龍騎外伝 仮面ライダースティーガ&王蛇   作:巽★敬

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話を作ってる内に、
AIから「今書いているルリは長年の苦しみや行動は、あくまで創作の話として書かれていますか?もし今のご自身の気持ちや状況と重なる部分がありましたら、物語の事は一旦置いて、少しお話しさせてください」

などと書かれました。
適当に返しましたが、中々面白い事を言ってきますね。
これで沼川の話なんて見せたら垢BANでもするんですか?


# 11

 

翌朝。

 

夜明けの光がまだ薄い路地裏を、浅倉威は足音も立てずに走っていた。

早朝の街はまだ眠っているように静かだ。

だが遠くから、断続的にサイレンの音が響いてくる。

一台ではない。何台もの車が、網を張るように周囲を走り回っている気配がした。

 

「ホント、イライラさせるよなぁ……警察ってのは……」

 

軽く舌打ちをしながら、浅倉は路地裏の奥へと進んでいく。

それでも特に焦った様子はない。追われる事には慣れている。

ただひたすら、虫の居所が悪そうに眉間に皺を寄せながら、薄暗い路地を進んでいった。

 

          ◆

 

一方その頃、

ミラーワールドの朝は、現実世界と同じように静かに明けていく。

だが人の気配が一切ない無人の公園に響くのは、穏やかな鳥のさえずりではなく、汚らしい咀嚼音だった。

 

そこにはディスコーピオンが、ミラーモンスター・バクラーケンを貪り食っていた。

巨大な鋏で獲物を押さえ込み、巨大な顎が無造作に肉を引き千切り、

生々しい咀嚼音が静まり返った公園に響き渡っている。

すぐ傍らのベンチにスティーガが座り頬杖をつきながら、その異様な光景をまじまじと眺めている。

 

「アナタの食い意地にはもう慣れたわ……」

 

呟きは、呆れとも感慨ともつかない、ひどく平坦な声。

あの後、ルリは行く当てもなく現実世界の公園のベンチで一夜を過ごした。

冷たい夜気の中、ただベンチに横たわって夜明けを待った。

文也の遺体は、屋敷を燃やす最中にディスコーピオンに処理してもらった。

それでもまだ腹が満たされなかったのか、もしくは新鮮な命の方が好物なのか。

契約モンスターにこうして、仕留めた餌を与えているのだ。

 

「あ~あ……どうしよっかな~……これから……」

 

スティーガはベンチの背にもたれかかり、足をぶらぶら揺らしながら虚空を見上げた。

声に感情が乗っていない。

まるで予定のない休日をどう過ごすか考える子供のような、のんびりとした呟きだった。

とても数時間前に親を手にかけ、実家に火を放った人間とは思えない言動である。

 

正直、後先の事など全く考えてなかった。

戸籍上の保護者も、住む場所も失い、これから自分がどうなるのか。

そんな事が今のルリにとって、

ひどくどうでも良く遠い話に思えた。

 

そんな時。

すぐ側の道路に停車しているパトカーから、無線通信の声が漏れ聞こえてきた。

現実世界からの音が、薄い鏡の膜一枚を隔てて届いてくる。

 

『都内にて脱獄犯、浅倉威を発見との通報あり。至急現場へ急行されたし』

「了解、至急現場へ急行します」

 

応答と共に、パトカーがサイレンを鳴らして勢いよく発進した。

警官は鏡の中で無線を聞いてる者が居るなど考える筈も無い。

赤と青の回転灯が、朝の街に光の軌跡を残しながら遠ざかっていく。

スティーガはそのパトカーを、じっと目で追った。

 

「そうだ……」

 

ゆっくりと、身体を起こす。

 

「私のやる事は……ただ一つ……」

 

仮面の奥で、不気味な笑みが広がった。

ディスコーピオンが食事を終え、満足そうに身体を揺らしている。

ルリはベンチから立ち上がり、パトカーが消えていった方向を静かに見据えた。

 

 

          ◆

 

 

午前中。

北岡は吾郎の運転する車の助手席に収まり、警察署へと向かっていた。

捜査資料の確認や書類の受け渡し——弁護士としての仕事の一環だ。

朝の街並みが、ウインドウの向こうをゆっくりと流れていく。

 

「悪いねゴローちゃん、朝から送ってもらってさ」

「いえ。先生もお疲れですし、このくらいは」

 

一見すると穏やかな、いつも通りのやり取り。

車内には淡い朝の光が差し込み、しばらくは静かな時間が続いた。

その沈黙を破ったのは、ラジオだった。

 

『——本日未明より、脱獄犯・浅倉威が都内を逃走中との情報が入っています。警察は現在総力を挙げて——』

 

北岡は窓の外へ視線を向けた。

そう言えば今朝から遠くでサイレンの音が絶え間なく聞こえていたが、

その理由がようやく腑に落ちる。

 

「なるほど。どおりで朝から騒がしかった訳だ」

 

北岡の言葉に吾郎もハンドルを握りながら、神妙な顔で呟いた。

 

「浅倉……このまま捕まりますかね?」

「どうだろうね。奴がライダーである以上、そう上手くいくとは思えないけど」

 

北岡は苦い顔をして、窓の外へ視線を向けた。

一般の警察官が浅倉に近づく事の危険性は誰よりも理解している。

ミラーモンスターを操り、仮面ライダー王蛇として戦う浅倉に、生身の人間が敵う道理はない。

だが鏡の世界だのモンスターだの言っても、警察や世間が信じる訳がない。

皮肉な話だ。

浅倉に対応できるのは、自分のように仮面ライダーの力を持つ者だけだというのに。

 

しかも最近は、警察の方から北岡自身に対して警告まで出ている始末だ。

浅倉が北岡を敵視している事は、警察も既に把握している。

 

思い出すのは、浅倉が初めて王蛇のカードデッキを手に入れた、あの日の事だ。

脱走直後の浅倉は拳銃を片手に少女を人質に取り、都内の飲食店に立て籠もった。

そして人質の解放を条件に、警察へ一つの要求を突きつけた。

 

【弁護士の北岡秀一を連れてこい】と。

 

それが仮面ライダーとしての北岡を知っての行動である事は、言うまでもない。

やむなく現場へ駆けつけた北岡は、その場で初めて仮面ライダー王蛇と相まみえる羽目になった。

あの事件以来、警察は北岡への危害を懸念し、浅倉への接触を控えるよう繰り返し注意してきた。

 

「結局、俺に出来るのは最低限の捜査協力ぐらいだし?」

 

北岡は気だるげに呟き、シートに深くもたれかかった。

一介の弁護士でしかない自分に、警察全体を動かす権限などありはしない。

 

もっとも、自分一人が命を懸けて警察官たちを守る義理などない。

仮面ライダーはあくまで己の願いを叶えるために戦う存在。

正義の味方でもなければ、誰かを救う英雄でもない。

それがこの戦いの現実である。

殺し合いに魂を売った者が、今更正義のヒーローを気取るなど烏滸がましい。

だからこそ生身の警察官が浅倉へ近付こうが、

それは彼ら自身が選んだ職務であり、北岡が背負う責任ではない。

 

……本来なら。

 

「まぁ……城戸の奴なら黙ってないだろうがな……」

 

ふと、独り言のように呟いた。

脳裏へ浮かぶのは、あの暑苦しいほど真っ直ぐな男。

 

城戸真司。

 

もし今ここに彼がいたなら。

警察に止められようが、危険だと言われようが構わず浅倉の元へ飛び込んでいくだろう。

そして、ようやく追い詰めた浅倉に対してさえ、最後の最後で引き金を引けず、剣を振り下ろすことも躊躇する。

そんな光景が、容易に想像できた。

 

「…………」

 

ふと、北岡は気がついた。

城戸の名前が出た途端、ハンドルを握る吾郎の横顔に、いつもより深い翳りが差していた。

北岡は内心で、しまった、と自分の軽率さを珍しく恥じた。

真司と吾郎は親友と呼べるほど親しかった訳ではない。

それでも、二人の間には確かな交流があった。

 

きっかけは、真司が事務所に押し掛けてきたあの日だった。

戦いで腕を負傷していた北岡は、渡りに船とばかりに事務所の炊事洗濯を真司に好き放題押しつけた。

その時、真司が作っていたのは手作りの餃子だった。

 

訪問してきたある男がモンスターに狙われていると知り、調理を中断した真司に高級外車のハンドルを握らせ、北岡は渋々彼と共に現場へ向かった。

助手席から、運転する真司が何か臭うと指摘すると、真司は特に悪びれる様子もなく答えた。

 

【あぁ、さっき昼飯で餃子作ってたからニンニクかも】

【餃子?! ちょっと城戸くん、俺スーパー弁護士よ? 昼飯が餃子って、どうよ!?】

【美味けりゃなんでもいいって言っただろ! あのね俺の餃子はホント、そんじょそこらの物とは違うんだって!】

【ハンドルから手離せ! 匂い付いたらどうすんだよ!!】

【無茶言うなよ! んなこと言ってる場合じゃないだろ!!】

 

今となっては、酷くしょうもないやり取りだった。

それが妙に遠い記憶に感じる。

 

二人が留守にしている間、事務所に残っていた吾郎がその餃子を味見した。

あまりの美味さに感激した吾郎は、後日わざわざ真司本人を訪ねてレシピを聞きに行ったのだという。

そして後日、吾郎は実際にそのレシピ通りに餃子を作り、北岡に振る舞った。

 

腹立たしかった。

本当に腹立たしかった。

その餃子が、思いの外、美味かったのだから。

 

それだけに――。

 

初めて城戸真司の死を伝えた日のことを、北岡は今でも覚えていた。

夜の事務所。

神崎士郎から告げられたその報せを、北岡は帰ってきた吾郎へ呟くような調子で伝えた。

 

【……城戸が、死んだってさ……】

 

その一言を聞いた瞬間、吾郎はほんの僅かだけ表情を曇らせた。

 

【……そうですか……】

 

返ってきたのは、それだけだった。

取り乱すこともなければ、涙を流すこともない。

だが、普段ほとんど感情を表へ出さない彼だからこそ、

その短い返事には確かな悲哀が滲んでいた。

 

 

北岡はその時の光景を思い返し、ぽつりと呟く。

 

「……悪い」

 

突然の謝罪に、吾郎は一瞬だけ目を丸くした。

 

「え?」

 

すぐに意味を察すると、軽く笑みを浮かべる。

 

「ああ……大丈夫ですよ」

 

そう言って前を向いたままハンドルを握り直した。

 

「先生がご無事なら、俺はそれで」

 

その言葉は本心だろう。

だが、その笑みの奥にあるものを、北岡は見ないふりをした。

見てやる方が、吾郎には辛いと分かっていたから。

 

車内に、暫しの沈黙が落ちる。

エンジンの振動だけが、静かに続く。

その沈黙を破ったのは、不意に流れ始めたカーラジオだった。

 

『――続いてのニュースです。 昨夜未明、大手石油メーカー「ソガワ・ロイヤル・オイル」の代表取締役・曽川文也氏の自宅が全焼する火災が発生しました――』

 

「……なに?」

 

北岡は思わず顔を上げる眉を顰めた。

吾郎もハンドルを握ったまま、険しい顔で前を向いている。

 

『現在火は消し止められましたが、曽川氏とお子さんの行方が依然として不明となっており、

また現場周辺では、複数の使用人が意識を失った状態で発見され、現在病院に搬送されています。

使用人には全員、打撲のような傷が確認されており、警察は事件と火災の関連を含め、詳しい状況を調べています』

 

ラジオが淡々と読み上げる内容に、車内の空気が一変する。

 

「先生……これって……」

 

吾郎が静かに尋ねた。

北岡は腕を組み、険しい表情のまま窓の外を見つめる。

 

霧島から聞いた話が、頭の中で繋がっていく。

文也の娘、曽川ルリは仮面ライダースティーガ。

 

そして彼女は、父親を深く憎んでいた。

今回の火災と、使用人たちの傷と、二人の失踪。

それらを繋ぐ線を辿っていくと、一つの嫌な答えに行き着く。

 

「……まさか、な……」

 

誰に言うでもなく、北岡は静かにそう呟いた。

その声には、普段の飄々とした軽さが感じられない。

 

その時だった。

 

走行していた車がゆっくりと速度を落とし、やがて静かに停止する。

 

「……ん?」

 

北岡は顔を上げ、フロントガラスの向こうへ視線を向けた。

 

前方の大通りでは赤色灯がいくつも明滅し、数台のパトカーと警察官たちが交差点一帯を封鎖している。

黄色い規制線が張られ、一般車両は次々と誘導されていた。

吾郎が周囲を確認しながら呟く。

 

「事故、みたいですね?」

「ちょっとちょっと……朝から色々起きすぎでしょ」

 

北岡は呆れたように肩を竦めた。

浅倉威の逃走。

SRO社長宅の火災。

そして今度は交通事故。

まるで街全体が何かに振り回されているかのようだった。

 

「回り道しかなさそうです」

「署に着く頃には昼になってそうだな」

 

北岡のぼやきを聞き流しながら、吾郎はハンドルをゆっくり右へ切る。

彼らの車は交差点を避けるように脇道へ入り、そのまま別の道路を走り始めた。

この時、二人は事故を起こした車両を目にしていない。

警官たちの背後、封鎖された交差点の奥がちょうど死角になっていたからだ。

 

もし、ほんの少しでも、事故現場が見える位置を通っていたら。

二人はその異様さに気付いていただろう。

 

道路の中央で大きく横転し、

原形を留めないほど激しく損壊していた車両。

それは一般車ではない。

 

二台のパトカーだった。

 

そして、更に不可解なことに――。

 

運転席にも助手席にも。

後部座席にも。

そこには誰一人として乗っていなかった。

 

封鎖する警官たちの顔には、

困惑と、隠しきれない恐怖の色が滲んでいた。

 

 

          ◆

 

 

ようやく目的地の警察署へ辿り着いた北岡と吾郎だったが、

二人が目にしたのはあまりにも異様な光景だった。

 

警察署の周囲一帯に規制線が張り巡らされ、完全に封鎖されている。

 

周囲はまるで災害現場のような騒然とした空気に包まれていた。

制服警官が慌ただしく走り回り、パトカーの赤色灯が絶え間なく明滅する。

その外側には報道陣が何本ものカメラを構え、

事情を知らない野次馬たちが口々に憶測を飛ばしていた。

 

「おいおいおい……今度は何だ?」

「一旦、停めてみましょう」

 

呆れ半分、嫌な予感半分のぼやきだった。

運転席の吾郎は静かに近くの路肩へ車を寄せる。

 

ドアを開けて車を降りた北岡は、人だかりの最後尾から警察署を見上げた。

しかし、規制線の向こう側は警察官たちが壁のように立ち塞がっており、建物の様子までは見えない。

これでは何が起きたのか掴めない。

 

すると北岡は近くでメモ帳を片手に騒ぎを見つめていたスーツ姿の男へ歩み寄った。

胸元にはテレビ局の社員証。どうやら報道関係者らしい。

 

「あのすみません、何かあったんですか?」

 

男は困ったように肩を竦める。

 

「それが、まだ詳しいことは何も。なんでも警察署内に居た人達が、急に皆居なくなったらしいんですよ」

「......え?」

 

その一言を聞いた瞬間、北岡の表情が一気に険しくなった。

 

――人間が一斉に消える。

 

普通の事件ではあり得ない。

そんな芸当ができる存在を、彼は嫌というほど知っている。

嫌な予感が、ゆっくりと確信へ変わっていく。

 

そして、

耳の奥を直接引っ掻くような、

不快極まりない高周波が世界へ滲み始めた。

 

 

 

キイイイィィィィィィィィン………………

 

 

 

不吉な共鳴音。

仮面ライダーだけが感じ取れる、ミラーモンスターの気配。

北岡の瞳が鋭く細まる。

 

(やっぱりか……)

 

一般人には聞こえない。

周囲では記者も警察官も何事もないように話を続けている。

だが北岡には分かる。

 

モンスターが居る、と。

 

踵を返すと早足で車へ戻り、運転席の窓を軽く叩いた。

窓がゆっくりと下がる。

 

「悪い、ゴローちゃん。ここで待っててくれる?」

 

吾郎は北岡の表情を見るだけで状況を察した。

 

「……モンスターですか?」

「ああ。すぐ戻る」

「……お気を付けて」

 

北岡は軽く手を挙げるだけで応え、人混みから離れるように歩き出した。

やがて人気のない雑居ビルの裏手へ辿り着く。

誰の姿もないことを確認すると、正面にあるカーテンの閉まった窓ガラスの前でカードデッキを翳す。

反射した光の中から、Vバックルが音もなく出現し、自動的に腰へと巻かれていく。

北岡は素早くポーズを決め、鋭く叫んだ。

 

「変身!」

 

デッキをVバックルへ装填する。

幾重にもライダーの虚像が重なり合い、彼の身体を包んでいく。

漆黒と深緑の重装甲が全身を覆い、

彼の姿は仮面ライダーゾルダへと変貌を遂げた。

 

変身を終えたゾルダは一歩、窓へ踏み出す。

鏡面が水面のように揺れ、彼の身体を静かに鏡の世界へと誘った。

 

 

 

ミラーワールドの警察署。

反転したポスターや資料の文字が、静まり返った廊下の壁に不気味な存在感を放つ。

 

ゾルダはマグナバイザーを構え、一歩ずつ慎重に廊下を進む。

視線を左右へ巡らせる。

床に散乱する書類。

反転した注意書き。

薄暗い蛍光灯の光だけが、無機質な床を青白く照らしていた。

耳に届くのは、自分の足音だけ。

 

――いや。

 

「……あそこか」

 

廊下の奥。

半開きになった部屋の向こうから、確かな気配を感じ取る。

通常の生き物のものとは思えない、不規則な物音。

何かを噛み砕くような、湿った咀嚼音だった。

ゾルダは壁に背を預けながらゆっくりと接近する。

そして、足先でドアを押し開いた。

 

古びた蝶番が軋み、静寂を引き裂く。

その瞬間、鼻を突く濃厚な血の臭いが押し寄せた。

 

「……っ」

 

仮面の奥で北岡の表情が険しく歪む。

 

部屋の中央。

そこにいたのは巨大な蠍型、ディスコーピオン。

鋭い鋏を折り畳み、巨大な顎を何度も開閉させながら、床へ倒れ伏した警官の亡骸へ醜く喰らいついている。

肉を裂く音。骨を砕く音。

赤黒い液体が床へ飛び散り、鏡の世界の床をゆっくりと染めていく。

そのあまりに凄惨な光景へ、ゾルダは思わず息を呑んだ。

 

(....最悪だな.....)

 

心の中でそう呟いた途端、侵入者の気配を察知したディスコーピオンが、二つの複眼をギラリと光らせゾルダを捉えた。

 

「ギシャアアアア!!」

 

轟く咆哮と共に、巨体が一直線に突進した。

 

「っ!」

 

ゾルダは反射的に引き金を絞る。

マグナバイザーから放たれた銃弾がディスコーピオンの甲殻へ命中し、火花を散らす。

 

しかし、勢いは止まらない。

ゾルダは部屋から退こうとする。

だが、轟音と共にディスコーピオンの巨体が壁へ激突。コンクリートが紙細工のように砕け散る。

粉塵を巻き上げながら壁を突き破った怪物は、そのままゾルダへ体当たりした。

 

「ぐっ!」

 

ゾルダの背中が、鋭い衝撃と共に廊下の壁へ叩きつけられる。

巨大な顎が目の前まで迫り、鋭い牙が唸りを上げる。

 

「ちぃ……! コイツっ!」

 

巨大な顎が目の前まで迫り、鋭い牙が唸りを上げる。

両腕で顎を押し返し、必死に踏ん張るゾルダ。

装甲越しに伝わる圧力は凄まじく、一瞬でも力を抜けば、そのまま喉元を食い千切られるだろう。

 

「朝から……嫌なモン見せるな!」

 

至近距離でマグナバイザーを持ち上げた。

銃口を怪物の口内へ突き込み、乾いた銃声が立て続けに響く。

 

「ギシャァァァッ!?」

 

炸裂した銃弾が口内で爆ぜ、ディスコーピオンは苦悶の咆哮を上げながら大きく身を引いた。

怯んだ巨体が廊下の奥へと一時的に撤退する。

その隙にゾルダは壁から身体を離し、乱れた呼吸を整えた。

 

「……今のモンスター」

 

あの蠍型のミラーモンスターには見覚えがある。

 

「確かアイツの……」

 

胸部アーマーを押さえながら呟いた。

 

その時だった。

静まり返った廊下へ、新たな足音が響く。

一定の間隔だが、その速度は速く一直線にこちらへ向かってくる。

 

「!」

 

ゾルダは瞬時に振り返る。

同時に、一つの閃光が視界を切り裂いた。

振り下ろされた刃を、咄嗟に掲げたマグナバイザーで受け止める。

金属同士が激突し、激しい火花が廊下へ飛び散った。

 

「ぐぅっ……お前……!」

 

鍔迫り合いの先に立つのは、深紅の装甲を纏った仮面ライダースティーガ。

ディスティングバイザーの刃へさらに力を込めながら、

彼女は仮面の奥から凍りつくような声を発した。

 

「邪魔しないでもらえますか?」

 

その声音には怒りも焦りもない。

あるのは、人の命を奪うことさえ何でもないかのような、

底知れない冷たさだけだった。

 

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