ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
申し訳ありません。
ヒビキはキキョウシティにたどり着くと、まずはポケモンセンターで旅の疲れと手持ちの回復を済ませ、キキョウジムのある巨大なビルへと向かった。
受付でジム戦の申し込みを済ませると快く承諾され、エレベーターで最上階へと昇る。扉が開いた先、吹き抜けの開放的なアリーナには気球が浮かんでおり、そこからジムリーダーのハヤトがヒリッとした気配を纏いながら舞い降りてきた。
「君が挑戦者だな。……おや、確か君はセキエイリーグ3位のヒビキ選手か!」
ハヤトはすぐにヒビキの顔を思い出し、驚きと同時に目を輝かせた。そして、期待に満ちた表情でとある頼み事をしてくる。
「是非、鳥ポケモン使いの端くれとして、君の持つ『ファイヤー』と戦わせてくれないか!」
「うーん、別の人にも言ったんですが……ファイヤーは普段放し飼いみたいな状態で、今こちらに居るかどうか……確認してみますね」
「そうなのか……わかった、居ないようであれば通常のジム戦で頼むよ」
快く引き下がってくれたハヤトに礼を言い、ヒビキはジムの通信装置を借りてオーキド博士の研究所へと連絡を入れた。
『おお、ヒビキか! グッドタイミングじゃ! ファイヤーなら、ついさっき気まぐれに庭へ帰っておるところじゃぞ!』
「本当ですか! じゃあ、今すぐこっちに送ってください!」
『うむ、了解じゃ! すぐに転送しよう』
通話を終えてしばらくすると、手持ちの転送装置が激しい光を放ち、圧倒的な存在感を放つ炎の鳥が姿を現した。そのことをハヤトに伝えると、彼は「そうか! いやぁ、本物の伝説のファイヤーと戦えるなんて……!」と、少年のように嬉しそうにはしゃいだ。
「ありがとうございます。ただ、その前に……まずは通常のジムバトルを先にやっても良いでしょうか?」
「もちろん構わないよ! 君の腕前もぜひ見てみたかったところだ」
お互いに頷き合うと、それぞれが気球のゴンドラに乗り込み、空中でのジムバトルがセッティングされた。
「改めて、俺はキキョウジムジムリーダーのハヤト! 世間では『鳥ポケモンは電気タイプに弱い』なんて言われるが……鳥ポケモンの真髄がそれだけではないと、ここで証明しよう! 行け、ホーホー!」
「ホー!」
「デビュー戦だ! 行け、ワニノコ!」
「ワニッ!」
ハヤトが繰り出したホーホーに対し、ヒビキはジョウト地方での最初のポケモンであるワニノコを出す。ワニノコを見た瞬間、ハヤトは目を見開いた。
「まさか、一回り大きいその体格は……親分個体か!」
「はい。なんでもウツギ博士の所に、新人トレーナー用と間違えて送られてしまったそうで」
「なるほど……そういう手違いが稀にあると聞いたことがあるな。だが、君の実力なら、その気性の荒いワニノコも完全に手懐けているというわけか」
ハヤトが納得したように頷くと、いよいよバトルが始まった。
「ホーホー! まずは小手調べだ、【啄む】!」
「ホホーッ!」
鋭く尖ったクチバシを向け、ホーホーが一直線に急降下してくる。
「ワニノコ、引き付けてから【アクアジェット】!」
「ワニッ!」
直前までじっとタイミングを計っていたワニノコは、目の前まで迫った瞬間に全身へ勢いよく水を纏わせ、爆発的な加速でホーホーの突撃を綺麗にすり抜け、そのまま強烈な体当たりを叩き込んで吹き飛ばした。
「ならば、【エアカッター】で距離を取るんだ!」
接近戦は分が悪いと判断したハヤトは、即座に遠距離戦へと切り替える。ホーホーが鋭い風の刃を放ったのを見て、ヒビキはすかさず指示を出した。
「【アクアジェット】で回避しろ!」
風の刃を水流の機動力で鮮やかにかわしたワニノコは、そのまま一気に間合いを詰める。至近距離に迫られたハヤトが動揺した隙を見逃さず、ヒビキが命じた。
「今だ、威圧して動きを鈍らせろ!【怖い顔】!」
「ワニッ……!」
ワニノコが凄まじい迫力で鋭い睨みを利かせると、その圧倒的な威圧感にホーホーは思わず竦み上がり、素早さがガクッと下がった。動きが鈍くなったホーホーを見て、ハヤトは焦りの色を滲ませる。
「やるな、ならば……【催眠術】で眠らせろ!」
「ホー!」
ホーホーの目が怪しく光り、眠気を誘う波紋がワニノコへと迫る。
「それは絶対に食らうな、躱して【水鉄砲】!」
ヒビキの鋭い指示により、ワニノコは体をあわてて大きく動かして催眠光線を必死で回避する。そして、空中に浮かぶホーホーの隙を逃さず、口から勢いよく圧縮した水を浴びせて地上へと撃ち落とした。
「動けなくなった今がチャンスだ、【アクアジェット】!」
「ワニャーッ!」
再び水流を纏ったワニノコが凄まじい勢いで突貫し、ホーホーを激しく吹き飛ばした。ズシンと重い音が響き、ホーホーはそのまま目を回して戦闘不能となった。
「ワニャ!」
初めての公式なジムバトルで勝利を収めたワニノコは、誇らしく胸を張り、とても嬉しそうに声を上げた。
「よく育てられている。行け! ドードリオ!」
「「「ドドードッ!」」」
ハヤトが次に出したのは、三つの頭で威圧感を放つドードリオだった。フィールドに降り立った姿をひと目見て、ヒビキは心の中で値踏みする。
(強さは、俺のドードリオよりちょい上かな)
冷静に相手の実力を分析すると、すかさず指示を飛ばした。
「ワニノコ! 【クイックターン】!」
ワニノコが勢いよく飛び出して鋭い一撃を狙うが、ドードリオは軽やかなフットワークでそれをヒラリと回避する。しかし、ヒビキの狙いは最初から攻撃そのものだけではない。そのままワニノコを素早く手元へと引き戻し、新たなポケモンへとスイッチした。
「行ってこい! ポリゴンZ!」
「リリリ!」
青い奇妙な体躯を揺らしながら、色違いポリゴンZが不気味に現れる。
対するハヤトは、相棒であるドードリオを見据えて熱を込めた。
「ドードリオ! お前には俺の夢がつまっている! 跳べ!」
その言葉に応えるように、ドードリオは地を蹴った。それは通常のドードリオの常識を覆す跳躍であり、まるで他の飛行ポケモンが羽ばたくかのように、遥かなる高高度へと一瞬で跳ね上がったのだ。
「そのまま【跳び蹴り】!」
上空の頂点から、凄まじい重力を纏って急降下していくドードリオ。あまりの速度と質量に、ヒビキは眉をひそめた。
「上から来るか……! 【騒ぐ】で落とせ!」
ポリゴンZが口を開き、周囲を揺るがすほどの爆音を放って迎撃を試みる。しかし、ハヤトは少しも慌てなかった。
「こちらも【騒ぐ】で相殺しろ!」
ドードリオの三つの頭がそれぞれ一斉に大声を張り上げ、ポリゴンZの放った爆音の波を真っ向から掻き消していく。
「マジかよ!? 避けろ、ポリゴンZ!」
爆音が相殺された隙を突き、辛うじて直撃を免れたものの、着地したドードリオの脚が地面に叩きつけられた衝撃は凄まじかった。アリーナの床に、まるで蜘蛛の巣のように深いひび割れが四方八方に走る。
(あの高高度からの落下で、【跳び蹴り】の威力を跳ね上げているのか……。あんなの喰らったら、下手な防御特化のポケモンでも一撃で沈むぞ)
背筋が凍るような威力を目の当たりにしつつも、ヒビキは頭をフル回転させて反撃の糸口を探る。
「【騒ぐ】を続けながら、【放電】を放て!」
ポリゴンZの身体から、音波と黄色い電撃が同時に渦巻くように迸る。
「させない! 左右の頭は【騒ぐ】で音波を相殺、真ん中は【ドリルライナー】で突貫しろ!」
ハヤトの指示に従い、ドードリオは地上を猛烈な勢いで駆け抜ける。左右の頭が叫び声を上げて電撃と音波の一部を相殺し、防ぎきれなかったダメージを身体に受けながらも、真ん中の頭を鋭いドリル状に変形させて突進を敢行した。
凄まじい突撃がポリゴンZを捉え、たまらずデジタルな巨体が大きく吹き飛ばされる。
「流石に、三つの頭をフルに使わないと防げないか……!」
ハヤトが悔しそうな、しかし確かな手応えを感じる声を漏らすのを聞き、ヒビキは深く息を吐き出してポリゴンZに告げた。
「ここからが反撃だ。【悪巧み】で特攻を積め!」
不気味な光がポリゴンZの頭脳を駆け巡り、その知性が禍々しいまでの赤いオーラへと変換されていく。特攻が限界まで跳ね上がったのを確認し、ハヤトが再び勝負に出た。
「もう一度跳ぶんだ、ドードリオ!」
先ほどと同じように、再び空高くへと飛び立とうとドードリオが身構えたその瞬間、ヒビキの冷徹な指令が響いた。
「今だ、ポリゴンZ! 【破壊光線】!」
極限まで高められた特攻から放たれる、全てを焼き尽くすような最大火力の光線が、空へと向かって一直線に叩き込まれた。
「させるか! 【ギガインパクト】!」
ドードリオは上空から全身に凄まじいエネルギーを纏い、光線を正面から押し返そうと急降下で突っ込む。しかし、【悪巧み】で何段階も引き上げられた特攻の前には、その強引な突破も意味をなさなかった。
強烈なエネルギーの塊はギガインパクトの壁を易々と貫通し、ドードリオの巨体を完全に飲み込んでいく。
ドオオッ! と爆発音が響き渡り、光が収まったとき、そこには力なく倒れ込むドードリオの姿があった。
「ドードリオ、戦闘不能! よって勝者、マサラタウンのヒビキ!」
審判の凛とした声がアリーナに響き渡り、長かった激闘の終わりにピリオドが打たれた。
「はぁ……何とか勝てたか。かなりギリギリだったな……」
ヒビキが額の汗を拭いながら安堵の息をもらすと、ハヤトは手元のドードリオを優しくボールに戻し、清々しい笑顔で歩み寄ってきた。
「お見事だったよ。勝利の証として、ウイングバッジを渡そう。おめでとう!」
差し出されたバッジを受け取り、一礼したヒビキは、ふと笑みを浮かべて空を見上げた。
「ありがとうございます。……さて、それでは約束のファイヤーとのバトルを始めましょうか!」
「是非に! と、その前に……互いの全力をぶつけ合うためにも、手持ちの回復をさせてからにしよう!」
万全の準備を整えるため、お互いにポケモンセンターの医療ポッドで手持ちを全快させると、二人は再び気球のゴンドラへと乗り込んだ。
上空の風が強まる中、ハヤトはまっすぐに前を見据え、手元のモンスターボールを高く放り投げる。
「伝説の鳥ポケモン・ファイヤー……! その圧倒的な力に、俺達の全てで挑ませてもらう! 行け、エアームド!」
「エアームッ!」
金属質の翼を広げた鋼の鳥が、頼もしい鳴き声をあげる。それに応えるように、ヒビキは炎をまとう伝説の巨鳥を呼び出した。
「その強さ、余すところなく見せろ、ファイヤー!」
「ギュアアアッ!」
燃え盛る翼が空を赤く染め上げ、キキョウシティの上空で、伝説と鋼が激突する頂上決戦の火蓋が切って落とされた。