ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド   作:ガチャガチャクツワムシ

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フシギソウの冒険

 グレンタウンへの定期便が出る港町へ向かう途中、ヒビキたちは物資の調達と旅の休息を兼ねて、とある自然豊かな街に数日間滞在することになった。

 その街は、古くからフシギダネとその進化系が「街の守り神」として大切にされている場所だった。街のいたるところで野生やトレーナーのフシギダネ、フシギソウ、フシギバナたちが人間に混ざって自由に放し飼いされている。

 ヒビキとセナは、それぞれの相棒であるフシギソウとフシギバナをボールから出し、数日間自由に過ごさせることにした。

 数日後。ヒビキのフシギソウは、ここですっかり友人となった地元のフシギソウと一緒に、小高い丘の上で気持ちよさそうに【光合成】をしながら日向ぼっこをしていた。するとそこへ、見覚えのある顔──サトシのピカチュウとフシギダネがやってきた。

 ※ここからは、ポケモンたちの会話の翻訳である。

 「……神様?」

 ヒビキのフシギソウが、不思議そうにオウム返しをした。

 「そう! 昔、人間を守るために戦ったフシギバナが大樹となったという『フシギバナの樹』。その頂上には、今でもフシギバナの神様がいるとされてるんだ」

 地元のフシギソウが誇らしげに語る。

 しかし、そんな昔話を偶然聞いていたサトシのフシギダネが「そんなの嘘っぱちだろ」と笑ってしまい、そこから二匹は大喧嘩に発展! 本当に神様がいるのかどうか、証拠を見るために実際に見に行くことになってしまったのだ。

 暇つぶしについていくだけと言いながらも、ヒビキの親分スピアーとセナのプクリンも、お目付け役としておもしろ半分でついていくことにしたようだ。

 大樹のゴツゴツとした太い幹を、みんなで一歩ずつ登っていく。

 「おい! フシギソウ! 気を付けろよ! お前さん、すっとろいんだからな!」

 上空を飛びながら、親分スピアーが鋭い針を突き出して発破をかける。

 「わかっているよー! スピアー」

 ヒビキのフシギソウが苦笑いしながら答えると、その少し後ろから、セナのプクリンがフシギバナを見上げた。

 「貴方もね。フシギバナ、主に似てのんびりしているから」

「わかっているわ、プクリン」

 フシギバナは背中の花を揺らしながら、穏やかに微笑んだ。

 そんなやり取りを見上げていたサトシのフシギダネが、ピカチュウと顔を見合わせて感心したように呟く。

「あの二匹すごいね」

 「俺だってサトシとの旅で強くなっているから余裕だぜ!」

 地元のフシギソウが感嘆の声をあげるなか、サトシのフシギダネも負けじと蔦を器用に伸ばして身体を引き上げていく。

 そうやってしばらく登っていると、地元のフシギソウがふと思いついたように尋ねた。

「そういや、君は【進化】しないの?」

 「オイラ? オイラは、今の技を覚えてからにしたいかな~」

 ヒビキのフシギソウは、自分の背中の蕾を少し振り返りながら言った。

 すると、上の枝にバッと着地した親分スピアーが、腕組みをしながらフシギソウを見下ろした。

「ヒビキの旦那は、お前さんならいつ【進化】しても可笑しく無いと思っているからな。お前さんの事情も俺っち達は分かるが、早めに覚えろよ?」

 「事情って?」

 地元のフシギソウが不思議そうに首を傾げた。

 「前に別のフシギバナにも言ったんだけど、オイラ覚えるのが苦手で、他タイプの技が上手く無いんだ。進化したらまた上手く使えなくなりそうだから、上手くなってからにしたいんだよね~」

 フシギソウは少しはにかむように笑うと、大樹のさらに上を見つめ、少し声を落とした。

 「それに……オイラが進化したら、あの人達も分からなくなるかなっても思っちゃってね……」

 「あの人?」

 地元のフシギソウが聞くと、代わりにスピアーが静かに答えてくれた。

 「コイツとブースターは、別のトレーナーが居たんだがな、そのトレーナーの家族がアレルギーって奴になって死にかけたそうなんだ。それで代わりのトレーナーを探している時に、ヒビキの旦那と出会ったんだよ」

 「そうなんだ……」

 地元のフシギソウは絶句し、切なそうに目を伏せた。

 ヒビキのフシギソウは、温かい決意を瞳に宿し、力強く前を向く。

「あの人達の苦しみも分かるからね。ヒビキさんには感謝しているから、力になりたいんだ」

 その時だった! 

 「ナーハッハッハ! 伝説の『フシギバナの神』、ロケット団が頂戴するのニャ!」

 突如として爆煙が巻き起こり、ロープや網を手にしたロケット団の三人組(ムサシ、コジロウ、ニャース)が、巨大なメカを操って木々の間から飛び出してきた! 彼らもまた、神の噂を聞きつけて密かに大樹へ迷い込んでいたのだ。

 「ロケット団!? こんな神聖な場所で何をするんだ!」

 サトシのフシギダネが叫ぶ。

 「うるさいニャ! 珍しいポケモンは皆ニャー達の物ニャ! いくニャ、マタドガス、アーボック!」

 「おいおい、俺っち達を無視してんじゃないぜ! 【ドリルライナー】!!」

 親分スピアーが激昂し、高速回転し突撃した。

 「プクリンだって怒ったんだから! 【サイコキネシス】!」

 プクリンが猛烈な勢いでアーボックをサイコパワーで圧倒し、セナのフシギバナがその巨体でロケット団のメカへと強烈な【体当たり】をぶちかます! 

 「オイラだって負けないよ! 【蔓の鞭】!!」

 ヒビキのフシギソウが、感謝の想いを乗せた力強い蔦でマタドガスを叩き落とした! 

 「な、なんなのよこのポケモンたち、強すぎるわよ──!?」

「嫌な感じぃ──!!」

 完璧な連携の前に、ロケット団の三人組は一瞬で夜空の星へと消えていった

 バキバキバキッ……!! 

 激しい戦闘の衝撃により、大樹の足場が真っ二つに裂けた! 

 「うわああああっ!?」

 運悪く足を踏み外したフシギソウとサトシのフシギダネの身体が、大空へと投げ出され、大樹のはるか下方へと真っ逆さまに落下していく! 

 「危ない!!」

 ヒビキのフシギソウが叫び、必死に【蔓の鞭】を伸ばす。案内役のオニドリルも猛スピードで急降下するが、落下の速度が早すぎてあと一歩届かない! 誰もが最悪の事態を覚悟し、目を瞑った──その時。

 ヒビキのフシギソウの胸の奥で、何かが熱く弾けた。

(オイラは……ヒビキさんの力になりたいんだ。あの人達に誇れるくらい、大切なものを守れる強さが欲しい……!!)

 カァァァァァッッ!!! 

 その強い決意に応えるように、フシギソウの身体が目も眩むような進化の白い光に包まれた! 

 光の中で、その身体が一回りも二回りも巨大に膨れ上がり、背中の蕾が、大樹の生命のエネルギーを吸い上げて大輪の『花』へと一気に開花していく! 

 「フシギバァァァ──ン!!!」

 地響きのような咆哮とともに光が弾け、そこには堂々たる姿へと【進化】を遂げたフシギバナが立っていた! 

 進化したことで爆発的に伸びた太い【蔓の鞭】が、空中でフシギソウとフシギダネの身体をガシッと完璧に捉え、そのまま安全な大枝へと引き戻したのだ。

 「え……? 助かったのか……?」

 フシギダネが恐る恐る目をあけると、目の前には、つい先ほどまで同じ目線で話していたはずの先輩が、立派なフシギバナとなって優しく微笑んでいた。

 「間に合ってよかった。……これが、オイラの進化した姿だぜ!」

 「おめでとう!」

 ピカチュウが歓声を上げ、同時に大樹の天辺を見上げる。

 ふわぁぁぁ……っ! 

 進化したフシギバナの誕生を祝福するかのように、大樹の天辺からまばゆい光の粒子と、無数の『花びら』が降り注いだ。

 全員がそこを見上げると──そこには、大樹の太い枝やツルが複雑に絡み合い、まるで世界そのものを包み込むような、巨大な『フシギバナの姿』を象っていた。

 「あれが……『神』の正体……」

 ヒビキのフシギバナが、畏敬の念を込めてその姿を見つめる。

 それは大樹の一部が長い年月をかけてフシギバナの姿となった、自然の神秘そのものだった。

 その時、神の姿を象る枝の隙間から、何かがキラリと反射して、新米フシギバナの足元へとポロリと落ちてきた。

 「ん? これは……?」

 プクリンが駆け寄り、草むらからそれを拾い上げる。それは、不思議なうずまき模様が刻まれた、美しく妖しく輝く一粒の鉱石だった。

 親分スピアーがそれを覗き込み、驚いたように羽を震わせる。

「おいおい……こいつはただの綺麗な石じゃねえぞ。俺っち達の間で噂に聞く、さらなる進化の力を秘めた『フシギバナイト』じゃねえか!?」

 大樹の神が、新たな一歩を踏み出したヒビキのフシギバナの決意を認め、この先の未来で必要になるであろう秘宝を授けてくれたのだ。

 「ありがとう、大先輩。これ、大切に持ち帰ってヒビキさんに渡すよ」

 フシギバナは宝物を大事そうに蔓で預かると、大樹に向けて深く頭を下げる。

 サトシのフシギダネも、「俺もいつか、お前みたいに強くなってやるからな!」と誇らしげに先輩の姿を見つめていた。

 大天空から降り注ぐ光と花吹雪の中、ポケモンたちは伝説の優しさに守られながら、新しい絆と確かな宝物を胸に、いつまでもその美しい景色を心に刻み込むのだった。

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