ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
昨夜の衝撃の家族会議から一夜明けた翌朝、マサラタウンの広大な裏庭にて、ジストとアオバによる本格的なセキエイリーグ対策特訓が幕を開けた。
「よし、集まったな。今回のセキエイリーグのルールだが、基本的には『ポケモンの特性が発動しない』こと、そして『メガストーン以外の持ち物の使用禁止』の2点だけだ。難しく考える必要はない、お互いに純粋な技の組み立てと、トレーナーの戦術眼が試されるってことだ」
ジストがそう説明しながら、自身のモンスターボールからリザードン、カメックス、そしてフシギバナの3体を呼び出す。御三家がずらりと並ぶ圧倒的な威圧感に、ヒビキたち同期の面々はゴクリと息を呑んだ。
「お前らのエースとなるポケモンたちで、まずはコイツらにぶつかってこい。俺たちは細かい指示は出さない。好きに動いて、まずは自分の『壁』を知るといい」
ジストの不敵な合図とともに、苛烈な特訓の火蓋が切って落とされた。
「サトシ! リン! リザードンってポケモンはな、接近戦も遠距離戦もどちらも高水準でこなせる優秀な種族だ。だが、限られた時間の中で『両方』を中途半端に極めようとするな! 自分のリザードンがどちらの戦法を得意としているかを見極め、そこを徹底的に伸ばせ! ──行くぞ、こんな風にな! 【怪しい風】を纏わせた【エアスラッシュ】!」
ジストのリザードンが翼を振るうと、不気味な紫の風が鋭い刃の形を成し、サトシとリンのリザードンたちをまとめて切り裂いた。
「俺のリザードンは遠距離からの特殊戦が得意でね、技の相乗効果で火力を上げる。逆に、お前たちが接近戦でのインファイトを得意とするなら、まずは【竜の舞】と【ニトロチャージ】を完全に覚えさせて、爆発的な機動力を身に付けさせてみろ!」
的確なアドバイスが飛ぶなか、隣の区画ではアオバがシゲルを相手に、美しくも容赦のない攻防を繰り広げていた。
「シゲル君、カメックスの【殻を破る】は強力な一手だけど、バトル開始直後に不用意に使えば、すぐに相手に対策の起点にされるわ。使いどころはしっかり見極めてね。それに、カメックスは有用な変化技をたくさん覚えるのよ。──たとえば、こうして【あくび】とかね」
アオバのカメックスが大きなあくびを噛み殺すと、シゲルのカメックスの動きが一気に鈍り、そこへ容赦のない追撃が叩き込まれる。シゲルは悔しげに歯を食いしばりながら、必死にその戦術を脳内に叩き込んでいた。
そして、ヒビキとセナの前には、ジストのフシギバナが巨大な壁のように立ち塞がっていた。
「ヒビキ、セナ! フシギバナをただの耐久型や特殊アタッカーだと思うなよ? 【剣の舞】や【草分け】を組み合わせれば、一気に前線を突き崩す物理アタッカーにも化ける。──ほら、行くぞ! 【地震】に【どくづき】!」
大地を揺るがす強烈な一撃と、鋭い毒の刺突が襲いかかる。
「あとは、この3体とも共通して【ふるいたてる】を使える。物理と特殊、両方の攻撃力を同時に底上げできる優秀な技だ。自分のポケモンの可能性を狭めるな!」
その後も、ジストとアオバはヒビキたちの手持ち全般を見据え、似た戦法を持つポケモンたちを次々と繰り出しては、リーグを勝ち抜くための実践的な指導を夕方まで徹底的に行い続けた。
「よし、今日はここまで! お疲れさん。何か聞きたいことや、個別の技の相談があれば、明日まとめて聞いてやるからな」
ジストが笑って締めくくると、同期たちはその場に大の字になって倒れ込んだ。
その日の帰り道。心地よい疲労感に包まれながら家路を歩く途中、ヒビキは少し声を落として、並んで歩くジストとアオバに「とある相談」を切り出した。
「なぁ、兄貴、姉ちゃん。……実はさ、トキワジムのサカキさんから『ジム戦をしに来ないか』って直々に誘われてるんだよね」
その名を聞いた瞬間、ジストとアオバの表情がわずかに引き締まった。
「サカキか……。確か、ファイヤー襲撃の件で知り合ったんだったな。……あの男は間違いなく強い。だが、裏では色々ときな臭い噂が絶えない人物でもある。挑戦するなら、絶対に気を引き締めてかかれよ」
「それに、あの人はきっと、伝説のファイヤーとアンタのコンビに興味があって、その実力を肌で確かめたいんでしょうね」
二人の真剣な忠告を受け止めつつも、ヒビキの瞳には迷いのない強い光が宿っていた。
「うん。でも、あの人と戦えば、俺はもっと強くなれる気がするんだ。だから……やってみるよ」
ヒビキの真っ直ぐな覚悟を見たジストは、フッと口元を和らげ、力強く弟の肩を叩いた。
「わかった。……実力に関しては、奴は俺よりも遥かに上を行く『地面タイプ』の絶対的なエキスパートだ。トレーナーとして学ぶことは、五万とあるだろうさ。行ってこい」
翌朝。特訓のためにいつもの裏庭へとサトシ、シゲル、リン、セナの4人が集まった。しかし、そこにいつも一番乗りで来るはずのヒビキの姿だけがない。
「あれ? ヒビキは? 遅刻なんて珍しいじゃん」
サトシが不思議そうに首を傾げると、腕を組んで待っていたジストがニヤリと笑った。
「アイツなら、早朝からトキワジムへ挑戦しに行ったぞ」
「あ、やっぱり……。前にサカキさんが直接誘ってましたもんねぇ」
セナが思い出したようにふんわりと微笑む。そんな2人のやり取りを聞いて、サトシとシゲルは「アイツ、出し抜きやがって……!」と激しいライバル心を燃え上がらせた。
「ふん、そんなことだから、今日の特訓はお前ら4人だけだな。アイツが最強のジムリーダーから何を盗んで帰ってくるか、楽しみにしながら……まずは目の前の俺たちを越えてみろ!」
「望むところだぜ!」
「ヒビキに遅れをとるわけにはいかないからね」
マサラタウンで4人が血の滲むような特訓に明け暮れるなか、ヒビキはただ一人、グリーンバッジを掲げるカントー最強最古の関門──トキワジムの重厚な扉の前に、静かに立ち塞がるのだった。