ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
「すまんが、明日の準備もある。あまり朝早くには来ないでくれると助かるのお」
前日のバトルの余韻が残る中、オーキド博士はそう言って幼馴染たちを解散させた。
ジストは四天王としての公務があるため、実家には寄らずそのままジョウト地方へと飛び立っていった。嵐のような兄の去り際に苦笑しつつも、ヒビキはその夜、譲り受けた二匹と共に静かに闘志を燃やした。
翌朝、午前8時過ぎ。
ヒビキは昨日貰ったばかりの、シルフ社製特製バックパックを背負い、足元にニドラン♂とヒメグマを連れて家を出た。
「おぉ、ヒビキ。お前さんが一番乗りじゃな!」
研究所に到着すると、どこか楽しげなオーキド博士が出迎えてくれた。
デスクの上には、最新型のポケモン図鑑と、数個の空のモンスターボールが置かれている。
「ほれ、これが図鑑とボールじゃ。使い方は……」
博士の注意事項をひと通り聞き終えたところで、ヒビキはあることを思いつき、いたずらっぽく笑った。
「博士、そうだ。これからサトシたちに渡されるポケモン、先に図鑑に登録させてもらってもいいですか?」
「フォッフォッ、抜け目ないのぉ。うむ、構わんよ」
許可を得て、これからマサラを旅立つ新人たちが手にするはずの三匹──フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメをスキャンしていく。
(……これで、誰がどのポケモンを連れて行っても、最初からデータはバッチリだ)
登録を終え、意気揚々と研究所の玄関を出ると、そこにはヒビキの両親や、町の人たちが旅立ちを見送るために集まっていた。
「頑張ってね、ヒビキ!」
「ジストさんに負けないくらい強くなるんだよ!」
温かい声援に背中を押され、ヒビキが一歩を踏み出そうとした、その時。
「──ッ!!?」
突如、研究所の広大な庭園側から、空気を直接震わせるような「絶叫」が響き渡った。
それは一匹や二匹ではない。重層的に重なり合った、命そのものの奔流。
地響きと共に民家がガタガタと揺れ、見送りの人々は顔を青ざめさせて耳を塞ぎ、その場に踞った。
「な、なんだ!? 何が起きたんだ!?」
「……これって、兄貴の?」
ヒビキは咄嗟に身構え、咆哮の主たちがいる方角を見据える。
ジストが公務のためにジョウトへ発つ際、研究所に預けていった手持ち達それらが一斉に、主の大切な弟の門出へ向けて吠えているのだ。
「いやはや、凄まじいのぉ……。事前にジスト君から『もしかしたら(手持ちが)勝手に騒ぐかもしれない』と連絡が回っておったが、これは予想以上じゃな」
「……やってくれるよ。ホント、過保護なんだから」
ヒビキは深く息を吐き出すと、戦意に震える足元の相棒たちを頼もしげに見つめた。
民家を揺らすほどの圧を受けながらも、ニドランとヒメグマはしっかりと前を見据えている。
「行くぞ、お前ら! 兄貴たちに、マサラの空が見えなくなるくらい暴れてやるって見せつけてやろうぜ!」
混沌とした見送りの中、ヒビキは一人、不敵な笑みを浮かべて一歩を踏み出した。
サトシたちが寝坊したり準備に追われたりしている間に、五人目の新人は「四天王の咆哮」に背を押され、未知なる土地へと旅立つのだった。