ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
怒りの眼で眼下のポケモンセンターを激しく睨み付けているファイヤー。その燃え盛る翼が羽ばたくたび、周囲の気温が跳ね上がっていく。
「もしかして、挑んできたトレーナー達がここに集まっているから、止めを刺しに来たのか!?」
「不味いやん! ファイヤー、メッチャ怒っているで!」
「アワワ、どうしましょう!?」
3人が慌てていると、外のただならぬ音を聞きつけた軽傷のトレーナー達が、何事かとセンターから出てきてしまった。ファイヤーの鋭い視線が彼らを捉え、容赦なくその口から猛烈な【火炎放射】が放たれる!
「ドサイドン! 【ストーンエッジ】で壁を作れ!」
「ドサァッ!」
すぐさまドサイドンが鋭い岩の柱を突き立て、間一髪で炎の奔流を防ぎ止めた。直撃を免れ、守られたトレーナー達は一瞬で顔を青ざめさせる。
「とりあえず中へ入れ!!」
ヒビキがそう叫ぶと、彼らは腰を抜かしそうになりながら慌ててセンターへと引き返していった。
「セナとリンは、ポケモンセンターに被害が及ばないようにしてくれ! ファイヤーは俺が相手をする!」
「ヒビキ君!? 危ないですよ!?」
「三人で相手した方がええんちゃう!?」
「そうしたら多分、広範囲の攻撃に巻き込まれてポケモンセンターが狙われる! 俺が注意を逸らさないと!」
そう話している間にも、ファイヤーは鋭い翼を振り抜き、ドサイドンの岩の壁を切り裂くような【エアスラッシュ】を放ってきた。
「今は言い合っている場合じゃない! ドサイドン、ここを守っていてくれ! ──行くぞ、プテラ!」
「ギュアアッ!」
2人とドサイドンを地上に残し、ヒビキは飛び出した古代の怪鳥・プテラの背へと飛び乗った。一気にファイヤーの視界へと躍り出る。
「こっちだ! 【爆音波】!」
「ギュアアッ!」
プテラが放った凄まじい破壊の音波が空気を震わせる。その一撃で完全にターゲットを変えたのか、ファイヤーは激しい火の粉を散らしながら、ヒビキとプテラへと明確に狙いを定めた。
──それから、およそ一時間が経過した頃。
先ほど怪我の治療を終えたトレーナー達が、比較的無事な仲間や動けるポケモンを引き連れて、再びポケモンセンターの外へと出てきた。地上の防衛を続けていたリンとセナに、焦燥しきった様子で状況を尋ねる。
「おい! 大丈夫か!? 上の様子は……」
「今、もう一人がプテラとスピアーを使って、上空で攻撃を凌いでいるところや!」
「スピアーって……ほかに飛べるポケモンはいないのか!?」
「飛べるポケモンが、今の手持ちでその二匹しかいないんですぅ! 私たちの飛べるポケモンも援護に回したんですが、ファイヤーの一撃でやられてしまって……!」
「そうなのか……。此方も動ける飛行ポケモンはすべてやられている。地上からの援護しか出来ないな……」
男は悔しそうに拳を握り締めながら、遥か上空の戦いを見上げた。
「プテラ! 【ストーンエッジ】! スピアー、【エレキネット】!」
「ギュアアッ!」「スピーッ!」
岩の礫と電撃の網がファイヤーを挟み撃ちにする。しかし、ファイヤーはそれを嘲笑うかのように、熱風を巻き上げて地面の熱を呼び起こす【熱砂の大地】を展開し、2匹の攻撃を力技で防ぎきった。
さらにお返しとばかりに、視界を焼き尽くす【火炎放射】が飛んでくる。プテラとスピアーはすぐさまそれを避けると、再びファイヤーと激しく睨み合った。
だが、ヒビキの体力も限界に近づいていた。何より、背中にトレーナーを乗せているという事実が、プテラの本来の機動力を大きく制限している。
(不味いな……。俺が足手まといになって、プテラが本気を出せない……。今さら地上へ降りようとしたら、その隙を狙い撃ちにされる。こうなったら……!)
ヒビキはプテラの首を強く抱きしめ、覚悟を決めた目を向けた。
「プテラ! 俺のことは気にするな。──本気で、お前の最高のスピードで飛べ!!」
その言葉に、プテラは驚いたように一瞬だけ目を丸くした。しかし、ヒビキの真っ直ぐな眼差しを見て、相棒の覚悟を瞬時に理解する。
応えるように高く咆哮すると、プテラはこれまでヒビキを落とさないために無意識に抑えていたリミッターを完全に解除し、空気を切り裂く野生の暴威を解放し始めた。
「馬鹿な! あんなスピードで急旋回を繰り返したら、乗っている人間にどれだけのGがかかると思っているんだ!? 身体への負担がデカすぎるぞ!?」
上空を見上げる地上のトレーナーたちが慌てふためくなか、背後から驚くほど冷徹で、威厳に満ちた声が響いた。
「そうしなければ、あの伝説を相手に一瞬の隙すら作れないと、あの小僧はそう判断したのだろう」
声の主へ一斉に視線を向けると、そこには仕立ての良い黒い高級スーツを纏った、ただ者ではない雰囲気を放つ男性が2人立っていた。
「あ、貴方は……トキワジムのジムリーダー、サカキさん!? なんでこんな山奥に!?」
「仕事で近くに立ち寄ったものでな。ポケモンセンターからの救援要請を受けて来てみれば……フッ、あの若さであの極限状態の判断を下すとはな」
腕を組み、冷徹な眼光でヒビキの空戦を見上げるサカキ。その悠長とも言える態度に、リンが我慢できずに悲鳴じみた声を上げた。
「サカキさん! そないな悠長なこと言っとらんと、今すぐ助けに行って下さいな!!」
「すまないが、今の私の手持ちにもあの速度で飛べるポケモンはいないのだ。この距離から届く技はあるが、あの乱戦だ、彼を巻き込んでしまうだろう」
サカキが静かに首を振ると、セナがその隣に控える部下らしき眼鏡の男性へとすがるような視線を向けた。
「そ、そちらの方は……!?」
「……残念ながら、私のポケモンにも、あの次元の飛行戦についていけるだけのスピードを持つ者がいないのだ」
男は申し訳なさそうに頭を下げた。
地上からの援護が絶望的だと知ったリンは、激しく唇を噛む。しかし、その脳裏に電撃的な閃きが走った。
「──そうだ! ウチ、いいこと思いついた!!」
リンは脱兎のごとくポケモンセンターのロビーへ駆け込み、カウンターの転送システムへ飛びついた。そして、オーキド博士に至急連絡を入れて『あるボール』を手放しで受け取ると、すぐさま外へと飛び出してきた。
「ヒビキのクロバットや!! オーキド博士に頼んで大急ぎで送ってもろたんや! 頼むで、クロバット──ッ!!」
リンの手から放たれたボールから、漆黒の夜空に溶け込むような4枚羽の紫の影──クロバットが鋭く鳴き声を上げて飛び出した。クロバットは地上の緊迫した空気と、上空でボロボロになりながら戦う主の姿を瞬時に把握すると、超音速の羽ばたきで一気に最前線へと舞い上がった。
「はぁ、はぁ……ッ……!」
超高速の急降下と急旋回の連続により、ヒビキの意識は激しい重力で朦朧としかけていた。視界が歪むなか、突如としてプテラの真横に新たに並び立つ頼もしい相棒の姿が目に映る。
(クロバット……! リンが転送してくれたのか……よし、これなら一手打てる!)
ヒビキは朦朧とする意識を気合いで繋ぎ止め、喉が張り裂けんばかりの声で指示を飛ばした!
「クロバット! ファイヤーの隙を突いて【どくどく】だ!!」
死角から音もなく接近したクロバットが、ファイヤーの美しい翼に向けて猛毒の液を放つ。それが完全に見舞うと、流石の伝説の鳥ポケモンも猛毒の浸食に苦悶の表情を浮かべ、体力を回復させようとその場に降下して【羽休め】の体勢に入った。
「その隙を逃すな! プテラ、【ギガインパクト】でファイヤーを地上に叩きつけろ! スピアーは【ドリルライナー】! クロバットは【ダストシュート】だ!!」
【羽休め】によって一時的に飛行タイプ(翼の守り)を失ったファイヤーめがけ、3匹の総攻撃が牙をむく!
スピアーの鋭い一撃【ドリルライナー】が肉体に深く突き刺さり、同時にクロバットの放った渾身の【ダストシュート】が炸裂して猛毒の追撃を与える。そして仕上げに、プテラが全身に破壊的なエネルギーの光を纏った【ギガインパクト】で激突!!
ドガァァァァァン!!!
凄まじい衝撃音とともに、ファイヤーはもろとも地表へと激しく墜落し、大量の岩煙が辺りを覆い尽くした。
プテラの背からフラフラになりながらも降り立ったヒビキは、膝に手を突きながら、じっとその墜落現場を見つめていた。周囲のトレーナーたちからも歓声が上がりかける。
しかし、伝説の底力はそんなものではなかった。
岩煙の奥から、視界を焼き尽くさんばかりの凶悪な【火炎放射】が放たれ、ヒビキたちは急いで左右へ飛び退く。煙が晴れた先には、かなりのダメージを受け、激しく肩で息をしながらも、その眼の奥の怒りの炎をさらに爆発させているファイヤーが立ち塞がっていた。
「マジかよ……これだけの連続攻撃を叩き込んで、【羽休め】の回復分も完全に削り取ったっていうのに、まだ倒れないのか……!」
ヒビキが驚愕の声を漏らした次の瞬間、ファイヤーの身体から、これまでに見たこともないほどの極大の紅蓮の炎が噴き上がった。自身の命を燃やし尽くすかのようなその輝きに、その様子を見ていたサカキが初めて鋭く目を見開く。
「……【燃え尽きる】か。文字通り、すべてを灰にする気だな」
ファイヤーが巨大な火の玉と化し、凄まじい熱風を巻き起こしながら、ヒビキたちへ向かって最後の特攻を仕掛けてくる。避けるスペースなど、もうどこにもない。
「受けて立つしかない……! みんな、これが最後だ!! 【ギガインパクト】と【ブレイブバード】!!」
スピアーとプテラが最後の力を振り絞って最大出力の【ギガインパクト】を放ち、クロバットが青い執念の炎を纏った【ブレイブバード】で突撃する!
紅蓮の炎と、三匹の命懸けの突撃が真っ向からぶつかり合い、山全体を震わせるほどの凄まじい大爆発が広がった。眩い光が周囲を真っ白に染め上げる。
やがて、爆風がゆっくりと収まり、再び視界が開けていく。
そこには、全身を煤で汚し、満身創痍でありながらも、互いの意地を懸けて一歩も引かずに壮絶に睨み合い続ける、ファイヤーと三匹の姿があった──。