ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド   作:ガチャガチャクツワムシ

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トキワジム戦

 トキワジムの前にたどり着いたヒビキは、重厚な扉の前に立つ、大仰な中世の騎士の格好をした門番へと声を掛けた。

 「すみません、挑戦に来たんですけど……」

「名前は?」

「ヒビキです」

「……リーダーから連絡を受けている。入れ」

 ガチャリと重い音を立てて開かれた扉をくぐりながら、ヒビキは思わず横目でその門番を見つめた。

(あの格好……この炎天下の中で暑くないのかな?)

 よく見れば、甲冑の隙間からダラダラと汗を流し、肩で激しく息をしている。

(あ、やっぱり普通に暑いんだ……。大変だな……)

 そんな少しズレた同情を心の中で抱きつつジムの奥へと進むと、薄暗いバトルフィールドの向こうで、絶対的な風格を纏った男──サカキが腕を組んで待っていた。

 「よく来た。挨拶代わりに早速だが、始めようか」

「これよりジムリーダー・サカキと、挑戦者ヒビキによるジム戦を行います。試合は6対6のフルバトル。挑戦者のみポケモンの交代が可能です」

 厳格な黒服の審判が現れてルールを告げると、サカキは不敵な笑みを浮かべて最初のボールを投じた。

 「ゆけ、ゴローニャ!」

「ゴロッ!」

 岩石の巨体が地響きを立てて現れる。対するヒビキも迷わず相棒のボールを投げ放った。

「なら行ってこい、ジュゴン!」

「ジュゴ!」

 「試合開始!」

 「先手必勝だ! ジュゴン! 【冷凍ビーム】を地面に放て!」

「ジュ~ゴッ!」

 冷気の光線がフィールドの土を瞬く間に凍らせ、一面を銀世界へと変えていく。サカキはその意図を即座に見抜いた。

「ほう、氷の上を滑らせて機動力を上げるつもりか。だが甘い。ゴローニャ! 【ストーンエッジ】!」

「ローニャッ!」

 ゴローニャが地面を叩くと、凍りついた大地から無数の鋭い岩の柱が突き上げ、せっかく作った氷のスケートリンクをひびだらけに粉砕してしまった。

「続けて【地震】だ!」

「そう来ると思ったよ! ジュゴン! 【波乗り】をしながらフィールドを回れ!」

 ジュゴンが激しい濁流を呼び起こし、ひび割れたフィールドの壁に沿って円を描くように高速で泳ぎ回る。すると、バトルフィールド全体が擬似的な【うずしお】状態となり、ゴローニャはその激流の中心へと巻き込まれていった。

 凄まじい速度で横回転の渦に翻弄され、巨体のゴローニャは完全に平衡感覚を失って目を回し、フラフラと足元をよろめかせる。

 「何っ!?」

 サカキの眉が僅かに跳ねた。

「チャンスだ! そのまま、【冷凍ビーム】!」

「……ゴローニャ! 【大爆発】だ!」

 凍結の光線がゴローニャの巨体に直撃するその寸前、サカキの冷徹な声が響く。ゴローニャの身体が眩い光に包まれ、次の瞬間、ジム全体を揺るがす凄まじい爆風が吹き荒れた。

 煙が晴れると、そこには相打ちとなって力尽きたゴローニャとジュゴンの姿があった。

 「ゴローニャというポケモンは、丸まって縦に回転することには慣れているが、横回転の変則的な揺さぶりには弱い。そこを突いたのは見事だ。だが、ただ平衡感覚を失わせただけ。動く必要のない大技を持つ我が手持ちには、小細工という意味では通用しなかったな」

 サカキは冷静にゴローニャをボールへと戻しながら、ヒビキの戦術を鋭く評した。そして、すぐに2体目を繰り出す。

 「ゆけ、ガラガラ!」

「ガラァァッ!」

 骨の棍棒を握りしめた、引き締まった体躯のガラガラが不気味に佇む。

「なら、こっちのスピードで勝負だ! 行ってこい、スピアー!」

「スピィ!」

 羽音を鋭く響かせて現れたスピアーを見て、サカキは僅かに目を細めた。

「トキワの森の主か。いいだろう、ガラガラ! 【剣の舞】!」

「ガラァッ!」

「そうはさせるか! スピアー! 【影分身】からの【草分け】だ!」

 スピアーが高速で横一列に分身を増やしながら、緑色のエネルギーを纏って突撃する。ガラガラは骨を激しく回転させて【剣の舞】の軌道で防御の壁を作り、スピアーの突進を受け止めた。

 「ガラガラ、【岩雪崩】。分身ごと叩き潰せ」

 ガラガラが地面を叩くと、スピアーの頭上からおびたたしい数の巨大な岩石が降り注ぐ。しかし、スピアーは研ぎ澄まされた感覚でそれらを紙一重で避け続けた。避けている間にも、ヒビキの指示通り【影分身】と【草分け】を絶え間なく重ねがけしていく。

 スピアーの残像はさらに増え、その移動速度はすでに肉眼で捉えられない限界領域へと達していた。

 「──今だ! スピアー! 【バトンタッチ】!」

 キィンと金属音が響き、最高潮まで素早さと回避率を高めたスピアーが光となってヒビキの手元へと戻る。そして、代わりにステージへ舞い降りたのは──まばゆい紅蓮の炎を纏った、あの伝説の鳥ポケモンだった。

 「クオオオッ!!」

 激しい熱風とともにファイヤーが降臨する。

 「なるほどな……。ファイヤーを呼び出すために、スピアーの【草分け】で極限まで場を整え、能力を引き継がせたというわけか」

 サカキはヒビキのコンボに深く納得し、即座に次の迎撃指示を出そうとした。しかし、バトンを引き継いだファイヤーの速度は、サカキの思考のさらに上を行っていた。

 「ファイヤー! 【エアスラッシュ】!!」

 スピアーから引き継いだ爆発的な速度のまま、ファイヤーが凄まじい速度で翼を羽ばたかせる。空間を切り裂く不可視の空気の刃が、ガラガラが身構えるよりも遥かに早くその身体を捉え、一撃のもとに吹き飛ばした。

 「ガラガラ、戦闘不能!」

 審判の声が響くなか、ガラガラは棍棒を手放してバッタリと倒れていた。スピアーの俊敏性を宿した伝説の鳥ポケモンの圧倒的な先制攻撃に、サカキは驚きを見せるどころか、その口元に底知れない歓喜の笑みを浮かべるのだった。

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