ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
ワカバタウンへ到着した三人は、ウツギ研究所を訪れてウツギ博士への挨拶と報告を済ませると、長旅の疲れを癒やす間もなくジョウトリーグの開催地であるシロガネタウンへと向け出発した。道中、ヒビキとダンは前を行くエイの足元を気遣うように視線を向ける。
「エイ嬢? 大丈夫か?」
「無理しない方が良いぞ?」
心配そうに声をかける二人に対し、エイは二度ほど足首を軽く回してみせると、明るい笑顔で振り向いた。
「痛みが引いたから大丈夫よ! 足を挫いてからもう3日は経ったし、ホラ、普通に歩けるわ。……それにミルタンクも、ありがとうね」
エイが横を歩くヒビキのミルタンクに優しく声をかけると、エイがいつでも背中に乗れるよう隣で寄り添って歩いていたミルタンクは、「ミルー」と満足げに鼻を鳴らした。
「そうは言っても、山道だからは道も険しくなるから。違和感があったらすぐに言うんだぞ」
「うん。ミルタンクの【癒しの鈴】や手当てのおかげで本当に助かったわ。ありがとね、ヒビキ」
「気にしないでよ」
ヒビキがそう答えて苦笑いを浮かべた、その時だった。
横で寄り添うように歩いていたミルタンクが、ふと耳をピンと立てて何かの音や気配を聞きつけた。そして次の瞬間、驚くエイをひょいっと抱き抱えると、脇道に向かって猛スピードで走り出したのだ!
「ちょっと!? ミルタンク!? どこ行くのー!?」
「えっ、どうしたんだろ!?」
「分からないけど、とりあえず追いかけるぞ!」
突然の展開に驚きつつも、ヒビキとダンは急いでミルタンクの後を追った。
木々をかき分けて坂道を駆け上がっていくと、湯気が立ち上る開けた場所へとたどり着く。そこには豊かな自然の中に湧き出る温泉があり――湯船の中には見知った人物たちが気持ちよさそうに浸かっていた。
「サトシじゃん! 久しぶり!」
「あ、ヒビキ! 久しぶりだな! お前たちも温泉に入りに来たのか?」
お湯の中から顔を上げたサトシが、帽子を脱いだ頭を掻きながら嬉しそうに手を振る。ヒビキは思わず顔を見合わせながら答えた。
「いや、俺たちはエイのミルタンクが急にここに向かって走り出してきたから追いかけてきたんだよ。……それにしても、ここって……」
ヒビキが周囲を見渡すと、サトシたちの周りだけではなく、温泉のあちこちで野生のポケモンたちが気持ちよさそうにお湯に浸かっていた。
「へぇ……野生のポケモンたちの湯治場になっているのか。ミルタンクがすっ飛んできたのも、この温泉の効能や匂いを察知したからなんだな」
「なるほどな。傷ついたポケモンたちが自然と集まる場所か」
サトシたちに倣ってヒビキたちも水着に着替え、湯煙が立ち上る天然温泉へと身を沈めた。
「あ〜……気持ち良いなぁ」
「いやぁ、長旅の疲れが一気に取れるな」
「本当に。心なしか挫いた足の痛みももっと良くなってきた気がするわ」
身体の芯まで温まる良質なお湯に、三人から口々に息をつくような感想が漏れ出る。そんな中、同じくお湯に浸かっていたタケシの視線が、ダンの上半身へと向けられた。
「ダンさん……とおっしゃいましたよね。お体に、随分と大きな傷跡がありますが……」
タケシが心配そうに尋ねると、ダンは肩までお湯に浸かりながら、胸元から腕にかけて残る無数の古傷をどこか愛おしそうに撫で、苦笑いを浮かべた。
「ああ、これか。はは、昔にちょっと無茶をしすぎてね。己の未熟さゆえに負った、失敗の痕さ」
そう言って豪快に笑うダンだったが、その背中や胸に刻まれた無数の傷跡は、彼がこれまで歩んできた壮絶な修羅場と、それを乗り越えてきた歴戦の凄みを雄弁に物語っていた。
「お前らもゆっくり浸かれよ~」
ヒビキが声をかけると、ボールから出てきた3人の手持ちのポケモンたちも、それぞれ好みの湯加減の場所を見つけて気持ちよさそうな声を漏らしていた。
そんな中、ふとサトシの近くにいる一匹のポケモンに目をとめたヒビキが問いかける。
「そういえばサトシ、お前もヨーギラスを捕まえたんだな」
「いや、捕まえてないよ」
首を振ったサトシから、タマゴから生まれたことや、タマゴの段階で嫌な目に遭ったトラウマで心を閉ざしてしまっていること、そして保護して故郷のシロガネ山へ送り届ける途中であるという事情を聞かされたヒビキたちは、深く納得して相槌を打った。
「そっか……いろいろと大変だったんだな」
そんな真面目な会話をよそに、話題のヨーギラスはというと――タケシのサナギラス、そしてヒビキのバンギラスの二匹に挟まれながら、温泉の近くにある砂風呂をすっかり気に入った様子でまったりと楽しんでいた。
湯船でまったりとしていたその時、突如として周囲の森からシャランシャランとけたたましい鳴子の音が響き渡った。
「現れたか! エンテイ!」
草むらを押し分けて一人の少年が勢いよく飛び出してきたものの、期待に満ちた視線を巡らせた直後、「あれ……? 居ない?」と拍子抜けした声を上げる。
湯船の中から頭を覗かせたカスミが不思議そうに尋ねた。
「何か目当てのポケモンでもいるの?」
ナオヤと名乗ったその少年は、熱っぽく語り始めた。データ分析によって、この周辺のエリアに伝説のポケモン・エンテイが出現することを突き止め、こうして音で察知する罠を仕掛けて待ち構えているのだという。
ナオヤと話していると、再び別の場所で仕掛けた鳴子が激しく鳴り響いた!
「今度こそエンテイだ!」
走り去るナオヤを追ってサトシたちが飛び出し、ヒビキたちも湯から上がって急いで後を追いかける。林を抜けた先の開けた場所には、威風堂々たる姿でたたずむ本物のエンテイが姿を現していた。
ナオヤが興奮気味にゲットしようとモンスターボールを構える横で、ヒビキはそのエンテイの顔や雰囲気をじっと見つめ――思わずぽつりと呟いた。
「なんだ、兄貴のエンテイじゃん」
その声を聞きつけたエンテイは、ナオヤの警戒をよそに悠然とヒビキの方へ歩み寄ると、鼻先をヒビキの身体に擦り付けてきたのだった。
「ジストさんの手持ちのエンテイか」
タケシも思い出したようにポンと手を叩いた。
「ジストって、あのジョウト四天王のジスト!? なんだ、人のポケモンかぁ~……」
せっかく見つけた伝説のポケモンが他人の手持ちだと知り、ナオヤはガックリと地面に両手をついて落胆する。そんな少年を見かねて、ヒビキはエンテイの首元をなでながら声をかけた。
「エンテイ、少し遊んでやれば?」
ヒビキの提案に、エンテイは仕方ないなと言いたげに鼻を鳴らす。
「次に本物の野生のエンテイを見つけたときのためのデモンストレーションをしてやるってさ」
「本当!? なら、お願い!」
ヒビキの提案を聞くやいなや、ナオヤはガバッと勢いよく起き上がり、バトルの申し出を飛びつくように受け入れた。
ナオヤはすぐさまモンスターボールを構え、影からムウマを繰り出す!
「行け、ムウマ! 逃げられないように【黒い眼差し】だ!」
伝説のポケモンの足止めを狙ったナオヤの速攻指示。しかし、エンテイは焦る素振りすら見せず、深く息を吸い込むと腹の底から重厚な威嚇を放った。
――【吠える】!
地響きのような雄叫びが周囲の森に轟き、技を繰り出す前だったムウマは一瞬で恐怖にすくみ上がり、強制的に光の粒子となってナオヤのモンスターボールへと引き戻されてしまったのだ。
「ええっ!? バトル開始一発目で【吠える】かよ!?」
予想外すぎる一手で戦術を完膚なきまでに打ち砕かれ、ナオヤは目を見開いて呆然と立ち尽くすのだった。
【吠える】を使われるまでもなく、その後もエンテイの圧倒的な威圧感と地力の差の前に手も足も出せなかったナオヤ。だが、伝説の壁の深さを身をもって知ったことで打ちのめされるどころか、「いつかエンテイに認められるくらい絶対に強くなってやる!」と新たな闘志を燃やしていた。
そんな少年のまっすぐな目線と成長の兆しを見届けたエンテイは、満足そうにひとつ鼻を鳴らすと、風のように素早い身のこなしで森の奥へと走り去っていった。
ジョウトリーグが終わって次の地方は
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サトシと一緒のホウエン地方
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サトシとは別のイッシュ地方