ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
夢の中で見たあのポケモンが、今、目の前にいる。
ヒビキが呆然としていると、そのポケモンは「着いてこい」とばかりに雪原の奥へと歩き出した。ヒビキはフーディンを連れてその後を追う。
「カム、クラウ。ブルム……」
ポケモンが何かを語りかけてくるが、言葉の意味がさっぱりわからない。困り果てたヒビキの様子を見て、フーディンが鋭い眼差しで集中し、自身のサイコパワーを駆使してヒビキにテレパシーを送った。
『カンシャスル。オヌシガ、ヨノゾウヲモトニモドシテクレタコトデ、ホンノスクシチカラガモドッタ』
フーディンの翻訳のおかげで、徐々にその言葉は明瞭に理解できるようになった。
「俺はヒビキ。……お前は?」
『ヨハ、バドレックス。豊穣の王ト呼バレシ者。遥カ昔、ヨハコノ地ノ王トシテ君臨シテイタ。シカシ永イ時ガ経チ、コノ地ノ者ハヨヲ忘レ信仰シナクナッタ。ソレニヨリヨノ力ハ堕チ、愛馬タチニモ逃ゲラレタ』
悲痛な告白がヒビキの胸に刺さる。その時だった。ヒビキのサイドバックから突如ファイヤーが現れ、バドレックスに向かって深く頭を下げた。
『オヌシハ、久しブリダナ。アノ目ニ移ルモノヲ焼キツクサンバカリノ激シサガ、随分丸クナッタナ』
バドレックスも穏やかなテレパシーを返す。
『そうデアル。コヤツガマダマダ雛ニ近イ時ニ親ニ連ラレ会ッタノダ。100年位前デアルナ。当時はマダ愛馬タチモオッタノダガナ』
「……二人は知り合いだったのか。それにしても大変そうだな。」
驚いていたヒビキがそうポツリと漏らすと、バドレックスは静かに首を振った。
『問題ナイデアル。むしろ、コンナニ弱マッタヨノ元ニイルヨリ、自由ニ暮ラシテクレタ方ガ安心デアル』
かつての王の慈愛に触れ、ヒビキが息を飲んだその時。ファイヤーが何かを察したのか、ヒビキ、フーディン、そしてバドレックスをその大きな背に乗せ、雪原の空へと飛び立った。
風を切って飛ぶこと数分、着陸した先には、見たこともない奇妙な繭のような物体が鎮座していた。
「なんだこれ?」
『ナント願い星デハナイカ!』
「願い星? ガラルで時折見つかるあれか?」
『ソッチデハナク、1000年ニ1度目ヲ覚マシ様々ナ願イヲ叶エルポケモンデアル。確カニ「ジラーチ」ト呼バレテオッタハズデアル』
バドレックスの言葉に、ヒビキの目が見開かれる。
「なら、そいつに頼めば……! お前の力を取り戻せるんじゃないか?」
ヒビキの問いに、バドレックスは少しだけ躊躇いを見せた。
『……良イノカ? オヌシニモ叶エタイ願イガアルノデハナイカ?』
ヒビキは迷いなく、あっけらかんと笑った。
「そりゃあるけど……その内叶うからいいかな」
その言葉に、バドレックスはしばし沈黙し、やがて慈しむような光を灯した。
『感謝スル……ヒビキ。後少シデ目覚メルデアロウ。それまで一緒ニ居テクレヌカ?』
「良いぞ」
ヒビキは伝説の繭の傍らに腰を下ろした。冷たい風の中、ジラーチが目覚めるその時を待つ、特別な時間が静かに流れ始めた。