ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
カントー地方マサラタウンの昼下がり。
のどかな風が吹くオーキド研究所の裏庭は、場違いなほどの「殺気」と「熱気」に包まれていた。
バトルフィールドには、翌日に旅立ちの予定である少年ヒビキとその兄でありジョウト四天王の一人であるジストが立っていた。それをフィールド外から観戦しているのは、研究所の所長であるオーキド博士とヒビキと同じく翌日に旅立ちの予定であるサトシ、シゲル、リン、セナの五人であった。
ジストの背後には最古参である10m を越えている色違いであるギャラドスと通常よりも巨大な体躯をもつドサイドンが控えていた。そして取り出したのは小さな傷がいくつも付いている使い古したモンスターボールでありそれを親しみを持って見つめると
「俺はコイツを使う。出てきな相棒!」
そうして出てきたのは、控えている2体と同じく同種に比べ大柄な体格しておりそれ2匹以上の圧を放っているジストの最初のポケモンであるエレキブルであった。
「ブルァッッ!!」
エレキブルが咆哮を上げると、周囲の空気がビリビリと帯電し、観戦していたサトシたちが思わず身を震わせる。
ジストが従える3体の圧は、明日旅立つ新人たちが直面していいものではなかった。
「……相変わらず、とんでもない迫力だな。兄貴の親分達は」
ヒビキは冷や汗を拭い、幼い頃から家族の様に育ったニドラン♂とヒメグマの肩を叩いた。
「行くぞ、二人とも。今の兄貴は、四天王のジストだ、最初から全力でいく! ニドラン、【どくづき】! ヒメグマは【あまえる】で攻撃を削ぎつつ隙を突け!」
新人離れしたヒビキの判断。だが、ジストは不敵に口角を上げた。
「──遅ぇよ。エレキブル、【かみなりパンチ】」
回避も防御も許さなかった。
エレキブルが拳を地面に叩きつけた瞬間、フィールド全体に黄金の雷撃が走り抜ける。
「っ!?」「……ッ!」
ニドランとヒメグマは、技を繰り出す暇もなくその衝撃波だけで後方へと吹き飛ばされた。
「そこまで!」
オーキド博士が声を張り上げ、バトルの終了を告げる。
「フォッフォッ、ヒビキ。指示は的確だったが、ジスト君の『親分個体』は経験値もパワーも規格外じゃ。今の君達が挑むには、あまりに高すぎる壁じゃな」
「……あぁ、完敗だよ。博士」
ヒビキは悔しさを噛み締めながら、ボロボロになった相棒たちを抱き上げた。
「フッ、いい根性してるじゃねぇかヒビキ」
ジストはエレキブルの肩をたたくと、フィールド外で固まっているサトシ、シゲル、リン、セナを呼び寄せた。
「おい、お前ら。……明日から旅に出るヒビキやお前らにとって俺の影は邪魔だ。恨みを買ってる奴も多いしな。だから旅先では、俺たちのことは『ただの親戚』ってことにしとけ」
四天王の凄みに、サトシたちが息を呑んで頷く。
するとジストは、用意していた黒塗りのケースを四人分、地面に並べた。
「これは内緒にしてくれる礼だ。シルフカンパニー製の最高級キャンプセット。アオバが旅立った時からの恒例行事だ、受け取りな」
「えっ! これ、CMでやってた超豪華なやつやん!」
とリンが目を輝かせ、サトシは
「すげぇ、これで野宿も怖くねーな!」
と大喜びで抱え込む。
「その代わり、条件がある」
ジストが釘を刺すように言った。
「ヒビキには俺がこの二匹を渡した。だから明日の研究所で渡されるポケモンは、お前ら四人で分けろ。ヒビキの分はねぇからな。……いいな、博士?」
「うむ、承知しておるよ」
夕暮れに染まるマサラタウン。
ヒビキは最新のキャンプセットを喜ぶ幼馴染たちを眺めながら、先ほどのエレキブルの威圧感を思い出していた。
(兄貴……。それにシアン兄、グレイ兄、カナタ兄、ソル兄……)
幼い頃から自分を可愛がり、鍛え上げてくれた五人の怪物たち。
彼らが待つ頂へ向かうため、ヒビキの旅は、マサラの御三家を仲間に譲るという異例の形から幕を開けることとなった。
「──見てろよ。いつか絶対、あのエレキブルを驚かせてやる」
決意を胸に、ヒビキはニドランとヒメグマを強く抱きしめた。