ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
グレンジムでの激闘を終え、リンとセナも無事にバッジを獲得した翌日。ヒビキたちは次の目的地であるマナシロタウンへの定期便に乗るため、賑わう港へと向かって歩いていた。
すると、前方から何やら黄色い歓声と、ぞろぞろとした人の波が押し寄せてくる。
「おや? ヒビキじゃないか」
人混みの中心から声をかけてきたのは、華やかな女の子たちを大勢従えたシゲルだった。
「久しぶりやん、シゲル。観光かいな?」
「バッジ集めは順調ですか?」
リンとセナが親しげに挨拶を交わしながら経過を尋ねると、シゲルは不敵にフッと笑ってみせた。
「まあ、そんな所だね。リーグへの必要数はもう集めたからね」
そう言って、ジムバッチケースにずらりと並んだ輝くバッジを自慢げに見せてくる。
「へえ、さすがだな」
ヒビキは感心しつつ、ふと思い出したように尋ねた。
「ところでさ、シゲル。トキワジムって今、再開したか分かるか?」
「ああ。ジムリーダーが本業の会社経営が一段落したから戻ってきた、って噂で聞いたよ。……まさか、これから挑むのかい?」
「そりゃ、最強と呼び声高いトキワジムのジムリーダーだしな。ただ、本業の方が忙しい人らしいから、今から行っても本当に居るか分からないからなぁ」
ヒビキが少し眉を寄せると、シゲルは手を振りながらウィンクをした。
「そこはもう、君の運に任せるしかないね。それじゃ、バイビー!」
華やかな応援団を引き連れて、颯爽と去っていくシゲルの後ろ姿を見送りながら、ヒビキはポツリと呟いた。
「……なぁ、何か思ったんだけどさ。あいつの応援団、前より増えてね?」
「周りの男連中の目線見てみぃ! 嫉妬に狂っとるで。今にも背中に穴が空きそうな視線や」
「ですねぇ、相変わらずお盛んですぅ……」
リンとセナの呆れたような同意に苦笑いしつつ、3人が再び港の乗船口へと近づくと、今度は見覚えのある賑やかな声が響いてきた。
「あ! ヒビキ! リンにセナも!」
「今度はサトシか。──さっき、あっちの通りでシゲルと会ったぞ」
ヒビキが指を差すと、サトシは「なんだって!? シゲルのやつ、もうグレン島に来てるのか!」とピカチュウと一緒に驚いた顔をした。
「アイツもやっぱり、ジム戦に行くのかな?」
「さぁな、本人は観光って言ってたぞ。ところでサトシ、お前たち今日の宿は予約してるのか? 今は繁忙期だから、予約してないとどこも満室で泊まれない可能性があるぞ」
ヒビキの忠告に、サトシとカスミ、タケシの3人は顔を見合わせた。
「マ、マジ!? 宿なんて全然予約してないぞ!」
慌てるサトシたちに、リンが助け舟を出すように笑った。
「なら、ウチらがさっきまで泊まっとった『ペンション・ナゾナゾ』に行ってみぃ。オーナーさん、まだ部屋は空いとるって言ってたで」
「本当か!? ありがとう、行ってみようぜ、皆!」
サトシたちはリンのアドバイスに深く感謝すると、大急ぎで街の方へと走っていった。
その背中を見送りながら、セナが優しく微笑む。
「カツラさんが、サトシくんたちとも良いジム戦をしてくれるといいですねぇ」
「そうだなぁ。まぁ、人の事より今は自分の事を優先だ。マナシロタウン行きが出発時刻になるから急ごう」
3人は走ってタラップを駆け上がり、マナシロタウン行きの定期便へと滑り込みで乗り込むことができた。
汽笛が響き、船がゆっくりとグレン島を離れていく。案内された客室のソファに深く腰掛け、ヒビキは窓の外の海を眺めながら少し不安げな口調で呟いた。
「次のマナシロジムかぁ……。ぶっちゃけ、今のグレンジムでも最後のドサイドンまでいってギリギリだったからなぁ。ちょっと不安になってきたわ」
すると、隣で冷たいお茶を飲んでいたセナが、不思議そうに首を傾げた。
「そう言いますけど、ヒビキ君の時っていつも、ジストさんからの頼まれてジムリーダーさんが最初から本気で相手をしているからじゃないでしょうか?」
「せやな。カツラさんのあのマグマフィールドと【日本晴れ】のコンボなんて、完全に殺しにかかってたやん。ヒビキのえげつないバトルを見た後だと、ウチらのジム戦の方がなんか簡単に調整してくれてるように見えてまうわ」
リンが肩をすくめて笑うと、ヒビキは「まぁ、そうなのかもしれないけどさ」と苦笑いしつつ、手元のバッジケースをそっと見つめた。
どのような試練が待ち受けていようとも、目指すリーグへの道は止まらない。
船は白い波を立てながら、次なる激戦の地、マナシロタウンへと進路を向けて進んでいくのだった。