手を強く握って走った。その間にも魔王は稲妻で街を破壊していく。ビルにも、車にも、人にも容赦なく死が降り注いだ。街は混沌に包まれて、我先にと逃げる人々が誰かを傷つけていく。
隣の彼女の息遣いが、段々と荒いものに変わっていく。それでも必死で走っていたのに、後ろから来た人が彼女を突き飛ばす。
俺は耐えきれずに、手を放してしまった。
「
人の流れに押し流されながら彼女の悲痛な叫びを聞いたのを、今でも覚えている。
それから、4年。
魔王は今も、あの街にいる。
アラームの音でいつもの様に起きて、スマホを見る。いつも通り7時30分だったのを確認して、洗面所で顔を洗う。眼鏡を掛けて朝食を流し込み、リュックに教科書とパソコンを詰め込む。出掛ける準備を終えて、玄関を出た。
自転車を漕いで紅葉並木の道を駆け抜ける事十数分、駐輪場に停めて近くのバス停でちょっと待つ。大学まで直通のバスが来て、それに揺られながら空を見る。
いつも通りの綺麗な青空が広がっている。
そしてその遠く、あの街のある辺りの空は、いつも通り黒雲が渦巻いている。
魔王がいることが当たり前になった日本では、人々はそれに見ないふりをしながら以前と同じ生活をするようになった。だから今日も俺は大学に行くし、サラリーマンはやつれた顔をして会社に向かう。社会は何の問題も無く回っている。後は時間が魔王を忘れさせてくれるのを待つだけだ。
できる訳が無い。
時間如きで忘れられる様な、そんなぬるい事じゃなかった。
皆、あの時の事を忘れられない。傷つかないように、明るく振る舞っているだけ。
俺もその一人だ。
その少女は、使命を帯びてこの街に降り立った。
人通りの多い道を、何かを探す様に右へ左へ視線を動かしながら歩いていく。すれ違う人々は彼女の容貌に気付いて一瞬呆け、次に目が合って赤面する。銀を編んだ様な流れる長髪。藍玉を閉じ込めた瞳。抜ける様に白い肌。日本ではおよそ見かけない美しさに、幾人かは想起する。
天使が舞い降りた、と。
秋も深まると言うのに少女が白いワンピースしか身に着けていないと言うのも、その印象に拍車をかけていた。
ふと、何かに気付いた少女が辺りを見回し、近くにいた女性に声をかける。
「あの」
「は……はい!」
「お腹が空いたのですが」
「はい?」
「あの、お腹が空いているのですけど」
「……はぁ」
少女は、この国での食べ物の得方を知らなかった。
怪訝な顔をしながら立ち去る女性を、少女は訝しげに見つめる。何が間違っていたのか反芻する内にお腹が鳴ってますます空腹感が募る。
それから何度か声をかけるも幸か不幸か全て空振りに終わり、哀れその場に残されたのは戸惑いと空腹で項垂れた風変わりな少女であった。
今日の講義は昼前に終わった。いつも通りに退屈な時間が過ぎ、さっさと帰ろうとしていると横から声をかけられた。
「湊、どっか寄ってくか?」
俺の友達である所の
「あー……パスタ?」
「お、良いね」
別に俺も決める事は嫌いじゃないから、こうやって大体俺がどこに行くかは決めている。これもいつも通り。
そう、ここまではいつも通りだった。
あの少女に会うまでは。
「なんだあれ」
目的のイタリアンレストランに向かう途中で、いつも通りじゃない事が起きた……具体的には、地面で伸びている銀髪美人に遭遇した。細かい事はあまり気にしない翔太もこれには思わず素っ頓狂な声を上げた。
「あの……大丈夫です?」
翔太に声をかけられた瞬間少女が獲物を捉えた獣の如き速さで顔を上げた。
「うわっ!」
「お腹……お腹が……」
「お、お腹?お腹がどうしたんです!?」
「お腹が……空きました」
少女が力無く項垂れるのと同時に、お腹の鳴る音が聞こえた。
そこから遠くない飲食店街、イタリアンレストラン店内、食器のこすれる音と咀嚼音が異常な程に連続している。銀髪の少女が一心不乱に料理をかきこんでいたのだ。それはもうそうしなければ死ぬと言わんばかりの必死の形相で。
呆気に取られる俺達の前で、少女はさっき運ばれてきたばかりのボンゴレビアンコをあっという間に平らげてしまった。
「いやぁありがとうございます!お腹ぺこぺこなのに皆ご飯くれなくて困ってましたー。あ、すみません、このピザって言うのもお願いします!」
「は、はぁ」
ご飯をくれないってどう言う事だとか、何故勝手に注文しているのかとか色々突っ込みたい所はあるが、一先ず元気になったようで良かった。
良かった……のか?
「君、名前は?どこから来たの?」
そんな事は気にしてもいないのか、翔太は目の前の奇人に話しかける。
「名前は……秘密です!どこから来たのかも、秘密です!」
「ええ?そりゃないよー」
「秘密なのは秘密です。言っちゃ駄目って言われてますから」
「へぇ、厳しい親御さんなんだね」
引き下がった翔太を気に留める事も無く、謎の銀髪美人は運ばれてきたピザを見て一瞬考えて、フォークとナイフで上品に切り分け始めた。
「ちょいちょいちょいちょい、ピザ食べるのにナイフなんか使わないよ」
「そうなんですか?」
「ピザはさ、これで切って手で食べるんだよ」
テーブルに備え付けてあるピザカッターで切り分け、手掴みで口に運ぶ翔太を見て、銀髪美人は首を傾げた。
「何でわざわざ手で食べるんです?手が汚れちゃうのに」
「え?……そりゃ、そう言うもんだからだよ」
純粋な疑問に翔太は答えになっていない答えを返す。それを受けて、銀髪美人は更に首を傾げた。
「そう言うもの……?ですか……」
じっとピザを見つめた銀髪美人は、フォークとナイフを置いて恐る恐る手で掴んだ。
「そうそう……どうよ」
「うーん、分からない……けど美味しいです!」
「だろ?」
わいわいと盛り上がる二人の空気に俺は完全に置いて行かれてしまった。初対面の変人と仲良くできる翔太も翔太だが、この銀髪美人も何を言い出すか分からない不思議ちゃん系でとっつきやすい。単に俺が気後れしているだけだ。
「湊、食べないのか?」
「……いや、食べるよ」
不思議な昼食会は、この後も暫く続いた。
「はぁー、ごちそうさまでした!ありがとうございます!」
「ど、どういたしましてぇー、あ、あはは……」
大満足で笑うこの女、あれから何品か頼んでおいて会計の時お金を持っていないとか言い出したのだ……お金とは何か、みたいなとぼけ方をされたのは初めてで、いい勉強代になったと思う事にした。
「じゃあ私はこの辺で、それではまた!親切な人達!」
「いやちょいちょいちょいちょい」
「何ですか?」
「いやいやいや、流石にあんだけ払ったんだからもうちょい付き合ってよ」
食い下がる翔太に、銀髪美人は頬を膨らませる。
「私、忙しいんですけど……人を探さないといけなくて」
「人探し?じゃあ俺らも手伝うからさ。どんな人?」
「知りません」
「……え?」
「初めて会いますから」
なんでもない事の様に言って、銀髪美人はきょろきょろとしながら歩いていく。呆気に取られた翔太の肩を俺はぽんと叩いた。
「やめとこう」
「……ネットで知り合ったとかそう言う系かな?」
「だからもう良いって」
ネットで会う約束をする様な奴の親が厳しいなんて矛盾はこの際どうでも良い。もう疲れた。予想外の出費で財布が痛いし帰りたい。
そう言う言い訳を並べて翔太を説得しようとした時、遠くから地響きが聞こえてきた。
「何だあれ……」
向こうに見えるビルが根元から火に包まれ、崩れ落ちていく。
火事か、事故か、人々が騒ぐ中、銀髪美人は何を思ったのかそっちへと走り出したのだ。
「ちょっと、どこ行くんだよ!」
「おい翔太!」
その後を翔太も追いかけ始める。残された俺の元へ、風に乗って煙がたなびいてくる。ここから先は危険だと、別世界だとでも言わんばかりに。
一歩、躊躇った。
翔太の背中が見えなくなった。一気に怖くなった。
「ああもう!」
俺は煙の中へ走り出した。
「翔太!翔太!」
黒い煙と熱に包まれた中、友人の名を叫ぶ。返事は返ってこない。次第にぱちぱちと、火の爆ぜる音が大きくなっていく。物が燃える嫌な匂いが鼻を突いて眼鏡が曇り、目が霞んでいく。背負ったリュックが重い。
汗が頬を伝うのを感じて、拭ってまた走った。手に僅かに黒い煤が付いていて、息を吸った拍子に煙が肺を刺した。
「翔太!おい翔太!どこ行ったんだ!?」
むなしく響いた俺の声をかき消す様に風が強く吹く。
そのひと時だけ晴れた煙の向こうで、俺はまた地獄を見た。
ビルが崩れ、瓦礫と火が散乱する中に、転がっている人々。少し肉の焦げる匂いの混じった、熱い空気。煙で黒く染まった空。凄惨な光景に、思わず立ち止まった。
それがいけなかったのかもしれない。
ざり、と砂を踏む音が聞こえた。
「翔太?」
物陰からゆらりと現れるシルエットに誰何した。そのシルエットは人型に似ていたのだけれど、明らかに輪郭が人と違っていて。
そして現れたのは……怪物だった。
緑に鈍く光る鱗に、筋骨隆々の身体の各所から炎が燃え盛り、それが地面に垂れてアスファルトを焦がしている。腕には鋭い爪を備えている。極めつけはその顔。トカゲの様な形状の頭部に黄色い縦長の眼が俺を見つめていた。
「おぉ?まだいたのか」
唖然とする俺の前で、怪物が言葉を発した。ぎょっとして後退った拍子にバランスを崩して尻もちをついてしまった。そんな俺に、怪物は徐々に近づいてくる。
「一人でも多く殺せって命令だ、運が無かったな」
怪物は口に炎を溜め、呆然とする俺に吐き出した。
ああ、死んだな、これ。
逃げる気すら起きなくて、諦めて馬鹿みたいに炎の玉を待っていた。
だけれど。
「湊!」
ぐっと体を押されて地面に倒れ込んだ。その上を火球が通過していく。
「逃げるぞ!」
「翔太……!」
寸での所で俺を押し倒したのは翔太だった。そのまま俺の手を掴んで走り、瓦礫の陰に隠れる。
「このサラマンダーから逃げられると思うな!」
怪物は次々と火球を発射し、俺達は瓦礫の陰から陰へと移動し火球を避けながら逃げる。
「翔太……一体どこに」
「俺らは見つかる前に隠れてたんだ。そこにお前が来て……って感じだ」
「あの女の子は?」
「ここです」
「うわっ!?」
壁にもたれて座り込む俺を、いつの間にか銀髪美人が覗き込んでいた。無事なのは良かったが心臓に悪い……。
「取り敢えずこっから逃げないと……おいあんた、ぼけっとしてないで行くぞ」
「お二人は逃げてください。私はやる事がありますから」
「まだそんな事言ってんのか!こんな時だってのに……」
「勝手についてきたのはあなた達です!」
「そんな言い方――」
「そこか!」
俺達がいた場所の背後の瓦礫が炎で吹き飛んだ。怪物がすぐ近くまで迫ってきていた。
「やべぇ!行くぞ!」
翔太は戸惑う女の子の手を引き走り出す。その後をリュックを置いて追いかける俺の頬を火球が掠め産毛を焦がす。次々と発射される火球に当たらないよう祈りながら文字通り命懸けで走った。きっと逃げ延びられると信じて。
しかし、背後から飛んできた火球が進行方向にある建物を破壊し、瓦礫が道を塞いだ。
「ああっ……」
「もう逃げられまい」
獲物を捕食するトカゲの如く、自称サラマンダーはじりじりと迫ってくる。
「くそっ……うおおおおお!」
俺が見ている前で、翔太は迷わずにサラマンダーに立ち向かっていった。転がっていた鉄パイプの切れ端を強く握って、サラマンダーに振り下ろす。
だけれども、サラマンダーはびくともしなかった。腕を払い、鉄パイプごと翔太を吹き飛ばす。呻く翔太の首を、サラマンダーが掴んで持ち上げる。
「勇敢だな……いや、頭が足りてなかっただけか」
サラマンダーはそう嘲笑うと、ため息みたいな何でもない事の様に口から火を吹き出した。火は翔太の服に燃え移り、全身を焼いていく。絶叫が辺りに木霊した。
「翔太っ!」
サラマンダーの腕から解放されて地面をのたうち回る翔太だったが、火は益々燃え盛っていく。
「翔太!」
立ち上がって駆け寄ろうとした手が、掴まれた。
「こっちに!」
女の子がその体躯からは想像できない程の強い力で俺を引っ張り、物陰まで連行された。
「放せ!」
「行ってどうするんですか!」
「でも翔太が!」
「落ち着きなさい!」
肩を掴まれ、そのすぐ後に顔に手が添えられてぐいと視線を動かされる。女の子はとても真剣な目で俺を見ていたが、ふと何かに気付いた様に表情が緩んだ。
「泣いているの?」
「え……?」
女の子が俺の頬を拭って始めて、自分が泣いている事に気付いた。
「なんでこんな……泣いてたって……」
泣いてたって、何にもならないのに。
俯いた俺を、女の子が今度は優しく顔を上げさせた。
「あなた、名前は?」
「え……?」
「早く!」
「……
「ウシミズ、ミナト……」
噛みしめる様に音を発すると、震える俺の手を両の手で包み込んだ。
「私の名は、天界装具アメノムラクモノワ、です」
「あ、あめ……?」
「あなたなら、私と共鳴できるかもしれない」
女の子はそう呟くと、優しく手を引いて俺を立たせ……突然無防備な俺の胸に抱き着いた。
「なっ……ちょっ……」
「じっとしてて!……あなたの悲しみと繋がるから」
「俺の、悲しみ?」
戸惑っている間に女の子の体が光りだし、その形状を俺に巻き付く輪に変える。そして光が治まった後には、俺の腰に細かな意匠が施された銀色に輝くベルトがあった。
「な、何これ……」
『ちょっと、あんまりベタベタお触りしないでください』
「へっ!?しゃ、喋った?」
『何を驚いてるんですか、さっきまで会話してたのに』
ここには俺以外いないのに、確かにさっきの女の子の声が聞こえてくる。さっき起こった事を考えると、にわかには信じ難いが……。
「君なのか?さっきの……ええと、あ、あめの……」
『天界装具アメノムラクモノワ、です。後3回言うまでに覚えてくださいね』
「3回は少ないよ……」
俺が不思議なベルトと締まらない話をしているとすぐ近くの瓦礫が火球に吹き飛ばされ、煙の向こうから光が差してきた。
『そんな事を話している場合じゃありませんでした。ウシミズミナト、私はあなたを選びました……魔王を倒す者として』
「は?え、何?魔王?」
『細かい説明は後です。今は兎に角、この状況を脱するために戦う他ありません』
「た、戦えったって……一体どうやって」
『私を使うのです』
「使う……?」
『私を着けていれば自然と使い方は分かるはず……さあ、どうしますか、このままここで死ぬか、それとも生きるために戦うか』
生きるか、死ぬか。単純な問い。しかし生を選ぶ事にこんなにも迷いが生まれるとは思わなかった。
戦う。それが生きるための方法。
自分がそうできるとは到底思えない。でもそうしないといけないから、だから選ぶしか無い。
世界一意地悪な二択だった。
「分かった」
一歩、外に踏み出す。サラマンダーは俺を待ち構えていた。
「女の方は逃げたか……いや、お前、それは一体……?」
『では手続きを……私に手をかざして』
言われるがままにベルトに手をかざすと、バックル部分の中心から光が放たれ俺の手を読み取った。
『ウシミズミナト、所有者として登録、認証します』
機械的な口上が述べられたのと同時に、ベルトの中心が青く光った。
『さあ紡いで、あなたの言葉を』
紡ぐべき言葉。それは不思議と頭に浮かんでいた。だから深呼吸して、奮い立つために叫んだ。
「変身……!」
雨清水湊が叫ぶのとほぼ同時に、危険を察知したサラマンダーは火球を吐いた。しかしそれは一手遅く、湊の腰に巻かれたアメノムラクモノワから発生した水のドームにかき消された。
ドームの中で水が凝縮し、細身の青い鎧となって湊の全身に装着されていく。アメノムラクモノワと同様に波の意匠が施された鎧に水が伝い、銀の装飾が僅かな光を反射して煌めく。
最後に湊の顔を3本の角を冠する仮面が覆い、大きな瞳が黄色に輝くと同時に水のドームが弾けた。
空が雲に覆われる。
ぽつぽつと降り出した雨がすぐに豪雨に変わり、未だに燻っていた火を鎮めていく。
これは、涙だ。
俺の涙、この世界の涙だ。
「なっ⋯⋯俺の火が!」
『変身完了しました。目標、仮称サラマンダー。戦闘を開始してください』
「ああ⋯⋯」
どう動けば良いかは分かった。それに従って、雨の中を突っ切って走る。肉薄する寸前で姿勢を低くしてスライディング、脚を刈り取って転倒させる。サラマンダーが起き上がって繰り出した咄嗟の拳を、いなしてバランスを崩させる。そしてそこに下から蹴りを腹に撃ち込む。怯んだ所に流れる様に連撃を叩き込む。そして拳を鼻先に撃って吹き飛ばす。
体勢を立て直したサラマンダーが火球を吐く。しかしそれは豪雨によって威力が減衰し、腕を払えば簡単にかき消せた。
するとサラマンダーが何を思ったか、自分の尻尾を掴み爪で切断した。不気味に跳ねる尻尾が徐々に大振りな剣に変わり、サラマンダーはそれを拾い上げて鋭く息を吐いた。
縦に振り下ろされる斬撃を躱す。後ろにあった瓦礫が両断され崩れ落ちる。威力は押して測るべし、だ。
「厄介だな」
『こちらも対応する武装を生成します』
「武器あるの?」
『暫しお待ちください』
やり取りをしている間に接近してきたサラマンダーが剣を振るうのを、剣を持つ腕の軌道を押してずらす事で回避。すぐさま薙ぎ払いが来るのを後ろに飛び退いて回避。
「ちょこまかと……!」
『生成完了しました』
猛るサラマンダーが剣を振り上げる後ろ何も無い空中で雨が凝縮し、一振りの銀の剣に変わる。それは一直線に飛翔しサラマンダーの剣を弾くと、軌道を変え俺の手に収まった。
「はあっ!」
振り下ろした剣がサラマンダーの鱗を切り裂き火花を散らす。雨が増々強くなるにつれて、俺の動きも加速していく。反撃しようとした爪を切り落とし、至近距離で吐き出された火球さえ切り捨てる。
『武装を追加生成、射出してください』
一度距離を取った俺の背後に無数の剣が生成され、念じる事でそれを一斉にサラマンダーへと射出する。斬撃が鱗を削ぎ、肉を切り裂いていく。サラマンダーは大きく体勢を崩した。
『今です、私に触れて』
その隙にベルトの言葉に従いバックル部分に触れる。中心の青い光を放つ部分が一段と輝き、力が漲ってくる。鎧が雨を取り込み、右脚に迸る水が渦を巻く。
何をすれば良いか分かった俺は剣を捨て走る。サラマンダーに向かう途中で跳躍し、右脚を突き出して跳び蹴りの体勢になる。
「はあああああっ!」
キックがサラマンダーの真芯を捉え、吹き飛ばす。よろよろと立ち上がったサラマンダーは苦しみだし、そして内側から爆発した。
爆発の跡に雨が降り注ぎ、荒れた地面を癒していく。
『状況終了しました。お疲れ様でした』
労いの言葉と共にベルトが光の輪に戻り、勝手に俺の腰から外れてまた人のシルエットに……元の銀髪美人に戻った。それと同時に俺の身体を覆っていた鎧が水に還り、雨に混じって消える。
「いやぁ、流石です!やっぱり私の目に間違いは無かった!」
「なぁ、これって一体――」
疑問をぶつけようとした俺の唇が指で塞がれる。銀髪美人はくすりと笑った。
「それはまたおいおい、これからゆっくり話しましょう、ね?」
「これから?」
言葉の真意を測りかねていると、銀髪美人は俺の両手を掴んだ。
「兎に角、これからもよろしく、ミナト!一緒に魔王を倒そう!」
「……え?」
もしかして俺はとんでもないものに巻き込まれたのかもしれないと、遅まきながら気付いたのだった。