ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
町外れの森の中に倒れている男女とポケモン達を発見したヒビキ達。
「何があったんだ?」
ジストが近くに倒れている男性に近づくと、大きなケガをしている様子はなく、気絶しているだけであるとわかった。
「それにこのポケモンは、ゾロアークか? それにしては、ソルの相棒とは体色が違いすぎるな」
「色違いじゃないの?」
ヒビキがそう指摘すると、
「いや、ゾロアークの色違いは赤い体毛が蒼くなるんだ。もしかしたらリージョンかもしれないな。もう1体の虫ポケモンは……見たことないな」
「僕も初めて見るね。恐らくタイプは岩と虫だね」
そう分析し、
「そして、こいつはセレビィか!」
「ならもしかしたら、彼らは別の時間から来たのかもしれないね」
「とりあえずジムで保護しよう」
マツバがそう提案し、三人も頷くとジムへと連れていった。
エイはゆっくりと瞼を開いた。頭の奥がガンガンと痛む。直前まで襲いかかってきた激しい落雷と、空間を引き裂くような魔獣の咆哮が脳裏に生々しく蘇る。
(……ここは、一体……?)
冷たい地面の感触ではなく、どこか柔らかい布の感触がする。見上げれば、見慣れない高い木目の天井と、奇妙な形をした照明器具。いつの間にか、清潔な一室の布団に寝かされているらしい。
慌てて上半身を起こそうとして、全身を走る鈍痛にエイは小さく息を呑んだ。
「っ……姫様……!」
周りを見回すと、同じく布団に寝かされているツキノたちを見つけて安堵する。そのとき、奥の障子が開き、見知らぬ格好をした男性と少年が入ってきた。
「おや? 目が覚めたようだね。良かった、具合はどうだい?」
そう話しかけられ、エイは咄嗟に護身用の短刀を取り出した。
「何者だ!?」
「落ち着いて、体に障る。僕はマツバ。こっちはヒビキ。君達を町外れの森の中で見つけて、ここに運んだんだ」
そう宥めるように話しかけていると、残りの3人も目を覚まし始めた。
「ここは……」
「確か、追手に追われて……」
「相棒達は!?」
男性2人は自身の相棒を探して身を起こす。
「君達と一緒に倒れていたポケモン達は、今、回復装置に入れて治療しているよ。もうすぐ終わるから、ヒビキ君、様子を見てきてくれないか?」
「わかりました、マツバさん。兄貴達も呼んで来ますね」
そう言うと、ヒビキと呼ばれた少年は足早に部屋を出ていく。
静まり返った室内で、目の前の男――マツバは敵ではないと悟ったエイは、わずかに警戒を緩めると、探るような目を向けながらも口を開いた。
「……私はエイ。あちらにいらっしゃるのが、我が主のツキノ様。そして、ソウゴ様とダンです。私たちは……一体、ここはどこなのですか?」
静かに息を整えたエイが問うと、マツバは穏やかな笑みを崩さず、静かに首を横に振った。
「詳しい話は、仲間を呼んでから――それと、君たちの相棒たちが元気に目を覚ましてからにしよう。安心していい、ここは安全な場所だ」
そう告げられてもなお、エイの胸中には拭えない戸惑いが渦巻いていた。追っ手から逃れるために駆け抜けたはずのあの山深い森はどこへ消えたのか。そして、目の前にある不思議な機械や、聞いたこともない道具の数々は一体何なのだろうか。
間もなくして、障子の向こうから複数の足音が近づいてくる。
ヒビキがジストたちを連れて戻ってくる足音だった。
「改めて俺は、ヒョウゼンの国のフジキノの息子の一人、ソウゴだ。此方が家臣の」
「ダンと申す」
「そして俺の許嫁の」
「ツキノと申します」
「その従者のエイと言います」
「助けて頂き、誠に感謝する」
四人から自己紹介と、これまでの経緯を聞いたヒビキ達は顔を見合わせた。
「うーん? すまない……恐らくだが、そんな名前の国はこの辺りでは知らないな」
「カントーでも聞いたことはないな……」
「エンジュの歴史はある程度知っているが、そんな国は聞いたことがないな」
マツバやジスト、そしてシアンが申し訳なさそうに首を横に振ると、ソウゴは落ち着いた様子で頷いた。
「しょうがないことだ。話を聞いた限りだと、ここは我らのいた時代より遥か未来のようだからな」
その言葉に、ヒビキの頭の中にだけ直接バドレックスの声が響いてきた。
『――ヒビキよ。セレビィに事情を聞いたところ、どうやらセレビィ自身も原因は分からないそうだが、さっきまで居た場所とは時代の違いだけでなく、はるか遠くの別地方から飛ばされてきたようだぞ』
(バドレックス、ありがとう。セレビィもそう言ってるんだな?)
心の中でそう返事をしながら、ヒビキは一同に向き直って話を共有した。
「今、バドレックスがセレビィから聞いたんだけど……どうやら彼らは、はるか昔の時代から時を超えて、しかも別の地方からここに飛ばされてきちゃったみたいだって」
「ってことは、時空だけじゃなく場所も遠く離れてるってことか」
「そうなるな……。そのあたりの詳しいことは後で調べてみよう。それでだ……」
納得したように頷きながら、ジストやシアンは真剣な眼差しを四人に向けて、とある質問を投げかけた。
「これからあんた達は、どうする? セレビィが力を取り戻して回復すれば元の時代に帰れるはずだが……。このまま元の時代に帰るのか、それともこの未来の時代で生きていくのか?」
その問いに、ダンが鋭い視線を返しながら聞き返す。
「……もし、帰らない場合はどうなる?」
「一応、戸籍とか生活していけるようにこっちで何とか用意しよう。幸い、頼れる伝もあるからな」
「唯、あまり時間は掛けられないかもしれない」
「何故ですか?」
「セレビィは珍しいポケモンだからな。ここにいると知られれば、何が何でも捕まえようとする連中が押し寄せる可能性がある」
「……成る程」
ツキノがそう尋ね、ジストが簡潔に理由を告げると、彼女は納得したように小さく頷いた。やがて、これ以上の詮索を避けるようにジスト達はその場をそっと離れていく。
静かになった部屋で、ソウゴは他の三人に視線を向けた。
「気を利かせてくれたな。……どうする?」
その問いに、エイがどこか影のある表情で俯く。
「恐らく、私たちの家族はもう……」
「かもしれませんね。それに、私たちの国では、もう戦の中で死んだと思われているでしょう」
「俺達の国でもそういう認識だろうな」
「それに、若が戻られると跡目争いが始まりますからね。いくら継がないと言っても、周りが黙っちゃいないでしょうから」
「親父やお袋、兄弟達も納得しているのにな」
ソウゴが苦々しげに吐き捨てると、部屋の中に重苦しい沈黙が落ちた。身分のしがらみや権力闘争から離れたかったはずが、皮肉にも時空を超え、遠く離れた未来の地方へと飛ばされてしまったことで、図らずもその争いから完全に身を引く形になってしまったわけだ。
(この未来で、生きる――か)
ツキノはそっと自分の手を握りしめる。自分たちをこの世界へ導いた相棒たちは今、別の場所で治療を受けている。あの子たちが目を覚ましたとき、自分たちはどのような道を選ぶべきなのか。答えの出ない問いが、静かな部屋の中に漂っていた。