ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド   作:ガチャガチャクツワムシ

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グランパキャニオン

 グレンタウンへの定期便が出ている港町を目指し、旅を続けていたヒビキ、リン、セナの3人。その途中、彼らは今まさに化石発掘のブームに沸いているという噂の大渓谷『グランパキャニオン』へと通りかかっていた。

 茶褐色の岩肌が続く渓谷へ足を踏み入れると、どこか見覚えのある派手な衣装を身に纏った少年がこちらを振り向いた。

 「おや、ヒビキにレディ達じゃないか。久しぶりだね」

 それは、とある有名な映画の登場人物のコスプレをして、すっかりお祭り騒ぎを楽しんでいるシゲルだった。

 「シゲルやん! 久しぶりやね!」

「シゲル君、お久しぶりですねぇ」

「久しぶりシゲル! お前がここに居るってことは、やっぱり化石掘りか?」

 3人が次々と声をかけると、シゲルは自慢げに肩をすくめて見せた。

「あぁ、ここは今、巷で一番有名な発掘現場だからね。研究者として、貴重な化石を見逃すわけにはいかないさ」

 シゲルの言葉通り、周囲を見渡せば彼と同じようにツルハシやスコップを手にした大勢の発掘者たちで賑わっていた。

 しばらくシゲルと楽しげに世間話をした後、せっかくの機会だからとヒビキたちもそれぞれ離れた場所に散らばり、バラバラに化石を探してみることにした。

 リンやセナの姿が見えないほど離れた岩陰で、ヒビキが一人でツルハシを振るっていると、一人の男がヒビキに気づいて声をかけてきた。

 「おや、君は……お月見山での!」

 それは以前、お月見山の道中で熱心に化石を掘っていた、あの理科系の男だった。

 「あの後ね、ニビシティの科学博物館に行って、手に入れた2つのうち1つを復元させたんだよ!」

 男が嬉々としてモンスターボールを開くと、中から触手をウネウネと動かすオムナイトが姿を現した。

 「実はこの辺り、カントーやジョウト以外の珍しい地方の化石も発掘されることがあるらしいんだ。君たちもぜひ探してみるといいよ」

 男はそう貴重な情報を教えてくれると、再び熱心に発掘へと戻っていった。

 「カントー以外の化石か……よし、俺もちょっとやってみるか」

 ヒビキも再びツルハシを手に取って岩肌を叩き始めてみたものの、化石はそう簡単には見つからない。しかし、遠くからは時折「化石が出たぞ!」という興奮した叫び声が聞こえてくるため、宝が眠っていること自体は確からしい。

 「まあ、俺にはもうプテラが居るしな。もし見つかるなら、カブトの化石なら欲しいかもなぁ……」

 そんなことを呟きながら現場から離れた位置で地面を探っていると──突然、渓谷の奥から凄まじい爆発音が轟いた。

 ──ドガァァァン!! 

 「うおっ!? びっくりしたぁ! なんだ、何が起きたんだ!?」

 ヒビキがいち早く上空を見上げる。そこには、巨大な翼を広げた野生のプテラが、誰かを足に掴んだままけたたましく飛行している姿があった。

 「あれって……ありゃあ、サトシか! またアイツ、なんかトラブルに巻き込まれてるよ」

 サトシの手持ちであるリザードンが、主人を助けようと必死に野生のプテラを追いかけている。しかし、サトシを人質(?)に取られているせいか、迂闊に手が出せずに完全に攻めあぐねている様子だった。

 「しゃーない、手伝うか。──行ってこい、プテラ!!」

 ヒビキが放ったボールから、「ギュオオオォォッ!!」と空気を震わせる咆哮と共に、圧倒的な体躯を誇る『親分個体』のプテラが飛び出した。

 主の指示を煽るまでもなく状況を察したヒビキのプテラは、すぐさま遥か上空の野生のプテラの前へと立ちはだかる。

 野生のプテラは、自分を遥かに凌駕する威圧感を持った同族を前にして、本能的な恐怖に身体を強張らせた。しかし、太古の空の王者としてのプライドが引き下がることを許さず、掴んでいたサトシを容赦なく放り投げ、ヒビキのプテラへと猛然と襲いかかった。

 「うわあああぁぁっ!?」

 落下していくサトシを、追いついたリザードンが間一髪で背中に受け止める。

「アギャースッ!」

「グオオッ!」

「サンキュー、リザードン! ……って、すげぇ、あれってヒビキのプテラだよな!?」

 サトシが空を見上げる中、野生のプテラの一撃がヒビキのプテラに直撃した。しかし、ヒビキのプテラはびくともしない。ジストのエレキブルのような本物の怪物たちと戦ってきた彼からすれば、野生の個体の攻撃など、蚊に刺されたようなものだった。

 (こんなもんか)と言わんばかりに冷ややかに鼻を鳴らすと、ヒビキのプテラは光り輝く尾を力強く一閃した。

 強烈極まりない【アイアンテール】が野生のプテラの脳天へと容赦なく叩きつけられる。

「ギィアッ!?」

 脳震盪を起こした野生のプテラは、一撃で戦闘不能となり、地面に開いた巨大な縦穴へと真っ逆さまに叩き落されていった。

 ヒビキのプテラは追撃の手を緩めず、穴を塞ごうと【岩雪崩】を発動させようとした──その時だった。

 どこからともなく、妙に透き通った、しかし聞き覚えのある不思議な歌声が渓谷中に響き渡った。

 「プッププープゥ〜、ププ〜プゥ〜♪」

 (……っ!? この歌声は……不味い……!)

 現場から離れた場所にいたヒビキの元にも、強烈な眠気が一瞬にして襲いかかってくる。抗おうとするものの、瞼が鉛のように重い。それは上空のプテラたちやサトシ、そしてそれぞれ別の場所で化石を掘っていたリンやセナ、発掘者たちも同様だった。

 「何か、急に眠……むにゃ……グガー……」

 ヒビキはそのまま耐えきれず、近くにあった手頃な岩を枕にするような形で、地面へ倒れ込んで深い眠りに落ちてしまった。

 しばらくして。

 心地よい風の音で、ヒビキはふっと目を覚ました。

 ゆっくりと上体を起こすと、目の前にピンク色の丸い影──プリンが佇んでいた。その小さな手には黒いサインペンが握られており、今まさにヒビキの顔に落書きをしようと企んでいたところだったらしい。

 しかし、ヒビキが予想外に早く目を覚ましたため、プリンはチッと不満そうに頬を膨らませると、そのままぷいっと背を向けてどこかへ去っていってしまった。

 「……なんだったんだ、一体? って、ん? これ……」

 寝ぼけ眼をこすりながら、先ほどまで枕代わりにしていたゴツゴツとした岩に目を落とする。よく見てみると、ただの岩ではない。奇妙な螺旋状の模様がくっきりと浮かび上がっていた。

 「これって……何の化石だ? まあ、いっか。一応貰っておこう」

 偶然の収穫に得をした気分になりながら、化石をリュックに仕舞い、サトシたちの様子を見に行こうと歩き出す。そこにはすでに目を覚ましていたサトシやシゲル、そして同じように合流してきたリンとセナが集まっていた。

 しかし、彼らの顔を見た瞬間、ヒビキは思わず大爆笑してしまった。

 「ワハハハハッ!! なんだよその顔! お前ら全員、顔面におかしな落書きされてんぞ!」

 サトシの顔にはうずまき、シゲルの顔には星マーク、そしてそれぞれ離れて掘っていたはずのリンには花丸とセナにはハートマークの、容赦なく黒々とした落書きが施されている。

 怒ったリンがヒビキの胸ぐらを掴むように詰め寄った。

「何笑うとんねん! なんでアンタだけ、顔に何も書かれてへんのよ!?」

「そうですよぉ、ヒビキ君だけずるいです。さては、先に目が覚めて顔を洗いましたねぇ?」

 セナもジト目を向けてジリジリと距離を詰めてくる。

 「ち、ちげーよ! 俺は今さっき起きたんだって! 本当に洗ってねえよ!」

 大渓谷の青空の下、弁解するヒビキの声と、幼馴染みたちの賑やかな笑い声がいつまでも響き渡るのだった。

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