ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
最大威力の技が真っ向から衝突した衝撃波は凄まじく、地上で守りに徹していたドサイドンは、咄嗟に【ストーンエッジ】の岩壁と【守る】を展開、さらに自身の屈強な肉体を盾にして背後のトレーナー達を守り抜いた。
しかし、これまでに受けたダメージの蓄積は限界を超えており、爆風が収まると同時に、ドサイドンはその場に巨体を横たえ、戦闘不能となって倒れてしまった。
「タイプ相性が良いとはいえ、伝説のポケモンの猛攻を受け続けたか。主の命を完璧に成し遂げたな、見事だ」
サカキがその戦いぶりを静かに称えると、緊急事態であることを考慮してドサイドンをヒビキのモンスターボールへと戻し、近くにいたトレーナーに手渡した。
「急いで回復装置に入れてもらうんだ」
「は、はいッ!」
命じられたトレーナーは、預かったボールを胸に抱いて大急ぎでセンターの中へと走っていった。
視線の先には、満身創痍の三匹とヒビキが、同じく息を絶え絶えのファイヤーと互いの意地を懸けて睨み合っていた。だがその刹那、緊迫した空気を破り、全く別の方角から卑劣な不意打ちの攻撃が飛んできた。
「なっ!? ──危ない!!」
あまりに予想外の方向からの追撃に、体力を消耗しきっていたファイヤーは避ける動作すら取れない。それを見たヒビキたちは反射的にファイヤーの盾となるように割り込んだが、容赦ない直撃を受けてそのまま激しく地面へと吹き飛ばされてしまった。
「ヒャッハー! アッタリー! アイツがボロボロになるまでファイヤーを弱らせてくれたおかげで、棚ぼたで捕まえられるぜ!」
岩陰から下卑た笑い声を上げて現れたのは、見るからに素行の悪そうなチンピラ風の密猟トレーナー達だった。
「ふざけるな! 横取りかよ! ……っていうかお前ら、最初にファイヤーを挑発して、真っ先に仲間を置いて逃げ出した奴らじゃねえか!!」
チンピラ達の正体を知っているトレーナーの一人が怒りに震えながら叫ぶ。しかし、チンピラ達は気に留める様子もなく鼻で笑った。
「ハッ! 手に入りさえすれば、どんな手を使おうが勝ちなんだよ! コイツさえ捕まえれば、俺たちも一躍有名人よ。……ああ、そうだ! テメーらは余計な邪魔すんなよ? もし動いたら、このかわい子ちゃんたちがどうなるか分からないぜぇ?」
見れば、先ほどの衝撃波で吹き飛ばされ、身動きが取れなくなっていたリンとセナが、いつの間にか頑丈な縄で縛り上げられ、人質として捕らえられていた。
「本当に卑怯だぞ!!」
「トレーナーの恥さらしめ!」
周囲から容赦ない罵声が浴びせられる。だが、チンピラのリーダー格はニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべたまま、自身のポケモン達へ冷酷に命じた。
「うるせえな、ロケット団に比べりゃこれでもマシな方だろ! お前ら、まずはあそこに倒れてるガキと目障りな三匹に、トドメの一撃を食らわせてやれ!」
命令を受けたポケモンたちが、倒れて動けないヒビキたちへ向けて一斉に追撃を放つ。爆辞が炸裂し、ヒビキたちは完全に意識を失ってその場に沈んでしまった。
その一連の光景を、腕を組んだまま静観していたサカキの眼光が、冷徹な氷から底知れぬ怒りのマグマへと変わっていく。
「……不愉快だ」
地を這うような低い声で、サカキは明確な怒気を強めて吐き捨てた。横に控えていた部下のシラサギへと、冷酷な視線を向ける。
「シラサギ。まずは彼女達を救助しろ」
「ハッ!」
指示を受けたシラサギが、即座に懐からダークボールを投じる。
「ゲンガー! 【トリック】!」
出現したゲンガーの怪しい光が放たれた瞬間、チンピラたちが背後に囲っていたリンとセナの身体が、その辺りに転がっていた無機質な岩石の塊と一瞬で入れ替わった。手元から一瞬で人質を奪われ、チンピラたちが「あぁ!?」と間抜けな声を上げる。
間髪入れず、サカキがスーツのポケットからハイパーボールを厳かに投じた。
「行け、ニドキング」
ドシィィン!! と大地を揺るがして現れたのは、サカキの右腕たる、圧倒的な風格を纏ったニドキングだった。サカキはチンピラたちを冷たく見下ろしたまま、情け容赦のない絶対的な裁きを口にする。
「一撃で沈めろ。──【地割れ】」
「ニドォォォッ!!」
ニドキングがその強靭な足で大地を激しく踏みつけると、チンピラたちの足元の地面が、まるで巨大な怪物の顎のように真っ二つに裂けた。逃げる間さえ与えられず、チンピラたちは繰り出していたポケモンたちもろとも、底なしの亀裂の奥深くへと一瞬で呑み込まれ、圧壊した。
一瞬にして悪党たちを文字通り「消し去った」サカキは、振り返ることもなく、唖然としている周囲のトレーナーたちへ淡々と命じた。
「今のうちに、怪我をした小僧とポケモンたちを中へ運び、奴等の捕獲の準備をしろ」
そう告げると、サカキ自身は、怒りの炎を失い、あまりの展開の早さに羽を震わせて呆然と立ち尽くしているファイヤーの前へとゆっくりと歩み寄った。その手に、静かに1個の重厚なボールを握りしめる。
「ファイヤーよ。これ以上の無駄な戦いは不毛だ。一端このボールへ入れ。そして傷を癒してから、改めてお前の身の振り方を考えるのだ」
威厳に満ちたサカキの言葉と、一切の敵意を感じさせない静かな佇まいに、ファイヤーは最期の抵抗を見せることもなく、自ら吸い込まれるようにしてボールの中へと収まった。
「シラサギ」
「既に、リーグの医療部隊と本部に救援および機材の要請を完了しております」
サカキの呼びかけに、シラサギが完璧なタイミングで頭を下げる。
こうして、山岳地帯を恐怖に陥れた伝説の鳥ポケモン・ファイヤーの襲撃事件は、トキワジムリーダー・サカキの圧倒的な介入によって、静かに終息を迎えたのだった。