ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
P-1グランプリ、決勝戦。
立ちふさがるのは、ロケット団の妨害を根性で跳ね返し、強豪サワムラーを破って勝ち上がってきたサトシだった。
「(サトシのオコリザルは通常個体。俺のオコリザルより小回りが利くが……戦い方は手の内にある。問題はないな)」
ヒビキが冷静に戦況を分析しながらリングに上がる一方で、観客席の空気はどこか妙なことになっていた。
「いやぁ、まさか初戦で負けるとは思わへんかったわ。サトシの奴、たまにポカするけど、ホンマ強なっとるなぁ」
「うぅ、ヒビキ君のやり方を真似てみましたが、上手くいきませんでしたぁ……」
リンはぼやき、セナは完全にしょんぼりと肩を落としている。隣に座るカスミたちが「そっとしておきましょう……」と苦笑いするほど、ヒビキの影響を受けた二人の落ち込みようは激しかった。
『いよいよ、決勝戦! テクニカルな戦術で翻弄するヒビキ選手か、直感的な熱さで突き進むサトシ選手か! 試合開始!』
ゴングの音が、熱狂の幕を開けた。
「ニョロボン! 【腹太鼓】!!」
「チャンスだサトシ! ニョロボンの体力が削れたぞ、攻めろ!」
タケシの助言を受け、サトシが即座に反応する。
「わかった! オコリザル、【乱れ引っ掻き】だ!」
セナとの一戦と同様、体力を半分犠牲にして攻撃力を最大まで引き上げる博打。そこにサトシの猛攻が襲いかかる。だが、ヒビキは冷静だった。
「攻撃に集中しすぎだ。ニョロボン! 【ドレインパンチ】!」
接近しすぎたオコリザルに対し、カウンター気味に重い拳が突き刺さる。体力を吸い上げつつ、その勢いでサトシのオコリザルを突き放した。
「距離を空いた! 【きあいパンチ】!」
「負けるか! 【メガトンキック】だ!」
溜めが必要な【きあいパンチ】だが、先ほどのリードで十分な時間が稼げた。衝突する二つの技。だが、フルパワーまで高まったニョロボンの剛腕が、オコリザルを再び吹き飛ばす。
「頑張るんだ、オコリザル!」
サトシの魂の叫び。それに応えるように、宙で体勢を立て直したオコリザルが、フェイント気味に横へと跳んだ。
「っ!? 嘘だろ、あの土壇場で【アクロバット】だと!?」
目にも止まらぬ空中機動からの回し蹴りが、ニョロボンの脳天を捉える。タイプ相性抜群の重い一撃。ニョロボンの膝が、がくりと折れかけた。
「不味いな……。ニョロボン! 【起死回生】だ!!」
「オコリザル! 【カウンター】!!」
一か八か、窮地の爆発力をぶつけたニョロボンに対し、サトシはあえて受け流して返す【カウンター】を選択。
クロスカウンターの要領で互いの拳が交差し、衝撃がリングを震わせる。
静寂。
二体は動かない。
やがて──、その体を仰向けに倒したのはニョロボンだった。
『決まったぁぁッ! 激闘の末、勝利を掴んだのはサトシ選手だぁー!』
「やったなぁ、オコリザル!」
サトシが飛びつき、オコリザルとピカチュウを抱きしめる。会場を揺らすような拍手の中、ヒビキは静かにリングに膝を突き、ニョロボンを起こした。
「負けたか……。ごめんな、ニョロボン」
ニョロボンは悔しそうにしながらも、ヒビキの言葉に首を横に振り、サトシたちの強さを認めるように短く鳴いた。
「サトシ! サントアンヌ号のリベンジをされたな。次は負けないぞ」
「ああ、俺もだ!」
がっちりと握り合う手。
その後、サトシはアノキからオコリザルを預からないかと打診された。ヒビキとの旅の約束もあり悩んでいたようだが、強くなりたいと願うオコリザルの目を見て、その背中を押すことに決めたようだ。
「負けたなぁ、ヒビキ!」
「サトシ君も強くなってますねぇ」
「ああ。……さあ、俺たちも旅を続けよう。次のバッジを手に入れて、アイツらに置いていかれないようにな」
リンとセナの言葉に答えながら、ヒビキは気持ちを切り替える。
敗北を糧にしてこそ、強くなれる。
伝説の5人の「兄貴分」たちも、きっとそうやって強くなってきたのだから。
ヒビキたちは再び、ダークシティへと続く道へと歩み出した。
オコリザルは預けられますが、リーグ中に戻すつもりです。