ようこそ出だしでつまずく教室へ   作:ポテナゲ特大

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ひより√(南雲√)


第2話

 

 

 

 

 

 朝、上尾は自分の席につきながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。

 

 このクラスの連中は、おそらくだが、この学校がかなりの数の退学者を出す仕組みだということに気づいていない。最初からその部分だけが説明が意図的になされてないのだろう。

 

 そうでなければ、彼らの言動や行動はあまりに無防備で、不可解すぎる。

 

 まるで自分から退学候補に歩み寄っているようにすら見える。

 

 そもそも、退学の基準が何なのかが分からない。

 

 やはり成績が最も重要な評価軸なのだろうか。それとも素行も加味されるのか。

 

 だとすれば、自分や椎名ひよりは問題ないはずだ。少なくとも現時点では、大きな欠点は見当たらない。

 

 椎名もあの雰囲気からして、勉強ができないということはないだろう。万が一そうだったとしても、自分が補えばいい。

 

(いや、それ以前に……)

 

 ふと、余計な考えが浮かぶ。

 

 友人の多さも評価基準だったりはしないだろうか。

 

 もしそうなら、自分は確実に詰む。

 

 不安がじわりと広がる。

 

 そもそも、“友達”とはどこからを指すのか。

 

 幼稚園の頃には、それらしい相手がいた気もする。しかし小学校以降、その境界は曖昧になったままだ。

 

 視線の先に、椎名の顔が浮かぶ。

 

 椎名ひよりは友達なのだろうか。

 

 少なくとも上尾自身は、そう思っている。もっと仲良くなりたいとも思っている。

 

 では、向こうはどうなのか。

 

 ──聞いてみるべきか。

 

 そう考えかけて、すぐに打ち消す。

 

 わざわざ確認するようなことではない気もした。

 

 それに、昨日の南雲との会話は、自分でも驚くほど自然に言葉が出ていた。

 

 以前の自分なら、あそこまで会話を成立させることはできなかっただろう。

 

(椎名さんのおかげ、か)

 

 そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなる。

 

 今の自分なら、誰とでもある程度は話せるのではないか。

 

 そんな根拠の薄い自信が一瞬だけ芽生えた。

 

 すぐに、現実的な候補が頭に浮かぶ。

 

 佐倉は無理だろう。嫌われているというより、単純に男性が苦手なタイプだ。無理に話しかけるのは逆効果にしかならない。

 

 綾小路は、よく分からない存在だった。自分と同じように人付き合いが苦手なのかと思えば、池や山内たちのくだらない話にも普通に混ざっていた。あれは想定外だ。

 

 堀北は真面目で能力も高そうだが、他者への態度に明確な棘がある。距離の詰め方を間違えれば、即座に切られるタイプだ。

 

 櫛田や平田のような人物は、そもそも周囲に人が集まりすぎていて入り込む余地がない。

 

 他のクラスメイトはまともに会話したことがない相手の方が多い。

 

(うん……無理かも)

 

 そう結論づけかけたとき、教室の扉が開いた。

 

 堀北鈴音が入ってくる。

 

(チャンスだ)

 

 上尾は小さく姿勢を正した。

 

 まずは挨拶だ。

 

「お、おはよう」

 

 返事はない。

 

「……」

 

 聞こえなかったのかもしれない。

 

 もう一度、少しだけ声を大きくする。

 

「あの、おはよう?」

 

「……それは私に言っているのかしら」

 

 堀北は淡々とそう言い、周囲を見回した。

 

 朝の教室にはまだほとんど誰もおらず、二人しかいない。

 

「……だとすれば、俺は誰に挨拶をしたのかな」

 

 その言葉に対して、堀北は即座に答えた。

 

「壁」

 

 堀北はそう一蹴する。

 

(壁なのは、堀北さんの胸のことだろう)

 

 あまりに酷い返しに、喉の奥まで出かかった言葉。

 

 しかし、その衝動を歯を食いしばって押し殺した。

 

 ここで口にしてしまえば、おそらく彼女との関係は今日をもって完全に終わる。

 

 上尾は何も言わず、歯を食いしばりただ耐えた。

 

 沈黙が数秒続く。

 

 やがて堀北が、わずかに顔を上げる。

 

「……何? 気味の悪い顔をして」

 

 その声には、容赦がない。

 

(いっそ、終わらせてしまおうか)

 

 その思考が一瞬だけ頭をよぎる。

 

 だが結局、何も言わなかった。

 

 ただ、静かに視線を逸らすだけだった。

 

 

 

 ────

 

 

 

 念願の昼休みだ。

 

 堀北に容赦なく言葉を叩き落とされた心を、少しでも回復させたい。

 

(椎名さんなら、なんとかしてくれるはずだ)

 

 そんな都合のいい期待を抱きながら、上尾は昼食を手早く済ませると、すぐに図書館へ向かった。

 

 扉を開けると、静かな空気がふわりと流れ込んでくる。

 

 そこにはすでに、椎名ひよりがいた。

 

 窓際の席に“鎮座”するように座り、本を開いている

 

 上尾に気づくと、彼女は顔を上げ、柔らかく微笑む。

 

「こんにちは、今日も早いね」

 

「こんにちは」

 

 椎名は小さく頷き、少しだけ嬉しそうに続けた。

 

「ふふ、上尾くんに会いたくて、少し早めに来てしまいました」

 

 これだ。

 

 こういう反応を期待していた。

 

 ……ただ。

 

(普通は、こんなこと言わないのかもしれない)

 

 そんな冷静な考えが、頭の隅をかすめる。

 

 椎名の頭上には、光の輪が差しているように見えた。背中には見えないはずの羽まで錯覚する。

 

(天使、ってこういうのを言うんだろうな)

 

 ふと、朝の出来事が脳裏をよぎる。

 

 堀北の無機質な「壁」。

 

(あっちは……)

 

 思わず比較してしまい、少しだけ罪悪感が湧く。

 

(差し詰め悪魔ってところか)

 

 もちろん、口には出さない。

 

 ただ心の中でだけ、失礼な対比が完成していた。

 

 

 

 ────

 

 

 

「そういえば、昨日分かったことなんだけど」

 

 上尾は唐突に、南雲とのやり取りの一部を椎名に伝えた。

 

「この学校、ゆるく見えてかなり厳しいかもしれない」

 

「……どういうことでしょうか?」

 

 椎名が困惑した表情を見せる。

 

「担任からは説明されていないと思うんだけど、成績とか素行次第で簡単に退学にされられる可能性が高いんだ」

 

「そうなんですか」

 

 椎名は興味なさげに視線を本へ戻した。

 

「なんか余裕そうだね」

 

 上尾がそう言うと、椎名はわずかに間を置いてから答えた。

 

「……私は正直この学校にどうしても入りたいわけではなかったですから」

 

「……どういうこと?」

 

「中学の頃の先生からどうしても受けた方が良いと説得されて……」

 

「受かっちゃったんだ」

 

「はい……その時に両親がとても喜んでくれまして」

 

 椎名は節目がちに続ける。

 

「行きたくないなんてどうしても言い出せなくて」

 

「そっかぁ」

 

 上尾は短く相づちを打ち、少しだけ考え込んだ。

 

「でもどうして入りたくなかったの?」

 

 この学校は全国屈指の名門校だ。

 

 入学した時点で進学・就職までがほぼ約束されていると言っても過言ではない。

 

(まぁ、実際は違ったんだけどね)

 

「私はこの学校の謳い文句にはそこまで興味はないんです……」

 

 上尾はその言葉に、少し意外そうな表情を浮かべた。

 

(椎名さんはAクラスを目指してないのか……)

 

「……お恥ずかしい話、両親と離れて見知らぬ地で生活するのが不安だったんです」

 

 その言葉に、上尾は静かに納得した。

 

 確かに、と心の中で思う。

 

 誰もが自分のように、望んで外部と遮断されたこの学校に入りたいわけではない。

 

 特に、まだ十代半ばの少女ならなおさらだ。

 

 不安を抱くのは当然だろう。

 

「……俺とは真逆だね」

 

 気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。

 

「真逆ですか?」

 

 椎名が小さく首をかしげる。

 

 その一言で、上尾は内心でしまったと思った。

 

(……余計なこと言ったな)

 

 だが、すでに椎名は自分の過去を話している。こちらだけが何も語らないのは、不公平にも思えた。

 

 少しだけ言葉を選びながら、上尾は口を開く。

 

「うちの両親は、なんというか……人として尊敬できない人たちでね」

 

 あくまで淡々と、重くなりすぎないように。

 

「そんな環境から離れたくて、この学校に入ったんだ」

 

「それは……」

 

 椎名が何か言いかける。

 

 上尾は慌てて笑ってみせた。

 

「まぁ、実際入れたし! 椎名さんにも出会えたし! 最高にハッピーだよ!」

 

 わざとらしいほど明るい声だった。

 

 重くなりかけた空気を、無理やり押し流すように。

 

 椎名はそれを受け取ると、少しだけ安心したように微笑んだ。

 

「ふふっ、私もハッピーです」

 

 その笑みのあと、椎名はふと困ったような顔になる。

 

「でも、どうしましょう」

 

「ん? なにが?」

 

「退学になってしまったら、上尾くんと一緒にいられなくなってしまいます」

 

 切なさを含んだ声だった。

 

 その表情を見た瞬間、上尾の胸の奥がわずかにざわつく。

 

(……これが、友情ってやつなのかな)

 

 自分でもよく分からないまま、そんな言葉が浮かんだ。

 

 上尾は軽く頭を振って、意識を戻す。

 

「大丈夫だよ、椎名さんなら」

 

「はい……」

 

「どんな評価区分で退学者を出しているかは、正確には分からないけど」

 

 そこで一度言葉を区切る。

 

「椎名さんは、勉強は苦手?」

 

「いえ、それなりだと自負しています」

 

 しかし椎名は少しだけ視線を落とし、続けた。

 

「でも……運動の方は、全くで……」

 

「大丈夫だよ。何かあれば相談に乗るし」

 

 落ち込んだ空気を払うように、上尾はそう言った。

 

(そうか、体育の授業もある以上、それも評価対象か……)

 

 そんなことを頭の片隅で考えながら、話題を切り替える。

 

「ネガティブな話はこれでおしまい! 椎名さんが読んでるのは何の本?」

 

「はい、これは恋愛ものの本です。上尾くんも読みますか?」

 

「いやぁ、俺は恋愛小説だけはどうしてもダメで……」

 

「……残念です」

 

 いつもの調子に戻る会話。

 

 静かな図書館の中で、時間だけがゆっくりと流れていく。

 

 上尾はふと、この穏やかな時間がずっと続けばいいのにと思った。

 

 

 

 ────

 

 

 

 それから更に日が進み、四月も残りわずかとなっていた。

 

 放課後の帰り道。

 

 今日は椎名が茶道部に顔を出す日で、帰りが遅くなると言っていた。そのため上尾は、珍しく一人で早めに寮へ戻ることにした。

 

 椎名とはあれからも、ほぼ毎日のように顔を合わせている。

 

 図書館で過ごす時間は、上尾にとって明らかに“居場所”と呼べるものになりつつあった。

 

 心地よい静けさ。

 

 無理に話さなくても成立する関係。

 

 それは、今の上尾にとって何よりも大事なものになっていた。

 

 一方で、南雲雅からの誘いも相変わらず続いていた。

 

 最初は断ろうとしたが、「今後の学園生活に役立つ情報が得られるかもしれない」という打算から、できるだけ付き合うようにしていた。

 

 クラスメイトとの交流は、いつの間にか完全に放棄していた。

 

 上尾の交友関係は、実質二人に絞られている。

 

 椎名ひより。

 

 そして、南雲雅。

 

(意外だったのは、南雲さんの方だよなぁ)

 

 上尾は歩きながら、ぼんやりと考える。

 

 南雲の真意には気づいている。

 

 自分を“便利な駒”として使いたいのだろう。しかも、それも代わりが見つかるまでの一時的なもの。

 

 それでも南雲は、妙に頻繁に上尾を誘ってきた。

 

(暇なのかな)

 

 一瞬だけ失礼な想像が浮かぶが、すぐに否定する。

 

 彼には生徒会副会長という立場がある。教員からの信頼も厚く、周囲からの評価も高いと聞く。

 

 そんな人物が、ただのDクラスの生徒にここまで時間を割く理由が分からなかった。

 

(やっぱ、あれが原因か)

 

 思い返すのは、以前誘われたゲームのことだ。

 

 ポーカーや麻雀。

 

 上尾は意外にもその手の勝負事には強かった。

 

 運だけでなく、場の読みも悪くない。

 

 結果として、南雲に勝ってしまったのだ。

 

 そのときの南雲は、何も言わなかった。

 

 だから上尾は空気を読んで、次はわざと負けた。

 

 しかしそれは逆効果だったらしい。

 

 明らかに不機嫌になった南雲の顔を見て、次からは本気で挑むようにした。

 

 勝ったり負けたりはあったが、結果的には上尾が勝ち越した。

 

 そこで上尾は、南雲の性格をある程度理解する。

 

 プライドが高く、極度の自信家で、負けず嫌い。

 

 そして、強者との勝負そのものを求めるタイプ。

 

(まぁ、間違ってなかったな)

 

 その後のことを思い出し、少しだけ肩をすくめる。

 

 次に呼ばれたときには、明らかにイカサマじみた環境で一方的に負けさせられた。

 

 簡単に言えば、気に入られ方が歪なのだ。

 

 日常では礼を尽くし、戦いでは全力で応じる。

 

 それだけで南雲は満足しているようだった。

 

 複雑に見えて、実際は単純。

 

 そして何より、羽振りが良い。

 

 誘われたときの食事代はほぼ全て南雲持ちだった。

 

 時々、容赦のない言葉も飛んでくるが。

 

『お前、女にモテたことねぇだろ』

 

(ほっとけ)

 

 上尾は心の中で何度か右ストレートを放つ。

 

 そんなくだらない想像をしていると、前方に見覚えのある後ろ姿が見えた。

 

「……堀北さん」

 

 彼女とは、あの“壁”発言以来、必要以上に関わらないようにしていた。

 

 理由は単純だ。

 

 心が持たないからだ。

 

 しかし──。

 

「……上尾くん。ストーカー行為はやめてもらえるかしら」

 

「……同じ寮に帰るのにストーカーも何もないでしょ」

 

「妙な妄想でもしながら、私を付け回していたんじゃないかしら」

 

(まぁ、否定できないのが腹立つ)

 

 無言で追い越そうとする。

 

「ちょっと」

 

「そんなに後ろを取られたくないなら、そこで立ち止まってればいいよ」

 

「はぁ……どうしてこうも歪んだ性格の人間が生まれてしまうのかしら」

 

(どの口が言う)

 

 気づけば、二人は並んで歩いていた。

 

「……あなたが生徒会副会長と親しいという噂を聞いたのだけれど」

 

「それが?」

 

「にいさ……会長とも面識はあるのかしら」

 

(やっぱり兄妹か)

 

「あるって言ったら?」

 

「っ!? ……私のこと、何か言ってなかったかしら」

 

「さぁ。面識ないから知らない」

 

「っ! 貴方ねぇ!」

 

「さっきの仕返し」

 

「……はぁ」

 

 短い沈黙。

 

「……そんな性格だと、Aクラスには上がれないかもしれないよ」

 

「……?」

 

「狙っているんでしょ。Aクラス特典」

 

「……何のこと?」

 

「とぼけなくてもいいよ。授業態度は悪くないし、むしろ成績は悪くなさそうだし」

 

「……ごめんなさい。あなたが何を言っているのか、本当に分からないのだけれど」

 

 その言葉に、上尾の足が止まる。

 

「茶柱先生から説明されただろう。この学校の進路保証はAクラスだけだって」

 

「…………」

 

 堀北も立ち止まった。

 

「どうした?」

 

「……それ、本当なの?」

 

「何だよ、初耳みたいな顔して」

 

 そこで、上尾の中に違和感が生まれる。

 

(待て)

 

「……もしかして、堀北さんも居眠りとかしてた?」

 

「……いいえ。あのとき話を聞いていなかったのは貴方だけよ」

 

「なら説明は……」

 

 そこで言葉が詰まる。

 

 本当に、説明はされていたのか? 

 

 何を聞いた? 

 

 誰が? 

 

 その瞬間、南雲の笑みが脳裏に浮かぶ。

 

『来月が楽しみだな』

 

 ぞわり、と嫌な感覚が背中を這う。

 

(3年の教室。Aから順に減っていた席)

 

 なぜAクラスにも空席があった? 

 

 他のクラスから補充すればいい。

 

 そもそもクラスの移動はいつ行われる? 

 

 普通に考えれば進級や新学期のタイミング。

 

 でもはあれは4月半ばの事だ。

 

「……上尾くん?」

 

 堀北の声が遠い。

 

 気づけば、呼吸が浅くなっていた。

 

(違う)

 

(俺はずっと、個人評価だと思ってた)

 

 だが違う。

 

 もしクラス単位なら──。

 

「……やらかした」

 

「……?」

 

「……とんでもない勘違いしてた」

 

「……どういう意味?」

 

 上尾はゆっくり顔を上げる。

 

 そして、はっきりと言った。

 

「クラス単位だったんだよ!」

 

「っ!」

 

 堀北がわずかに身を引く。

 

 その反応すら、今はどうでもよかった。

 

 上尾の視界が、一気に収束していく。

 

 そして静かに息を吐いた。

 

「……説明、する」

 

 堀北の顔には、警戒と困惑が混ざっていた。

 

 

 

 ────

 

 

 

「……今の話、本当なの」

 

「さぁ。もう何も自信がなくなってきた」

 

「……やっぱりおかしいわ。私が一番評価の低いクラスだなんて」

 

「そこかよ」

 

「先生に確認はしたの?」

 

「……してない」

 

「はぁ、貴方って人は……」

 

 呆れを含んだ溜め息が落ちる。

 

「どうせ聞いても、“その質問には答えられない”って返されるのがオチだよ」

 

「わからないじゃない。貴方のくだらない妄想の可能性だってあるわ」

 

「そうだといいね」

 

 投げやりな返事に、堀北は眉をひそめる。

 

「先生に確認しに行くわ」

 

「がんばれー」

 

「貴方も行くのよ」

 

「俺はいいよ」

 

「何を不貞腐れてるのよ」

 

「意地の悪い先輩にコケにされたから」

 

「……もういいわ」

 

 堀北はそれ以上何も言わず、踵を返した。

 

 やがて視界から完全に消えると、上尾は小さく息を吐いた。

 

「……はぁ」

 

 指先が、無意識にポケットの中の端末を探る。

 

 取り出した端末の画面には、登録件数わずか三件の連絡先。

 

 そのうちの一つに、迷いなく指が触れた。

 

 コール音が鳴り始める。

 

 通話の向こうで、南雲の笑い声が一瞬だけ空気を撫でた。

 

『よぉ、“照”。お前から掛けて来るなんて珍しいな』

 

 軽い調子。いつも通りの、余裕だけを削り出したような声だった。

 

「……クラス単位だったんですね」

 

 言葉にすると、喉の奥が妙に乾いていた。

 

『くくっ、何のことだ』

 

 とぼける声すら、どこか楽しげだ。

 

「……もういいですよ。楽しかったですか? これから落ちていく人間を間近で見てて」

 

『おいおい、人を悪者みたく言ってくれるなよ。自業自得だろ』

 

 軽口。だが否定はしない。

 

「っぐぅ……」

 

 確かに、居眠りをしていた自分が悪い。情報を聞き逃したのも、自分だ。

 

『それにさ、最初からお前はどん底だろ』

 

「……そーですね」

 

 乾いた返事しか出てこない。

 

『まぁ、そう落ち込むなよ』

 

 一拍。

 

 そして、南雲は楽しそうに続けた。

 

『言ったろ。俺はこれから“個人”が評価される制度を作るってよ』

 

「……もういいですよ。どうせ俺なんて、貴方からすれば」

 

 言いかけた言葉を、南雲が遮る。

 

『捨て駒』

 

『お前の考えてる通り、俺はお前に最初から期待なんてしてなかった』

 

『1年で有望な人材が見つかるまでの繋ぎ。暇つぶしのおもちゃ。そう思ってた』

 

(使えなくなったおもちゃは捨てられるだけ、か……)

 

 だが次の言葉だけは、少しだけ違った。

 

『でも今は違う』

 

 嘘だ

 

『照、俺はお前のこと気に入ってんだ』

 

 所詮は上っ面だけの言葉だ

 

『俺についてくれば、お前はすぐにAクラスに上がれる』

 

 Aクラス。

 

 正直なところ、それ自体に執着はない。

 

 だがDクラスに居続けることは、別の意味で危険すぎる。

 

 ──退学者の大半はDクラス。

 

 

 

『これが最後だ。俺の下につけ』

 

 

 

 答えは決まっている

 

 

 

 俺はこの学校を辞めるわけにはいかない

 

 

 

 あの家に戻らない為に

 

 

 

 

「……よろしくお願いします。“雅さん”」

 

 

 

 

 

 

 椎名さんとの日々を守るために

 

 

 

 

 




上尾照(かみおてる)
所属クラス:1年Dクラス
性別:男性
身長:173cm
誕生日:12月22日
星座:山羊座
趣味:読書
特技:絵画
仲の良い生徒:椎名ひより
相性の悪い生徒:南雲雅
好物:ハンバーガー、牛丼
苦手な物:特になし
部活動:美術部
自分の好きな所:特になし
自分の嫌いな所:抜けている所、コミュ力のなさ
いつもいる場所:図書館
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