ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
マスター道場での修行から3週間が経ち、いよいよヒビキの特別な修行の時がやってきた。
「さてっ、この特訓はダクマの進化に関わる修行なのよん」
「進化ですか?」
セナがそう聞くと、マスタードは頷いて二体のウーラオスの姿を映し出した。
「そう! ダクマの進化はすこーし特殊で、この島にある『悪の塔』か『水の塔』、そのどちらかをクリアして初めて進化できるの」
「また変わった進化ですね。どう違いがあるんですか?」
リンの質問に対し、マスタードは軽快に説明を始めた。
「皆から見て右が『連撃』の型。タイプは水・格闘。多撃必倒を信条に連続攻撃を得意とするスタイルで、蟷螂拳を思わせる構えをとるの。冷静沈着で相手の敵意や攻撃をかわしながら様子を探り、実力を測って戦う。戦闘中は水のように緩やかな動きで相手の動きを受け流しつつ、途切れる事なき怒涛の連続技で相手を圧倒するよん」
「左が『一撃』の型。タイプは悪・格闘。一撃必殺を信条に全力投球を得意とするスタイルのウーラオス。八極拳を思わせる構えをとるの。血気盛んで情け容赦のない戦い方を好み、激情すると見境なく相手を追い詰め叩きのめす。直線的な動きが特徴で、離れた間合いから瞬時に相手の懐に飛び込み、鍛えられた拳を叩き込むよん。ヒビキちん、リンちん、セナちんが見たことがある方がこの子だね」
「兄貴が手持ちの方ですよね」
「そだよん♪」
説明が終わると、ヒビキは傍らのダクマに視線を向けた。
「お前は、どっちになりたいか決まったのか?」
「ん? どゆことや?」
リンが怪訝そうに尋ねると、ヒビキはダクマの事情を説明した。
「ダクマが修行していたのは、どっちに進化しようか決めるために来てたんだ。兄貴のところだと『一撃』のウーラオスしか近くにいないからな」
その理由を知り、二人は納得の表情を浮かべる。ダクマは一度、二つの型を見つめると、決意に満ちた表情で右側──『連撃』の幻影へと歩み寄り、その前で立ち止まった。
「『連撃』の方でいいんだな?」
ヒビキの問いに、ダクマは力強く頷いた。兄の「一撃」とは異なる、自らが選んだ「水」の道。
「師範、水の塔に挑戦します!」
「オッケー! 唯、ダクマだけで挑戦してねん」
「分かりました!」
「頑張って下さいねぇ」
「きばってなぁ」
仲間たちからの声援を受け、ヒビキは他のポケモンたちを道場に預けると、ダクマと共に水の塔へと向かった。
海岸沿いにそびえ立つ水の塔は、激しい潮騒を響かせていた。ザザーンと岩場を洗う波の音が、挑戦者の鼓動と重なる。これまで常に仲間と共にあったヒビキにとって、ここからはダクマと二人きりの戦いだ。
「準備はいいか、ダクマ」
「ベアマッ!」
波飛沫を浴びながら、ダクマは拳を握りしめる。その瞳には、これから始まる厳しい修行への覚悟と、自らが選んだ『連撃』の型への確信が宿っていた。
ヒビキは遠くに見える道場を一度だけ振り返り、覚悟を決めて塔の重厚な扉を押し開いた。潮風が二人を後押しし、伝説への階段を上るための、二人だけの戦いが静かに幕を開けた。