ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
エンジュシティにたどり着いたヒビキは、タケシから聞いた不穏な話を思い返し、一人で思案に暮れていた。
「大規模な闇オークションか……これは下手したら、また当分の間ジム戦が出来ない可能性があるなぁ……」
そんなことを考えながら街を歩いていると、「おや……ヒビキ君じゃないか。久しぶりだね」と、不意に声をかけられる。振り返ると、タマムシシティで知り合ったソウマが立っていた。
「ソウマさん! お久しぶりです」
「ここに何か探し物でもあるんですか?」
「ちょっと気になる噂があってね。あ、そうだ。セキエイリーグ3位入賞、おめでとう」
「ありがとうございます」
ソウマと言葉を交わしていると、少し離れた場所から「おっ、いたな。探したぞ」と声が飛んできた。振り返ると、ソウマと同年代くらいの精悍な青年が歩いてくる。
「すまん、知り合いを見かけてつい足が止まってしまってな」
「そうか」
ソウマは苦笑いしながら、その青年のほうへ向き直るとヒビキに紹介した。
「ヒビキ君、こいつはヒョウガ。俺の友人さ」
「初めまして、ヒョウガという」
「ヒビキです。よろしくお願いします」
簡単に挨拶を済ませると、ヒョウガが空を見上げて促す。
「それじゃ、行くか……」
「そうだな。それじゃヒビキ君、またどこかで」
ソウマとヒョウガの2人と別れたヒビキは、とにかく今の状況とジム戦が行えるかを確認するため、エンジュジムへと足を運んだ。
しかし、ジムの扉を開けて中に入ると、予想外の人物たちの姿に思わず足を止めてしまう。
「あれ? シアン兄? 何でここにいるの?」
そこには、ジムリーダーであるマツバだけでなく、ヒビキの兄貴分の一人であり、カントー四天王の一角でもあるシアンの姿があったのだ。
「おっ! ここに来たということは、ジム戦の挑戦か? 悪いが、しばらくの間は新規の挑戦は無理だぞ」
「やっぱりそうですか……」
「その様子だと、タケシやアカネからもう話を聞いているな?」
シアンの問いにヒビキがこくりと頷くと、傍らで様子を見ていたマツバがシアンに視線を向ける。
「シアン。彼は?」
「こいつが、前話した例の……」
「ああ、ジストの弟のヒビキ君か」
「え? マツバさん、俺のことを知ってるんですか?」
驚くヒビキに、マツバは柔らかな笑みを浮かべて答えた。
「マツバは俺の古い知り合いでな。以前、お前の話を少ししたことがあるんだよ」
「まぁ、前に別の仕事のついでに、遠くから勝手に覗き見ちゃったんだけどね」
「覗いた?」
首を傾げるヒビキに、シアンが説明する。
「マツバは『千里眼』の持ち主でな、遥か遠くの位置を精神の目で視ることができるんだよ」
「へぇ~……って、それって盗み見じゃ……」
「そう、案の定見えたのがバレて、ジストのランドロス達に殺気を含んだにらみ方をされたことがあるけどね」
そんな苦笑い混じりの裏話をしていると、ふとヒビキはある可能性に思い至り、目を見開いた。
「じゃあ、もしかして……」
「そういうことだ。開催が噂されている闇オークションの会場を、マツバの千里眼で探し出してもらうつもりだ」
シアンの言葉に、マツバも静かに頷く。それを聞いたシアンは、名案だと言わばかりにパチンと手を叩いた。
「よし、ヒビキ。お前も手伝え」
「えっ……俺も? いいの?」
「ちょっと待て、シアン! いくらなんでもそれは……!」
シアンの提案に、マツバが慌てて制止の声を飛ばす。しかし、シアンは真剣な眼差しで言い切った。
「お前と一緒なら、いざという時もなんとかなるだろ? ……だな、ジスト!」
その声に驚いて振り返ると、ジムの入り口付近に、腕を組んだまま難しそうな顔で佇むジストの姿があった。いつの間にかそこに現れていたらしい。
「兄貴、いつの間に……」
ジストは鋭い視線をシアンに向けると、低い声で拒絶の意を示した。
「今、ちょうど戻ったところだ……シアン。確かにヒビキは、新人とはいえセキエイリーグ3位だ。ファイヤーの強力なポケモンも所持している。だが、それでもコイツはまだ11になるかそこらのガキだぞ! 汚ねぇ大人の裏の世界の事情に首を突っ込ませるなんて、早すぎるだろ!」
弟を危険な任務に巻き込もうとするシアンに対し、兄としての強い怒りと保護欲を込めた言葉を叩きつけるジスト。それを聞いたシアンは、気まずそうに目を伏せると、素直に頭を下げた。
「そうだな……俺が悪かった。すまん、ジスト」
ヒビキの瞳に宿る真剣な熱と、その背後に感じる確かな強さに、ジストは息を呑んだ。かつては自分の後ろをただついてくるだけだった弟が、いつの間にか一人のトレーナーとして確実に成長している。
(……くそ、いつの間にこんな目を……)
ジストは頭をガシガシとかきむしると、観念したように深くため息を吐いた。
「……まったく。お前がそういう目をすると、昔からお袋に怒られたときの俺そっくりで文句が言えなくなる」
「じゃあ……手伝い、いいの?」
「……条件付きだ。俺かシアンの目の届く範囲から絶対に離れないこと。いいな?」
「うん! ありがとう、兄貴!」
パッと顔を輝かせるヒビキを見て、ジストは「れっきとした危険な仕事なんだからな……」と呆れつつも、どこか誇らしげな笑みを浮かべるのだった。
そんな兄弟のやり取りを、マツバは穏やかな笑みを浮かべながら見守り、シアンは「やれやれ、助かったな」と肩の力を抜くのであった。