学園最強の腰巾着 作:相川
まあでも物語の方向性自体はかなり近いはず。リメイク。……リメイクって言えるのか?
魔導の才、武道の才、そして戦いの才能に愛された月城家の寵児である。
容姿端麗、頭脳明晰。欠点の存在しない完成された存在。一万年に一度の才女。
周囲は彼女をそう評する。如何に高貴な存在だろうと、如何に低俗な存在だろうと彼女を前にしてしまえばみな一様に魅入るしかない。神に愛されているとは彼女のために存在する言葉なのだろう。
誰も彼もが彼女を羨み、妬み、そして羨望の対象として見る。
優れすぎている才を持っている彼女と張り合おうとする人間など存在しなく、人々から彼女は偶像として持て囃されるようになった。
義務教育では千景と友人であることにステータスを感じた浅ましい人間に付きまとわれ、その他の一般的な感性を持っている者からは遠巻きにされ。
何もしていないのに身に覚えのないことで妬み嫉みを抱かれる。
あまりに容姿端麗であることから、メディアは彼女をまるでアイドルのように持ち上げ報道する。月城家は現代日本における魔術の祖である月城宗次という偉人を輩出した名家だ。必然、そういった社交の場と関りを持つことも多くなる。
この十八年間、間近で彼女のことを見てきた俺は思う。
……うわぁ。
と。
よくもまあ、あんな環境で普通に育つことができたなという感想しか抱かない。俺だったら絶対に嫌だったと思う。普通に嫌気がさして引き籠る自身しかない。
自分と他人のあまりの違いに絶望したこともあったようだったし。
この世界は魔術が公に存在する地球である。今から約百年前に突如として異世界と衝突し、二つの世界の法則が交わった世界。まあ魔力とかそんなファンタジー的な要素がある現代日本だと思えばいい。
俺は単純に魔力とか存在しなかった現代日本から転生してきた一般男子である。
現代における魔術の必要性とは何じゃと思いましたか?
まあ、そうだよね。現代社会で魔術という新たな法則が誕生した。科学と魔術によって文明は一歩先を行くようになったけれど、だからと言って漫画のように戦う必要性はないよね。警察や自衛隊以外は。
最初は俺もそう思った。しかし、そうは問屋が卸してくれないのがこの世界。異世界では当たり前とされている現象、魔力の影響によって誕生するモンスターが地球でも発生するようになった。
魔力を糧に生まれ、無差別に生物を襲う凶暴性を持った『魔獣』。
魔力のある場所であればどこだろうとスポーンし、スポーンするタイミングに法則性はないため予測不能。そのため、黎明期における魔獣被害は非常に問題だった。また、非常に高い知性を持った人間形態の魔獣、いわば『魔人』も存在し、危険度で言えば圧倒的に後者の方が高い。
そんな秩序を乱す彼らに対して、人類側は防衛手段が必要になった。そこで、魔獣の発生源を意図的に操作することはできないかと考えた当時の学者たち──月城宗次を筆頭に現代魔術の祖と言われる世界中の知者と交流先の異世界『ミレトリア』の共同で生み出されたのが『ダンジョン』。
ダンジョンとは、異世界では当たり前に存在している地形異常のこと。
その内部では貴重な資源が自生するが、対照的に魔獣の発生も多い環境である。
地球の学者たちはこのダンジョンの性質である『魔獣の発生が多い』という点に着目し、ダンジョンを人工的に再現することができないかと試行錯誤した。
結果として、魔獣をおびき寄せるためだけの檻としての役割が期待されたダンジョンが誕生し、以来魔物の発生率は九割九分がその人工的なダンジョンに収束している。
このダンジョン内部の魔獣を狩り、氾濫を防ぐ職業が『迷宮士』と呼ばれる人々になる。
そのため、現代でも学問としても実践面でも魔術は役に立つ……。というか必要不可欠になる場面は多い。
現代兵器でも対応できる場合もあるが、ダンジョン内は狭いから。
そして、そんな『迷宮士』を育成するための学校に俺たちは通うようになったんだが。
閑話休題。
千景とは幼馴染で、月城家と割とかかわりのある神代家に生まれたのが俺だ。これでも俺はそこそこ格の高い家に生まれた人間なのである。まあそんな感じはしないけど。
月城家とは違って界隈ではそれなりに名が知れているというだけであって、世間で神代家なんて大層に威張ったとしても何の効力もない。
前世の感性が邪魔をしているのか、それとも良い影響を与えているのか。俺の感性は別に普通の一般人だ。家族は神代の人間であることをアイデンティティとして誇りに思っている節はあるし、実際自分の家を誇りに思うのは大切なことだ。
俺も多少は誇りを胸に生きているけど、どうしても前世での感覚が拭えず。
一般家庭の一般的な感性が俺にとっては心地よいのだ。
ああいや、別に今世の家族が威張り散らかしているだとか、誇りが強すぎて生きづらいとかではない。ただ、魔術分野においてそれなりに名の知れた家に生まれたけど、そんな実感が全然ないなってこと。
神代家はかなりミーハーな精神してるし。
「……ねぇ」
俺は魔術なんてものがない時代から転生してきた人間だ。
転生先は異世界ではないと思っている。この地球は現在西暦2300年らしい。俺が死んだのは大体2050年くらいだったので、あれから250年が経過した地球である。
つまり、転生は転生だけど別に異世界に転生したわけではないということ。
記憶を持ちこしてしまっているが、輪廻転生を果たした人間である。この世界に転生してこの世界の歴史を調べてみたが、歴史は俺の記憶と全く一致していた。
縄文時代から始まって令和の時代。第二次世界大戦が1945年に終わったのも、18世紀半ばのイギリス産業革命だって、江戸幕府の鎖国政策だって俺の記憶通りだった。フランス革命、オイルショック、キューバ危機。
考古学の発展やらで新たに明らかとなった事実こそあるが、大枠は同じである。
俺が生きていた時代で流行った漫画やアニメの類はこの世界にも存在しているし、令和のコロナ大流行だって歴史の教科書に載っている。
まさか250年で異世界人と接触して魔術という概念が一般化しているとは思うまい。
どういうわけか前世の記憶を持ち込めたおかげでこの世界は楽しいことだらけだ。強くてニューゲームではないが、一度人生を終えているのでゲームクリア後のエンドコンテンツに突入している感覚に近い。
「……ねぇ」
俺は今十八歳の節目を迎え、大学に入学することになっている。
迷宮士を育成するカリキュラムのある学校は数あれど、ここは日本でもトップの学校。
魔術の歴史を語るうえで避けては通れない、日本史上初めて魔導を学問として研究し、講義するようになった学校。
国立総合魔導学園。
俺はその戦闘魔術学科に所属している。ちなみに幼馴染である月城千景もだ。
千景がこの学校に入学することは分かり切っていたことだが、まさか俺と同じ学科を希望するとは思わなかった。
こんな所でも同じになるとは、幼馴染とはいえなんとも奇妙な縁である。
「……ねぇ。ねぇってば。おい!」
「……何?」
「何じゃないでしょ!? もうすぐ基礎ゼミが始まるんだから教室移動するよ!」
「あれ、もうそんな時間だっけ。すまんすまん」
同じ大学、同じ学科に入学した千景とはカリキュラムも全く同じなので必然的に一緒に行動することになる。千景とは小さいころからの関係で、大学に入って知り合いのいない環境だとかなり助かっている。
ひとりぼっちでもなんとかならないこともないが、心細いし。
月城千景なんて言ったら魔術界隈では有名人である。必然的にこの学校でも注目を浴びる存在なのだが、よくわからんがまだこの大学で友人と呼べる存在を作っていないらしい。
正直、千景は幼いころからのエリート教育によって既にこの学校の誰よりも知識実力共に高い。
まあそうだろう。実戦魔術の全国大会とかでも優勝経験あるし、入学時点で学園最強だろうと目されているほどだ。そして俺はそんな彼女の腰巾着。
でも千景と一緒にいると色々とメリットがあるので腰巾着はやめられない。
威張れるし、何かあった時に彼女に泣きつけば問題は解決するし。勉強で分からないことがあれば教えてくれる。実戦的な魔術は感覚派すぎるので教えてもらっても全く分からないし、実力差がありすぎるので模擬戦をしても一方的にやられるだけ。
やばいね。
客観的に見ても俺は金魚のフンすぎる。
月城千景というのはそれだけ有名人なのだ。
入学当初、千景を目当てに様々な学生が群がってくるほどだった。正直あの時は俺も巻き込まれたし、誰だお前みたいな目で見られることもあったけど。
教師陣からは月城家のご令嬢ということで目をかけられることもあるし、何なら既に知り合いという場合もある。俺もこの大学の先生とはある程度顔見知りだったりする。
あ、コネ入学じゃないからね。
ちゃんと実力で入りました。
前世になかった魔術を勉強するのは楽しい。一度人生を終わらせている身からすると、あの時は苦痛でしかなかった勉強も色々と理解して大人になった後に学びなおすと割と興味深いところがあったりするというのが身を以て理解できた。
「つーか基礎ゼミまで同じになるってどうなってんだよ」
「学籍番号順なんでしょ。私と
「あー、そういうこと」
受験番号が隣接していたので、両者ともに合格した場合はそのまま学籍番号となりそのまま近しくなるってことね。
さて、まあそんなこんなで。
二度目の人生なんだ、別に成功に固執することもない。気楽に、それでいて楽しく真面目に人生を楽しもう。