ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
「見事だ! あえて【燃え尽きる】を指示してタイプを消し、弱点を突かれるリスクを減らした上で【雨乞い】からの【ウェザーボール】へと繋ぐとはな。そしてまさか、ファイヤーが【雨乞い】と【ウェザーボール】を習得しているとは予想外だったぞ」
サカキが心底感心したように声を張ると、ヒビキは少し得意げにファイヤーを見上げた。
「コイツ、かなり長く生きている個体のようで、昔から今のコンボをよく炎や飛行技が効果が無い相手に使って戦ってたらしいんです。だからサカキさんに悟られないように、わざとここまで【エアスラッシュ】しか使わずに隠してたんですよ」
「なるほどな。手の内を隠し、一撃で仕留めるための布石か。実に見事な戦術眼だ。──ならば、この最後の1体をどう突破する? ゆけ! ドサイドン!」
「ドサァッ!」
サカキが最後に繰り出したのは、地鳴りのような足音と共に現れた、ヒビキの持つドサイドンにも引けを取らない巨体を誇るドサイドンだった。
「やっぱり親分個体か……! ファイヤー、ドサイドン相手の戦い方なら慣れてるよな?」
ヒビキが叫ぶと、ファイヤーは鋭い眼光のまま静かに深く頷いた。
「ドサイドン! まずはこの邪魔な雨を消し去るぞ! 【砂嵐】!」
「なら、天候が変わる前にそのまま【ウェザーボール】だ!」
ドサイドンが咆哮し、凄まじい砂煙を巻き起こして雨雲を消し去る。しかし、ファイヤーはそれを一瞥する 事もなく、完全に砂嵐へ切り替わる直前の雨のエネルギーを乗せた最高威力の【ウェザーボール】を即座に撃ち放ち、ドサイドンの頑強な身体へ大きな水ダメージを与えた。
「【すなあらし】の状態ならば、岩タイプの特防は跳ね上がる。それでもこれほどのダメージを残すとは、流石は伝説のファイヤーだな。ドサイドン! 【ストーンエッジ】!!」
「ドォォンッ!」
地を割って無数の鋭い岩の刃がファイヤーを襲う。
「ファイヤー! 【エアスラッシュ】を一点に『圧縮』して放て!」
「ギュオッ!」
ヒビキの指示に応じ、ファイヤーは広範囲に放つはずの空気の刃を極限まで小さく凝縮して放出した。超高密度となった風の刃は、襲い来る【ストーンエッジ】をすべて一瞬で切り裂き、そのままドサイドンの皮膚を削り取ってさらなるダメージを与える。
その光景をモニター室で見ていたシラサギが、思わず驚愕の声をあげた。
「まさか……【砂嵐】の環境を逆利用したというのか!?」
「どういう事ですか、シラサギさん?」
マトリの質問に、シラサギは画面を指差しながら興奮気味に答える。
「技を極限まで『圧縮』することで、周囲を舞う砂嵐の粒子を風の渦に強制的に巻き込ませたのだ。一種の超高圧なサンドブラスト(砂を混ぜた高圧風)のような状態を作り出し、技の破壊力を底上げしたんだよ」
驚嘆の分析がなされる中、フィールドのヒビキは一気に勝負をかけにいく。
「ファイヤー! 【ウェザーボール】!」
すなあらし状態により、今度は「岩タイプ」へと変貌した高威力の岩弾が放たれる。だが、カントー最強のジムリーダーもタダでは沈まない。
「ドサイドン! 此方も【ストーンエッジ】を圧縮して放て!」
ドサイドンの周囲の岩が一本の巨大な槍の形へと凝縮され、猛烈な勢いで射出された。その岩の巨槍は、放たれた【ウェザーボール】を真っ向から貫通し、そのままファイヤーの胸元へと直撃する。凄まじい衝撃に、これまで獅子奮迅の戦いを見せていたファイヤーもついに限界を迎え、ゆっくりと地面へ崩れ落ちた。
「ファイヤー、戦闘不能!」
「サンキュー、ファイヤー。最高の戦いだったよ、しっかりダメージは与えてくれた」
ヒビキはファイヤーを労いながらボールへと戻すと、腰から最後の相棒のボールを強く握り締めた。幼い頃から家族のように過ごしてきた大好きな相棒の1体だ。
「なら、俺もコイツにすべてをかける! 行け! リングマ!」
「グマァァァッ!!」
不敵な咆哮と共に、ヒビキの最後の砦、リングマがフィールドへ躍り出た。サカキのドサイドンは先程のまでのファイヤーの猛攻で満身創痍。しかし、放つプレッシャーは微塵も衰えていない。
「「【地震】!!」」
ヒビキとサカキの声が完全に重なった。両者が踏み込み、フィールド全体を崩壊させるほどの凄まじい地響きが激突する。しかし、技の威力は完全に互角。凄まじいエネルギーは中央で激しく相殺された。
「ならば【アームハンマー】だ!」
「此方も【アームハンマー】!!」
肉体と肉体の壮絶なぶつかり合い。お互いの太い腕が、互いの顔面や胸元へと容赦なく叩き込まれる。ドカバキと肉肉しい激突音が響き渡り、最後の一撃でお互いが大きく後ろへと吹き飛ばされた。
その衝撃の余波で、ジム内を吹き荒れていた【砂嵐】の煙霧もピタリと止む。
静まり返るフィールド。次の一撃ですべての決着が着くことを、その場にいる誰もが理解し、固唾を飲んで見守っていた。
「ドサイドン! 【地震】で足場ごと叩き潰せ!」
「耐えろリングマ! 【10万馬力】で突っ込めぇぇぇ!!」
ドサイドンが最後の手を地面へ叩きつけ、凄まじい衝撃波がリングマの足元を襲う。しかし、リングマは咆哮しながらその衝撃を肉体一つで耐え忍び、大地の揺れをねじ伏せるような【10万馬力】の猛進でドサイドンの懐へと突撃! その巨体を真っ向から豪快に吹き飛ばした。
ズシーン……!!
大きな地響きを立てて、2体は同時にその場に倒れ込んだ。
お互いが泥塗れになりながら、必死に立ち上がろうと足を踏ん張る。ドサイドンは一度上半身を起こそうとしたものの、限界を迎えた巨体はそのままドサリと完全に横たわった。
対するリングマは、膝を激しく震わせながらも、最後に意地でその両足で大地を踏み締め、天に向かって勝利の咆哮を轟かせた。
「ドサイドン、戦闘不能! リングマの勝ち! よって勝者、マサラタウンのヒビキ!!」
審判の力強い宣言がジム内に響き渡り、ついにカントー最強のジム戦に終止符が打たれた。
「……ふっ、はははは!」
負けたはずのサカキは、悔しがるどころか、かつてないほど晴れやかな、少年のような笑みをその顔に浮かべていた。
「見事だ。最後にこのような、胸の熱くなる楽しいバトルが出来た。感謝しよう! 少年……いや、ヒビキ!」
サカキはドサイドンを労いながらボールへ戻すと、王者の風格の中に、一人の偉大な先達としての温かい眼差しをヒビキへと向けるのだった。