ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
ジラーチは眠りの周期へと戻るまでの間、どこかへと飛び去っていった。ヒビキはひとまず村へ戻り、民宿で休息を取った。
翌日、再びバドレックスの元を訪ねると、そこには驚きの変化があった。
「待っていたのである」
バドレックスが、何の介在もなしに流暢な人間の言葉を口にしたのだ。
「何で!? 話せるのか?」
「力を取り戻したおかげである。以前はテレパシーを使わずとも会話できていたのだが、信仰を失い力が弱まるにつれ、人との繋がりも絶ち……いつの間にか話せなくなっておったのだ」
バドレックスの寂しげな告白に、ヒビキは少し躊躇いながらも、昨日と今日で村の人々から聞いた話を伝えた。
「あ……ああ。あと、村の人たちに聞いたんだが、お前のことを知っている人はほとんどいなかった」
「……仕方のないことである。衰えていたヨの自業自得よ」
ヒビキは気を取り直して続けた。
「でもな、愛馬たちの好物が歌として残っていた。歌詞の内容からして、たぶん『人参』のことだと思う」
「そうであった! 我が愛馬たちは大好物を見ると、一目散に駆け寄っておったのである!」
その言葉に、ヒビキは村で人参の種を譲り受け、バドレックスから教わった「特別な人参」が育つ場所へ種を蒔いた。バドレックスが豊穣の力を注ぎ込むと、瞬く間に光る人参が実った。二種類の人参が計10本。
「やはり、まだまだであるな……以前ならもっと太く、多くの人参を実らせることができたのだが……」
「しょうがないさ。まずはここからだろ?」
ヒビキが優しく慰めた、その時だった。
ザッ、ザッ……と、凍てつく雪を踏みしめる重厚な蹄の音が響く。
視線の先には、氷を纏った白き巨馬・ブリザポスと、霊魂を従えた黒き馬・レイスポスの姿があった。
ヒビキのポケモンたちが一斉に飛び出し、彼らを守るように構える。しかし、バドレックスはその光景を見て歓喜に震えた。
「おおっ! 我が愛馬たちよ!」
バドレックスが手にした人参を捧げ、駆け寄ろうとした瞬間──ブリザポスとレイスポスが凄まじい威圧感でこれを制した。
「……なんか、かなり怒ってないか?」
「仕方ないのである。ヨが力を失い、落ちぶれてしまったことで愛想を尽かしたのだろう……」
バドレックスは悲しげに瞳を伏せ、二頭の前に深々と頭を下げた。
「済まぬ! このヒビキたちが力を貸してくれたおかげで、全盛期の四割ほどまで力は戻った。お主たちにとっては変わらぬかもしれぬが、ヨは……もう一度、お前たちと共に歩みたいのだ! お主たちの好物も少ししか用意できぬが、これから頑張ってまた作ってみせる!」
真摯に、王としてではなく「かつての友」として頭を下げるバドレックス。その姿に、二頭の馬はしばらく無言で睨みつけていたが、やがてフンと鼻息を鳴らすと、差し出された人参を一本ずつ口にした。
「共に居てくれると言うのか……!?」
二頭は仕方ないといった様子で、小さく頷く。
「ありがとう……レイスポス! ブリザポス!」
「良かったな、バドレックス!」
ヒビキの笑顔を見て、バドレックスは感慨深げに頷いた。
「お主には感謝してもしきれぬ。本当にありがとう、ヒビキ!」
豊穣の王と二頭の馬。かつての絆が、ヒビキという新しい架け橋によって、再び静かに結ばれた瞬間だった。