ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
クロバネの衝撃的な過去にリンとセナが言葉を失っていると、タイミングよくヒビキの通信機が鳴り響いた。画面に表示されたのはジストの名前だ。
ヒビキが応答すると、ジストの少し呆れたような声が聞こえてきた。
『おう、クロバネは戻ったか?』
すかさずクロバネが画面に顔を覗かせ、丁寧ながらもどこか親しげな口調で応じる。
「ええ、ジスト先生。ご連絡をいただき本当にありがとうございます。まさか私が留守にしている間に、こんな事態になっていただなんて……」
『ああ、それに関連しての報告だ。ジムからの緊急連絡を握り潰していた「ヤバシ」という職員にさっき直接話を訊いたんだがな……なんと、現場からのSOSを“どうせただの冗談だろう”と思い込んで、上層部に報告していなかったらしい。それどころか、他の職員にも“まともに取り合うな”と触れ回っていたそうだ』
「そんな事があるんですかぁ!?」
スピーカーから漏れ聞こえる内容に、セナが思わず驚きの声を上げる。ジストは重々しく頷いた。
『当然、ポケモンリーグとしても今回の件は重く受け止めている。二度とこんな不祥事を起こさないよう、徹底的な再発防止策を講じることになった。原因を作ったヤバシは即刻クビだ。……まあ、処分が下る前に、俺の詰問中の“圧”で色々と漏らしちまったところを周囲に見られて、恥ずかしさのあまり自分から逃げるように辞めていったがな』
「ふふ、目に浮かぶようだわ。事情は分かりました、本当に助かりました」
『おう。……じゃあクロバネ、せっかくだからそこにいるヒビキをいっちょ揉んでやってくれよ』
ニカッと笑うジストの顔が消え、通話が切れる。クロバネは通信機からヒビキへと視線を戻すと、ジムリーダーとしての鋭い笑みを浮かべた。
「それじゃあヒビキちゃん、早速始めましょうか」
ダークジムのバトルフィールドに、ヒビキとクロバネが対峙する。
「改めて名乗らせてもらうわね。私はクロバネ。ダークジムのジムリーダーを務める者。専門は悪タイプ……だけど、もう一つの『リージョンフォーム』の使い手でもあるの。本気で相手をしてあげるから、全力でかかってきなさい! おゆき、ケンタロス!」
クロバネが放ったモンスターボールから現れたのは、通常のケンタロスとは明らかに異なる姿のポケモンだった。体毛は夜の闇のように漆黒で、頭部の角の形状も2つのコブが付いた太い形状をしている。
「ブモォォーーッ!!」
「行ってこい、リングマ!」
ヒビキも迷わず、旅の相棒であるリングマをフィールドへと送り出した。「グマァ!」と野太い咆哮が響き渡る。
ベンチで見守るリンが、見慣れない対戦相手に目を丸くした。
「何やあのケンタロス!? まっくろけやん!」
「初めて見ますねぇ……カントーのケンタロスとは全然違います」
セナの言葉に応じるように、クロバネが誇らしげに胸を張る。
「この子はパルデア地方という土地の固有種、通称パルデアケンタロスよ。他の地方ならノーマルタイプだけど、この子は格闘タイプ。さらにパルデア種には3つの形態があってね……この子は水タイプを併せ持つ『ウォーター種』なのよ!」
「格闘に水……! ということは、ノーマルタイプのリングマにとっては相性が最悪やん!」
リンが焦りの声を上げるが、ヒビキの瞳に怯えはなかった。
「タイプ相性なんて、実力で引っくり返して見せる! リングマ、【ビルドアップ】!」
リングマが身を震わせ、筋肉を増強させて防御と攻撃を高める。
「そこから一気に踏み込め、【雷パンチ】!!」
拳に激しい電撃を纏わせ、リングマが突進する。しかし、クロバネは冷徹にいなした。
「ケンタロス、【呪い】からの【ウェーブタックル】よ!」
ケンタロスが怪しげなオーラを纏って自身の能力を書き換えた直後、激しい濁流をその身に纏って突撃した。
フィールドの中央で、雷を宿した拳と、凄まじい水流を纏った角が激突する。
ドガァァン!! と激しい衝撃波が走り、二匹は同時に吹き飛ばされた。しかし、タイプ一致かつ威力抜群の【ウェーブタックル】の衝撃は凄まじく、リングマの方が大きく後方へと転がっていく。
「これもおまけよ、【威張る】!」
「ブモォォッ!」
ケンタロスの咆哮がリングマのプライドを刺激する。【威張る】の効果によりリングマの攻撃力はさらに跳ね上がったが、同時に激しい混乱状態に陥ってしまった。
「くっ、リングマ、しっかりしろ! 【切り裂く】だ!」
ヒビキの声に、リングマは混乱に頭を振りながらも本能で爪を振り下ろす。しかし、混乱による動作の遅れは致命的だった。
「その隙を逃すほど優しくないわ! ケンタロス、【インファイト】!」
「ブモモモモモッ!」
ケンタロスは怒涛の連続打撃をリングマの巨体に叩き込む。効果は抜群。リングマは悲鳴を上げて再び大きく吹き飛ばされた。
「グマァッ!?」
地面に倒れ伏すリングマ。だが、その瞳に宿る闘志の炎は消えていない。激痛のショックが、かえって頭の混乱を綺麗に吹き飛ばした。
「よし、混乱が解けたな! リングマ、全力だ……【恩返し】!!」
これまでの旅路で培ったヒビキへの深い信頼と絆が、リングマの拳に爆発的なエネルギーとなって宿る。相性を凌駕する、リングマが放てる最大最強の一撃。
対するクロバネも、歓喜に震えるような声で叫んだ。
「素晴らしいわ! ならばこちらは、【ウェーブタックル】を纏いながらの【インファイト】よ!!」
大瀑布のような水流を身に纏い、その勢いのまま無数の拳を繰り出す超高等技術。
フィールドの真ん中で、互いの意地と全力が正面から衝突した。
――ズドォォォォン!!!
耳を聾するような大爆発が巻き起こり、白い煙がフィールドを完全に包み込む。
リンとセナが息を呑んで見守る中、ゆっくりと煙が晴れていった。
そこにいたのは、完全に意識を失って大の字に倒れているリングマの姿だった。
「ブモォォォーーッ!!」
勝者としての雄叫びを上げるケンタロス。しかし――その直後、ウェーブタックルの反動ダメージと【恩返し】の凄まじい衝撃に耐えかねたように、ケンタロスの巨体もまた、膝からガクリと崩れ落ち、その場に崩れ落ちた。
「両者、戦闘不能……!」
静まり返るダークジムに、ジムトレーナーの呆然とした声が響き渡る。第一戦は、誰もが予想しなかった壮絶な相打ちという形で幕を閉じたのだった。