ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
上空の気球からサトシたちを監視していたロケット団の3人組だったが、街を包み込む異様な冷気と重圧に、その顔から余裕が消え失せていた。
「ニャンか、猛烈に嫌な予感がするニャ……空気が凍りついているようニャ」
「……ニャースもか? 俺も背筋がゾクゾクするんだよな。普段の悪寒とはワケが違う……」
「やーね! あのジジババの話を本気で信じているの? たかがゴーストでしょ。いざとなったらその強そうな奴を捕まえればいいじゃない!」
ムサシがいきり立って叫んだ、その直後だった。
視界の端から、無数の鳥ポケモンたちが狂ったようにこちらへ向かって突き進んできた。その眼には、外敵への攻撃意図など微塵もなく、ただ純粋な恐怖だけが宿っている。
「「「ウワァァァアアッ!?」」」
気球の風船部分が群れの衝突で無惨に引き裂かれ、3人は地面へと叩きつけられた。次に彼らが見たのは、何処か遠くに向かって逃げ惑う、数十、数百のポケモンたちの奔流だった。
群れに押し流され、パニックになったイワークの頭や、怯えきったゴーストの背中にしがみつかざるを得ない3人。
「ちょっと! 何がどうなっているのよ、この状況は!?」
「ニャース! とにかく周りのポケモンに何が起きているか聞くニャ!」
ニャースが耳を澄ます。
「『逃げろ! 遠くへ!』『あの化け物から早く!』『あれは仲間じゃない!』『あれは災厄そのものだ!』……コイツらはそう叫んでいるニャ」
「ヤバすぎない……?」
「コイツらに乗せてもらったまま、このまま遠くまで逃げるのが一番得策ニャ……!」
ロケット団が戦場からエスケープを図る頃、ポケモンセンターの中では、ヒビキたちが肌で感じるほどの重圧に息を呑んでいた。
「……何か、空気が重苦しくなってきたな」
「一匹のゴーストから、これほどまでの事態が起こるなんて……」
「怖いです……」
サトシ、タケシ、そしてセナが震える声で呟く。シオリは入り口のドアを見つめ、静かに、しかし絶望的な事実を告げた。
「……奴はまだ完全には目覚めていないわ。日が暮れて、完全に目が覚めれば、目についた生き物すべてを喰らい尽くすわ」
不安を抱えたまま夕暮れを待つ一行。その時、静寂を破ってシオリの端末が鳴った。通話ボタンを押した彼女の表情が、一瞬で青ざめる。
「お婆様たちの追跡を振り切ったそうよ……こちらへ向かっているわ。全員、警戒して!」
その瞬間、全員がこれまでに感じたことのない、内臓を直接握りつぶされるような猛烈な悪寒に襲われた。
「来たわ……ッ!」
シオリが叫び、ポケモンセンターのドアを蹴り開けて飛び出す。外の光景に、ヒビキ達は絶句した。
夕闇の空を背景に、10メートルを優に超える巨大な影──『ブラックフォッグ』が、ぬらりと姿を現していた。
「これが……ブラックフォッグ……」
「皆、出せッ! ポケモンを出して戦うんだ!」
サトシの合図とともに、ヒビキ、リン、セナ、そしてサトシ、タケシが一斉にボールを投げる。
三十年の時を経て蘇った災厄に対し、若きトレーナーたちの防衛戦が、今、始まる。