ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
準決勝は、まさに限界を超えた佳境を迎えていた。
ファイヤーは無傷だが、ガラルフリーザーは【ステルスロック】や先ほどの一撃で着実にダメージを負っている。しかし、そのガラルフリーザーの周囲には、圧倒的な威圧感と共に能力変化のオーラが渦巻いていた。攻撃・防御・素早さが1段階、そして特攻と特防はなんと最大まで上昇している。
「(この状態の特防なら、【燃え尽きる】を直撃させても倒せない……)」
ヒビキは瞬時に判断を変える。
「ファイヤー! 【原始の力】!」
「フリーザー! 【凍てつく視線】!」
ファイヤーが放った無数の岩石は、ガラルフリーザーから放たれた紫色の光線の一閃により、粉々に粉砕された。
『なんと!? 凄まじい破壊威力だ!』
『【瞑想】で特攻を限界まで上げていますからね。並の特攻では、今のフリーザーに有効打を与えることすら困難でしょう』
ヒビキは唇を噛み、強引に戦場を書き換える決断をした。
「しょうがない……【日本晴れ】!」
フィールドの天候が劇的に変化し、日差しが強烈に降り注ぎ始める。炎タイプの技を最大限に高めるための布石。それを見たマサトシも、互いに「次の一撃で全てが決まる」と悟った。会場の空気は張り詰め、観客たちは呼吸を忘れてその一瞬を見守っていた。
「ファイヤー、すべてを懸けろ! 【フレアドライブ】!!」
「ギュアアアアッ!!」
「フリーザー、決めるよ! 【アシストパワー】!!」
「キュオオオッ!!」
最大まで高まった特攻から繰り出される【アシストパワー】と、日差しを浴びて紅蓮に燃え盛る【フレアドライブ】。二つの神速の奔流が、フィールドの真ん中で正面から激突した。
あまりの衝撃に、観客は皆顔を覆い、飛来する砂塵と熱風を防ぐ。爆炎が渦巻く煙の中から、二つの大きな影が重力に従って地面へと落下し、激しく叩きつけられた。
煙が晴れると、そこにはボロボロになり、翼も折れかけた二羽の伝説の姿があった。
ファイヤーとガラルフリーザー。両者とも気力だけで立ち上がろうと身震いし、再び火花を散らす体勢を取る。しかし、直後──ガラルフリーザーが力なく崩れ落ちた。
「フリーザー、戦闘……いえ! ファイヤー、戦闘不能! フリーザーの勝ち! よって勝者、アラベスクタウンのマサトシ!」
審判の宣告が響く。会場は一瞬の静寂の後、困惑に包まれた。
『どういうことだ!? どう見ても最後に立っていたのはファイヤーに見えるのですが……』
ベカンの動揺する声に、解説のシアンが冷静に答える。
『いえ、よく見てください。ファイヤーは立ったまま、すでに意識が途絶えています。対してガラルフリーザーは倒れてはいますが、まだ意識を保ち、起き上がろうという意志がある。審判はそこを見極めたのでしょう』
観客たちが目を凝らすと、ガラルフリーザーは泥を吐きながらも確かに立ち上がろうともがいていた。一方、ファイヤーは白目を剥き、微動だにしなかった。
二人のトレーナーは、静かにそれぞれの相棒をボールへと戻した。
「次は、勝つ!」
「負けないよ!」
言葉数は少ないが、そこには確かに芽生えたライバルとしての敬意があった。二人が力強く握手を交わした瞬間、会場を揺るがすほどの割れんばかりの拍手が巻き起こった。
控え室に戻ったヒビキは、誰に見せることもない涙を流していた。
「みんな……ごめん。優勝、届けられなくてごめん」
モンスターボールを抱きしめて震えるヒビキのもとに、静かに気配が近づく。様子を見に来た兄のジストと、姉のアオバだった。二人は何も言わず、ただヒビキの悔しさが少しでも落ち着くのを待つため、背中越しに優しく寄り添っていた。