ポスアポ世界のTS便利屋お姉さんはほどほどに落ち着きたい   作:便利屋アルちゃん

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1 便利屋お姉さん荒野を行く

 人類ってのは、なんだかんだしぶとい生き物だ。

 まず何と言っても、彼らは過酷な状況に追い込まれた時、知恵を使ってそれに適応しようと試みる。

 生存のために知恵を絞って道具を使うのは、人間のしぶとさの証明といっていいだろう。

 

 無論、その中で適応できずにつぶれてしまうものもいる。

 適応しようと頑張りすぎて、逆にだめになってしまうものもいる。

 だからこそ、私の信条は「ほどほどに落ち着く」というものだった。

 頑張りすぎる必要はない、かといって生活に不自由があるのは問題だ。

 ほどほどの立ち位置で、落ち着いて周囲を見れる余裕があればそれでいい。

 

 この信条は、ポストアポカリプスな終末世界に転生しても変わらなかった。

 核戦争だかなんだか知らないが、文明が一度滅んだ世界。

 その中でも人類はしぶとく生き残っている。

 明日も知れない生活の中で、しかしどこか現代社会とは違う活力でもってそれを乗り越えているのだ。

 そんなヒャッハーな世界の中でも、私はとにかくほどほどに落ち着きたかった。

 

 だから私は――街の便利屋合法ロリになったのだ。

 いや合法ロリは余計なんだが、TSしちゃったからなぁ。

 

 

 ◯

 

 

「んがっ」

 

 ガン、と車体が大きく揺れたことで目を覚ます。

 かれこれ数時間ほど揺られていたはずの私は、どうやら途中で寝てしまっていたようだ。

 隣で車を運転していた女性が、苦笑しながら声をかけてくる。

 

「すいませんね、荒い運転で。でもそろそろ到着しますから、ちょうどよかったかもですよ――アルネさん」

「あー、そうだねぇ」

 

 眠い目をこすってから、あくびとともに両手を上げて意識に覚醒を促す。

 鼻孔をくすぐる土煙と――それから遠くに感じられるミュータント特有の異臭。

 私の名前を呼んだ女性――シオリもそれを感じているだろうか。

 いや、シオリは新人類じゃないし、そうでもないかな。

 

「できれば一生、ぐーすか眠っていたかった」

「そんなことしたら、それを見つけた野蛮人(ボーガー)に慰み者にされて、闇オクに売り払われちゃいますよ?」

「一生眠り続けていられるなら気にならないからねぇ、いいんじゃない?」

「それは死んでるのと変わらないのでは……?」

「かもね、じゃあダメだぁ」

 

 ボーガーってのは、世紀末になればどこにでも出現してくるヒャッハーのことだ。

 いやほんと、あいつら畑で取れるのかってくらいどこからでも湧いてくるからな。

 

「それと、できれば服はちゃんと来てください」

「えー? 着てるじゃん。タンクトップとカーゴパンツオンリーなのはいつもでしょ?」

「今日のタンクトップがやたらゆるくて、色々見えちゃってるんですよ」

「まーじか、またお姉さんのスケベボディで少年を精通させてしまう」

「自覚があるなら、ほんとやめてくださいねそういうの」

「今は自覚あっても、実際に誘惑してる時は無自覚だからねぇ、ごめんよ少年」

 

 今の私の姿を指摘されてしまった。

 灰色の髪と小柄な背丈。

 白磁のような白い肌はすすやら何やらで汚れており、着ているタンクトップも油まみれ。

 下はズボンで、如何にも機械とかイジってそうな女子の見た目。

 ちなみに胸は大きめ、だからどうって話じゃないんだけど。

 んで、このタンクトップが今日はやたらのびのびになっていたので、仕方なく布団にしていたジャケットを羽織る。

 ちょうどそのタイミングで、車は目的地に到着したようだった。

 

「つきましたよ。お願いします」

「あいあいー」

 

 通信機能つきのゴーグルを装着して、上が開いているバギーから飛び出す。

 なんの助走も付けずに数メートルを飛び上がった私。

 しかし、新人類ならこれくらいはできて当然だ。

 

「おーい、生きてるかー」

『あ、ね、姐さん!? やべっ!』

「やべっ、じゃないよぉ。生きてるならいいけどさぁ。やさしい姐さんが助けにきてやったんだよ? もっと感謝しなよ」

『やさしい……ではなく、ぼったくりの姐さんと思われているのでは?』

 

 そして、眼の前にいるミュータントと、それから逃げ回る男に声をかけた。

 通信はまだ生きていたみたいで、男からは元気な声が聞こえてくる。

 対するミュータントは……ムカデ型だな、この辺りだと比較的珍しい種類だ。

 ミュータントってのは、ポスアポ世界になってから湧き始めた突然変異の魔物みたいなやつ。

 強い、硬い、デカいってんで人類の生活に置いては脅威となる存在だけど、倒すと手に入る素材は優秀なので人類の糧にもなっている。

 こういうところがしぶといってやつなんだねぇ。

 

「生きてるだけもうけもんっていうでしょ。またどんな無茶したのか知らないけど、人間ってのはしぶといんだからさ! 死ななければ誰でもなんとでもなるの!」

『だーちくしょー! 解ってるっすよ!』

 

 そもそもなんでこんなことになっているのかと言えば、眼の前の男が灰漁り(スカベンジ)と呼ばれる宝探しをしている最中に、このミュータントを刺激。

 あわや殺されかけた結果、通信で街まで助けを求めた。

 そこでたまたま手の空いていた私とシオリが、こうして救助のためにやってきたわけだ。

 んで、命を救っているわけだから報酬は割高になってしまうんだけど、それをシオリや街の住人はぼったくりだという。

 言っておくが、これは適正価格だ。

 私の()()()()()()()()せいで、毎度毎度大金を巻き上げているから、そうやってヤジが飛んでいるだけ。

 まぁ、親しい間柄のなんとやらってやつだ。

 とにかく、まずはこのムカデをなんとかしないと行けない。

 私はムカデに視線を向けると、”あるもの”を起動させた。

 

「――”ステータス”」

 

 それこそが、私が新人類と呼ばれる所以。

 異能、と呼ばれる人ならざる力。

 新人類は一人につき一つ、特殊な能力が備わっているのだ。

 私の場合は――なんというか、転生者っぽい能力。

 名前はステータス。

 文字通り、視界に入った存在のステータスを覗き見ることができる能力だ。

 見えるのはSTRやAGIといったパラメーターと、各種スキル。

 他にもいろんな情報を見ることができて、これがまた有能なんだけど、今は置いておこう。

 

「こいつ、光学兵器耐性持ってるな。でもDEFは見た目より低い」

『でしたら、どうしますか?』

「簡単」

 

 私は、バギーを飛び出す際にひっつかんできたバッグの中からあるものを取り出す。

 これはミュータントの退治を依頼されたために用意した、武器を詰め込んだバッグだ。

 そこから取り出すのは――

 

「物理で吹っ飛ばせってこと!」

 

 ポンプアクションのショットガンだ。

 旧時代然とした、レトロなデザインのショットガン。

 最近は光学銃が安価で軽くて取り回しやすいってんで、みんなしてそっちを使うけど、私は実弾の方が好きなんだよな。

 

『GAAAAAAA!』

 

 咆哮するムカデに、正面から突っ込む。

 ムカデって咆哮するのか? まぁミュータントだしそういうこともあるか。

 とにかく、ムカデは尻尾の方を振り回して攻撃するようで、早速私に向かって振り下ろしてきた。

 その一発を、軽々と横っ飛びして回避する。

 一回のステップで、軽く二、三メートルは飛べる。

 インチは滅ぼせ、ムカデみたいに。

 

「そら!」

 

 BANG! と向けられた銃口から散弾が放たれる。

 真横の尻尾に、至近距離から直撃させるのだ。

 結果、ムカデの尻尾に弾痕ができ上がる。

 しかし痛みに悶えたムカデが、尻尾をがむしゃらに振り回してきた。

 面倒だな。

 そう思いながら、私は振り回される尻尾の()に乗る。

 

「駆け上がれ!」

 

 新人類の驚異的な身体能力にまかせて、私はムカデのボディを駆け上がる。

 途中に何発か散弾を叩き込みつつ、痛みに悶えるムカデの上をロデオ。

 そして最後に、勢いよく飛び上がってムカデの頭部に王手をかけた。

 

「じゃあな!」

 

 一発。

 散弾を叩き込んでから、続けざまにケリを叩き込むと――ムカデはゆっくりと倒れていく。

 私はムカデを足場に跳躍してその場を離れる。

 ポスアポ世界特有の荒野に、ムカデがずしんと倒れ込んだ。

 土煙が周囲を覆う。

 

『姐さん!』

『ムカデの生体反応消えました。相変わらず手際がいいですね』

 

 二人の声が聞こえてくる。

 シオリの報告も合わせて、私はうんうんと満足気に頷いた。

 さて、次は後処理だ。

 

「いやー、終わったね。このムカデもいい素材になりそうだし。ねぇ君、ワーカーは持ってたよね? だったらそれで――」

『あー、それなんですけどね、姐さん』

「……もしかして、壊れた?」

『…………すんません』

「わちゃあ」

 

 ワーカー――この世界で使用されている人型ロボット――であれば、このムカデを街まで引っ張っていくことができる。

 しかしそれを乗り回すのが仕事のはずのワーカー乗りの男は、よりにもよってそれを破壊してしまったという。

 いや、だからこそ生身でムカデに追われてるのか。

 まぁいいや。

 

「しょうがないなぁ……報酬は高くなるよ」

『うぐっ……すんません、お願いします。生きてりゃなんとかなる……っすからね』

「そうそう、その意気だ! ま、何事もほどほどに落ち着くのが一番ってわけ」

 

 なんて、私は自分の信条を口にしながら男に誘導されて、壊れたワーカーの方へと足を向ける。

 世界が滅んだ後にも、人々の日常はあって。

 私はそんな世界を、ほどほどに落ち着きながら生きていた。




ほぼタイトル通りです
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