ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
ブラックフォッグとの防衛戦は、凄惨という言葉すら生ぬるい苛烈なものとなった。元ジムリーダーであるタケシのポケモンを含め、総勢30匹近くのポケモンが一斉に攻撃を仕掛けているというのに、10メートルを超える巨軀の化け物は、そのすべてを平然と受け止めていた。
「ピカチュウ、【十万ボルト】! リザードン、【火炎放射】! ゼニガメ、【バブル光線】! フシギダネ、【ソーラービーム】! ピジョン、【風起こし】! オニドリル、【ドリル嘴】!」
サトシが声を枯らして叫ぶ。
「イワーク、【岩石封じ】! イシツブテ、【ロックブラスト】! ロコン、【火炎放射】! ゴルバット、【エアカッター】!」
元ジムリーダーであるタケシの的確な指示で、強固な岩と鋭い風が飛び交う。
「スピアー、【ドリルライナー】! ケンタロス、【地獄突き】! ケーキ、【ピカピカサンダー】! フーディン、【瞑想】からの【未来予知】! ポリゴンZ、【悪巧み】からの【シャドーボール】! オコリザル、【グロウパンチ】してから【地団駄】だ!」
ヒビキも持てる戦力のすべてを叩き込む。
「リザードン、【火炎放射】! スターミーとナッシー、【サイコキネシス】! ポリゴン2、【挑発】! ストライク、【辻斬り】! ジバコイル、【電磁砲】!」
リンのポケモンたちも一歩も引かずに猛攻を加える。
「フシギバナとニドクイン、【大地の力】! ゲンガー、【封印】! キュウコン、【煉獄】! ガルーラ、【地震】! キングドラ、【ハイドロポンプ】!」
「ムウマージ、【シャドーボール】!」
セナとシオリの放った最大火力の技が、幾重にも重なってブラックフォッグを直撃した。
凄まじい爆炎と衝撃波が夜の帳を破る。しかし、ブラックフォッグは不気味な哄笑を上げながら、自身の分身のようなゴースの群れを無限に生み出し、こちらへけしかけてきた。執拗な物量作戦に、5人のポケモンたちの疲労は限界を迎えつつあった。
「マジでコイツ、本当にゴーストタイプなんか!? そこら辺のゲンガーより桁違いに強いで!」
「伊達に元チャンピオンや現四天王に危険視されていませんね……っ!」
「お婆様たちもこちらに向かわれているはずよ、みんな頑張って!」
リンやシオリが悪態をつくなか、全員が防戦一方となっていく。すると突然、ブラックフォッグの怨念の籠もった咆哮が響き渡った。
「アアアアアッ!!」
それは、セナのゲンガーが【封印】でゴーストタイプの技を封じ込めていたはずの状況を強引に捩じ伏せる、圧倒的な出力の【ナイトヘッド】だった。
「なら! オニドリル、【オウム返し】!」
サトシが即座に対抗しようとした、その刹那――。
ブラックフォッグの巨大な口が、ブラックホールのように開かれた。なんとオニドリルの【オウム返し】のエネルギーごと、戦場にいたポケモンの大半を【夢食い】の怪光で飲み込んでしまったのだ。
「マジかよ!? ってか、誰も眠ってないのに【夢食い】が効くのか!?」
ヒビキが驚愕の声を上げる。
「気をつけて! 奴の【夢食い】は、起きていても強制的に精神エネルギーを吸い尽くすのよ!」
シオリが悲痛な警告を発したが、すでに手遅れだった。
光が収まったときには、5人の手持ちの大半が精神を吸い尽くされて戦闘不能に追い込まれており、フィールドに残っているのはピカチュウ、オコリザル、キングドラ、ジバコイルのわずか4匹だけだった。
「チィッ……! オコリザル、【憤怒の拳】!!」
「プギィィィッ!!」
仲間の仇を討つべく、オコリザルが怒りに身を任せて渾身の鉄拳を叩き込む。しかし、ブラックフォッグはその一撃すら意に介さず、ついにトレーナーであるヒビキ達自身を喰らおうと、ぬらりと巨大な手を伸ばしてきた。
「危ない!!」
サトシが叫ぶ。残ったポケモンたちが盾になろうとするが、ブラックフォッグはそれごと全員を飲み込もうと、暗黒の顎を開く。
万事休すかと思われたその瞬間、オコリザルがその全身から、凄まじいほどの「光」を放ちながらブラックフォッグの口内へと突撃していった。
オコリザルの脳裏を支配していたのは、底知れない「怒り」だった。
ブラックフォッグへの怒りではない。己自身への怒りだ。
昨日、自分の不甲斐なさのせいでクスノキのガルーラに敗北した。そして今、またしても自分の不甲斐なさのせいで、大好きな主をこれ以上のない危険に晒している。
二度と、自分の弱さでヒビキを悲しませたくない。
命に代えても護る。それすらできぬ己の弱さが、許せない――!!
「プギィィィィィァァァァァッッ!!!」
爆発的な怒りの感情がオコリザルの遺伝子を組み換えていく。光の塊となったオコリザルは、ブラックフォッグの内側からその巨軀を力任せに吹き飛ばした。
ズガァァァァン!!!
弾き飛ばされたブラックフォッグが地響きを立てて後退する。
やがて、戦場に満ちていた進化の光がゆっくりと落ち着き、そこへ収まっていった。
だが、そこにいたのは、もう見慣れたオコリザルの姿ではなかった。
不気味なほど静かに燃え上がる、漆黒と紫の怨念を纏った、黄泉の国から蘇ったかのような異形の戦士――コノヨザルが、そこに君臨していた。