ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
強行軍の末、三日目の夕方にグレンタウンへたどり着いたヒビキたちは、荷物を置くためにあらかじめ予約していたペンションへと向かった。
「あった、あった! ここだ、『ペンション・ナゾナゾ』!」
「ここに泊まるようにジストさんに言われましたからねぇ」
「なんでなんやろな?」
不思議がりながらリンが扉を開け、ヒビキが声をかける。
「すみませーん、予約したヒビキですけど〜」
すると、建物の奥から一人の風変わりな老人がひょっこりと姿を現した。
「ようこそ! ペンション・ナゾナゾへ! さあ、我が館へ泊まりたくば早速ナゾナゾじゃ! 『上が洪水、下は大火事』な〜んだ?」
あまりにもベタな問題に、3人は顔を見合わせた。
「簡単ですねぇ」
「ほなら、せーので言おか」
「了解」
「「「せーの、(お)風呂!!」」」
「ピンポン! ピンポン! 大正解じゃ!」
老人は嬉しそうに飛び跳ねると、身に纏っていたカツラ(ウィッグ)と変装を豪快に脱ぎ捨てた。
「さてとお約束は終えて、ワシの正体はグレンジムのジムリーダー・カツラじゃ。ようこそヒビキ君! ジストから話は聞いておるぞ! 本気で相手をしよう! ……と言いたいところじゃが、流石にもう夜も遅い。ジム戦は明日の朝から行おう。今日は旅の疲れをゆるりと癒やしなさい」
そう言って笑うカツラに部屋へと案内され、3人は移動の疲れを癒やすために極上の温泉を楽しんだ。そして、あまりの心地よさに泥のように眠りについてしまった。
翌朝。
カツラに案内され、3人は宿の地下へと続く長くて暗い階段を降りていった。進むごとに、肌を焼くような猛烈な熱気が強くなり、全員の額から滝のような汗が止まらなくなる。
「あ……暑いですぅ……」
「まだ着かへんのかな? このままやとウチ、茹でオクタンになってまう!」
リンが服の襟元をパタパタと仰ぎ、ようやくたどり着いたその先──3人は思わず息を呑んだ。
そこは、周囲に本物の煮えたぎるマグマがドクドクと広がる、文字通りの地獄のような特設バトルフィールドだった。
「ルールは4対4のシングルバトルとなります。チャレンジャーのみポケモンの交代が可能です」
いつの間にか現れていた審判が厳格に宣言するなか、ヒビキがたまらずカツラに質問を投げかける。
「あの……もし、あの煮えたぎるマグマに落ちたらどうなります……?」
カツラは豪快に笑って腕を組んだ。
「安心しなさい。バトル中は特殊な電磁フィールドが張られておる。万が一ポケモンやトレーナーが落下しても、弾き返されるようになっておるから心配は要らんよ」
その言葉に一安心したヒビキは、戦闘服の袖をグッと捲り上げた。
「なら、暑くて干からびる前に速攻で終わらせます! 行ってこい、ニョロボン!」
「ボン!!」
「受けて立とう! ゆくのだ、キュウコン!」
「コォォ〜〜ン!」
ヒビキが繰り出したのは、鍛え上げられた筋肉を持つニョロボン! 対するカツラは、九本の美しい尾を揺らす気品溢れるキュウコンを繰り出した。
「バトルスタート!」
「先手を打つぞ! ニョロボン、【ド忘れ】!」
「ボ〜ン……」
「キュウコン、【日本晴れ】じゃ!」
「コン!」
お互いが同時に補助技を指示した瞬間、ただでさえ高かった周囲の気温が、さらに跳ね上がった。頭上から降り注ぐ強烈な太陽光が、地下の熱気と混ざり合っていく。
「こりゃキツいな! 一気に決めるぞ、ニョロボン、【アクアブレイク】!」
「ボン!」
ニョロボンが拳に大量の水流を纏わせ、キュウコンへと猛然と殴りかかる。
「キュウコン、【火炎放射】!」
しかし、激しい音を立てて放たれたキュウコンの【火炎放射】は、通常のそれとは次元が違った。猛烈な熱線の直撃を受け、ニョロボンが拳に纏っていたはずの水流が、触れる寸前に一瞬で沸騰し、煙となって蒸発してしまったのだ。
「嘘やろ!? いくら【日本晴れ】の状態とはいえ、水技が完全に消されるなんておかしいやろ!?」
リンが驚愕の声を上げると、カツラは不敵に笑って髭をなでた。
「ふははは! この場所はグレン島の活火山の中。敢えて言うのであれば、ここは『マグマフィールド』! この超高温環境に【日本晴れ】の効果が合わさることで、水タイプの技の威力は4分の1にまで激減し、逆に炎タイプの技は2.5倍まで跳ね上がるのさ!」
フィールドそのものが炎の要塞と化しているカツラの説明に、しかしヒビキは怯まない。
「水がダメなら格闘だ! ニョロボン、【ドレインパンチ】!」
水流を捨て、純粋な肉体の拳でキュウコンを強烈に殴りつける! 衝撃とともに、キュウコンの体力を奪ってニョロボンの傷を癒やした。
「ならば、これでお返しじゃ! 【ソーラービーム】!」
「やべっ、避けろ!!」
通常なら溜めが必要な草技が、【日本晴れ】の影響でチャージなしで即座に発射される! ニョロボンは鋭いステップで間一髪それを回避した。
だが、その光線が掠めた跡を見たヒビキは、ある違和感に気づく。
(……待てよ? 今の【ソーラービーム】、かすった割には威力が妙に低くなかったか? もしかして、このクソ熱いフィールドは……!)
「ニョロボン、足元を崩せ! 【地震】だ!!」
「チャンスだ! 動きの止まったところに【ソーラービーム】!」
地響きを立てて【地震】を放つニョロボン。その硬直の瞬間に、キュウコンの眩い【ソーラービーム】が今度こそ直撃した。しかし、弱点であるはずの草技を喰らったにもかかわらず、ニョロボンはタフに持ちこたえてみせた。
「やっぱりだ! このマグマフィールド、熱すぎるせいで草タイプの技の威力も下がってるんだな!」
「ご名答! 熱すぎるがゆえに、植物のエネルギーである草技の威力も減退してしまうのだよ。少年、実に見事な洞察力じゃ! ……だが、これならどうかな? 【悪巧み】からの、【火炎放射】!」
「押し切れ! 【地震】!!」
キュウコンが禍々しいオーラを放って特攻を底上げし、限界突破した威力の【火炎放射】を放つ! ニョロボンも渾身の【地震】でフィールドを爆裂させるが──マグマフィールドの補正を受けた超高火力の炎がニョロボンを完全に包み込んだ。
爆煙が晴れると、そこには力尽きて倒れるニョロボンの姿があった。
「ニョロボン戦闘不能! キュウコンの勝ち!」
「よく頑張った、戻れニョロボン」
初戦からカツラの圧倒的な戦術の前に1匹を失ったヒビキだったが、その目はまだ、決して諦めてはいなかった。