ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
二人が握手を交わしたその時だった。廊下の影から、柔和な笑みを浮かべた男が3人の部下を引き連れて近づいてきた。
「おおっ、よかった。ヒビキ選手とマサトシ選手だね。君たちの準決勝、実に素晴らしい試合だったよ」
声をかけてきたのはシラサギだった。ヒビキが怪訝そうな表情で問いかける。
「貴方は……サカキさんの部下の方でしたよね?」
シラサギは優雅に会釈した。
「シラサギという。実はね、二人をスカウトしたくてね。我が『ロケットカンパニー』は今、新人トレーナーの支援と育成を新規事業として始めている。今回の決勝進出者であるナツミ君も、その支援を受けた一人なのだよ。本題だが、今後のリーグ挑戦に際して我がカンパニーが支援をさせてくれないか? 受ける場合は、ロケットカンパニーの『専属トレーナー』という形になるがね」
二人は顔を見合わせ、首を横に振った。
「うーん、申し訳ありませんが辞退させてください。もう少し自分の力で試してみたいので」
「俺も憧れている人たちは、自分の道は自分で決めていた。だから俺もそうありたいんです」
断られたシラサギだったが、なぜかその笑みはさらに深まった。
「そうか、断ると……ありがたい!」
「「……え?」」
呆気にとられる二人に、シラサギは苦笑しながら説明を加えた。
「すまない、説明不足だったね。実は、君たちのような実力者がいた方が、今後の支援を受けたトレーナーたちの『壁』として非常に都合が良い。断ってくれた方が我々としても計画が立てやすいのだよ」
和やかな空気が流れたのも束の間、突如として周囲の空気が凍りついた。ロケット団の制服に身を包んだ複数の男たちが、殺気を放ちながら二人を取り囲んだ。
「ガキども、ファイヤーとガラルフリーザーを寄越せ!」
彼らがポケモンを出そうとボールに手をかけた瞬間、シラサギと部下のリョウ、ケン、ハリーが瞬時に二人の前に躍り出た。
「ここは我々に任せたまえ。リョウ、ケン、ハリー!」
「「「了解致しました、専務!」」」
「「……専務だったんだ!?」」
四人の動きは凄まじかった。先ほどまで油断を見せていたのが嘘のように、下っ端たちを瞬く間に圧倒し、力ずくで制圧してみせた。
「すまないが、警察を呼んできてくれないか」
「「わかりました!」」
ヒビキとマサトシが警察を呼びに走った直後、シラサギの冷徹な問いかけが響いた。
「さて……お前ら、なぜ命令を無視した?」
しかし下っ端たちの目は虚ろで、焦点が合っていない。彼らは無言で懐から何かを取り出し、口に含んで飲み込んだ。途端に彼らは喉を押さえて苦しみだし、そのまま動かなくなった。
「何っ!?」
リョウたちが駆け寄るが、表情を曇らせる。
「ダメです……死んでいます……」
事態の異様さに驚愕していると、ニャースが息を切らして駆け込んできた。
「シラサギ様、大変ニャ! 命令を無視した奴らがナツミを襲撃したニャ! ムサシとコジロウが助けてなんとかなったけど、そいつらも薬を飲んで自殺したニャ! 一人だけ阻止して抑えてるけど……どうやら、何者かに『操られている』みたいニャ!」
シラサギは即座に決断した。
「分かった、ニャース案内しろ。お前たち3人は警察に事の次第を説明しておけ」
現場では、アーボックが最後の一人を拘束していた。シラサギはクイックボールを投げ、フーディンを呼び出す。
「フーディン、その者の洗脳を解け」
フーディンがサイコパワーを放つと、下っ端はハッとして我に返った。
「あれ……何でこんな所に……って、シラサギ様!?」
「何があったのか説明しろ」
男の証言によれば、緊急指令で集められた先の記憶がすっぽりと抜け落ちているという。シラサギは鋭い眼光で男を見据えた。
「そうか……すまないが、お前の身柄は私が預かる。ムサシ、コジロウ、ニャース、この事は他言無用だ。中隊長たちには私が直接説明する」
華やかなリーグの裏で進行していた、影の陰謀。シラサギの表情には、組織の幹部としての冷酷さと、サカキの意向を無視した何者かに対する静かな怒りが入り混じっていた。