ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
ジストから許可を貰ったヒビキは、直ぐにオーキド博士に連絡して手持ちの入れ替えを済ませた。
「お待たせ! 手持ちを入れ替えてきたよ!」
そう言いながらヒビキが披露した顔ぶれは、周囲の空気を一変させた。最初から手持ちに入れていた連撃ウーラオスの他に、リングマ、ニドキング、ファイヤー。そして、伝説のポケモンであるブリザポスとレイスポスに騎乗したバドレックスが並んでいた。それは紛れもなく、ヒビキの今の手持ちの中での最強の面々だった。
「新入りの3匹は、あのファイヤーと同列の存在か……」
「あぁ、桁違いの強さを秘めているな……」
「凄まじいエスパーの力を感じるね」
ジスト、シアン、マツバの3人が圧倒されていると、ふとバドレックスが冷徹な眼差しでヒビキを一瞥した。その意図を瞬時に察したのか、ヒビキが小さく頷くと、バドレックスは威厳に満ちた響きを帯びた声で語り出す。
『ヨが名はバドレックス。この者達は、我が愛馬であるレイスポスとブリザポスだ。事情はすべて聞いておる。我らの力、存分に頼るがいいである』
流暢に人語を操り、王者の風格を漂わせるバドレックスの姿に、3人は思わず息を呑む。しかし、すぐに歴戦の強者としての表情を引き締めると、それぞれに分析を始める。
「人語を話すだと……こりゃ、伝説の個体群のなかでも別格だな」
「それに、バドレックスと名乗ったポケモンとそれに騎乗したレイスポスというポケモン……まるで2体で1つの存在かのような、奇妙で底知れない気配を感じる」
状況の分析を終えた彼らのもとへ、国際警察のハンサムと名乗る男が捜査官や警官隊を引き連れて合流した。
「よし、突入するぞ!」
警察の精鋭部隊と共に突撃したヒビキ達が目撃したのは、この世のものとは思えない異様な悪夢の光景だった。
──時は数時間前。
極秘裏に開かれた闇オークションは、国内外の裏社会の人間が集まり、熱気を帯びて盛況を見せていた。
『続きまして、極めて珍しいポケモンの卵でございます! 何が生まれるかは、孵化させてからのお楽しみとなります!』
司会の声に会場がざわめき立つ。
『それでは、50万から──』
まさに競りが始まろうとしたその瞬間、空間がガラス細工のように音もなく歪み始めた。そこに現れたのは、ポケモンとは似ても似つかない、禍々しい異形の生物を従えた一人の男だった。
「なんだ貴様……!」
警備を担当していたポケモンハンターの男が凄まじい殺気を感じ取って取り押さえようと近づくが、男は無言のまま冷ややかに手を払った。
次の瞬間、ハンターの肉体は不可視の衝撃によって弾け飛び、生々しい鮮血と肉片が周囲のオークション参加者たちの頭上に降り注ぐ。
「ひっ……! なんだこれ……!」
場内は一瞬にして地獄絵図へと変わり、阿鼻叫喚の声が響き渡る。参加者たちは我先にと出口へ殺到し、逃げ出そうと足掻いたが、男は容赦なく冷酷な死の裁きを下していく。逃げる者、すくみ上がる者、命乞いをする者──その場にいた全ての人間が機械的に命を刈り取り尽くされ、床一面は瞬く間に血の海と化した。
だが、恐怖の極みに達した空間で、男はある一点に目を留める。──それはこの場所に共に現れた異形の生物を一瞥した。
すると、生物がわずかに指先を動かした瞬間、まるでビデオの巻き戻し映像のように、血の海に沈んでいたはずの人々が何事もなかったかのように元の姿へと戻り、恐怖に怯えたまま再び同じ場所で震え上がった。
「え……? なんで……さっき、俺は……ひっ……!」
直前の死の記憶と恐怖が脳裏に焼き付いたまま、男は再び殺戮の渦へと引きずり込まれる。男はその残虐な死と再生の地獄を、まるで当然の儀式のように何度も、幾度も淡々と繰り返させた。
やがて、男は冷たく言い放った。
「この卵は、此方のものだ。そして、お前らが回収したあの『メモリー』もな。すべて返してもらう」
端的な宣告だった。もはや反逆の意志すら消え失せ、精神を完全に砕かれた参加者たちは、壊れた人形のようにただ恐怖に頷くしかなかった。
その、血の匂いが充満する絶望の空間へと、警官隊を従えたハンサム、シアン、ジスト、マツバ、そしてヒビキが踏み込んできたのは、まさにその直後のことだった。
「なんだ……この惨劇は……っ!」
「どうなっているんだ、一体……!」
凄まじい血腥さと、常軌を逸した現場の有様に全員が絶句する。そんな中、中央に佇む男はヒビキの姿を捉えるとふたたび彼の周囲の空間がぐにゃりと歪み、手元に回収した卵を抱え込むと、彼は気配を残さずその場から姿を消したのだった。