にも拘わらず、まだ執筆意欲が戻ってなく
他にも作成中のイラストがあったりとで、
今回は前回以上に短いです.....
北岡の助け船によって、どうにかルリの襲撃から逃れた美穂。
彼女は今、吾郎が運転する車の後部座席に身を置いていた。
車は都内の大通りを走っている。
車内の空気は異様なほど重い。
美穂は後部座席から、助手席に座る北岡の背中を鋭く睨みつけていた。
「それで……自分も負傷したから、今だけでも私と組めって? あの子を止める為に」
痛む右腕を左手でかばいながら、その目には依然として北岡への不信感が滲んでいる。
北岡も痛む身体を押さえながら、神妙な顔で続けた。
「止めるだけじゃない。あいつを追えば、浅倉の所在も掴めるかもしれない。悪い話じゃないだろ?」
「………」
美穂はしばらく黙ったまま、窓の外へと視線を逸らした。
流れていく街並みを眺めながら、ゆっくりと口を開く。
「……そうだな。あの娘の相手をする事には賛成。浅倉みたいな真似をする奴を放っとくのも癪だし……でも」
再び北岡へと視線を戻す。鋭く、真っ直ぐに。
「見返りは何?事が済んだら私に何を求める訳?」
「お前……」
「本音を言えば、お前と手を組むなんて心底御免だよ。顔すら見たくない」
「……そんな事言ってる場合か?」
簡単に首を縦に振らないのは分かっていた。
だがこっちだって不本意だ。
流石に苛立ちが募り始めた北岡へ、美穂は構わず続けた。
「昨日、言いそびれた事がある。法律は所詮ルール、個人の味方じゃないって言ったよな? それ、自分が同じ被害者の立場になっても言える?」
「…………」
北岡は黙り込んだ。
これまで自らの手腕を世間に見せつけるように、数多の罪人を無罪にしてきた。
被害者や遺族の気持ちを顧みず、法律という正当な力で人々の心を踏みにじってきたのは紛れもない事実だ。
「お前はそうやって、何人もの被害者遺族を苦しめてきたんだ。警察を守るのも、どうせ自分の商売に支障が出るからだろ?」
「!」
その言葉に、流石の北岡も声を荒げた。
「……ああ、そうだよ! 自分の為でもあるさ!」
警察署は証拠品の宝庫だ。
弁護士にとって欠かせない存在である。故にこれは自分の利益にも直結する。自分のこれまでの所行も、十分に自覚している。
女性には優しくをモットーとする自分らしくない行動だが、この危機的状況でさえ一方的にまくし立ててくる目の前の女に、さすがに反論せずにはいられなかった。
「解ってるさ! 自分がしてきた事くらい! 俺だってな、城戸か秋山が生きてたら、お前なんかに頼らないって!」
秋山蓮——仮面ライダーナイト。
城戸真司とは意見の食い違いで度々衝突しながらも、何だかんだで行動を共にしていた男だ。
願いの為の戦いには比較的肯定的で、無関係な人間が死ぬことを良しとせず、もし今回の事態に居合わせたら彼なら協力的だっただろう。
だがそんな彼も、自分たちの知らぬ間に戦いの中で散っていった。
現状、利害が一致しそうな相手が美穂しか思い浮かばない。
よりにもよって自分を敵視しているこの女だ。
しかも彼女は自分の事を棚に上げてこの言い草。その現実が余計に苛立ちを募らせる。
「そんなに俺が憎いなら好きにしろ! でもお前は一人でやれるのか!? あの子と浅倉相手に、そんな体でさぁ!? 大体、男騙し回ってる詐欺師のお前が言えた事か!? それこそ自分は被害者だから何しても良いと思ってる証拠だろ!?」
「はあ!? 今それ関係ないだろ!? 私が騙してるのは碌でもない奴だけだ!」
「刑法第246条が適用される、立派な犯罪だ馬鹿!」
「........」
大の大人二人が後部座席と助手席で怒鳴り合う。
吾郎はその喧騒を物ともせず、無言のままハンドルを握り続けた。
北岡は敵を作りやすい人間だ。争いごとには慣れている。
とりあえず反射物の少ない場所へ向かうしかない。
ルリの標的が美穂である以上、街中に留まるのは危険だった。
下手をすれば無関係な市民を巻き込みかねない。
だが、物事はそう上手く運ばない。
北岡たちの車が、手前で停車していた車を通り過ぎようとした
その時だった。
周囲を鮮明に映し出すほど磨き上げられた車のボディ。
その表面が、まるで水面のようにゆらゆらと静かに揺れ始めた。
直後。
ボディから、一本の巨大な尻尾が飛び出した。
先端に鋭利な針を備えた、
ディスコーピオンの尻尾だ。
「っ——!」
尻尾の針が、走行中の北岡の車の前輪を正確に突き刺す。
タイヤが瞬時に破裂し、車体が激しくバランスを崩した。
「うわあああ!!」
「くう!」
吾郎が即座にブレーキを踏み、ハンドルを力いっぱい操作する。
だが勢いは殺しきれない。
前方、信号待ちの車が迫る。
間一髪でハンドルを大きく切った。
車との衝突は免れた。
しかし車体が歩道へ乗り上げ。
そして――。
凄まじい衝撃音とともに、車が横転。
ガラスが砕け、部品が道路へ散らばる。
そのまま車体は路地脇の壁へ激突し、ようやく停止した。
「いっててて……ゴローちゃん、大丈夫?」
「俺は……平気です……」
エアバッグに顔を埋めた吾郎が、くぐもった声で返す。
「霧島は?」
北岡が周囲を見回した、その瞬間。
「は……離せ……よ……」
「!?」
いつの間にか車外へ這い出ていた美穂が、すぐ側の窓ガラスへと腕を伸ばしていた。
いや、伸ばしているのではない。
美穂の手首から先は、水の中に突っ込んでるかの様に窓ガラスの中に埋もれている。
何者かがミラーワールドから彼女の腕を掴み、引きずり込もうとしているのだ。
その何者かの正体は、状況からして察するのは難しくない。
「霧島!」
「う、うわあああああ!!」
美穂の必死の抵抗も空しく、彼女の身体は勢いよく窓の中へと飲み込まれた。
北岡はすぐさまカードデッキを手に取り、痛む身体を押して立ち上がった。