仮面ライダーティア 作:トリプル・ルージュ
雨降りの夜がやって来た。普段は水の跳ねる音をBGMに、それ程大きくないアパートの部屋でテレビでも見ながら静かに夕食を食べている。
だが今日の食卓には、昨日までなら予想だにしなかった人物が座っている。
「んー美味しい!ミナトは料理上手なんだね!」
「あ、あはは、ありがとう……」
俺の向かいに座る銀髪の少女……自称『天界装具アメノムラクモノワ』さん(年齢不詳)は、俺が何日かに分けて食べるつもりだった麻婆豆腐を皿に山盛りにしてがっついている。昼間に見た時の様にそれはもう豪快に食べまくっている。
「おかわり!……おかわり無い?」
「もう無いかも……」
「えー!?まだお腹いっぱいじゃないー!」
いやいやと駄々をこねる銀髪少女は、昼間と変わらず何と言うか、我儘と言うか自己中と言うか……とんだおこちゃまだ。
「そんなに言うなら自分で作れば」
「えーなんで私が!?料理は担当の天使ちゃんが運んでくれるものでしょ!」
「お嬢様かよ……」
天使、なんておよそ日常では聞かない単語が出てきたけど嘘じゃないんだろう。あの奇っ怪な出来事の後ではどんなファンタジーでも受け入れられてしまうし、何よりこいつは嘘をつける様な精神性を持ち合わせていない気がする。
「あーもう……てか食べたんなら帰れよな」
「どこに?」
「どこにって、家に決まってるだろ」
「私の家ここじゃないの?」
「……は?」
突然何を言い出したんだこの女。麻婆豆腐食べ過ぎて頭回ってないのか?
「一応理由を聞いても?」
「だって、私ってミナトの所有物だし――」
「ぶっ……!」
思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「……私ってミナトの所有物だし――」
「いや二回も言わんで良い!所有物ってどう言う意味!?」
「言ってたでしょ、私を初めて使った時」
「使った時って……」
すごく聞こえの悪い事には触れずに、当時の事を思い返す。
確か手をかざして……。
『ウシミズミナト、所有者として登録、認証します』
「あ……」
「ほら言ってたでしょ!私の所有者はミナトなの。だから私のお家はミナトのお家だし、ミナトは私にご飯を食べさせる義務があるの!」
「なんだその理屈!あれは……あれは緊急時の応急処置的な、致し方無い不可避の、なんかこうあれだろ!」
「うっわひどーい!一度私を使っておいて育児放棄なんて……」
「おーい!やめろ!変な事言うな!」
このアパートの壁は薄い。今のを隣人に聞かれてたらあらぬ誤解を招きかねない。明日視線が気になったらどうにかして訂正させよう。
「ねえ良いでしょー!?ベッドとか一緒でも我慢するからー!お願いお願いお願い……」
「あーもううるさいなぁ!……一晩だけだからな!?明日になったら出てけよ!」
「えー冷たいのー……まいっか、じゃあ泊まらせてもらいまーす」
にかっと笑って少女は小躍りする。天使の舞の様で綺麗なのだけれど、白いワンピースに飛び散ったラー油が何とも残念。あれ俺が洗わないと駄目なのかなぁ……。
「あ、私の分の歯ブラシある?」
「あるわけねぇだろ」
消毒液と人の匂いが混じった独特の空間の向こう、集中治療室のベッドで全身に包帯が巻かれた人間が眠っている。心電図のリズムと点滴で生きている事は辛うじて分かるのだけれど、包帯の合間から見える目元には肉が焦げた跡が確かめられて痛々しい。
「翔太……」
サラマンダーに立ち向かい全身を焼かれた翔太は、あの後すぐに救助活動に来た救急車に運ばれていき治療を受け、なんとか一命を取り留めた。だが火傷は酷く、全身の皮膚が焼け爛れてしまって元に戻すには大掛かりな手術が必要になるらしい。
あの時飛び出したのが俺だったら……いやそもそも、俺がすぐに追いかけていれば、こんな事には……。
「でも良かったね、お友達生きてて」
そう言うのは、一晩だけと言ったのにも関わらず俺についてまわっている銀髪の少女だった。
「あの時降った雨のお陰で火が消えて助かったんだよね?いやぁ神様に感謝です」
「……そうだな」
言い返す気にもなれなくて、俺は背を向けて歩き始める。
「それよりさ、私ミナトにやって欲しい事があるんだけどさ」
「……なに?」
「ミナトにはね、魔王を倒してほしいの!」
俺の返事を待たずにアメノムラクモノワは喋り続ける。
「ミナトにって言うか、私も一緒にやるから共同作業って感じなんだけど……て言うかそもそも私がここに来たのはその為だから、だからミナトも手伝ってくれたら嬉しいなぁって……ミナト?」
そこでようやく俺の様子に気が付いたのか、アメノムラクモノワは話を中断した。俺は振り向き、アメノムラクモノワを真っ直ぐに見据える。
「断る」
「え……あ、だ、大丈夫だよ、私も一緒だから!ほら昨日みたいな感じでさ……」
「嫌だって言ってるだろ」
「……怖いの?そりゃ誰だって怖いけど、でも――」
「違う!」
見当違いの事を言われてつい怒鳴ってしまった。謝りそうになるのを堪えて、ぐっと睨みつける。
「じゃあ、なんで……」
「……お前を追っかけたから、翔太は死にかけたんだ」
「え……?」
そうそれが、俺がこいつを受け入れられない理由。
「お前と会わなきゃ、こんな事にはなってなかった……お前がいたから、お前のせいで……!」
あの時こいつは逃げようとせず、それなのに翔太はこいつも一緒に逃がそうとした。だから逃げ遅れて、あんな事に……。
「ちが、私……」
「……俺はお前とは戦えない。他のやつを当たってくれ」
やるべき事があった、それくらい分かってる。だったら俺達を巻き込まないでくれ。
俺は彼女に背を向けた。
彼女の頬に光るものを無視して。
「振り出しか……」
残念な思いが強かったのか、ついそう口にしてしまいました。これも人の形をとっている弊害でしょうか。
昨日私と一緒に戦った記録を見返す限り、彼はほぼ理論値と言って良い程私の性能を引き出せる、私と高い親和性を持った逸材でした。こちらに来て一日も経たずに良縁に恵まれたと喜んでいたのですが……糠喜びだった、と言う事でしょうか。
いえ、これも一期一会、いちいち一喜一憂していてはなりません。また探し続ければ、いつかきっと良縁に恵まれるでしょう。神様もそう言っているはずです。
「む……」
気持ちを一新して探そうと思った時、何やら不穏な気配がしました。ここからはかなり遠いです。歩いての移動ではかなり時間がかかるでしょう。
でも。
「行かないと」
魔王を倒す。そのまでに出る被害を最小限に留める。それが私の使命。使用者がいなくても、多少は戦えるでしょう。
だから私は、躊躇ってはいけないのです。
がたんごとん、がたんごとん、揺れていた電車が止まる。いつもならすぐに出発するのに、今日は全然動き出さない。
『只今、駅近郊で暴動が発生しており、当列車は運転を見合わせて……』
およそ聞いた事の無いアナウンス。もしかすると、また怪物が現れたのかもしれないな。
どこか他人事の様に思った……いや、別に俺が気にする事じゃない。本当に他人事なんだから。
さて、これからどうしようか。
この駅からアパートまではそれ程遠くない。開いたままの扉から出て歩いて帰れる距離だ。暴動とやらがどこで起こっているのかは分からないが、それなりの騒ぎになっているはずだからそれを避けて行けば大丈夫だろう。
そこまで考えて、一先ず電車を降りた。俺以外はホームに誰もいない。アナウンスを聞き流したのであろう人が電車内に大勢残っている。大抵の人達は危機感を抱く様な感性をしてない。いくら魔王がいるとは言え、今まで何も無かったのだから。
それを横目に改札を出る。イヤホンを取り出してスマホに接続し、プレイリストを再生した。ちょっと前に流行った曲を聞きながら、ひどく静かな町を歩く。
ちらりとSNSを確認すると、どうやら二駅離れた所で例の暴動が起こっているらしい事が分かった。困った事に、丁度アパートの最寄りの駅だった。
「帰れないじゃん」
思わず天を仰ぎ、深いため息が出た。
どうするかな。ちょっと遠めまで行ってどっかで時間潰して、騒ぎが終わるまで待って……。
終わるんだろうか。
昨日は俺が倒したから止まった。でももし今回俺が行かなかったら、怪物を倒す誰かはいないんじゃないか?
いいやと首を振る。俺だってそんなつもりだった訳じゃない。今日だってきっと誰かがあいつと一緒に戦って……。
あいつは今日もいるんだろうか。
銀髪をなびかせながら一人で怪物の所へ向かって、自分と一緒に戦ってくれる誰かを探して、それで。
見つからなかったら、どうするんだ?
一人で戦ったりするのか?あいつにそんな事できるのか?一人で買い物もできない様なやつが?
何だよ。
「くそっ……!」
俺は駅に向かって走り出した。
「はぁ……はぁ、や、やっと着いた……」
この体のできる限りの全速力で不穏な気配の元へと駆けつけましたが、それなりに時間がかかってしまいました。既に街は逃げる人々でごった返し、混乱の最中にあります。そしてその混乱を拡大させているのは、人々に襲い掛かる小さな影。くすんだ緑の肌をした、小さな角の生えた悪鬼が何体も。
「ゴブリン、かな……」
記憶領域から類似している情報を抽出するに、小鬼の類と推測しました。しかし先程感じた気配と比べると、見える範囲全てのゴブリンを合計してもとても足りません。あれらは露払いに過ぎないのでしょう、つまりはどこかに親玉がきっといると言う事です。
それを探さない事には始まらないのですが……。
「っ……!」
私を見つけけらけらと笑うゴブリン達が近づいてきます。こんな木っ端に構っている暇はありません。走って気配の大きい方へ向かいます。追ってくるゴブリンが一匹、私に飛び掛ってきました。
しかし。
「来ないで!」
私が手をかざして発生させた水の障壁に頭から突っ込み、そのまま水に絡め取られて身動きができなくなりました。息苦しそうにもがいていたゴブリンはやがてだらりと脱力し、消滅しました。
それを見たゴブリン達はたじろぎました。その隙に少しでも距離を稼ぐために全力で走ります。あの障壁は便利ではあるのですが、そう何回も使える物ではないのです。私が逃げているうちに恐怖もなくなったのか、再びゴブリン達は追いかけてきました。
追いつかれそうになる度に障壁を展開して撃退しますが、いくら処理しても追いかけてくるゴブリン達の数は増えるばかりです。飛びつこうとする者、棍棒を振り回す者、多種多様な攻撃を潜り抜けて先を目指しますが、徐々に追い詰められていきます。
「きゃっ……!」
ゴブリンの爪がワンピースの肩を引き裂き、その弾みで転倒してしまいました。何匹かを障壁で阻みますが、お構い無しにゴブリン達は距離を詰めてきます。残った燃料を計算するに、障壁を出せる数は残り少ない。
「ここまでか……」
どうやら私は使命を果たせないようです。
ごめんなさい、私に期待して送り出してくれた皆さん。きっと魔王を倒す使命は誰かが引き継いでくれるでしょう。
心でそう唱えて、私は覚悟と言う名の諦めに甘んじました。
前に進み出てきたゴブリンが棍棒を振り下ろしました。私は目を瞑って、それが降ってくるのを待ちました。
しかし、いつまで経っても痛みが発生しません。代わりに私の物でない荒い息遣いが聞こえます。
目を開けると、私の前には見慣れた背中が……ミナトの姿がありました。両手で棍棒を受け止めていました。
「ミナト……?」
「行くぞ!」
ゴブリンを蹴り飛ばしたミナトが私の手を掴み立たせ、走り出しました。引っ張られる形で私も一緒に逃げながら、頭の中で疑問が溢れます。
「なんでここに……」
「良いから走れって!」
破壊された街並みの中を二人で走りました。ミナトはもう息が上がっているのに、もうゴブリン達の姿は見えないのに、私の手を引いてずっと走ります。
「私は良いから、ミナトは関係無いんだから逃げなよ!」
「……は?」
突然ミナトが立ち止まりました。今朝も見たのと同じ、怒った顔をしていました。
「お前、俺が来なかったら死んでたかもしれないんだぞ?なのに何だその言い草は!」
「それは……ごめん、でももう大丈夫だから――」
「大丈夫じゃない!」
「え……?」
「……俺が大丈夫じゃないんだ」
私の手を掴むミナトの手は、血が滲んでいました。
「俺が行かなかったらお前が死んでた……俺が行かなかったら、俺はできるのに、しなかったら、誰かが傷つく、悲しむ!……嫌だよ、それは」
「ミナト……」
ミナトはきっと私を睨みました。
「お前のせいでそんな風に思っちゃったんだ、責任取ってもらうぞ」
「せ、責任……?」
責任なんて私どう取れば良いのでしょう。古来から伝わる切腹とやらでもやれば良いのでしょうか?
強く手を握り直されて、思わずびくりと身じろぎしました。そしてミナトは私を見て言いました。
「戦ってくれ、一緒に」
「それって……」
「魔王とか何とか良く分からないけど、でも俺は、今お前の力が必要なんだ」
両手を持って、真剣な表情でそんな事を言われてしまいました。これはまるで……。
「なんかプロポーズみたい」
「は、はぁ!?そ、そんな訳無いだろ!」
「もー照れなくても良いのにー!気持ちはちゃんと受け取ったからさ!」
「だから違うって!……ああもう、だから――」
「戦ってくれるんだよね?」
むきになっていたミナトの顔が、段々と真面目な物に変わっていきました。そして私の問いに力強く肯いてくれました。
遠くからゴブリン達の足音と息遣いが聞こえてきました。
「だから……行こう」
「うん!」
覚悟を決めた、とても良い顔をしたミナトに私は抱きつきました。ミナトの鼓動を、悲しみを聞きました。
やっぱり、私にはミナトしか考えられないと、改めて思いました。
アメノムラクモノワが腰に装着されたのを確認して、俺はゴブリン達に向き直った。逃げたはずの獲物が待ち構えているのを見て、ゴブリン達は警戒しつつもにじり寄ってくる。それを見据えながらベルトに手をかざした。ベルトの中心が青く光り輝く。
『承認……さあ紡いで、あなたの言葉を』
ベルトから伝わる鼓動を感じながら、叫ぶ。
「変身!」
ベルトが強い光を放ち、溢れ出した水が俺を包み込んだ。突っ込んできたゴブリンが一匹、漂う水に絡め取られ動きを封じられる。ドームの中で水が鎧へと凝縮され体を覆っていき、最後に装着された仮面の大きな瞳が黄に輝いた。
水のドームが弾け、俺を取り囲んでいたゴブリン達を押し流す。ダメージは無いが俺と敵の間には距離が出来、その隙に俺は高く跳んだ。
『変身完了しました。目標、仮称ゴブリン複数体。戦闘を開始してください』
「行くぞ!」
着地ざまに近くにいた個体の脚を払い、転倒した所を蹴り飛ばす。吹き飛んだゴブリンは射線上にいた複数体を巻き込みながら消滅する。
『武装を生成します』
音声とほぼ同時に水溜りから数本の剣が射出され、描いた軌跡のままに敵を切り裂いていく。手近に飛んできた一振りをキャッチし、接近するゴブリン達を斬り倒す。突き出した剣がゴブリンに刺さったまま手から離れたので、再び跳躍して地面に突き刺さった別の剣を回収、そのまま回転斬りを繰り出す。ゴブリンが塵に還っていく向こう側から、一匹のゴブリンが俺の剣を掲げて近づいてくる。
『大丈夫ですよ』
「ああ、分かってる」
意趣返しだと言わんばかりににやりと笑うその顔に向かって手をかざした。途端に剣は水へと還り、困惑するゴブリンに巻き付いて締め上げた。
『武装、追加生成します』
周囲の水が短剣に変わり、一斉に飛び立って的確にゴブリン達に突き刺さる。辺り一帯のゴブリン達が全て消滅し、塵が立ち昇る。
これで終わった様に思えた。しかし。
『前に跳んで!』
警告通りに跳躍すると、さっきまで俺がいた所に巨大な棍棒が振り下ろされ、地面を叩き割った。それを持つのは、小鬼の名にそぐわぬ程の巨躯を備えた怪物だった。そしてその影から新たにゴブリンが這い出してきた。
「子分どもが煩くて来てみれば……なんだおめぇ」
「こいつ、もしかして……」
『ゴブリン達を生み出す親玉の可能性が高いです……対象をゴブリンボスと仮称、対象の撃破を優先してください』
「言われなくても!」
振り下ろされる棍棒を避け、ゴブリンボスの腹に一撃撃ち込む。しかしびくともせず、続け様に来る攻撃が咄嗟に捻った身体を掠める。捻った勢いでステップして距離を取り、考える。
「パンチじゃ無理か……武器作ってくれ」
『武装を生成……失敗、中断しました』
「はぁ?なんで?さっきの水は?」
『浄化には時間がかかりまして……』
「要するに使えないって事ね!」
昨日あれだけ滅茶苦茶やってたのは、雨が降っていて水が供給され続けていたからか……そう考えながら攻撃を走って躱す。棍棒が振り下ろされる度に地面が陥没しアスファルトが砕け散る。
「何か手は無いか!」
『あの強靭さを突破するには剣での攻撃が有効と考えます。しかし……』
「水が無いからどうしようも無いってか……!」
逃げ続けながら水源を探す。噴水でもプールでも、兎に角水さえあれば万事解決なのに……水、水……。
「死ねぇい!」
「うおっと!」
空を切る音がして振り向くと棍棒が弧を描きながらこちらに飛んでくる所だった。慌ててしゃがんで避け、棍棒をやり過ごす。
その時。
「あった!」
俺の視界にある物が飛び込んできた。相手に悟られない様に徐々にそれに近付いていく。
「逃がすか!」
ブーメランの様に返ってきた棍棒を掴んだゴブリンボスは、そのまま棍棒を俺へと振り下ろした。
俺はそれを真っ直ぐに見据え……ヒットする直前で左へ跳んだ。そして棍棒は、俺の真後ろにあったそれを叩き潰し、根元の地面まで食い込んだ。
次の瞬間、地面から勢い良く水が噴き出した。
「なっ……これは……!?」
「上手くいった……!」
奴が叩き潰したのは、設置されていた消火栓。壊れたパイプから水が噴き出し、乾いたアスファルトを濡らしていく。
「今だ!」
『武装、生成します』
湧き出る水がたちまち短剣の雨に変わり、ゴブリンボス達へと降り注ぐ。続いて剣を生成し、怯んでいるゴブリンボスの身体を斬り裂く。斬撃が腕を傷付け、ゴブリンボスが棍棒を取り落とした。
ここしか無い!
ベルトのバックル部分に触れ、溢れてくる力を剣に集約させる。ゴブリンボスに向かって走り、剣を横に構えた。
「うおおおおおおおっ!」
気合と共に、すれ違いざまに剣を振るう。青い斬撃がゴブリンボスの身体に走り、一瞬の後に爆発した。
それと同時に、周囲のゴブリン達が消滅していく。きっと親玉がいなくなって身体を保てなくなったのだろう。全てが消滅した後には、不思議な程の静寂が訪れた。
『状況終了しました。お疲れ様でした』
労いの言葉が、街に響いた。
「私、実はね」
「何だよ急に」
帰ろうと歩き出した途端、少女が変な切り出し方で話し出した。
「良いから言わせてよ……私ね、あなたの所有者登録、消してなかったの」
「それって……」
「信じてたよ、君が来る事……どっちかって言うと信じたいだったけど」
そう言っていたずらっぽく笑う少女の髪は、夕日に映えて銀細工の様に輝いていた。
「悪かった、きつい事言って」
「良いよ良いよ、その代わり今日はご馳走にしてね」
「ったく……あ」
お前、と言おうとして、凄く失礼な事をしていると気付いた。しかし、いちいちフルネームを呼ぶのもどうなんだろう。
そうだ。
「なぁ、君の名前」
「名前?天界装具アメノムラクモノワ?」
「……それ全部言うの変じゃない?周りに人いたら絶対に二度見される」
「えー?でも名前は名前だからなぁ」
「だからさ」
ここは親しみを込めると言う意味で一つ。
「アメ、って読んで良いかな?」
「アメ?」
「そう、あだ名みたいなさ」
「ふーん……」
少女は少し考えた後、にっこりと笑った。
「アメで良いよ!なんかこう言うの良いね!」
「良かった……これからよろしく、アメ」
「うん、よろしくミナト!」
頷き合った直後、アメのお腹が鳴った。それに気付いて、また二人で笑い合う。
「帰ろう、一緒に」
「うん!」
俺達は並んで、同じ道を歩き始めた。