仮面ライダーティア 作:トリプル・ルージュ
俺の住むアパートは、駅には近いがかなり古い物だ。そこまで広くないし壁も薄いし日当たりも良くはない。その代わり周りは自然が多く落ち着けるし、トイレと風呂は別、家賃は5万程。
住めば都とは言ったものだが、正直かなり気に入っている。誰もいない空間でのびのびできる、俺の心の拠り所だ。
そんな聖域が、今まさに侵されている。
部屋には二人目のタオル等日用品が増え、元々大きくなかった自由スペースが更に小さくなった。長風呂していると平気な顔で一緒に入ろうとするので落ち着いて入浴する事もできず、偶に面倒で抜く食事も三食しっかりと用意しないといけない。そして極めつけには一つしか無いベッドに遠慮無く潜り込んでくるのだ。
「寝れん……」
銀髪の少女が小さな寝息を立てて穏やかに眠る横で、俺の心はとても穏やかではなかった。
俺がアメを家に迎え入れ、一緒に暮らし始めてから一週間が経った。二日連続で起きていた怪物騒ぎは鳴りを潜め、代わりに世間ではついに魔王が本格的な侵略を始めたのだとマスコミが騒ぎ立てている。心乱された人々は眠れない日々を過ごし、早期の解決が待たれている、らしい。
確かに、眠れない日々は過ごしている。だが原因は魔王ではなく、魔王を倒すために遣わされたらしいアメノムラクモノワ、改めアメだ。
神や天使等が住まう天界で創られ、自分を使って魔王を倒す者を探しに降りてきた、と言う自己申告と、時折話されるエピソードから考えるに、どうやらこの少女は普通の人間とコミュニケーションを取った事が無い。今みたいに俺にくっついているのは俺が彼女の所有者だからであり、そこに距離感と言う概念は存在しないらしい。
アメは人間ではなく人の姿をとっているだけの物である、自分の事を俺の所有物だと認識していると言うのは理解しているつもりだ。しかし、理解しているからと言って、そう言う風な立ち振る舞いをされて全部をいきなり受け入れられる訳じゃない。
なにせ見た目だけなら相手は年頃の少女なのだ。それがいきなり風呂に乱入してきたり同衾してきたりしてみろ、絶対に動揺する事間違いなしだ。ちょっと刺激が強過ぎる。
「ん……」
アメが寝返りを打ち、柔らかな素足が肌に触れた。全身の毛が逆立った。
駄目だ、色々キャパオーバーだ。
そっとベッドから這い出て、リビングから窓の外を見る。白に冴えた月が俺を見下ろしていた。人の気も知らないであんな所に浮かんでいる月が今だけ恨めしかった。
「苦手だよ、こう言うの……」
『湊!』
声が、聞こえてきた。
どうやらまだ、俺はあの日から前に進めていないらしい。
「と言う訳で、改めまして私の所有者となったミナトには魔王を倒してもらいます!」
アメがそう言い始めたのはゴブリン騒ぎの翌日だったか。
「その所有者っての止めない?」
「なんで?」
「いや、人聞き悪いと言うか、俺が極悪非道な人間みたいって言うかさ」
「そう?……まあいっか、嫌なら止めとくね」
それは置いといて、とアメは居住まいを正した。
「えー、魔王と言うのはですね、この世界でかつて楔坂と呼ばれた街に突如出現した――」
「それは……良いかな」
「え、大事なとこだよ?」
「いやまあ、知ってるし」
魔王って言えばあれの事を指すのがこの辺りの街の常識になりつつある。と言うのもあるし、何よりあまり思い出したくはない……。
「えー?……まあ良いけど、取り敢えずまだ目的とかも分からないけど、放っておくとこの世界がやばいらしいから倒すってのが神様達の決定」
「なんかざっくりし過ぎじゃない?」
「もーミナトが良いって言うからざっくりまとめたのにー!良いのか駄目なのかどっちなのー!」
アメは癇癪を起こして駄々っ子の様に地面を転がった。もしかしてこいつ、ベルトの時は大人びてるけど人間の時は中身子どもなのか?
「はぁ……兎に角ミナトには魔王を倒してほしいの!でそのためには楔坂の中心にいる魔王の所まで行かなきゃいけないけど……」
「あの辺りって今……」
「そう!怪物がうじゃうじゃいて、正に魔王の巣って感じなの」
「そんなとこ行かされるの!?一人で!?」
地獄みたいな場所に一人で行って魔王を倒してこいなんて、人身御供にも程があるだろ。
「一人じゃないって私がいるじゃん」
「アメはノーカンだろ!……えほんとに一人?一緒に戦ってくれる人とかいないの?」
「冗談冗談……まあ冗談になるかほんとになるかはミナトの頑張り次第なんだけど」
「えっ」
「実はね、私以外の天界装具達もこの世界に降りてきてるんだ。その子達も自分の所有者を探しているはずだから……」
「そいつら探して一緒に魔王を倒せって事か!……良かったぁ一人じゃなくて」
一緒に魔王を倒してくれる様な変態……いや数寄者……同じか。兎に角仲間がいるなら安心だ。
「それで?そいつらはどこにいるんだ?」
「さあ?」
「さあ?」
「知らない」
「知らないかー……って嘘だろ!?こう言うのって連絡取ったりするんじゃないの!?」
「連絡って、私達にそんな機能付いてないからー!そんなに揺さぶっても無理なものは無理ー!」
「まじかぁ……」
なんで魔王を倒すみたいな大仕事任されてるのに、その辺しっかりしてないんだよ……神様ってのもザルな仕事するな。
「あ、今なんか不敬な事考えたでしょ。警告って通知が来たよ」
「はいごめんなさいもうしません」
心の中まで覗けるんだ、神様って凄いなぁあはは。
冷や汗をかく俺を余所に、アメは立ち上がって拳を突き出す。
「兎に角最初は仲間探しの旅、はりきって頑張ろー、オー!」
「お、おー……」
と宣言したは良いものの、これと言って何もしていないのが実情だ。まあただサボってると言う訳ではなくて俺が大学やらバイトやらで忙しいせいなのだけれど。
今だってアメを一人残してファミレスであくせく労働に勤しんでいる訳だが。いつも思うのだけれど一人でいる時あいつは何をしているんだろう。家事をする訳でもなし、どこかに遊びに行った感じもしないし。まさか部屋の物色とかしてないだろうな。見られて困る様な物は……無くはないが、最重要エリアさえ死守すれば……。
「雨清水君?」
「うわぁあはいなんですか!?」
「うわびっくりしたぁ……大丈夫?ぼおっとして」
「あ……すみません、集中しますんで」
余計な事を考えてしまった。バイトとは言え仮にも労働中、集中しないと……。
「いらっしゃいませー」
客が来たようで、俺もテーブルを拭く手を止めて挨拶しようと顔を上げた。
「いらっしゃいま……は?」
そこには物珍しげに店内を見回すアメの姿があった。
「あっ、ミナト!」
馬鹿でかい声で俺を呼んだアメは元気良く手を振り、当然ながら店内にいる人々の注目を浴びる。
「お客様、何名様ですか?」
「え……一機です」
「一機……?」
天界装具って何機って数えるんだ。勉強になるな……いやそうではなくて。
「アメ!何やってんだよ」
「暇だったからミナトが働いてるの見に来た」
「暇ってお前……てかどうやってここに?」
「私、所有者登録してる人の位置情報分かるんだよねー。言ってなかったっけ?」
「聞いてない!」
なんて機能だ。プライバシーも何もあったもんじゃない。逸れた時とか便利だろうけど、神様も変な所で変な気を回さないでほしい。
「雨清水君、お友達?」
「え?あー、えっと……」
俺が返答に困っていると、アメがずいと前に身を乗り出した。
「アメです!ミナトの……ええと、そう、パートナーです!」
「え、パートナー!?」
「おま、お前ええええっ!?」
突然何を言い出しやがったこの天界装具は。いや、ある意味間違ってない表現なのかもしれないけどさ。それでもさ。
「雨清水君結婚してたの?それか事実婚みたいな?」
「いやっそう言う訳じゃなくて……」
「なになに?雨清水君が結婚?」
「そうなの?えらく早いのね」
「結婚したの?……契約更新しないといけないか?」
「ちょっと皆さん……店長も……」
ぞろぞろと厨房やら事務所やらから出てきた人達が、次々と祝福の言葉を投げかけてくる。
駄目だ、完全に結婚した事になってる……。
数分後、アメはパートのお姉様方にすっかり囲い込まれ、事情聴取を受けていた。
「外国から来たの?最近?」
「はい、この国に来たのは先週です」
「一週間で結婚!?最近の子って早いのねー」
「ぶっちゃけどこが好きなの?」
「ミナトのですか?そうですね……気持ちを共有できるとことか?」
「あら素敵ー」
「ほんとー」
なんだかほっとくと好き勝手言われそうで怖いが、今更介入できる余地があるのか……?
半ば諦めの境地に達していると、後ろからあのと声をかけられた。
「はいどうされました……え」
「雨清水湊さん、で合ってる?……久しぶり」
「……風香」
変わらない黒髪のショートヘアに、茶色の瞳。前に見た時よりも垢抜けた感じのする服。
高校の同級生だった、
「4年ぶり……だよね?」
「う、うん……帰ってきたのか?」
「うん、まだ一週間くらいだけど……」
言葉は前と変わっていないのに、顔や仕草でぎこちなさが隠せていない。きっと俺も同じだろう。時間では解決しなかったみたいだ。
「あ……えと、もしかして、結婚おめでとう?」
「え?……ああいや、違う違う違う。結婚してない」
「でもパートナーって……」
「それは、ええと……そう、仕事のパートナー的な!」
「就職したんだ。あれ、ここの正社員って事?でもあの子ここの人じゃなさそうだし……」
「あー、違くて……まだ学生なんだけどその」
「うーん……?」
変な方向に勘違いされてしまった。しかし本当の事言っても信じてくれないだろうし……。
「湊」
「ん?」
「自意識過剰かもだけどさ……私の事は気にしなくて良いからね」
「……ぁ」
変な声が出た。
別に意識していた訳ではなかった。でもはっきり言われるとずきりと胸が疼いて、自分の中にあった何かが急に欠けてしまった様な寂しさでお腹が痛くなった。
「う、うん。気にしてない、大丈夫」
「そう……うん、私も気にしない」
「おう」
そう言ってから不思議と見つめ合った時間が、やたらと長く思えた。今までこんな事無かったのに、なんで今更こんな気持ちになるんだろう。
「雨清水君来てー!」
厨房の方から俺を呼ぶ声がした。それで二人ともはっと気付いてまた気まずくなった。
「そろそろお会計しなきゃ……またね」
「うん、また」
俺を通り過ぎた風香の背をちらりと見て、厨房に向かう。
多分、もう会わないんだろうな。
逃げ惑う人々に押されながら、はぐれないように彼女の手を強く握って走った。街は混沌に包まれて、我先にと逃げる人々が誰かを傷つけていく。
隣の彼女の息遣いが、段々と荒いものに変わっていく。それでも必死で走っていたのに、後ろから来た人が彼女を突き飛ばす。
俺は耐えきれずに、風香の手を放してしまった。
「湊!」
風香の悲痛な叫びが人混みの中から聞こえた。
「風香!」
もう一度手を掴むために引き返そうとした。けれども押し寄せる人の波は無情なまでに強かった。
戻った時には風香はいなかった。何度名前を呼んでも返事は返って来なかった。
それがとても怖かったのを今でも鮮明に覚えている。
多分俺は。
あの日から前に進めていない。
「どーしたの、ミナト?」
はっと気付くと、蛇口から水が出っぱなしになっていた。
「なんでもない」
「大丈夫?疲れちゃった?」
アメのくりんとした大きな目が俺をじっと見つめてくる。恥ずかしくなって、鏡越しに合っていた視線を逸らす。
「晩御飯、作らないとな」
「ミナト……もしかして嫌だった?」
不安そうにそう尋ねてきた。バイト先に行ったのが、と言う事だろう。
「違うよ……」
アメのせいじゃない。ただちょっと、不意に胸が苦しくなっただけで。
「今日何食べるよ?なんだったらどっか食べ行くか?」
「でもミナ……」
言いかけたアメの顔が突如険しいものに変わり、彼方を見つめた。
「どうした?」
「怪物……行こう、ミナト!」
「っ……ああ!」
走り出すアメを追いかけ、暗くなりかけた街に繰り出す。
そうだ、俺達がどうなってようが関係無く怪物は来る。ちょっとした事でへこたれてたら駄目なんだ。
もっと強くいないと。
夕日も沈みかけた、星明かりの無い一番暗い時間。
闇夜をバックに、異形が悪魔の様な翼をはためかせる。
「いた!」
かなりの距離を走ってやっと見つけた怪物は、飛び回りながらビルの外壁を破壊し、逃げる人々に瓦礫を落としていく。かと思えば急降下して地上に降り立ち、爪で人を傷付ける。
「あれは……多分ガーゴイルってやつ。早く倒さないと」
「行くぞアメ……っ!?」
「ミナト?」
立ち向かおうとした視線の先、逃げる人々の中にその姿を見つけてしまった。
「風香……!」
必死に走る風香の背に、ガーゴイルが迫る。
気付けば走り出していた。
「ミナト!」
自分でも驚くくらいの速度でガーゴイルに近付き、その背中に組み付いた。
「なんだ貴様!」
「逃げろ風香!」
「湊……?」
驚く風香に逃げるよう促すが、躓いた拍子に動けなくなったようで足を押さえている。
どうするか考えている内に、俺の体が浮き始めた。ガーゴイルが翼を広げ、上昇していく。
「命知らずめ……このガーゴイルに歯向かうとどうなるか、身をもって知れ!」
ガーゴイルが螺旋状の軌跡を描いて飛ぶ。その推力と遠心力で徐々に手が引き剥がされ、そして完全に振り払われてしまった。
「うわあああああ!」
自由落下していく中で、風香が俺を見ているのがちらりと映った。
まさかここで終わるなんて。
せめて風香だけでも逃がしたかったのに。
情けない――。
目を開けると、完全に体が静止していた。
「何が……?」
体を起こすと、巨大な水のドームの様な物が俺を受け止めているのが分かった。
「もうミナト!一人で突っ込み過ぎ!」
アメが腰に手を当て、いつもの3倍増しで怒鳴ってくる。徐々にドームが萎み、俺は地上に戻った。
「悪い、つい……」
「ミナトは使命があるんだから、命を粗末にしちゃ駄目でしょ!」
「わ、分かったって。ほら行くぞ」
説教しようとするアメをなだめ、空高く飛ぶガーゴイルに向き直った。
「湊……何するの?」
「……早く逃げるんだ、良いな?」
未だ座り込んだままの風香が俺に問いかけてきた。背中越しにそれを見て、有無を言わさぬよう強く言い放った。
アメが俺に抱きつき、背後で風香が息を飲むのが聞こえた。そのままベルトになったアメに、手をかざす。
『承認……さあ紡いで、あなたの言葉を』
俺は広げた右手を天にかざし、そのまま真っ直ぐにゆっくりと下ろす。胸まで下ろして拳を握り、強く振り払い、叫ぶ。
「変身!」
光と共に水が俺を包み込み、鎧を纏わせる。水が弾け、乾いたアスファルトを濡らした。
『変身完了しました。目標、ガーゴイル。戦闘を開始してください』
「変身だと……何者だ、貴様!」
問われて考える。俺は、この力は何だ。
初めて変身した時に降った雨。世界の流した涙が、俺の中にまだ流れている様に感じる。なら俺は、世界の涙そのもの……。
「ティア……だ」
「湊……なにそれ」
呆然とした声が聞こえてきて、振り返る。俺の姿を見て目を見開いた風香の肩に手を置いた。
「危ないから離れてろ」
我に返った風香がこくりと頷き、物陰へと走る。
『後ろです!』
アメの声の通り、後ろからガーゴイルが急降下してきていた。間一髪で避け、構える。
「武器!」
『武装を生成します』
地面に出来た水溜りから青い剣が飛び出し、柄をキャッチして順手に持ち替え腰を落とす。
飛びかかるガーゴイルの爪をターンで躱し、斬りつける。しかし火花が散るのみで、傷が付く様子は無い。
「効いてない……?」
『全身が石に似た物質で構成されています。斬撃は有効ではないと思われます』
ガーゴイルの振り回す腕に剣が弾かれ宙を飛ぶ。重い攻撃を腕で防ぎ、カウンターのパンチを繰り出すがこれも効いていないようだった。
「どうすれば……」
『もっと速い攻撃なら、ガーゴイルの体を貫通できるかもしれませんが……』
「そんな事言われても!」
などと言っているとガーゴイルに後ろから組み付かれ、身体が宙に浮く。
「くそっ、放せ!」
「今度こそ思い知るが良い!」
今度は横ではなく縦に視界が回る。車輪の様に回転するガーゴイルが何をしようとしているか分かってもがくが、不意に支えを失った身体が落ちていくのが分かった。数瞬の後に全身に衝撃が走り、意識がブラックアウトした。
土煙が晴れる。強く地面に叩きつけられたティアは半身をアスファルトにめり込ませたまま動かない。
「湊!」
逃げろと言われたにも関わらず、その様子を陰で見ていた風香が駆け寄りティアの身体を揺さぶる。
「ふん、大口を叩いたと思えば、所詮その程度か」
せせら笑い地上に降り立ったガーゴイルは、風香にじりじりと近付いていく。恐怖しながらもティアの傍を離れない風香に、ガーゴイルの爪が振り下ろされる……。
しかし。
「何ッ!?」
それは青い鎧を纏った腕に防がれたのだった。
「貴様、何故動ける!?傷は浅くないはず」
「ああ、超痛いよ。でも」
これより痛いものを俺は知っている。無力感や、罪悪感でいっぱいになった、あの日の事を。
「もう二度と……手を離したくないんだよ!」
「何だ、この力は……!?」
ガーゴイルの腕を掴む手に力を込める。熱を帯びていくそれが光を放ち……そして石像の様なそれを完全にへし折る。
「なっ……腕が……!」
動揺し後退るガーゴイル。俺は折った腕を投げ捨て身体を起こす。
「湊……」
「風香……大丈夫だ、絶対守るから」
風香に、と言うより自分に言い聞かせる様に言うと、ガーゴイルに向き直る。
忌々しげにこちらを睨むガーゴイルが翼を広げ、一気に上昇して背を向ける。このままでは逃げられてしまう。
どうにか良い手立ては……。
『ミナト、想像してください』
「想像って、何を」
『私の生成する武装の形は、ミナトが何を想うかで定まります。あなたの欲するままに、想いを紡いで』
「想いを、紡ぐ……」
想う。
遥か彼方の敵まで届く、あの硬い身体を貫ける武器。
分かった。
「武器を!」
『武装を生成します』
広げた手のひらに水が集まり、それは長く鋭く洗練され……生まれたのは青い長槍。
「行くぞアメ」
『はい!』
アメのバックル部分に触れ、溢れる力を槍に込める。逆手に持ち替え、右半身を引き身体を捻り、左腕で照準を定める。槍が水を纏い、力が満ちた。
「行けええええええっ!」
引き絞った弓の様に、全霊を込めて槍を投擲する。煌めくそれは重力も超えて飛翔し、ガーゴイルの身体を刺し貫いた。遠くで断末魔と共に爆発が起き、ガーゴイルの姿はなくなっていた。
ガーゴイルとの戦闘で負った傷は決して浅いものではなかった。だがアメ曰く、ベルトを巻いている間は痛みを和らげるのと傷の治りを速くする効果があるらしい。故に帰ってきてから2時間程巻きっぱなしにしてベッドに寝ているのだが……。
『ミナト、なんだかにやにやしてませんか?』
「してるかなぁ?」
『してます!心拍数と体温が上昇してます!』
「ええー?」
『さては……連絡先をもらったのがそこまで嬉しいんですか?』
「い、いやいや別に……」
スマホにはメッセージアプリ内での風香の連絡先が表示されている。何年か前に消してしまっていたのを再度もらったのだ。でも別ににやにやしてないし。口角上がったりしてないし。
『ふーん、そうですか……』
アメの言葉の端に不穏な気配を感じた俺は立ち上がろうとしたが、その前にベルトがひとりでに外れてアメの姿に戻った。
「素直に答えないミナトなんか、痛い思いすればいーんだ、べー」
「おいちょっと……って痛って!?」
舌を突き出したアメを追いかけようとしたら、全身に激痛が走った。どうやらアメの言う事は本当だったらしい。
「おい戻ってきてくれー!アメー!アメさーん!アメ様ー!」
「知らなーい!」
ドアが眼前で勢い良く閉められ、俺は天を仰いでベッドに戻った。はぁとため息をついたタイミングでスマホの通知音楽して見てみると、風香からメッセージが来ていた。
『今日はありがとう。また今度お話したいな』
「今度、か……」
また今度、風香に会えると考えるとすごく妙な気持ちだ。だけどそんなやり取りができるのは、守る事ができたから。
本当に良かった、ティアになって。
そう実感しつつ、俺はどう返信するか考えるのだった。