ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
セキチクシティを離れ、ダークシティへの旅路を急ぐ三人の目に、一枚の派手なポスターが飛び込んできた。
「『P-1グランプリ』参加者募集……格闘タイプの大会か」
「格闘タイプのポケモンがメインやけど、他タイプでも参加はできるみたいやねぇ」
ヒビキが呟くと同時に、ボールからニョロボンとオコリザルが飛び出してきた。その鼻息は荒く、やる気は十分といった様子だ。
「おいおい、参加してもいいけど、俺がエントリーできるのはどっちか一体だぞ?」
そう伝えると、二体は顔を見合わせて何やらひそひそと相談を始めた。そして、おもむろにリンとセナの前へ歩み寄る。
「ごめんやけど、ウチもゴーリキーで出よう思てんねん。そうなると……」
「……え、私ですかぁ!? でもヒビキ君のポケモンですよ」
驚くセナを余所に、二体は厳粛にジャンケンを敢行。勝ったニョロボンがヒビキの隣を陣取り、負けたオコリザルは殊勝な態度でセナに頭を下げた。
「どうやら、セナの指示なら聞くって言ってるみたいだ。練習だと思って参加してみたらどうだ?」
「うぅーん……わかりましたぁ。オコリザル、よろしくお願いしますね」
会場に到着し、受付でルールを確認する。
「攻撃技に制限はなし。変化技は自身の能力を上げるもののみ使用可能……か」
ふと歴代優勝者の写真に目を向けると、そこには見覚えのある顔があった。
「あれってグレイ兄……? 参加してたんだ」
「ああ、彼かい。凄かったよ、ヨノワールに【みずびたし】を使って自身のタイプを変えてまで参戦してね。格闘ポケモンを格闘技で圧倒して優勝していったよ」
大会関係者の言葉に、ヒビキは苦笑した。
「(流石は『盾』のグレイ兄。相性すら理論でねじ伏せたのか……俄然やる気が出てきたな)」
会場ではサトシたちとも再会した。あの後、無事にテンセイ山でホウオウに出会えたこと、因縁の相手を見返したこと、そしてマコトやソウジと別れ、今は知り合った少女からの頼みで参戦していることを聞いた。
「ふーん、まぁ頑張りぃや」
「私達も負けませんからね!」
大会は順調に進み、ついに準決勝。ヒビキと、オコリザルを託されたセナが激突した。
「ニョロボン! 仲間とはいえ手加減は無しだ、行くぞ!」
「勝ちますよ! オコリザル!」
試合開始のゴングと同時に、両者が動く。
「ニョロボン! 【ビルドアップ】!」
「オコリザル、こっちも【ビルドアップ】ですよぉ!」
互いに肉体を強化し、激突。
「【アクアブレイク】と【冷凍パンチ】の複合だ!」
「オコリザル! 【雷パンチ】!」
ニョロボンは【アクアブレイク】の水分を【冷凍パンチ】で瞬時に凍らせ、巨大な氷のナックルを形成して殴りかかる。対するオコリザルは、相性を突く雷の拳で迎え撃つ。
激しい打撃音が会場に響き渡るが、どちらも決定打を欠いているように見えた。
『此は……もしや、どちらも【ドレインパンチ】を使用している!? なんという高等テクニック! 殴り合いながら体力を奪い合い、戦線を持続させている!』
実況の解説に観客が熱狂する。ヒビキはニョロボンのスタミナを計算しながら、勝負どころを見極めていた。
「(……まずいな。オコリザルに
「そろそろ最大威力になったでしょう……オコリザル! 【憤怒の拳】で決めてください!」
ダメージの蓄積を怒りに変え、爆発的な一撃を放つゴーストたいぷの拳。オコリザルの咆哮と共に放たれた一撃がニョロボンを捉え、その巨体を大きく吹き飛ばした。
だが──。
「……よくやった。今だ! 【起死回生】!!」
場外寸前、ギリギリの体力で踏みとどまったニョロボンが、窮地で威力を増す最大火力の拳を叩き込む。
カウンター気味に直撃した一撃により、オコリザルはリング外へと転がり落ちた。
「オコリザル、場外! 勝者、ヒビキ!」
「あぅぅ、ごめんなさい、オコリザル……指示が遅かったですねぇ」
涙目で謝罪するセナに、オコリザルは慌てて頭を振り、彼女の肩を叩いて宥めていた。
「いいバトルだったよ、セナ。オコリザルも、よくやったな」
ヒビキは勝利を噛み締めながらも、セナとオコリザルの間に芽生えた奇妙な絆に、少しだけ目を細めるのだった。
P-1グランプリ、決勝戦。
立ちふさがるのは、ロケット団の妨害を根性で跳ね返し、強豪サワムラーを破って勝ち上がってきたサトシだった。
「(サトシのオコリザルは通常個体。俺のオコリザルより小回りが利くが……戦い方は手の内にある。問題はないな)」
ヒビキが冷静に戦況を分析しながらリングに上がる一方で、観客席の空気はどこか妙なことになっていた。
「いやぁ、まさか初戦で負けるとは思わへんかったわ。サトシの奴、たまにポカするけど、ホンマ強なっとるなぁ」
「うぅ、ヒビキ君のやり方を真似てみましたが、上手くいきませんでしたぁ……」
リンはぼやき、セナは完全にしょんぼりと肩を落としている。隣に座るカスミたちが「そっとしておきましょう……」と苦笑いするほど、ヒビキの影響を受けた二人の落ち込みようは激しかった。
『いよいよ、決勝戦! テクニカルな戦術で翻弄するヒビキ選手か、直感的な熱さで突き進むサトシ選手か! 試合開始!』
ゴングの音が、熱狂の幕を開けた。
「ニョロボン! 【腹太鼓】!!」
「チャンスだサトシ! ニョロボンの体力が削れたぞ、攻めろ!」
タケシの助言を受け、サトシが即座に反応する。
「わかった! オコリザル、【乱れ引っ掻き】だ!」
セナとの一戦と同様、体力を半分犠牲にして攻撃力を最大まで引き上げる博打。そこにサトシの猛攻が襲いかかる。だが、ヒビキは冷静だった。
「攻撃に集中しすぎだ。ニョロボン! 【ドレインパンチ】!」
接近しすぎたオコリザルに対し、カウンター気味に重い拳が突き刺さる。体力を吸い上げつつ、その勢いでサトシのオコリザルを突き放した。
「距離を空いた! 【きあいパンチ】!」
「負けるか! 【メガトンキック】だ!」
溜めが必要な【きあいパンチ】だが、先ほどのリードで十分な時間が稼げた。衝突する二つの技。だが、フルパワーまで高まったニョロボンの剛腕が、オコリザルを再び吹き飛ばす。
「頑張るんだ、オコリザル!」
サトシの魂の叫び。それに応えるように、宙で体勢を立て直したオコリザルが、フェイント気味に横へと跳んだ。
「っ!? 嘘だろ、あの土壇場で【アクロバット】だと!?」
目にも止まらぬ空中機動からの回し蹴りが、ニョロボンの脳天を捉える。タイプ相性抜群の重い一撃。ニョロボンの膝が、がくりと折れかけた。
「不味いな……。ニョロボン! 【起死回生】だ!!」
「オコリザル! 【カウンター】!!」
一か八か、窮地の爆発力をぶつけたニョロボンに対し、サトシはあえて受け流して返す【カウンター】を選択。
クロスカウンターの要領で互いの拳が交差し、衝撃がリングを震わせる。
静寂。
二体は動かない。
やがて──、その体を仰向けに倒したのはニョロボンだった。
『決まったぁぁッ! 激闘の末、勝利を掴んだのはサトシ選手だぁー!』
「やったなぁ、オコリザル!」
サトシが飛びつき、オコリザルとピカチュウを抱きしめる。会場を揺らすような拍手の中、ヒビキは静かにリングに膝を突き、ニョロボンを起こした。
「負けたか……。ごめんな、ニョロボン」
ニョロボンは悔しそうにしながらも、ヒビキの言葉に首を横に振り、サトシたちの強さを認めるように短く鳴いた。
「サトシ! サントアンヌ号のリベンジをされたな。次は負けないぞ」
「ああ、俺もだ!」
がっちりと握り合う手。
その後、サトシはアノキからオコリザルを預からないかと打診された。ヒビキとの旅の約束もあり悩んでいたようだが、強くなりたいと願うオコリザルの目を見て、その背中を押すことに決めたようだ。
「負けたなぁ、ヒビキ!」
「サトシ君も強くなってますねぇ」
「ああ。……さあ、俺たちも旅を続けよう。次のバッジを手に入れて、アイツらに置いていかれないようにな」
リンとセナの言葉に答えながら、ヒビキは気持ちを切り替える。
敗北を糧にしてこそ、強くなれる。
伝説の5人の「兄貴分」たちも、きっとそうやって強くなってきたのだから。
ヒビキたちは再び、ダークシティへと続く道へと歩み出した。