ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
「改めて俺は、ヒョウゼンの国のフジキノの息子の一人、ソウゴだ。此方が家臣の」
「ダンと申す」
「そして俺の許嫁の」
「ツキノと申します」
「その従者のエイと言います」
「助けて頂き、誠に感謝する」
四人から自己紹介と、これまでの経緯を聞いたヒビキ達は顔を見合わせた。
「うーん? すまない……恐らくだが、そんな名前の国はこの辺りでは知らないな」
「カントーでも聞いたことはないな……」
「エンジュの歴史はある程度知っているが、そんな国は聞いたことがないな」
マツバやジスト、そしてシアンが申し訳なさそうに首を横に振ると、ソウゴは落ち着いた様子で頷いた。
「しょうがないことだ。話を聞いた限りだと、ここは我らのいた時代より遥か未来のようだからな」
その言葉に、ヒビキの頭の中にだけ直接バドレックスの声が響いてきた。
『――ヒビキよ。セレビィに事情を聞いたところ、どうやらセレビィ自身も原因は分からないそうだが、さっきまで居た場所とは時代の違いだけでなく、はるか遠くの別地方から飛ばされてきたようだぞ』
(バドレックス、ありがとう。セレビィもそう言ってるんだな?)
心の中でそう返事をしながら、ヒビキは一同に向き直って話を共有した。
「今、バドレックスがセレビィから聞いたんだけど……どうやら彼らは、はるか昔の時代から時を超えて、しかも別の地方からここに飛ばされてきちゃったみたいだって」
「ってことは、時空だけじゃなく場所も遠く離れてるってことか」
「そうなるな……。そのあたりの詳しいことは後で調べてみよう。それでだ……」
納得したように頷きながら、ジストやシアンは真剣な眼差しを四人に向けて、とある質問を投げかけた。
「これからあんた達は、どうする? セレビィが力を取り戻して回復すれば元の時代に帰れるはずだが……。このまま元の時代に帰るのか、それともこの未来の時代で生きていくのか?」
その問いに、ダンが鋭い視線を返しながら聞き返す。
「……もし、帰らない場合はどうなる?」
「一応、戸籍とか生活していけるようにこっちで何とか用意しよう。幸い、頼れる伝もあるからな」
「唯、あまり時間は掛けられないかもしれない」
「何故ですか?」
「セレビィは珍しいポケモンだからな。ここにいると知られれば、何が何でも捕まえようとする連中が押し寄せる可能性がある」
「……成る程」
ツキノがそう尋ね、ジストが簡潔に理由を告げると、彼女は納得したように小さく頷いた。やがて、これ以上の詮索を避けるようにジスト達はその場をそっと離れていく。
静かになった部屋で、ソウゴは他の三人に視線を向けた。
「気を利かせてくれたな。……どうする?」
その問いに、エイがどこか影のある表情で俯く。
「恐らく、私たちの家族はもう……」
「かもしれませんね。それに、私たちの国では、もう戦の中で死んだと思われているでしょう」
「俺達の国でもそういう認識だろうな」
「それに、若が戻られると跡目争いが始まりますからね。いくら継がないと言っても、周りが黙っちゃいないでしょうから」
「親父やお袋、兄弟達も納得しているのにな」
ソウゴが苦々しげに吐き捨てると、部屋の中に重苦しい沈黙が落ちた。身分のしがらみや権力闘争から離れたかったはずが、皮肉にも時空を超え、遠く離れた未来の地方へと飛ばされてしまったことで、図らずもその争いから完全に身を引く形になってしまったわけだ。
(この未来で、生きる――か)
ツキノはそっと自分の手を握りしめる。自分たちをこの世界へ導いた相棒たちは今、別の場所で治療を受けている。あの子たちが目を覚ましたとき、自分たちはどのような道を選ぶべきなのか。答えの出ない問いが、静かな部屋の中に漂っていた。