ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
ダンとエイがそれぞれポケモンを仲間に加え、旅を再開した一行は、それからかなりの距離を踏破していた。
やがて辺りが茜色から濃い紺色へと変わり始め、日没が近づいたため、今日のところは野営にすることになった。元いた時代では過酷なサバイバルを経験しているダンとエイは手慣れたもので、手際よくキャンプの準備を進めていく。
「いやぁ〜、この『キャンプセット』だっけか? 野営の道具がこんなにもコンパクトで、設営まで楽にできるなんて驚きだな」
「やっぱり、現代の道具ってすごいんだな」
「そうよ。ボクたちの時代じゃ、野宿するにもまず雨風を凌げる場所を探すところからで、最悪そのまま岩陰で丸まって寝ることも珍しくなかったんだから」
「それに、下手すりゃ人間の追い剥ぎや敵の襲撃も警戒しなきゃいけないしな。野性のポケモン相手の方が、よっぽど気が楽だったぜ」
「それは……大変だったんだな。この時代でも人通りの少ない山道とかだと、ごくたまに不心得者が出るって話だけど」
そんな物騒な昔話をしつつ、ヒビキが周囲にスプレー缶のようなものをシュッと吹きかけていく。
「それは何だ?」
「『忌避剤』だよ。野生のポケモンを近寄らせないスプレーで、虫除けみたいなものかな。これをしておけば、朝まで安全に眠れるんだ」
一通りの準備を終えると、簡単な夕食を済ませてそれぞれテントに入り、一日の疲れを癒やすために眠りについた。
そして、翌朝。
「キャアアァァァーッ!」
静寂を切り裂くようなエイの悲鳴がキャンプ地に響き渡る。
「「っ、大丈夫か!?」」
テントから飛び起きたヒビキとダンが、慌ててエイのテントへと駆け込み、ジッパーを乱暴に引き開けた。
そこに広がっていたのは、寝袋がまるで生き物のように異様に膨らみ、頭の部分からひょっこりと青紫色の頭──ムウマが顔を出しているという光景だった。
「ムウマ……!? 忌避剤を置いたはずなのに、なんで寝袋に入り込んでるんだよ!」
「しかも、めちゃくちゃ異様に懐いてやがるな……」
「いいからさっさと出ていけ! 変態ども、見ないでよっ!」
真っ赤な顔をして叫ぶエイの怒声に慌ててテントから押し出されたヒビキたちだったが、少ししてプリプリと怒りながら着替えたエイが出てくると、その傍らにはなぜか、先ほどのムウマが嬉しそうにふわふわと寄り添っていたのだった。
「何でこんなに懐かれるのよ……」
エイは頭を抱え、困り果てた顔で自分の周囲にまとわりつくムウマを見つめた。
「ポケモンに異常に好かれる体質の人がいるって聞いたことがあるから、エイはその体質なんじゃないかな」
「そう言われても、元の時代にいた頃はあんなポケモンたちに好かれたりしなかったわよ?」
「それは恐らく、城にはポケモンが嫌がるお香が炊かれていたんだよ。その匂いが衣類に染み付いてあまり気にされなかったんじゃないか?」
ダンのその一言に、エイは「あ……」と小さく声を漏らしてハッとした表情を浮かべた。
「たしかに……城にいた頃は、ポケモンを遠ざけるためとかで、いつも変な匂いのする香木をあちこちに焚いていたわね……」
「だろ? こっちの世界じゃポケモンは身近な存在だけど、元いた時代じゃそもそも共生していることが珍しいから忌避香の匂いなんて気にも留めなかっただろうしな」
ダンが納得したように頷くのを見て、ヒビキも「なるほどね、そういうことか」と腑に落ちた顔をする。つまり、これまではその香りのせいでポケモンたちが気にならず近寄らなかっただけで、本来のエイは、隠しきれない「ポケモンに好かれやすい素質」をたっぷりと持っていたというわけだ。
「……ってことはよ、これからもあちこちでこんな風に懐かれちゃうってわけ!?」
「まあ、そうなる確率が高いわな。ご愁傷様、エイ譲」
「からかわないでよっ!」
頭を抱えて頭痛をこらえそうな仕草をするエイの隣で、ついてくる気満々のムウマは、どこか楽しそうにふよふよと揺れていたのだった。