ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
ヒビキの旅に、ダンとエイが同行することとなった。
「一応、初心者トレーナーの基礎の本があったから読んで学んだが……本来なら10歳から旅をするんだろ? 俺のような年代の新人トレーナーって、他にいるのか?」
道中、ダンがそんな疑問を口にする。
「いないことはないですけど、珍しいですね」
「そうか……」
「なら、ボクは?」
「エイくらいなら、ちゃんと学校に通ってから旅に出た子ならそのくらいの年齢の子は、それなりにいるよ」
「ふーん……」
ふたりは納得したような、していないような声を漏らす。そうして会話をしながら歩きつつ、ヒビキはふと気づいて提案した。
「取り敢えず、2人もそろそろポケモンを捕まえた方がいいんじゃないかな?」
「そうだな。ちなみに俺の相棒のこのゾロアーク、この辺りじゃかなり希少なポケモンなんだろ?」
「ですね。ゾロアーク自体が珍しいポケモンなうえに、ヒスイの姿なんて絶滅したと思われていますから。連れて歩いてたら、面倒な奴が寄ってくることも多いと思いますよ」
「それはごめんこうむるな」
「この辺りだとあまり強いポケモンはいないってマツバさんから聞いたから、今のうちに手持ちを増やしておいた方がいいんじゃないかな」
「そうするか」「わかったわ」
そう返すと、ヒビキは自分がストックしていたモンスターボールを二人に差し出した。さらに、エイにはモココが入ったボールを手渡す。
「モココなら人懐っこいし、ちゃんと指示を聞いてくれると思うから」
「……ありがとう」
少しだけバツが悪そうにしながらも、エイは素直にボールを受け取った。
「よし、じゃあ俺は一人であっちを探してくるから。ヒビキは、エイ嬢と一緒に探してやってくれ」
「平気よ! そんなに遠くに行くつもりはないんだから!」
そう言って、エイは一人スタスタと近くの草むらに入っていってしまう。
「まあ、モココもいるし大丈夫だとは思うけど……」
ヒビキは少しだけ不安を覚えつつも、その後をそっと追いかけた。開けた草むらまで進むと、本来この辺りには生息していないはずのポケモンの姿が目に入る。
「あれ? 何でこんなところにミルタンクがいるんだ?」
「ミルタンク……? どういうポケモンなのよ?」
首をかしげるエイに、ヒビキは手元のポケモン図鑑を開いて画面を見せる。
「ミルクが有名で、のんびりした性格のポケモンなんだけど……この辺じゃ見かけないよな。もしかしたら、近くの牧場から逃げ出してきた個体かもしれないから、保護しないと」
「いいの? それって人のポケモンなんじゃないの?」
「一応、野生に迷い込んだ家畜ポケモンの保護っていう扱いになるから、ちゃんと捕まえて届け出れば問題無はずだよ」
納得した様子のエイに、ヒビキが捕獲の準備をしようとしたその時。草むらのミルタンクがぴくりと耳を動かし、まっすぐにエイのほうへと近づいてきた。そして、ふんすあと鼻息を荒げたかと思うと、突然トコトコと歩み寄り、その頭をエイの体にスリスペタと擦り付けて甘え始めた。
「うわっ……!?」
「随分と人懐っこい性格だな」
「なでなでしないでよ、くすぐったいわよ!」
わちゃわちゃと慌てるエイだったが、嫌がる様子はない。むしろ、ミルタンクの温もりに少し気恥ずかしそうに頬を緩めている。そうして和やかな空気が流れる中、ミルタンクは満足したのか、自ら転がるようにヒビキが渡していたからのボールへと体を滑り込ませた。カチリと心地よい音が響き、ボールが静かに静止する。
「……なんか、すごく気に入られたみたいだね」
「なんでよ!? ボク、何もしてないわよっ!」
呆気にとられつつも、エイは自分の手元に転がったボールを複雑そうな、しかしどこか嬉しそうな顔で見つめるのだった。
それから二人が最初の別れ場所へと戻ると、すでにダンが待っていた。その肩には、黒い羽毛の不敵な鳥──ヤミカラスがちょこんと陣取っている。
「おっ、戻ったか。なぁ、ヒビキ、コイツは何て言うポケモンなんだ?」
「それはヤミカラスだね。夜行性で、キラキラ光るものが好きなイタズラ好きのポケモンだよ」
手元の図鑑を見せて説明すると、ダンは面白そうに相好を崩した。
「ほお、ヤミカラスか。面白いじゃねぇか。これからよろしくな、相棒」「カァ!」
ダンが肩をすくめて笑うと、ヤミカラスも負けじと鋭い鳴き声を返したのだった。
その後、三人はタウンマップを頼りに近くの牧場へと足を運び、ミルタンクを連れていくことにした。事情を話すと、牧場主の初老の男性は驚きつつも大きく頷いた。やはり、何かの拍子に逃げ出してしまった個体らしい。
「わざわざ連れ戻してくれてありがとうなぁ」と頭を下げる牧場主だったが、ふと、ミルタンクがぴたりとエイの近くに寄り添い、愛しそうに鼻先を擦り付けている光景に気づく。
「ん……? おやまあ、この子がお前さんにそんな懐き方をするなんて珍しい。それに、その子自身が『この人といたい』って顔をしているな」
「えっ? いや、ボクはただ保護して……」
慌てて顔を真っ赤にして否定するエイに、牧場主は朗らかに笑って手を振った。
「いいさ、これも何かの縁だ。それに、うちのミルタンクもすっかりお前さんを気に入ったようだしな。よかったら、その子をもらってやってくれないか? 正式にトレーナー登録の書類も書いてあげるよ」
「え……、でも……」
戸惑うエイだったが、優しく鳴きながら顔をスリスリと押し付けてくるミルタンクを見て、そして少しだけ逡巡したあと、ふっと柔らかく表情を緩めた。
「……しょうがないわね。アンタがそんなに言うなら、ボクが責任持って面倒見てあげるんだからね」
こうして、牧場主から正式にミルタンクを譲り受けたエイは、ダンと共に新たな相棒を手に入れ、新たな仲間たちを連れたヒビキの旅は再び大きく動き出すのだった。