ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド   作:ガチャガチャクツワムシ

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慢心の終わり

「負けちゃったなぁ~……」

 ジム戦を終えて外へ出たヒビキは、近くにあるのどかな草原の草むらにゴロンと大の字に寝っ転がり、高く広がる青空を仰いで黄昏れていた。

 さわさわと風に揺れる草の音を聴きながら、あの激闘の直後にクスノキが語ってくれた言葉を思い返していた。

 『試合中も言ったが、お主の実力は、通常のジムバトルならバッジを渡しても問題ない実力じゃ。通常なら、このくらいバッジを集めている者は少なからず天狗になり慢心しているが、お主達はそうではない。……ジストの奴は酷かったからのぉ』

 クスノキはしみじみと当時を思い出すように目を細めていた。

 『まあ、あれほどの実力を持つ親分3体の他に、四天王になっても使っておるニドクインを始め、強力なポケモンと絆を結び従えておったから、当然と言えば当然じゃ。ワシ以外のジムリーダーの本気の手持ちとも互角に戦えていたであろうな』

 そこまでジストの規格外さを称賛した上で、クスノキはヒビキの核心を突いたのだ。

 『だが、お主は兄であるジストや、他の兄貴分のスタイルを組み込んではいるが、あと一歩が足りておらん。それを見つけ、自らの殻を破らなければ、ただの真似事をしているだけになってしまうぞ』

 ──自分の殻を破る、か。

 「確かに、俺のバトルスタイルは兄貴たちの真似だ……。それを生かしつつ、どうやって俺自身に合ったスタイルを作っていけばいいんだろなぁ……」

 ぐるぐると頭の中で答えのない問いを巡らせているうちに、心地よい疲労感がどっと押し寄せ、ヒビキは草の匂いに包まれながら、いつの間にかすやすやと眠りに落ちてしまった。

 「寝とるで……アイツ。バトルの後で疲れたんか知らんけど、こんな開けた草原で大の字になって……」

 呆れ果てるリンに、セナが苦笑いしながら「ヒビキ君、風邪ひいちゃいますよぉ」と声をかけようとした、その時。

 「放っておきなさい。まだ日が暮れるまでは時間がある。そうそう風邪はひかんじゃろう」

 いつの間にか草原までついてきていたクスノキが、片手を上げてそれを止めた。

 「しかし、兄弟だからか本当によく似とるのう。ジストの奴も、ワシに負けた後は全く同じようにこの草原で寝ておったわ」

 「えっ、ジストさんもですか!?」

 驚く2人に、クスノキは懐かしそうに空を見上げながら昔話を語り出す。

 『当時のあやつは、力技一辺倒で芸がなかった。ワシに負けてからは、【変化技】の重要性を感じとり、戦術に取り入れるようになったのじゃ。そうして、力技一辺倒だったスタイルを、今の“出力を完璧に調整して強力な一撃にして放つ戦闘スタイル”へと昇華させた。負けることは悪いことではない。それを反省し、どう生かすかが重要じゃ。負けた理由を他に責任転嫁する者は、決して強くはなれない。そういう意味では、当時の奴は傲慢であったが……ここでふて寝から目覚めた後、自らの手持ち達に「自分が不甲斐なかったからだ」と土下座して謝っておったのぉ』

 クスノキの口から語られるジストの意外な過去に、セナとリンは深く感じ入るものがあった。

 「私……ジストさんって、初心者の時からずーっと天才で、最初から強かったんだと思っていたんですが……違ったんですねぇ」

「せやなぁ。あのジストさんみたいな物凄い強い人でも、昔は負けて悩んだりしとったんやな、って改めて思ったわ」

 2人の言葉に、クスノキは優しく、しかし確かな重みを持って頷いた。

 「始めから強い奴などおらんよ。すべての敗北も、すべての経験も、そのすべてを己の糧にして成長を続ける奴が、最後に本物の強者になれるんじゃ。──さてとお主達、ヒビキが寝ている間に、ジム戦をしていくが良い。流石に先ほどのような手持ちではなく、通常のジム戦用に育てたポケモンで相手をしよう」

 「「宜しくお願いします!」」

 クスノキの粋な提案に、2人は元気よく頭を下げると、頼もしい背中を追って再びジムの建物へと向かった。

 静かになった草原で、緑の波に揺られながら、ヒビキは静かに寝息を立て続けている。その表情は、敗北の悔しさから、次への一歩を踏み出すための穏やかな決意へと、少しずつ変わり始めているようだった。

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