ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド   作:ガチャガチャクツワムシ

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不敵なる勧誘

 「目が覚めたら知らない天井だ……どこだ、ここ?」

 お決まりの台詞を呟きながら、ヒビキは重い身体をどうにか起こし、周囲の状況を把握しようと視線を巡らせた。白を基調とした清潔な部屋──どうやら、どこかの病院の個室らしい。

 次の瞬間、勢いよく扉が開き、リンとセナが雪崩れ込んできた。

 「ヒビキく~ん! 心配じだんでずよぉぉ〜〜っ!!」

「無事で、本当に無事でよかったぁ……っ!」

 大泣きして顔をぐしゃぐしゃにしているセナと、目に涙を溜めながら安堵の息を吐き出すリン。二人のあまりの勢いにヒビキが困惑していると、背後から静かで威厳のある声が二人をたしなめた。

 「余り病院で騒ぐのは良くない。他の患者の迷惑になる」

 「あ……」

 現れたのは、仕立ての良いスーツを纏った男──トキワジムのジムリーダー、サカキだった。

 「なんで、トキワジムのサカキさんがここに……?」

「覚えていないのも無理はない。あれほどの極限状態の戦闘だ、周りの状況を気にする余裕などなかっただろう」

 サカキはフッと苦笑を漏らしながら、事の顛末を淡々と説明してくれた。ヒビキたちが気絶した後、あの卑劣な密猟者たちを自身のニドキングで一掃したこと。そして、ファイヤーを一時的に保護したこと。

 「あの! 俺の手持ちや、ファイヤーはどうなったんですか!?」

「安心しろ。君の手持ちはすべて回復を終え、すでに万全の状態だ。そして、ファイヤーだが……」

 サカキが静かに部屋の窓を指し示す。ヒビキがそちらへ目をやると、なんと、窓の外から紅蓮の羽を持つ美しい火の鳥が、じっとこちらの様子を覗き込んでいた。

 「あれからすぐに処置を終えて回復すると、まるで君を守るかのように、ずっとあそこで待機しているのだよ」

「そう、なんだ……」

 ファイヤーの穏やかな眼差しに、ヒビキは驚きつつも胸を撫で下ろした。

 「さて、意識が戻ったのなら私はこれで失礼しよう。……ああ、そうだ。少年、名前は?」

「あ……ヒビキです」

「ヒビキか。──どうだね、トキワジムに挑戦してみる気はないかね?」

 不意の誘いにヒビキが目を見開く。サカキは不敵な笑みを浮かべ、その鋭い瞳の奥にトレーナーとしての純粋な熱を灯らせた。

「久しぶりに、トレーナーとして滾るバトルを見せてもらった礼だ。君が私のジムに来るというのなら、全力で相手をしよう」

 それだけを言い残し、サカキは悠然と病室を後にした。

 人気のない病院の廊下を、革靴の音を響かせながら歩くサカキ。その後ろには、部下のシラサギが影のように付き従っていた。

 「シラサギ」

「ハッ!」

「この近くに潜伏している団員は、誰がいる?」

「……ただいまこの付近にいるフリーの団員は、ムサシ、コジロウ、ニャースの3名となります」

 「ふむ、あの3人か。──すぐに指令を出せ。先ほど私を不愉快にさせたあの密猟者の連中だ、どうせ後ろ暗い親のコネでもあるのだろう。……身ぐるみ剥がし、すべて叩き潰せ」

「了解しました……!」

 サカキの底知れぬ怒りに触れたシラサギは、背中に冷や汗を流しながら、即座に端末を操作してロケット団員へ冷酷な指令を飛ばした。サカキは歩みを止めず、再び窓の外の火の鳥へと視線を向ける。

 「ファイヤーは、あの小僧の元に身を寄せるだろうな。……あのヒビキという少年と、プライドの高い伝説のファイヤーが組めば、一体どのようなバトルを見せてくれるか。フフッ……面白い。久しぶりにトレーナーとしての血が騒ぐな」

 想いを馳せ、満足げな笑みを浮かべながらアジトへと向かうサカキの背中を見つめ、シラサギも眼鏡の奥の目を細めた。

(ボスが、あの子供にここまで興味を示されるとはな。だが確かに……面白い少年だ)

 シラサギはボスの期待に同意しつつ、先ほどの裏稼業の指令を完了させるため、早足で病院を後にした。

 それからしばらくして、完全に身体が動くようになったヒビキが病院の外へ出ると、待ってましたと言わんばかりにファイヤーが音もなく地上へと降り立った。

 大きな翼をゆっくりと畳み、じっとヒビキの目を見つめる。そして、伝説としてのプライドを捨て、ヒビキの手腕と魂を認めた証として、静かにその美しい頭(こうべ)を下げて従順の意思を示した。

 「……いいのか? 俺と、一緒にお前の意志で来てくれるのか?」

 ヒビキが真っ直ぐに問いかけると、ファイヤーは力強く一度、コクンと頷いた。

 その答えを受け、ヒビキは腰の空のモンスターボールを手に取り、ファイヤーの額へと優しくコツンと当てた。

 カチリ、と小気味よい音が響き、ファイヤーの巨軀が赤い光となって吸い込まれていく。

 手元に戻ってきたボールをじっと見つめ、ヒビキは誇らしげに掲げた。

 「これからよろしくな、ファイヤー!」

 ヒビキの言葉に応えるように、彼の手の中で、ボールは嬉しそうに、そして力強く1回、大きく揺れたのだった。

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