ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド   作:ガチャガチャクツワムシ

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グレンジム決着

「成る程! 【岩雪崩】を防御に回すついでに、次の【地団駄】の威力を跳ね上げるために利用したのだな」

 カツラは感心したようにウィンディをボールへと戻し、そのカラクリを見抜いていた。

「だが、ワシの炎はまだまだ消えんぞ! ゆくのだ、ギャロップ!」

「ヒヒィィ──ン!」

 激しく燃え盛るたてがみを持つギャロップが、軽快な足音を立てて炎の中から現れた。

「ギャロップか……【神速】が無いならまだマシだな。リングマ、【岩雪崩】!」

「ギャロップ、【スマートホーン】と【角ドリル】じゃ!」

 ギャロップの額の角が妖しく輝く。次の瞬間、ギャロップはリングマが降らせた【岩雪崩】の隙間を、まるで生き物のようにすり抜けて突進してきた。その動きは完全にリングマをロックオンし、追尾している。

 キィィィン!! 

 確実に急所を貫く【スマートホーン】の軌道に乗った【角ドリル】が、リングマの胴体を容赦なく貫いた。一撃必殺の衝撃に、リングマは声を上げる間もなく崩れ落ち、戦闘不能となった。

「えっ……!?」

 あまりの戦闘不能の早さに、ヒビキの思考が一瞬停止した。

「驚いたかい? これは絶対に対象を逃さない【スマートホーン】の効果を、一撃必殺の【角ドリル】に纏わせた必中コンボじゃ。本来はジム戦では使わん裏技なのだが、本気で相手をすると約束したからな、使わせて貰ったよ」

「マジかよ……すまん、リングマ。よくやってくれた」

 相棒を労いながらボールへ戻すと、ヒビキは覚悟を決めた目で最後のボールを握りしめた。

「行ってこい、ニドキング!」

「ニドォォッ!」

「ここで出すんか!?」

「でも、あの必中一撃必殺コンボに対抗するには、タフでパワーのあるニドキングじゃないと難しそうですねぇ」

 仲間たちが見守るなか、ヒビキは一か八かの大勝負に出た。

「ニドキング! 【砂嵐】だ!!」

 ニョロボンの時から激しく照りつけていた【日本晴れ】の強烈な光が、突如として巻き起こった猛烈な砂の嵐によって遮られ、フィールドから消え去った。

「ほう、よく気がついたね」

 カツラがニヤリと不敵に笑う。

「このマグマフィールドの超高温下では、空気が乾燥しすぎて雲を発生させることができん。ゆえに【雨乞い】や【雪降らし】は不発に終わるが……乾燥しているからこそ、砂や岩を巻き上げる【砂嵐】は問題なく発動できる。環境の裏をかいたな!」

「褒めてもらうのは、勝ってからにします!」

「ならば受けてみよ! ギャロップ、もう一度【スマートホーン】からの【角ドリル】!」

「ヒヒィィ──ン!」

「ニドキング! こっちも【角ドリル】と【地割れ】だ!!」

 ギャロップの必中【角ドリル】がニドキングへ肉薄する。ニドキングも自身の角を激しく回転させて相殺を試みるが、ギャロップの追尾軌道を狂わせることはできず、その一撃がニドキングの胸を深く抉った。

 しかし、ニドキングが倒れるのと完全に同時だった。

 最後の力を振り絞って地面を叩き割った【地割れ】の巨大な亀裂がギャロップを奈落の底へと引きずり込み、激しい爆煙とともに両者が同時に戦闘不能となった。

「ギャロップ、ニドキング、共に戦闘不能!」

 フィールドを覆う砂嵐のなか、お互いに3匹を失ったヒビキとカツラ。残る手持ちは、お互いにあと1匹。グレンジムの命運を分ける最終決戦の火蓋が、いま切られようとしていた。 

 お互いが最後の1匹となり、フィールドにはニドキングが残した「砂嵐」が未だに激しく吹き荒れていた。超高温の熱気と激しい砂塵が渦巻くなか、カツラは不敵で、しかしどこか満足げな笑みを浮かべていた。

「やはり、ポケモンバトルとはこうでなくてはならない! 最近は観光ついでの腑抜けた輩が多くて辟易しておったが……ヒビキ君! この灼熱の壁を超えてみせよ! 出でよ、ブーバーン!」

 カツラの咆哮に応えるように、ボコボコと音を立てるマグマの中から一匹の巨体が姿を現した。砂嵐で視界を遮る赤茶けた空気の向こうに現れたのは、通常の個体を遥かに凌駕する、圧倒的な体躯を持ったブーバーンだった。

「デカッ!?」

「あれ……野生の『親分個体』に匹敵する大きさですよぉ……!」

 リンとセナがその威圧感に気圧されるなか、ヒビキだけは不敵に目を細め、冷静にその姿を分析していた。

「この肌を刺すような覇気……グレイ兄のブーバーンにも、決して引けを取らないな」

「ほう、嬉しいことを言ってくれる!」

 カツラは嬉しそうに目を細めた。

「グレイ君のブーバーンといえば、シンオウ四天王であるオーバ君のブーバーンをもねじ伏せたことのある本物の強者じゃ。ワシのブーバーンもな、彼らをいつか超えることを目標に、このマグマの中で日々鍛錬を積んできたのだよ!」

「なるほど。それならこの覇気にも納得だ。──なら、こっちも最大火力で行くぞ! 行ってこい、ドサイドン!」

「ドサァァァッ!!」

 ヒビキが最後に繰り出したのは、こちらも大地を揺るがすほどの巨大さを誇る、親分個体のドサイドン! 吹き荒れる砂嵐のなか、フィールドの岩盤がその凄まじい総重量でミシミシと悲鳴を上げる。

「親分個体のドサイドンか! これは血が燃えるねぇ! ブーバーン、【クロスチョップ】!」

「ブバッ!」

「ドサイドン、【アームハンマー】だ!」

「ドサァッ!」

 激しい砂塵を割りながら、一歩も引かぬ両者が正面から激突する! 炎を宿したブーバーンの両手刀と、ドサイドンの丸太のような剛腕がぶつかり合い、周囲のマグマを跳ね上げるほどの凄まじい衝撃波が炸裂した。

 ブーバーンは衝撃を利用して素早く後方へ飛び退くと、即座に距離を置いた戦術に切り替える。

「間髪入れずに【熱砂の大地】! さらに【アシッドボム】じゃ!」

 大地から噴き出す灼熱の砂と、ドロリとした酸の弾丸が砂嵐の隙間を縫ってドサイドンを襲う。しかし、ヒビキの指示もコンマ数秒と遅れはしなかった。

「その場に籠もるな! 【ストーンエッジ射出式】!」

 ドサイドンは手の穴からプロペラ状の岩石をガトリングガンのように高速連射し、砂嵐に紛れて迫る酸の弾丸を空中でことごとく撃ち落として相殺していく。激しい火花と煙がさらに視界を遮った、その瞬間──。

「ブーバーン、今すぐそこを跳べ!!」

「ブーバッ!?」

 カツラの鋭い大声に、ブーバーンが反射的に真上へと跳躍する。直後、砂嵐と煙の向こう側、先ほどまでブーバーンがいた足元の岩盤から、巨大で鋭利な【ストーンエッジ】が突き出してきた。激しい応酬の間にも、ヒビキは足元からの奇襲を仕掛けていたのだ。

 カツラは冷や汗を拭いながら声を張る。

「まさか、あの激しい応酬の間に足元を狙っておったとはな……!」

「読まれちゃ意味ないですけどね! ──そのまま墜とせ、【ドリルライナー】!」

 空中へ逃げたブーバーンを逃さず、ドサイドンが全身を高速回転させながら弾丸のように突撃する! 

「ならば、迎撃の【大文字】じゃ!」

 ブーバーンの砲口から放たれた大熱量の大文字が直撃するが、ドサイドンは強固な岩石の身体でその熱を強引にすり抜け、回転の勢いのままブーバーンに重い一撃を叩き込んだ。

「 これで決めるぞ! ブーバーン、砂嵐を【大文字】の焔で焼き尽くしながら、【クロスチョップ】だ!!」

 ブーバーンが咆哮し、自ら放った大文字の業火を肉体に同化させ、吹き荒れる砂嵐さえも熱気で捩じ伏せるような巨大な火の鳥となって突撃してくる。カツラの、そしてブーバーンの魂が籠もった文字通りの一撃必殺。

 それを正面から見据え、ヒビキは最大の手霊を突き出した。

「受け止めてぶち抜け! ドサイドン、【岩石砲】!!」

 ドサイドンの全身の筋力が増強され、超巨大な岩塊が形成される。迫り来るブーバーンの炎の突撃をその巨体で受け止めながら、ドサイドンは至近距離から【岩石砲】を思い切り叩きつけるようにぶち放した。

 ドグォォォォォォン!!! 

 砂嵐の渦とブーバーンの炎、そしてドサイドンの岩石が衝突し、マグマフィールド全体が崩落するかのような大爆発が巻き起こる。濃い黒煙と、引き裂かれた砂塵がフィールドを完全に覆い尽くし、勝負の行方は誰の目にも見えなくなった。

 しばらくの間、静寂が流れる。そして、ゆっくりと煙が晴れ、砂嵐がその勢いを失っていくと──。

 赤黒いマグマを背景に、堂々とその場に立ち尽くしていたのは、全身から煙を上げながらも牙を剥いて吠える、ドサイドンの雄姿だった。その足元には、力尽きたブーバーンが横たわっている。

「ブーバーン戦闘不能! ドサイドンの勝ち! よって勝者、マサラタウンのヒビキ!!」

 審判の力強い宣言が響き渡った。

「よっしゃァァァ──ー!!!」

「ドサァァァァァッ!!!」

 ヒビキの歓声と、ドサイドンの勝利の雄叫びが重なり合い、洞窟内に激しく反響する。

「よく頑張った、ブーバーン。ゆっくり休みなさい」

 カツラは相棒を労ってボールに戻すと、満足そうな笑みを浮かべてヒビキの元へと歩み寄った。

「おめでとうヒビキ君! 魂の震えるような素晴らしいバトルじゃった。これぞ勝利の証、『クリムゾンバッジ』じゃ!」

「ありがとうございます!」

 手渡された深紅のバッジを掲げ、ヒビキが嬉しそうにリンとセナの方を振り返る。

「やったぞ、2人とも──って、ええ!?」

 見ると、応援席のベンチでリンとセナの2人が、白目を剥いてぐったりと虚ろな表情をしていた。この超高温のマグマのバトルフィールドに長時間いたせいで、完全に限界を迎えていたのだ。

「やべッ!? 2人とも熱中症みたいになってる!?」

「こりゃいかん! ワシとしたことがバトルに熱中しすぎた! すぐに涼しい所へ運ぶのじゃ!」

 大慌てで2人を抱え、カツラと共に地上の涼しい部屋へと連れて行き、冷たい水と休息を与えたおかげで、2人はすぐにいつもの元気を取り戻した。

 その後、体調が万全になったリンとセナは、体調を考慮してマグマの上ではなく、地上にある通常の涼しいバトルフィールドにて、カツラとの正々堂々としたジム戦をそれぞれ行うのだった。

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