ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
現実でもあるんじゃないかと思います
クチバジムで三つ目のバッジを手に入れたヒビキは、次の旅に備えて消耗品の補充や体調管理のため、しばらく街に滞在することにした。
ポケモンセンターで用事を済ませ、外へ出ようとしたその時だ。一人の男性が、泣きそうな顔でジョーイさんにモンスターボールを差し出していた。
「申し訳ありませんが……どうか、よろしくお願いします!」
「わかりました。必ず、この子たちを愛してくれるいい人を見つけますね」
そんなやり取りの最中、ボールから一匹のブースターが飛び出した。ブースターは悲しげな鳴き声を上げると、そのままセンターの外へと駆け出していく。
「ブースター! 待ってくれ……ハックシュンッ!!」
男性は追いかけようとするが、激しいくしゃみに襲われ、顔を真っ赤にして蹲ってしまった。
「そこのあなた! すみませんが、あのブースターを追いかけてもらえませんか!?」
ジョーイさんに懇願され、ヒビキは反射的に頷いた。
「はぁ、わかりました。……取り敢えず行くぞ、マンキー!」
港の方へ走っていく炎の尻尾を追いかけると、波止場の先端で海を見つめ、寂しげに佇んでいるブースターを発見した。
「おーい! ……お前のトレーナー、あんなに悲しんでるぞ」
声をかけると、ブースターは力なくヒビキを見上げた。その瞳には拒絶ではなく、深い哀しみが宿っている。ヒビキが促すと、ブースターは抵抗することなく、トボトボと彼の後をついてきた。
センターへ戻り、ブースターを預けると、先ほどの男性が申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまない、ありがとう……。本当なら、僕が追いかけなきゃいけないんだが」
「何か、事情があるんですか?」
ヒビキの問いに、男性は重い口を開いた。
実は、彼と彼の家族に重度のポケモンアレルギーが突然発症してしまったのだという。特に毛量の多いブースターは、同じ部屋にいるだけで命に関わるほどの症状が出てしまう。
「……実は、もう一匹、フシギソウもいるんだ。家族にひどい花粉症が出てしまってね。本当なら、死ぬまで一緒にいたい。別れたくなんてないんだ……!」
絞り出すようなその言葉に、ヒビキはジストやカナタたちから教わった「トレーナーの責任」を思い出した。このままセンターに預けられ、見知らぬ誰かに引き取られるのを待つよりは──。
「なら、俺がその二匹をもらいましょうか?」
「えっ……本当かい!?」
ヒビキの提案に、男性は驚き、そして救われたような表情を見せた。すぐに譲渡の手続きが行われ、男性の家族もセンターへ駆けつけた。
「ごめんな……僕たちがこんなことになってしまって。これからはヒビキ君に、たくさん可愛がってもらうんだよ」
家族全員が、涙を流しながらブースターとフシギソウに最後の別れを告げる。二匹もまた、大好きな家族を苦しませたくないという覚悟を決めたのか、毅然とした表情でヒビキに向き直り、深く頭を下げた。
「……責任を持って、俺が育てます。こいつらの強さは、俺が証明してみせますから」
「どうか……どうか、よろしくお願いします」
家族の祈りにも似た願いを受け取り、ブースターとフシギソウが正式にヒビキの仲間となった。
クチバの夕陽に照らされながら、ヒビキは新しい仲間の入ったボールを大切にポケットに収めた。