ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
お月見山の麓、切り立った岩場が続く道をサイホーンで駆けていたヒビキの耳に、切迫した叫び声が届いた。
「うわああっ!? 助けてぇ~!」
見上げれば、崩れかけた岩肌に必死でしがみつく一人の男性。
「うぉ!? マンキー、助けてやれ!」
ヒビキの指示でボールから弾け飛んだ親分マンキーが、重力を無視した動きで絶壁を駆け上がり、男性を担いで地上へと降り立った。
「助かったよ、ありがとう。私はリカオ。お月見山のパトロールをしているんだ」
リカオと名乗ったその男性は、最近『月の石』や化石を狙って山を荒らす輩が増えたせいで、ポケモンたちが興奮していないか見回っていたのだという。ふと、リカオがヒビキの傍らにいるサイホーンを見て、驚きに目を見開いた。
「……それにしても、そのサイホーン。まさか、お月見山の
「
「ああ。他の地域なら親分個体は即座に主になれるが、ここではそうはいかないんだよ」
その言葉を肯定するように、サイホーンが「付いてこい」と鼻息を荒くして歩き始めた。辿り着いたのは、周囲の地面がボロボロに砕かれた広大な岩場。そこでは複数のサイホーンやゴローンが、中央に鎮座する巨岩に向かって猛攻を繰り返していた。しかし、その岩はびくともしていない。
「ここでは、あの岩を複数破壊できなければ、主とは認められない。……だが、主になれる者でも二つ壊すのが限界なんだ。しかしね、二十年近く前にあの岩を『四つ』同時に粉砕したサイホーンがいたんだよ」
リカオの遠い目をした昔話が始まる。
「そいつはかなりの暴れん坊でね。当時のジムリーダー・ムノーさんが討伐に動こうとしたその時、一人の少年が現れた。まだトレーナーになる前の、色違いのコイキングを連れた少年が、その暴れん坊を倒して仲間にしたんだ。それだけじゃない。そのサイホーンと、主候補だったギャラドス……あの巨体二匹を、まるで弟分のように従えていた一匹の『親分エレキッド』がいたのには驚いたよ」
「……もしかして、その人って」
「君もマサラタウン出身なら知っているだろう? ジョウト四天王のジストだよ。彼は、後のチャンピオン・ワタルや四天王・カンナと鎬を削り合った『黄金世代』の一人だ。当時のリーグは3位だったそうだが、組み合わせ次第では順位は入れ替わっていたと言われるほど苛烈な戦いだったそうだ」
ワタル、カンナ、そして兄。伝説的な強者たちの名を聞き、ヒビキの背筋が伸びる。
「そんな噂を聞いて、時折こうして暴れる個体が出るんだが……やはり、あのドサイドンには及ばないんだよね」
ヒビキはもう一度傍らでじっとそれを眺めていたサイホーンのその無骨な横顔を見つめた。
「……聞いたか、サイホーン。お前が追ってる存在は、それだけデカい。あの人と手持ち達は、とんでもなく高い壁だ」
岩を穿とうと必死に抗う野生のポケモンたちの姿を見ながら、ヒビキは自らの拳を固く握りしめ決意を込めて相棒の硬い皮膚を叩くと
「なら、少しでも近づけるように、まずはしっかり強くなろうな! サイホーン!」
肯定するように、サイホーンは大地を揺らすような低い咆哮を上げた。